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首都へ⑩

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 人手が増えるっていいね。
 いつもは時間かかるブラッシングが早く終わる。
 夕御飯は野菜たっぷりの生姜鍋だ。
 食後にお風呂に入ったけど、これには時間がかかる。まあ、仕方ない。私はエマちゃんと入る、時短だ。頭を洗ってあげると、嬉しそうだ。
 皆さんある程度の説明を晃太から聞いているので、問題なくお風呂は終わった。だけど、時間がかかる。
 よし、ポイントたくさんあるし、鷹の目の皆さん用スペースを作らないと。父に相談し間取りを検討してもらう。首都に行く途中で、神様降臨ポイントが凄かことになったしね。
「ダンジョンに行くんやけん。ゆっくり休める個室と、お風呂とトイレ、洗面所かね?」
「居間もいるな、集まる場所は必要やろう。ちょっと何かのみたい時に台所あった方がよかろうし。冷蔵庫に電子レンジば置かんと。装備品を置くためのクローゼット的な部屋もいるな」
 父と相談し、今ある廊下の先に、居間のエアコン付き8畳、ミニキッチン、脱衣場的な3畳に洗面所と洗濯機置き場。お風呂、トイレ。更に廊下を追加してエアコン付き個室6畳を人数分。それから倉庫的な6畳追加。窓の拡大やLEDライト、コンセントをつけたりしたら、ポイントがごっそり減った。仕方ない、必要経費や。神様降臨ポイントに感謝や。
「ユイさん、何をしているんですか?」
 私が液晶画面をタップタップタップして廊下や部屋が出てくるので、皆さん混乱。
「皆さんの部屋ですよ。衣食住は私の責任ですからね。よく眠れなくて、力が出せないじゃ話にならないし。皆さん部屋割りはお任せします。お風呂やトイレは必要な物が揃うまで私達のを使ってください」
「リーダー、見に行こうッ」
 エマちゃんがホークさんの袖を引く。わくわくしながら皆さん部屋割りをしている。
 後は家具類は私の体調みながら揃えないと。
 明日は冒険者ギルドにいって、手続きしないと鷹の目の皆さんが、私の戦闘奴隷だという事を、ギルドカードに刻むそうだ。これをしないと、何かトラブルになった時に、私が皆さんを守れないからね。奴隷だからと、絡んでくる連中は必ずいる。主人のいる奴隷に手を出したら、罰則あるんだけど、奴隷だから、何しても構わないと思うのが、少なからずいる。ほとんどの人が当たらずさわらずでやり過ごすそうなんだけど、たまにいるそうだ。まあ、うちのビアンカとルージュの気配感知から逃れて近付けやしないけどね。
 後必要なのは、ベッド等の家具類、食器類、洗面所の道具一式、お風呂道具、タオル類。あ、冷蔵庫に洗濯機に、電子レンジとかもいるか。ちょっとお茶飲みたい時のヤカンもいるし。とにかく思い付く限りのものを書き出す。
 皆さんの服も調達しないと。サイズは母が測っていた。
 部屋割りが決まったようだ。
「あの、ユイさん、本当にいいんですか? 個室なんて贅沢ですよ」
 ホークさんが戸惑っている。
「衣食住はこちらの責任ですからね。家具類は順次揃えますから、待っててくださいね」
「十分過ぎますよ」
「まあまあ、そうだ、エマちゃん、テオ君」
「なあにユイさん」
「はーい」
「元気達を中庭で遊ばせてくれる?」
「「はーい」」
 父とおもちゃを持ち、中庭に出る2人。
「ホークさん、ちょっといいですか?」
「はい、なんですか?」
「皆さんに何があったんですか? 積み荷が爆発くらいしか聞いてなくて」
 エマちゃんに聞くのは酷かなって思って、わざと中庭に行ってもらった。
「ああ、その事ですか」
 私とホークさん、チュアンさん、マデリーンさんがダイニングキッチンまで移動。察したミゲル君は中庭の双子を見ている。
 私の護衛として鷹の目の皆さんと接したのは1か月半。彼らは真面目で堅実に冒険者をしていると感じていた。それにまだ見習いのエマちゃんやテオ君がいるのに、爆発するような荷の護衛するなんて思えなかった。
「ある商隊の護衛でした。カルーラから首都まで高級ワイン輸送です」
 幾つかの馬車に分乗して、護衛したそうだ。そして護衛冒険者は鷹の目の皆さんだけではなかった。
「彼らはBランク直前のパーティーで、とても紳士的な方達でした」
「その人達は?」
「全員、死亡しました」
「そうですか…………」
 皆さんが助かったのは、やはり、位置的な事もあった。
 商隊の数人がエマちゃんやマデリーンさんに馴れ馴れしくし始めていたのに、リーダーさん達が警戒し、少し離れた場所で、夜営の準備をした。そして、夜営の番をしていたのが、ホークさん、ミゲル君、エマちゃん。ミゲル君が用を足しに行っている時に、商隊の一人がワインを乗せた馬車で、何かをし始めた。すでに夜中。もう一つのパーティーリーダーが声をかけると、「ワインをチェックする」と。夜中にだ。ホークさんの中で警戒音が鳴った。もう一つのパーティーもそうだったのか、距離を置こうとして、高級ワインを乗せた馬車が爆発。エマちゃんを隠すように動いていたホークさんが、まともに爆風を受けた、だけどすべてからエマちゃんを守りきれず。そして戻って来る途中のミゲル君も吹き飛ばされ、馬車の破片で左目が失明。叩きつけられて骨折だ。離れた岩影で夜営していたチュアンさん、マデリーンさん、テオ君は軽症ですんだ。
「ホークさん、よく、助かりましたね」
「はい。先代のリーダーから譲り受けた鎧のおかげです。あれにはかなり衝撃吸収の付与があったので、その付与が破壊されるまで、爆風を吸収してくれたんです」
「そうだったんですね」
 付与か、ノワールの馬車にもついているけど凄か。よし、皆さんの装備品には限界ギリギリまで付与つけてもらおう。
「でも、今思い返せば、彼等は本当の商人ではなかったかもしれません」
「え? 商隊ですよね? 護衛したのは」
 思い出すようにホークさんが話し出す。
「確かに商人ギルドカードは持っていましたが、中には身分証代わりにもつ者がいます。その類かもしれませんが、あいつらはどうも下品と言うか、粗野な奴らでしたよ」
 チュアンさんとマデリーンさんが頷く。
 よっぽどなんだろうな。
「でも、高級ワインだったんでしょう?」
「はい。馬車や樽にはそこそこの衝撃吸収がされていましたから、そこだけは本当でした。だから、積み荷は信用していたんですが。しかし、あの爆発でワインは全滅。俺達は護衛失敗として違約金を支払う義務が生じました」
 それで、借金奴隷になったのね。
 ん、皆さんが黙り込み、顔色が悪い。
「どうしました?」
「……………俺達は騙されたんです、違法な手段で書類を偽造されたんです」
「ええぇ?」
 高級ワイン輸送に関する違約金は、契約時4400万。だが、爆発後に再確認したら4億4000万になっていたと。完全に書類偽造や。だが、それを証明するには、書類にサインと魔力を流したホークさんが、魔力を流せば一発で分かるが、ホークさんはそんなことができる状況ではなく、もう一つのパーティーリーダーも死亡、どうしようもない状況だ。
 だけど、チュアンさんやマデリーンさんは違約金の事は知っていたから、抗議した。向こうのパーティーは全滅、こちらは重傷者3名。何よりワインが、爆発なんておかしい。ワイン以外の何かを内緒で積み込んでいたはずだ。
 商人ギルドと冒険者ギルドが書類を調べたが、違約金偽造を確認できず。ホークさんが魔力を流せたら分かったのだろうが、無理な状況。かなり精巧に偽造したようだ。
 だから、商人ギルドと冒険者ギルドは、ギリギリまで違約金を引き下げる交渉をした。爆発するようなものを、護衛冒険者に秘密にして輸送していたことが、大きかった。もし、そんなのを輸送するなら、そこそこの衝撃吸収で負えないし、護衛冒険者パーティーだって2つでは足りないからだ。そこを徹底的に突いて、違約金を削った。
 鷹の目の貯蓄は約2000万、それからチュアンさんが恩人から頂いた護符や、マデリーンさんがお姉さんから譲り受けた大事な杖、他の装備品を売ったが、全く足りなかった。
「それで、借金奴隷になりました」
「大変でしたね。でも、今なら偽造だって証明出来ますよね。明日、ギルドに行くし、聞いてみましょう」
 私がそう言うが、皆さん首を横に振る。
「すでに終わっていることです。これ以上はギルドが動いてくれるとは思えません。すでに違約金をギリギリまで削ってくれるように交渉までしていますから」
 ホークさん、チュアンさん、マデリーンさんが諦めの表情だ。
「大丈夫ですよ。ギルドは私の言葉を無下には出来ないはず。徹底的にやってもらいますから」
 ぬふふふ。
 私にはビアンカとルージュがいる。しかも後見人はユリアレーナご意見番のダイチ・サエキ様。絶対に無視できないはず。虎の威を借る狐作戦だ。
「それに亡くなったもう一つのパーティーも気になりますし。その人達の違約金はどうなるんですか?」
「それぞれの家族が負担するはずです。かなりの貯えがあれば支払えたとは思えますが、足りなければ」
「家族も借金奴隷に?」
「そうでしょうね。額によりけりですが」
 なんだか、気の毒になってきた。おそらく一家の大黒柱を失ったのに、更に借金なんて。悲しんでいる時間も与えてくれないかもしれない。
 自己満足、偽善。
 確かに、私がしようとしている事だけど、なにもしないで知らん顔は、できん。
 私がアクション起こして、その残された家族のこれから生きていく、支えになればいい。
 よし、明日は虎の威を借る狐作戦だ。
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