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ファンタジー的な⑥

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 次に行ったのは武器屋だ。
 ベアータさんから預かった木札を見せると、すぐに何種類かの矢を見せてくれた。
「こちらはボア系の骨を削った矢じりです。一番安価ですね。こちらはリザード、鰐系、強度が増します。うちで扱っている中でも硬度、魔力ののりがいいのは、シーサーペントです。武器強化が使える弓士には最適です。値は張りますが」
「ホークさん、シーサーペントでいいです?」
「ボアで十分です」
 結局、ボア系の矢じりの矢を30本購入した。
 ホークさんの希望で、訓練用の木刀も4本購入。
「あの、テイマーさん、ですよね?」
 店員さんが遠慮がちに聞いてくる。私の冒険者ギルドカードとオスヴァルトさんがいるから、察したんだろう。ビアンカとルージュ達は店の外で待っている。
「んー、多分そうです」
 答えると、店員さんは、ちらり、とオスヴァルトさんを見て、私にお辞儀をする。
「貴女方が大量に素材を回して下さったおかげで、我々も恩恵に与ることが出来ました。感謝します」
 冷蔵庫ダンジョンや軍隊ダンジョンで、派手にちゅどん、どかん、したので中々手に入らなかった素材が首都まで回って来たと。
「私達は腕を振るえ、供給でき、十分な収入を得ました。冒険者もそうです。シーサーペントの矢じりなんてそうそう手に入りません。結果、彼らの生存率を上げることに繋がります」
「そうなんですね。うちの従魔が優秀なだけです。武器を作って提供しているのは、職人さん達ですよ。私がすごいわけではないですから」
 だって、ボス部屋前で待って、ドロップ品拾っただけだしね。
 店員さんは、ちょっと驚いた顔。
「控えめな方だ。そうだ、ささやかなお礼です。矢を5本おまけします」
「そんな、払いますよ」
 5本は多いよ。
「いいえ。これは気持ちです。もちろん下心ありますから。シーサーペントの牙が手に入ったら回してください。もちろん正規な依頼を出して買い取りますから。どうぞ、このリンデン工房をご贔屓に」
 ぱちり、と店員さん。
 なんや、清々しい下心やね。
「分かりました。私の販売ルートはギルドしかないので、手に入れば回します。マーファに帰れば、冷蔵庫ダンジョンに行く予定ですから」
「よろしくお願いします。それから、もちろん牙だけではなく、羽部分もお願いしますね」 
 あ、そうや、矢じりだけやないったいね、矢は。
「冷蔵庫ダンジョンで、他に矢の材料になるのはなんですか?」
「ダック系、オストリッチ系ですね」
 家鴨と駝鳥ね。冷蔵庫ダンジョンにいたかね?
「えーっと、見たことないです。何階くらいに出ます? 私達15階以上しかいかないので」
「確か、10階にダック、14階にオストリッチだったはずです」
 あー、行った事ない階だ。
「ダック系は肉が美味しいですよ」
 あはははん、いい情報。
 店の入り口で、爛々としたビアンカとルージュが顔を出している。
 分かってますがな。
 行動計画立てないと。
 リンデン工房を後にして、次は付与をしてくれるテールム工房に行くが、仔達がおねむモードになり、晃太がバギーを出して三人娘を乗せて、店先でチュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君に託す。若い赤騎士団の人にはノワールの手綱を預ける。
 こちらも木札を出すと、すんなり行く。
 対応してくれたのは、中年のエルフ男性だ。金髪で顔立ちがいい。
 晃太のアイテムから先程購入した武装一式を出すと、ホークさんの剣に食いついた。
「ベアータ女史が遂にこれを手放しましたかっ」
 なんやなんや。
「ああ、失礼。私はここの工房主テールムでございます」
 折り目正しく挨拶する金髪エルフのテールムさん。
「これはウルガー様、大変失礼しました。久しぶりにこの剣を拝見し、年甲斐もなく興奮してしまいお恥ずかしい」
 なんでもこちらの剣、あのワーグ商会の先々代、つまりベアータ女史の旦那さんが高ランクの冒険者から引退を機に引き取った。その旦那さんと冒険者さんが旧知の仲で、家族ぐるみでお付き合いが古くからあった。旦那さんはその剣を手離さなかった。自分の気に入った冒険者に渡すつもりだったそうだが、結局、お眼鏡にかなった冒険者が現れる前に旦那さんは亡くなった。その役目はベアータさんに引き継がれた。それが約30年前。
 そして今日私達が現れた。
「ホークさんが、お眼鏡にかなったんですね」
「違いますよ。あの人は、ユイさんだから託したんですよ」
「そうなんですかね?」
 うーん、なんで売ってくれたんだろう?
「あの、失礼を重々承知しておりますが、こちらはおいくらで?」
「確か、800万です」
 私が答えるとテールムさんが目を剥く。
「え? ぼったくり?」
「まさか。半値以下ですよ」
「「半値ッ」」
 私とホークさんの声がハモる。
「ええ、あれ、返した方がいいですかね?」
 私がどうしたものかと、思案すると、オスヴァルトさんが声をかけてくる。
「ミズサワ殿、ベアータ女史は貴女方を選んで託したんですよ。この額は女史の気持ちですよ」
「そう、なんですかね?」
 いいのかな?
「きっとミズサワ殿の今後の活躍を期待していますよ」
「活躍って、私じゃなくてビアンカとルージュなんですが………」
 うーん、でも、ベアータさんのご厚意だ。受け取ろう。
 話を戻して、付与だ。
 工房主のテールムさんと武装一式を相談。出来れば色々付けたいが、やはり先約の兼ね合い、素材の質があり、私の希望全て通らず。
 エマちゃんのジャケット、テオ君のチュニック、マデリーンさんのワンピースに衝撃吸収。チュアンさんの斧に硬化強化、マデリーンさんの杖に火属性魔法の補助となる。全て小だけどね。
「衝撃吸収は5万、硬化強化は5万、火属性魔法は18万です。合計38万となります。5日後にいらしてください」
 私は冒険者ギルドカードでぴしゃっとお支払。
 もし必要ならマーファでお願いしよう。
 よし、取り敢えずファンタジーのお買い物終了かな?
 テールムさんに挨拶して工房を出る。
 次は生活用品、食料品なんだけど。異世界への扉がいつになったら使えるか分からないから、野菜とか買いたいけど。
 オスヴァルトさんに相談すると、若い赤騎士団の人が詳しかった。
「マルシェは朝一が野菜の勝負です。野菜を買い終わった後くらいに港から魚が届きます。今の時期はクレイ鱒とアップルシーブルーブが旬ですよ」
 クレイ鱒は、鱒ね。アップルシーブルーブは鱗は鮮やかな赤の鱗の白身魚だ。
「詳しいんですね」
「実家が食堂やってますので」
 ならば、明日もこの若い赤騎士団さんが案内をしてくれることに。
「では、明日もこのブエルがご案内します」
「よろしくお願いします」
 無事にゲストハウスに到着し、オスヴァルトさんとブエルさんを見送る。
 ふう、長い買い物やったなあ。その前にギルドでいろいろあったし。
『ねえね、ねえね~』
「はいはい。さあ、お母さん達に報告やね」
 きっとびっくりするはず。
 鷹の目の皆さんの歓迎会も一緒にしようかね。
『ユイ、今日は何が食べれるのです?』
『エビがいいわ。赤いのと白いのね』
「もう、主役はヒスイと鷹の目の皆さんよ。でも、今日は好きなの食べていいけんね」
 ビアンカとルージュが私にすり寄ってきて、きゅるんきゅるん。
『ユイ、ルームに早く入るのです』
『早く入りましょう』
「もう、かわいかね」
 私はルームを開けた。
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