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それぞれの思い③
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え、実の兄もなの?
「今から10年前にユリアレーナ先代国王が死去。当時成人したばかりのフェリアレーナ様が初めて公の場所に出たのは、先代国王の葬儀でした」
ため息をつくエレオノーラ様。
「葬儀にはクレイ3世とディーン様も参列されたのですが。美しいフェリアレーナ様をディーン様が気に入ってしまったのです」
? ? ?
「え? ディーン皇帝はガーガリア妃のお兄さんならかなり歳が離れてません?」
違う?
「そうです。ディーン皇帝とは28も離れており、実の息子より若いフェリアレーナ様に熱を上げたのです。当然、クレイ3世に知られたら只ではすみません。アルティーナ帝国は側室の数に制限があり、既に制限人数の側室を持っていたので、フェリアレーナ様は妾の位置になります。しかし、友好国の第一王位継承権を持つ王女を、妾になんてしたら、クレイ3世はディーン様にも、容赦はないでしょう」
エレオノーラ様が息をつき、続ける。
「間を置かず、クレイ3世も死去されました。ディーン皇帝の誕生です。ディーン様はまずしたことは、ガーガリア妃を利用することです。すぐに死なせず、フェリアレーナ様を手に入れる為の布石にしたのです」
ガーガリア妃が気の毒レベルじゃなくなってきた。
「どうしてガーガリア妃を利用しようと?」
「それは移動手段です」
「移動?」
アルティーナとユリアレーナを結ぶのは、航路だけ。その輸送船は魔道具で、魔道船だ。それに積み荷をのせて往復しているが、これには厳重なチェックが行われた、密輸や密入国なんて不可能。この魔道船しか、アルティーナとユリアレーナを繋ぐ手段がないのは、海にも魔物がいるからだ。一番安全な航路を、魔道船でしか往復できない。よくニュースで見たけど、小さな木造船で来るなんて、自殺行為だ。
その輸送船で、唯一ノーチェックなのが、ガーガリア妃の荷物。勿論重要文書的なものもあるけど、それはごく僅かなスペースで、大部分はガーガリア妃の荷物が占めている。そこにフェリアレーナ様を誘拐して運ぶそうだ。
「誘拐?」
え? 出来るのそんなこと?
「ええ、その為にガーガリア様は生かされています」
本来、王族や高位貴族の誘拐なんて不可能だ。特にフェリアレーナ様はセレドニオ王の愛娘。最強の警備陣が常に張り付いている。
「ガーガリア様が生きていないと、そのスペースを使って、人を密入国なんてさせられませんからね」
なるほど。
始めは、フェリアレーナ様を、正式に側室にって打診があったそうだ。クレイ3世の喪があけた時に。身体のあまり強くなかった側室も亡くなって、言葉は悪いが空きができたから。
当然、セレドニオ王は突っぱねた。フェリアレーナ様は、薬物中毒でおかしくなったガーガリア妃の指示でハルスフォン伯爵の嫡男セザール様と婚約していたし、当時マーファでお勉強中だったからだ。
それも邪魔され、次も邪魔され、今回三度目の正直だ。
もちろんそのフェリアレーナ様をディーン皇帝の側室にって話は、アルティーナ内でも反発があった。皆、演技とは知らないが、我が儘に振る舞っているガーガリア妃を迎え入れてくれている、ユリアレーナに悪いだろう、という考えだ。そして最も反対したのは、ディーン皇帝とガーガリア妃の生母だ。あのクレイ3世の正室を努めた女性だ、ただの正室ではない。アルティーナ帝国の女傑マクデレーナ皇太后は、クレイ3世の死後、相続した遺産を使い起業して大成功していた。マクデレーナ皇太后は、クレイ3世の側室を全て引き連れていき、側室達も優秀だったため、その助けもあり事業は拡大。その利益で慈善事業を率先し、飢饉で苦しむ村や町には惜しげもなく支援。子供達の読み書きの為に無料教室を足がかりに、学園まで設立。奨励金の敷居を下げたり、誰でも通えるように門を開いた。現在、ディーン皇帝よりもアルティーナ帝国内で大人気だ。
ディーン皇帝もこのマクデレーナ皇太后だけには頭が上がらない。クレイ3世が存命中は、内助の功に徹し、ガーガリア妃に対する処遇に口を出せなかったマクデレーナ皇太后が行動に移した。
抑圧から解放されたディーン皇帝に、傲慢で女狂い気配が出てきたのを感じたマクデレーナ皇太后は、徹底的にフェリアレーナ様の側室入りを反対。それはそうだ、自身の夫や、その父、祖父がどれだけの苦労をしたのか、間近で見ていたのだから。全ての原因は4代前の皇帝の負債なのだから。クレイ3世なりに、守り抜いたものを、壊させるわけにはいかない。アルティーナ帝国に対するユリアレーナ国民感情は悪くなる一方だ。ガーガリア妃が薬物中毒で狂人ぶりに拍車がかかり、多額の税を使いだしてからは更に、だ。そしてアルティーナ帝国内でも皇室に対して、反感を持つものが現れていた。古くから国交があるユリアレーナに、なんで我が儘皇女を送り、黙ったままなのかと。これでもし、無理やりフェリアレーナ様を側室に入れたら、信頼失墜どころの話ではなくなる。それに今、ユリアレーナに滞在している駐在員は、全てディーン皇帝の息がかかり、ガーガリア妃を擁護し、やりたい放題だ。いい例は先日のギラギラスーツね。
「今、ユリアレーナとアルティーナの国民感情がよくありません。もし、これでフェリアレーナ様が誘拐、それがディーン皇帝の指示だと分かれば、爆発してしまいます」
フェリアレーナ様は、ユリアレーナでは絶大な人気がある。やっと三度目の正直で、セザール様と結婚できるのに。
「少なからず小競り合いはあるでしょう。ユリアレーナとアルティーナで。アルティーナ内では、反発だけではすまない」
ユリアレーナ王室とマクデレーナ皇太后が最も恐れていることだ。
「それで傷つくのは、力のない民です。私達はそれをどうしても防ぎたい。無事にフェリアレーナ様を、ハルスフォン伯爵様の元に送り出したいのです」
エレオノーラ様の顔にすがるような表情が浮かぶ。
「もう、この輿入れが最後のチャンスなのです。フェリアレーナ様にとっても、ディーン皇帝にとっても」
「最後?」
「はい。移動手段がガーガリア妃の荷物に紛れこませるというのは説明しました。その荷物を運べるのが、後僅かなのです」
エレオノーラ様が息をつく。
「先日。無事に天災時に受けた支援を返還することができ、正式にガーガリア様がアルティーナに戻れることになったのです」
おお、すごい。あら、まだ少し掛かりそうじゃなかったっけ?
「ふふ、貴女は顔に疑問が出る方ですね」
サエキ様がクスクス笑う。は、恥ずかしいなあ。
「確かにあと5年掛かりそうでしたが、ある優秀な冒険者が、国に転移門を献上してくれましてね」
あの折り畳み傘?
「アルティーナ帝国の転移門は2つ。以前は他にも対の物が2つありましたが、4代前の皇帝が過度に使いすぎて破損しているんです。なので、アルティーナはその献上された転移門が欲しかった。始めはタダで寄越せと言ってきましたが、こちらも負けてられませんからね」
サエキ様が意味深に笑う。
「ふっかけるだけ、ふっかけてアルティーナ帝国に売り、それを返済に宛て、綺麗になりました」
………………いくらで売ったの、あれ?
サエキ様から、エレオノーラ様に説明が変わる。
「それにより、ガーガリア様はアルティーナに帰還です。マクデレーナ上皇妃の元で、静養することが決まりました。しかし、ガーガリア妃がいなくなれば、フェリアレーナ様を運ぶ手段が断たれてしまいます」
ああ、ノーチェックなのは、ガーガリア妃の荷物だけだったね。そこにフェリアレーナ様を隠して運ぶんだ。
でも、そう簡単には行かないと思うけど。もし、フェリアレーナ様が誘拐されたら、そのマクデレーナ皇太后は真っ先にディーン皇帝を疑って、ありとあらゆる手を尽くして探し出すはず。もし、それでフェリアレーナ様が見つかったら。
血の雨が降る?
私の頭から血の落ちる音が。
サエキ様が続ける。
「ディーン皇帝は、クレイ3世からの抑圧から離れて、たがが外れています。抑圧されるだけ、抑圧された中で、どうしても欲したのがフェリアレーナ様です。しかし、これは許されない。最終的に傷つき苦しむのは力のない民です。本来私は王室関連には関わらないようにしているのですが、今回ばかりはそうはいっていれなくなりました」
サエキ様は息をつく。
「私はユリアレーナに籍を置いていますが、アルティーナにも大事な友がいます。アルティーナ内もおそらく混乱するでしょう。彼らはそれを対応しなくてはならない。下手をしたら命を落としかねない。フェリアレーナ様、ユリアレーナの民、そして私は彼らも守りたい。最も最良なのは、無事にフェリアレーナ様が、ハルスフォン様の元にたどり着くことです。ここで、貴女に護衛を依頼したい理由が出てきます」
そう、そこ。ここまで分かっていて、護衛なしでマーファに行くなんて、襲ってくださいって言っているようだ。
「元々、フェリアレーナ様の輿入れ道中の護衛は白騎士の精鋭、オスヴァルトを含めた赤騎士の精鋭、黒騎士のハンターウルフ隊、そしてマーファの騎士達でしたが」
サエキ様が苦笑い。
「ガーガリア妃がその護衛を反対したんですよ。側室風情の子が、血税使って輿入れなど、とね。1人で行け、裸足で行けと」
うわあ。
「当然国王が大激怒。向こうの大使やら出てきてそれは一触即発状態になり、フェリアレーナ様が自ら言いました」
首都を守る騎士様のお手を煩わせる訳にはまいりません。私は、ハルスフォン様が遣わしてくれる、マーファの皆様を信じています。
「で、フェリアレーナ様の護衛が減ることになりました。本来なら100人以上の騎士で護衛でしたが、マーファから来る25名の騎士だけです」
「それで、私に護衛を?」
「そうです。ガーガリア妃の帰還は、フェリアレーナ様がマーファへの移動中にされるのです。その輿入れ道中がフェリアレーナ様を誘拐する最後のチャンスですからね」
難しいけど、とにかくフェリアレーナ様を、セザール様の元に無事に送り届けたら、万歳、万歳なんだね。国の難しい事は、任せよう。
エレオノーラ様とカトリーナ様は、無事にフェリアレーナ様を嫁がせたい。そして、本来のガーガリア妃を知っている為に、生母であるマクデレーナ皇太后の元に無事に返したい。特にエレオノーラ様はカルム王子の件で、責任を感じているそうだ。当時、カトリーナ様はジークフリード様を妊娠していて、身動きが取れなかった。エレオノーラ様が何度かお見舞いに行ったが、帝国のベテランメイド達から、お体に触りますと、断られていた。エレオノーラ様は、ガーガリア妃が信頼していたベテランメイド達を信じていた。だが、結果はあれだ。何故もっと踏み込まなかったのかと、今でもエレオノーラ様は後悔している。そうすれば、ガーガリア妃も、ああはならなかったと。綺麗な顔に、浮かび上がる後悔の影は偽りではない。
よし、私はできることをするだけ。それにセザール様が言ってた。
これで彼女にふさわしい花嫁衣装を準備できます。
あれは嘘やない。
本当にフェリアレーナ様を想っていた顔や。
ハルスフォン伯爵様には色々お世話になっている。
私ができること。
「そのお話、お引き受けさせて頂きます」
「今から10年前にユリアレーナ先代国王が死去。当時成人したばかりのフェリアレーナ様が初めて公の場所に出たのは、先代国王の葬儀でした」
ため息をつくエレオノーラ様。
「葬儀にはクレイ3世とディーン様も参列されたのですが。美しいフェリアレーナ様をディーン様が気に入ってしまったのです」
? ? ?
「え? ディーン皇帝はガーガリア妃のお兄さんならかなり歳が離れてません?」
違う?
「そうです。ディーン皇帝とは28も離れており、実の息子より若いフェリアレーナ様に熱を上げたのです。当然、クレイ3世に知られたら只ではすみません。アルティーナ帝国は側室の数に制限があり、既に制限人数の側室を持っていたので、フェリアレーナ様は妾の位置になります。しかし、友好国の第一王位継承権を持つ王女を、妾になんてしたら、クレイ3世はディーン様にも、容赦はないでしょう」
エレオノーラ様が息をつき、続ける。
「間を置かず、クレイ3世も死去されました。ディーン皇帝の誕生です。ディーン様はまずしたことは、ガーガリア妃を利用することです。すぐに死なせず、フェリアレーナ様を手に入れる為の布石にしたのです」
ガーガリア妃が気の毒レベルじゃなくなってきた。
「どうしてガーガリア妃を利用しようと?」
「それは移動手段です」
「移動?」
アルティーナとユリアレーナを結ぶのは、航路だけ。その輸送船は魔道具で、魔道船だ。それに積み荷をのせて往復しているが、これには厳重なチェックが行われた、密輸や密入国なんて不可能。この魔道船しか、アルティーナとユリアレーナを繋ぐ手段がないのは、海にも魔物がいるからだ。一番安全な航路を、魔道船でしか往復できない。よくニュースで見たけど、小さな木造船で来るなんて、自殺行為だ。
その輸送船で、唯一ノーチェックなのが、ガーガリア妃の荷物。勿論重要文書的なものもあるけど、それはごく僅かなスペースで、大部分はガーガリア妃の荷物が占めている。そこにフェリアレーナ様を誘拐して運ぶそうだ。
「誘拐?」
え? 出来るのそんなこと?
「ええ、その為にガーガリア様は生かされています」
本来、王族や高位貴族の誘拐なんて不可能だ。特にフェリアレーナ様はセレドニオ王の愛娘。最強の警備陣が常に張り付いている。
「ガーガリア様が生きていないと、そのスペースを使って、人を密入国なんてさせられませんからね」
なるほど。
始めは、フェリアレーナ様を、正式に側室にって打診があったそうだ。クレイ3世の喪があけた時に。身体のあまり強くなかった側室も亡くなって、言葉は悪いが空きができたから。
当然、セレドニオ王は突っぱねた。フェリアレーナ様は、薬物中毒でおかしくなったガーガリア妃の指示でハルスフォン伯爵の嫡男セザール様と婚約していたし、当時マーファでお勉強中だったからだ。
それも邪魔され、次も邪魔され、今回三度目の正直だ。
もちろんそのフェリアレーナ様をディーン皇帝の側室にって話は、アルティーナ内でも反発があった。皆、演技とは知らないが、我が儘に振る舞っているガーガリア妃を迎え入れてくれている、ユリアレーナに悪いだろう、という考えだ。そして最も反対したのは、ディーン皇帝とガーガリア妃の生母だ。あのクレイ3世の正室を努めた女性だ、ただの正室ではない。アルティーナ帝国の女傑マクデレーナ皇太后は、クレイ3世の死後、相続した遺産を使い起業して大成功していた。マクデレーナ皇太后は、クレイ3世の側室を全て引き連れていき、側室達も優秀だったため、その助けもあり事業は拡大。その利益で慈善事業を率先し、飢饉で苦しむ村や町には惜しげもなく支援。子供達の読み書きの為に無料教室を足がかりに、学園まで設立。奨励金の敷居を下げたり、誰でも通えるように門を開いた。現在、ディーン皇帝よりもアルティーナ帝国内で大人気だ。
ディーン皇帝もこのマクデレーナ皇太后だけには頭が上がらない。クレイ3世が存命中は、内助の功に徹し、ガーガリア妃に対する処遇に口を出せなかったマクデレーナ皇太后が行動に移した。
抑圧から解放されたディーン皇帝に、傲慢で女狂い気配が出てきたのを感じたマクデレーナ皇太后は、徹底的にフェリアレーナ様の側室入りを反対。それはそうだ、自身の夫や、その父、祖父がどれだけの苦労をしたのか、間近で見ていたのだから。全ての原因は4代前の皇帝の負債なのだから。クレイ3世なりに、守り抜いたものを、壊させるわけにはいかない。アルティーナ帝国に対するユリアレーナ国民感情は悪くなる一方だ。ガーガリア妃が薬物中毒で狂人ぶりに拍車がかかり、多額の税を使いだしてからは更に、だ。そしてアルティーナ帝国内でも皇室に対して、反感を持つものが現れていた。古くから国交があるユリアレーナに、なんで我が儘皇女を送り、黙ったままなのかと。これでもし、無理やりフェリアレーナ様を側室に入れたら、信頼失墜どころの話ではなくなる。それに今、ユリアレーナに滞在している駐在員は、全てディーン皇帝の息がかかり、ガーガリア妃を擁護し、やりたい放題だ。いい例は先日のギラギラスーツね。
「今、ユリアレーナとアルティーナの国民感情がよくありません。もし、これでフェリアレーナ様が誘拐、それがディーン皇帝の指示だと分かれば、爆発してしまいます」
フェリアレーナ様は、ユリアレーナでは絶大な人気がある。やっと三度目の正直で、セザール様と結婚できるのに。
「少なからず小競り合いはあるでしょう。ユリアレーナとアルティーナで。アルティーナ内では、反発だけではすまない」
ユリアレーナ王室とマクデレーナ皇太后が最も恐れていることだ。
「それで傷つくのは、力のない民です。私達はそれをどうしても防ぎたい。無事にフェリアレーナ様を、ハルスフォン伯爵様の元に送り出したいのです」
エレオノーラ様の顔にすがるような表情が浮かぶ。
「もう、この輿入れが最後のチャンスなのです。フェリアレーナ様にとっても、ディーン皇帝にとっても」
「最後?」
「はい。移動手段がガーガリア妃の荷物に紛れこませるというのは説明しました。その荷物を運べるのが、後僅かなのです」
エレオノーラ様が息をつく。
「先日。無事に天災時に受けた支援を返還することができ、正式にガーガリア様がアルティーナに戻れることになったのです」
おお、すごい。あら、まだ少し掛かりそうじゃなかったっけ?
「ふふ、貴女は顔に疑問が出る方ですね」
サエキ様がクスクス笑う。は、恥ずかしいなあ。
「確かにあと5年掛かりそうでしたが、ある優秀な冒険者が、国に転移門を献上してくれましてね」
あの折り畳み傘?
「アルティーナ帝国の転移門は2つ。以前は他にも対の物が2つありましたが、4代前の皇帝が過度に使いすぎて破損しているんです。なので、アルティーナはその献上された転移門が欲しかった。始めはタダで寄越せと言ってきましたが、こちらも負けてられませんからね」
サエキ様が意味深に笑う。
「ふっかけるだけ、ふっかけてアルティーナ帝国に売り、それを返済に宛て、綺麗になりました」
………………いくらで売ったの、あれ?
サエキ様から、エレオノーラ様に説明が変わる。
「それにより、ガーガリア様はアルティーナに帰還です。マクデレーナ上皇妃の元で、静養することが決まりました。しかし、ガーガリア妃がいなくなれば、フェリアレーナ様を運ぶ手段が断たれてしまいます」
ああ、ノーチェックなのは、ガーガリア妃の荷物だけだったね。そこにフェリアレーナ様を隠して運ぶんだ。
でも、そう簡単には行かないと思うけど。もし、フェリアレーナ様が誘拐されたら、そのマクデレーナ皇太后は真っ先にディーン皇帝を疑って、ありとあらゆる手を尽くして探し出すはず。もし、それでフェリアレーナ様が見つかったら。
血の雨が降る?
私の頭から血の落ちる音が。
サエキ様が続ける。
「ディーン皇帝は、クレイ3世からの抑圧から離れて、たがが外れています。抑圧されるだけ、抑圧された中で、どうしても欲したのがフェリアレーナ様です。しかし、これは許されない。最終的に傷つき苦しむのは力のない民です。本来私は王室関連には関わらないようにしているのですが、今回ばかりはそうはいっていれなくなりました」
サエキ様は息をつく。
「私はユリアレーナに籍を置いていますが、アルティーナにも大事な友がいます。アルティーナ内もおそらく混乱するでしょう。彼らはそれを対応しなくてはならない。下手をしたら命を落としかねない。フェリアレーナ様、ユリアレーナの民、そして私は彼らも守りたい。最も最良なのは、無事にフェリアレーナ様が、ハルスフォン様の元にたどり着くことです。ここで、貴女に護衛を依頼したい理由が出てきます」
そう、そこ。ここまで分かっていて、護衛なしでマーファに行くなんて、襲ってくださいって言っているようだ。
「元々、フェリアレーナ様の輿入れ道中の護衛は白騎士の精鋭、オスヴァルトを含めた赤騎士の精鋭、黒騎士のハンターウルフ隊、そしてマーファの騎士達でしたが」
サエキ様が苦笑い。
「ガーガリア妃がその護衛を反対したんですよ。側室風情の子が、血税使って輿入れなど、とね。1人で行け、裸足で行けと」
うわあ。
「当然国王が大激怒。向こうの大使やら出てきてそれは一触即発状態になり、フェリアレーナ様が自ら言いました」
首都を守る騎士様のお手を煩わせる訳にはまいりません。私は、ハルスフォン様が遣わしてくれる、マーファの皆様を信じています。
「で、フェリアレーナ様の護衛が減ることになりました。本来なら100人以上の騎士で護衛でしたが、マーファから来る25名の騎士だけです」
「それで、私に護衛を?」
「そうです。ガーガリア妃の帰還は、フェリアレーナ様がマーファへの移動中にされるのです。その輿入れ道中がフェリアレーナ様を誘拐する最後のチャンスですからね」
難しいけど、とにかくフェリアレーナ様を、セザール様の元に無事に送り届けたら、万歳、万歳なんだね。国の難しい事は、任せよう。
エレオノーラ様とカトリーナ様は、無事にフェリアレーナ様を嫁がせたい。そして、本来のガーガリア妃を知っている為に、生母であるマクデレーナ皇太后の元に無事に返したい。特にエレオノーラ様はカルム王子の件で、責任を感じているそうだ。当時、カトリーナ様はジークフリード様を妊娠していて、身動きが取れなかった。エレオノーラ様が何度かお見舞いに行ったが、帝国のベテランメイド達から、お体に触りますと、断られていた。エレオノーラ様は、ガーガリア妃が信頼していたベテランメイド達を信じていた。だが、結果はあれだ。何故もっと踏み込まなかったのかと、今でもエレオノーラ様は後悔している。そうすれば、ガーガリア妃も、ああはならなかったと。綺麗な顔に、浮かび上がる後悔の影は偽りではない。
よし、私はできることをするだけ。それにセザール様が言ってた。
これで彼女にふさわしい花嫁衣装を準備できます。
あれは嘘やない。
本当にフェリアレーナ様を想っていた顔や。
ハルスフォン伯爵様には色々お世話になっている。
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