もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

文字の大きさ
上 下
226 / 850
連載

首都へ⑥

しおりを挟む
 私達は商会の入り口で待機。本当なら、全員あのサロンみたいなところに来てから移動だけど、リーダーさんとエマちゃんがいるので、こちらで待つことに。
 まだかな?
 やきもきする。
 ドアが開く。
 あ、やっとやッ。
 まず出てきたのはマデリーンさんと顔の左上部を包帯で覆ったミゲル君。左肩と腕を骨折していると聞いたけど、固定もしてない。だけど、しっかりした足取りだから、治療が効いたんやね。良かった。
 チュアンさんから私達の事を聞いていたのだろう、落ち着いて一礼する。
 次に担架が2つ。
 商会の人が運んできた。
 リーダーさんとエマちゃんだ。
 ………………………………予想はしていたけど、想像以上に状態が悪いんやない?
 エマちゃんの担架にはテオ君が付き添っているが、その目は必死に救いを求めている。
 私は大丈夫と、目だけで伝える。
 エマちゃんは顔全体を包帯で覆われて、僅かに口元と鼻だけ出ているが、唇の一部は変形している。右手は手首上あたりから先端がない。それ以外にもあちこち包帯が巻いてある。エマちゃんは意識がないのか、身動ぎもしない。でも、ちゃんと呼吸している。
 次にリーダーさんが乗せられた担架がくる。チュアンさんが付き添っている。リーダーさんはもう包帯が巻いてないところが少ない。顔は口元と鼻だけが出ているが、あちこち変形しているようだし、両腕なんて、肘先からないし。リーダーさんも意識がないようだ。
 どれだけ痛かったろうか? 鷹の目の皆さんの身に何があったか分からないが、きっと私が想像できない状況だったんだろう。
 私が痛くないのに、胸が苦しくなると、同時に強烈な不安が襲ってきた。
 どうしよう? なんとかするってチュアンさんに言ったけど、私の『神への祈り』でどうにかできるのか? どうしよう? 上手く行かなかったら。
 どうしよう? エマちゃんとリーダーさんのキズを治せなかったら、どうしよう?
 どうしよう? 上手く行かなかったら?
 どうしよう? どうしよう? どうしよう?
『ユイ、動揺しているのです』
『特にあの雄の方が弱っているわよ。ユイ、どうする気?』
 リードを咥えたビアンカとルージュの声が、私にまるで活をいれる。
 そうや、しっかりせんと。鷹の目の皆さんの主人は私や、皆さんを不安にさせたらいかん。なんとかするって言ったんや、なんとかするんや。
「ミズサワ様、鷹の目のメンバー全員です」
 前に出たヨルジャさんが全員を示す。
「はい」
 私が答えると、チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君が一礼。皆さん粗末な服だし、荷物がほとんどない。
「では、今から制約魔法を」
 後ろから出てきたのは、昔はエキゾチック美人だったろう高齢女性。片手に書類、片手に杖を持ち、ぼそぼそと呪文を唱える。
 書類が、ひらり。すると、私と鷹の目の皆さんの頭上に小さな魔法陣が浮かび、消える。私はなんの代わりなし、だが、鷹の目の皆さんの首もと、鎖骨近くに黒い魔法陣が浮かびあがる。
「制約魔法終了です。これで名実共にこの6名は、ユイ・ミズサワ様の奴隷となります」
「はい」
 高齢女性は、上品なお辞儀をするので、私達もぺこり。
 そして、私はしっかりしろと、もう一度自分に活をいれる。
「皆さん、私はユイ・ミズサワです。今から私があなた方の主人になります。私は奴隷という言葉はあまり好きではありません。なので、あなた方を我がミズサワ家の一員として迎え入れます」
 話を聞いていた他の人達が驚きの表情になる。
「ようこそミズサワ家に。なんの心配もありません。皆さんは私が守ります。さあ、馬車に。丁寧に運んでください」
 最後はヨルジャさんに言う。
「承知しました。さあ、丁寧に運べ」
 ヨルジャさんが指示を出し、馬車の後ろのドアから、2つの担架が運び込まれる。担架は後日ギルドに持っていけば返却してくれると。
 私と晃太はヨルジャさんに挨拶して、逸る気持ちを押さえながら、私は馬車に乗り込み、晃太は馭者台によじ登る。担架があるので、申し訳ないが仔達には並走してもらう。
 ドアを閉め、ノワールが走り出したのを確認。
「よし、では皆さん、状況確認しますよ」
 私が声をかけると、答えたのはチュアンさん。
「はい。御主人様」
「はい。まずそこからどうにかしましょう。まあ、これは後で。ケガの確認をしますよ」
「あの、ユイさん…………」
 小さな声を出したのは、テオ君だ。
「テオ、様をつけろ」
 チュアンさんが鋭く注意する。
「チュアンさん、とりあえずそれは後で話し合いましょう。今は状況確認です」
「はい」
 よし、まずは。
「チュアンさん、マデリーンさん、テオ君のケガは?」
「それはありません。十分な治療をしてもらいました」
「私も特に問題はありません」
「俺も大丈夫です」
 答える3人。良かった、治療が効いているんやね。頼んで良かった。
「では、ミゲル君」
「は、はい」
「骨折は? 固定もしていないけど、痛みはないの?」
「はい。上級ポーションで骨折は治ってます。支障はないです」
「目は?」
 聞くとミゲル君は視線を落とす。
「普通のポーションでは、この目はどうにもならないって…………」
「分かった。ミゲル君、目に効くポーションあるけんね」
 私は早速、ダワーさんからもらった蛇のポーションを出す。
「これ、飲んでみて。ダメなら、ドラゴン探しに行くけん」
 確かシーラのダンジョンで竜種が出るって聞いたしね。
 だけど、皆さん、目が点になる。
「ドラゴン? 今、ドラゴンって聞こえたような……………」
「おかしいわ、耳はなんともないはずなのに」
「これ、飲んでいいやつ? え? 飲んでいいやつ?」
「ドラゴンってその辺にいるの?」
「はいはい、ぐーっと飲みましょうねー」
 私はぐーっとミゲル君に飲ませる。
「ごくごく、ぐわあ、まず、不味い……………」
 うん、空のポーションから、結構不味そうな匂いが這い上がるから、素早くアイテムボックスにいれる。
 ミゲル君の異変は直ぐに起きた。
 左目に熱さを感じたようだが、しばらくして落ち着いて、包帯を自分で外す。そこには、右の目と同じ茶色の目が。
「み、見える、見える、見えますっ」
 興奮するミゲル君。良かった良かった。まず、ミゲル君の失明はなんとかなったね。ダワーさんに感謝感謝。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございますユイさん、あ、ユイ様」
「様やめて、とにかく良かった良かった。でも、傷痕残ったね」
 そう、ミゲル君の左目の瞼から頬にかけて傷痕がはっきり残っている。ドラゴンのポーションなら一発で治ったのだろうけど。
「いいんです。これくらい、痛くないし、全然大丈夫ですっ」
 ちょっと興奮気味のミゲル君。
 チュアンさんが落ち着けと、ミゲル君の肩を無言でつかむ。とたんに落ち着くミゲル君。なんか、見たことあるよ。
「では、次にリーダーさんとエマちゃんの状況を」
「はい」
 チュアンさんが答えてくれる。
「ホークとエマのキズは爆風によるものです。積み荷が爆発した際に近くにいた2人が受傷しました。エマはホークの影にいたので、その影響で右腕があのような状況です。まともに爆風を受けたホークは、全身で受けてしまいました。左腕はまだありましたが、キズが深すぎて切り落とすしかありませんでした。ほかにも飛んできた破片等で全身受傷しています」
「よく、助かりましたね」
「常に上級ポーションを携えていましたから。それでなんとか。私の治療魔法で凌いでいましたが、ユイ様から治療を指示して頂いたので、上位の治療魔法を施して頂き、やっと水分が摂取できる状態になりました」
 話を聞きながら、治療お願いして良かったと痛感。
 だけど、チュアンさんの『様』つけ、後でどうにかしないとね。
 馬車の中で『神への祈り』は使えない。ゲストハウスに戻ってからしないと。色々準備したし。
「エマちゃん、リーダーさん、もうすぐ治療しますからね、もうちょっとですからね」
 声をかけると、意識がないと思っていたエマちゃんの唇が微かに動く。
「…………………」
 微かに出した言葉は、聞き取れないけど、唇の動きで分かる、「ユイさん」だ。急に涙が浮かびそうになる。
 エマちゃんは、私を覚えていてくれたんや。今、頑張って生きようとしているんや。
 なんとかせんと、いかん。
「大丈夫よ、エマちゃん、大丈夫やからね。必ずよくなるけんね」
 私はぐっと堪える。つらいのはエマちゃんとリーダーさんなんや。
 私は声をかけ続けた。
しおりを挟む
感想 669

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。