もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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それぞれの思い①

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 うわあ、緊張してきた。
「お座り下さい」
 サエキ様が着席を勧めてくれる。
 エレオノーラ様が着席したのを確認してから、私も着席する。
 なんだろう、話って。
 てっきりフェリアレーナ様の件で、フェリアレーナ様関連の人が来ると思ったけど。いや、関連があるか。確か、フェリアレーナ様は第二側室のカトリーナ様のご息女のはず。
『この雌、警戒はないのですが』
『そうね。緊張が凄いわ』
 ああ、やっぱり側室様とはいえ、緊張しているんやね。ビアンカとルージュが迫力満点やしね。
「では、早速お話よろしいですか?」
 サエキ様が話を始めるが、エレオノーラ様が白い手袋をしている手で止める。
「サエキ様、それは私から」
 エレオノーラ様が私に向き直る。うわあ、見れば見る程女優のYさんだよ。
「社交辞令は意味はありませんね。単刀直入にお願いします。秋に行われるフェリアレーナ様の輿入れの護衛をお願いしたいのです」
「え?」
 フェリアレーナ様の護衛? なんで? 王女様よね、フェリアレーナ様は第一王位継承者よね。え、私が護衛? 国を挙げて護衛が付くんじゃない? そもそも、何故第一側室様がお願いに来たの?
「疑問がいっぱいの様ですね」
 サエキ様が察してくれる。
「はい」
 私は素直に答える。
「まず、何から?」
「そうですね。何故、そのエレオノーラ様がこちらに?」
 私の疑問に、エレオノーラ様が答えてくれるようだ。
「現在、フェリアレーナ様の生母であるカトリーナ様は、私以上に身動き取れない状態です」 
 理由はフェリアレーナ様の婚姻だ。2度もお流れになっていて、厳戒態勢がしかれている。三度目の正直だ。貴族女性には婚姻制限がある。何かしらの資格やらなんやらなくては、30を過ぎたら修道院行きだ。この婚姻を逃したら、フェリアレーナ様の年齢が来てしまう。第一王位継承者が、修道院行きなんて、国として色々体裁が悪い。かつて、婚約者を亡くして、自分から修道院に行くことを望んだ、王女様はいたが、フェリアレーナ様は違う。多分、あれでしょ、ガーガリア妃じゃないの?
「今回のグーテオークションはカトリーナ様が王家を代表して、ジークフリード様といらっしゃる予定でした。ただ、王室内がごたついていまして、私が代わりに出席したのです」
 ごたついているって。
「貴女が、首都にいらしていることは存じていました。なので、どうにかしてお会いして、フェリアレーナ様を守っていただけないか、お願いしたかったのです。それで後見人であるサエキ様に無理を言って貴女にここまでご足労いただいたのです」
「そもそも守るって。どうしてです? 護衛の人、たくさんいますよね?」
 なんせ第一王位継承者の王女様なのだ。
 そう言うと、エレオノーラ様の綺麗な顔に影が。
「確かに、首都にいる間は、フェリアレーナ様は安全です。ただ、問題は輿入れ道中です」
 つまり、首都からマーファへの移動だ。
「ああ、サエキ様がマーファにいらした時、確かそんな話でしたね」
 リティアさんが言ってた。
「その話ですが、無かったことになりました」
 はあ?
「え? 護衛無し? フェリアレーナ様の護衛無し? ですか?」
 肩をすくめるサエキ様。おそらくこの輿入れの為に、サエキ様も尽力していたはずなのに。
「はい。色々ありまして」
 エレオノーラ様が言葉を濁す。そして、一瞬沈黙したが、意を決したように口を開く。
「やはり、お願いする以上、本当の事をお話します。ミズサワ様はガーガリア妃の事はご存じですか?」
「はい、人から聞いた話ですが」
 リティアさんから聞いた話をそのまま話す。
 エレオノーラ様は首を横に振る。
「それは故意に流した噂ですが、本来のガーガリア様はとても優しく、控えめで、寂しがり屋でした」
「でした?」
「そうです。もう、本当のガーガリア様は、すでにこの世界にはいらっしゃいません」
「え?」
「息をしているだけ、ただ、存在しているだけで、生きた人形です」
 なんだか、ヘビーな話になりそう。
「ずいぶん前からガーガリア様は薬物中毒で、正常な判断が行えない状況なのです」
「王妃様が、薬物中毒?」
 え、おかしくない?
「そこに至るまでの経緯をお話ししても?」
「はい」
『私は興味ないのです』
『私も』
「しー」
 ビアンカとルージュは、エレオノーラ様に敵意なしと判断したのか、ごろり。もう。
「ガーガリア様が、ユリアレーナに嫁いだのは、マーファの天災が理由ではないのです。ガーガリア様は、実の父親、先代のアルティーナ帝国皇帝により、見せしめにされたのです」
 本当にヘビーな話になりそうや。
 アルティーナ帝国は強大な帝国だ。
 だが、長い歴史の中で、いつも磐石ではなかった。
 今から4代前の皇帝がかなり傍若無人で、とにかく女ぐせが悪かった。それは手当たり次第だったそうだ。当時アルティーナ帝国は栄華を誇っていた。皇帝はその上に胡座をかいた。若いメイドや、訪問先の気にいった女性に手を出すなんて日常茶飯事。しかも婚約の報告に来た若い貴族令嬢にまで手を出し始め、とうとう自殺者まで出した。それも一人二人の話ではなかった。娘や婚約者を失った人達が、手を組み反乱を起こそうとしたが、圧倒的な武力で制圧。血の雨が降ることになる。それにより、帝国は多少にかかわらず負債を抱え、帝国国内も皇帝への不満が溢れ返る。それなのに、その皇帝は態度が改まることはなかった。政治手腕が有るわけでもなく、ひどい浪費で財政は真綿で首を絞めるように、徐々に厳しくなるのに、豪華絢爛な生活は変わることなく更に悪化した。
 そんな中、他国から留学していた小国の王女に、皇帝が手を出した。王女は逃げだそうとして、階段から転落し、亡くなった。皇帝は側近に王女の遺体を埋めるように指示した。だが、王女の遺体は、必死に王女を捜していた者達によって発見された。腐りかけ、見るも無残な姿で。
 それで、その小国とアルティーナ帝国は開戦。
 犠牲者は王女だけではなかった。王女を捜していた者達も口封じに殺害されてしまったのだ。皇帝は浅はかにも全員殺せば、何も無かったことになると思った。だが、王女を捜していたのは、一緒に留学していた国の官僚の子供達。宰相の娘、将軍の息子、王弟の一人娘、他にも将来有望な子供達が。たった一人だけ、逃げ延びて、全てが明るみになり、その小国とアルティーナ帝国は激突。再び、血の雨が降ることになった。
 多大な被害を出し、帝国は小国を吸収したが、それで負債がかかる。
 アルティーナ帝国内で更なる不穏な空気が漂う。負債を埋めるために、加税されていつ不満が爆発するか分からない状況となった。
 皇帝はそんな空気を察することもなく、苦言を呈する家臣は、気に入らなければ首を刎ねる。家を取り潰す。誰も皇室を止められない。
 ある日、皇帝が死去。突然、死去。その前の夜、派手な夜会を開催して、ぴんぴんしていたのにもかかわらず。
 理由はどうあれ、次の皇帝が選ばれた、皇帝の長男だ。
 新しい皇帝は、荒れに荒れた内政と、負債をどうにかしようと、それは苦労に苦労を重ねた。負債はその次の皇帝に引き継がれた。
 その引き継がれた負債の為に、帝国の為に、命を縮めるように身を粉にした皇帝は、過労のあまりに吐血して急逝した。
 自分の息子、つまり、先代アルティーナ帝国皇帝であり、ガーガリア妃の父親でもあるクレイ3世の目の前で。
「クレイ3世は残された負債を全てをその政治手腕で返し、現在のアルティーナ帝国の足掛かりとなりました。クレイ3世は、祖父と父の血の滲む苦労を目の当たりにしていたので、帝国に対する思いは計り知れないものがあったんだと思います」
 エレオノーラ様は息をつく。
「クレイ3世は厳しい方でした。よき王であろうと、それは努力を惜しまず、帝国の為に細心の注意を払い、周囲の国との調和を計り。王としては、素晴らしい方です。ただ、それは家族にも及びました。帝国の為に、皇室はあるのだと、それは厳しく。確かに私達、王に連なる者には責任がありますが、クレイ3世は僅かな事ですら許さなかったのです」
 何があったんだろう。
 エレオノーラ様の説明が続く。
「ある日、幼かったガーガリア様が、寂しさのあまりに父親であるクレイ3世に1つの偽りの情報を流しました」
 ガーガリア妃とクレイ3世はほとんど顔を合わせた事はない。クレイ3世は多忙であったためでもあるし、子供達の教育等は全て妃やメイド、家庭教師に任せていた。そうしなくてはならない程に、多忙だったからだ。
 その流した情報は、ガーガリア妃が婚約者以外の男性と懇意にしている様だ、という確証もない、噂話程度のものだ。
 きっと真偽を確かめる為に、父親が自分に会いに来てくれる。そう幼いガーガリア妃は思った。会って、それは嘘で、寂しかった事や色々話をしたかったと伝えたかった。それは王族として覚悟も自覚もまだなかった、10歳の少女が頭を捻って考えた事。
「しかし、クレイ3世はそれを決して許しませんでした。幼く浅はかな行動をしたガーガリア様を、塔に軟禁しました。子供の嘘でも皇室の顔を潰す可能性があると。ガーガリア妃の母親、クレイ3世の正室も許しを求めました。本人が深く反省しているからと。まだ、ガーガリア妃は10歳でしたしね」
 だが、クレイ3世は決して首を縦には振らなかった。そして自分の子供達に言った。
 もし、また、帝国の、皇室の威信に泥を塗るような事をすれば、これ以上のことになると。
 子供達は父親に恐れをなし、父親に目を付けられないように、必死に学業や手習いを学んだ。
 ガーガリア妃の軟禁は、彼女が成人する15歳まで続いた。
 そして、成人してその日に、帝国の端の貧しい伯爵家に嫁がされた。19歳も年上の伯爵家に。身一つで。
 皇帝の娘が嫁ぐにはあまりにも格差のありすぎる婚姻。
 完全に、見せしめだ。
 ガーガリア妃は新しい土地で苦労したが、嫁いだ伯爵家に受け入れられて、細やかな幸せに包まれていた。
 え? ガーガリア妃、結婚してたの?
「マーファの天災が起きて、皇帝はユリアレーナに多額の援助をしてくださいました。皇帝は、それにガーガリア様を使い、更なる見せしめにしたのです」
 ガーガリア妃を伯爵家から引き戻し、ユリアレーナに押し付けた。ガーガリア妃が伯爵家に嫁いでいたと言う事実を抹消して。
 貧しい伯爵家に嫁がされたが、細やかな幸せに包まれていたガーガリア妃は、泣いて父親にすがった。

 帰りたい、帰してください、帰してください。あの人のところに帰してください。私は嘘をつきました、でも、もう許してください。

 泣き叫ぶガーガリア妃の願いは、父親に届く事はなかった。
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