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首都へ⑥
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私達は商会の入り口で待機。本当なら、全員あのサロンみたいなところに来てから移動だけど、リーダーさんとエマちゃんがいるので、こちらで待つことに。
まだかな?
やきもきする。
ドアが開く。
あ、やっとやッ。
まず出てきたのはマデリーンさんと顔の左上部を包帯で覆ったミゲル君。左肩と腕を骨折していると聞いたけど、固定もしてない。だけど、しっかりした足取りだから、治療が効いたんやね。良かった。
チュアンさんから私達の事を聞いていたのだろう、落ち着いて一礼する。
次に担架が2つ。
商会の人が運んできた。
リーダーさんとエマちゃんだ。
………………………………予想はしていたけど、想像以上に状態が悪いんやない?
エマちゃんの担架にはテオ君が付き添っているが、その目は必死に救いを求めている。
私は大丈夫と、目だけで伝える。
エマちゃんは顔全体を包帯で覆われて、僅かに口元と鼻だけ出ているが、唇の一部は変形している。右手は手首上あたりから先端がない。それ以外にもあちこち包帯が巻いてある。エマちゃんは意識がないのか、身動ぎもしない。でも、ちゃんと呼吸している。
次にリーダーさんが乗せられた担架がくる。チュアンさんが付き添っている。リーダーさんはもう包帯が巻いてないところが少ない。顔は口元と鼻だけが出ているが、あちこち変形しているようだし、両腕なんて、肘先からないし。リーダーさんも意識がないようだ。
どれだけ痛かったろうか? 鷹の目の皆さんの身に何があったか分からないが、きっと私が想像できない状況だったんだろう。
私が痛くないのに、胸が苦しくなると、同時に強烈な不安が襲ってきた。
どうしよう? なんとかするってチュアンさんに言ったけど、私の『神への祈り』でどうにかできるのか? どうしよう? 上手く行かなかったら。
どうしよう? エマちゃんとリーダーさんのキズを治せなかったら、どうしよう?
どうしよう? 上手く行かなかったら?
どうしよう? どうしよう? どうしよう?
『ユイ、動揺しているのです』
『特にあの雄の方が弱っているわよ。ユイ、どうする気?』
リードを咥えたビアンカとルージュの声が、私にまるで活をいれる。
そうや、しっかりせんと。鷹の目の皆さんの主人は私や、皆さんを不安にさせたらいかん。なんとかするって言ったんや、なんとかするんや。
「ミズサワ様、鷹の目のメンバー全員です」
前に出たヨルジャさんが全員を示す。
「はい」
私が答えると、チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君が一礼。皆さん粗末な服だし、荷物がほとんどない。
「では、今から制約魔法を」
後ろから出てきたのは、昔はエキゾチック美人だったろう高齢女性。片手に書類、片手に杖を持ち、ぼそぼそと呪文を唱える。
書類が、ひらり。すると、私と鷹の目の皆さんの頭上に小さな魔法陣が浮かび、消える。私はなんの代わりなし、だが、鷹の目の皆さんの首もと、鎖骨近くに黒い魔法陣が浮かびあがる。
「制約魔法終了です。これで名実共にこの6名は、ユイ・ミズサワ様の奴隷となります」
「はい」
高齢女性は、上品なお辞儀をするので、私達もぺこり。
そして、私はしっかりしろと、もう一度自分に活をいれる。
「皆さん、私はユイ・ミズサワです。今から私があなた方の主人になります。私は奴隷という言葉はあまり好きではありません。なので、あなた方を我がミズサワ家の一員として迎え入れます」
話を聞いていた他の人達が驚きの表情になる。
「ようこそミズサワ家に。なんの心配もありません。皆さんは私が守ります。さあ、馬車に。丁寧に運んでください」
最後はヨルジャさんに言う。
「承知しました。さあ、丁寧に運べ」
ヨルジャさんが指示を出し、馬車の後ろのドアから、2つの担架が運び込まれる。担架は後日ギルドに持っていけば返却してくれると。
私と晃太はヨルジャさんに挨拶して、逸る気持ちを押さえながら、私は馬車に乗り込み、晃太は馭者台によじ登る。担架があるので、申し訳ないが仔達には並走してもらう。
ドアを閉め、ノワールが走り出したのを確認。
「よし、では皆さん、状況確認しますよ」
私が声をかけると、答えたのはチュアンさん。
「はい。御主人様」
「はい。まずそこからどうにかしましょう。まあ、これは後で。ケガの確認をしますよ」
「あの、ユイさん…………」
小さな声を出したのは、テオ君だ。
「テオ、様をつけろ」
チュアンさんが鋭く注意する。
「チュアンさん、とりあえずそれは後で話し合いましょう。今は状況確認です」
「はい」
よし、まずは。
「チュアンさん、マデリーンさん、テオ君のケガは?」
「それはありません。十分な治療をしてもらいました」
「私も特に問題はありません」
「俺も大丈夫です」
答える3人。良かった、治療が効いているんやね。頼んで良かった。
「では、ミゲル君」
「は、はい」
「骨折は? 固定もしていないけど、痛みはないの?」
「はい。上級ポーションで骨折は治ってます。支障はないです」
「目は?」
聞くとミゲル君は視線を落とす。
「普通のポーションでは、この目はどうにもならないって…………」
「分かった。ミゲル君、目に効くポーションあるけんね」
私は早速、ダワーさんからもらった蛇のポーションを出す。
「これ、飲んでみて。ダメなら、ドラゴン探しに行くけん」
確かシーラのダンジョンで竜種が出るって聞いたしね。
だけど、皆さん、目が点になる。
「ドラゴン? 今、ドラゴンって聞こえたような……………」
「おかしいわ、耳はなんともないはずなのに」
「これ、飲んでいいやつ? え? 飲んでいいやつ?」
「ドラゴンってその辺にいるの?」
「はいはい、ぐーっと飲みましょうねー」
私はぐーっとミゲル君に飲ませる。
「ごくごく、ぐわあ、まず、不味い……………」
うん、空のポーションから、結構不味そうな匂いが這い上がるから、素早くアイテムボックスにいれる。
ミゲル君の異変は直ぐに起きた。
左目に熱さを感じたようだが、しばらくして落ち着いて、包帯を自分で外す。そこには、右の目と同じ茶色の目が。
「み、見える、見える、見えますっ」
興奮するミゲル君。良かった良かった。まず、ミゲル君の失明はなんとかなったね。ダワーさんに感謝感謝。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございますユイさん、あ、ユイ様」
「様やめて、とにかく良かった良かった。でも、傷痕残ったね」
そう、ミゲル君の左目の瞼から頬にかけて傷痕がはっきり残っている。ドラゴンのポーションなら一発で治ったのだろうけど。
「いいんです。これくらい、痛くないし、全然大丈夫ですっ」
ちょっと興奮気味のミゲル君。
チュアンさんが落ち着けと、ミゲル君の肩を無言でつかむ。とたんに落ち着くミゲル君。なんか、見たことあるよ。
「では、次にリーダーさんとエマちゃんの状況を」
「はい」
チュアンさんが答えてくれる。
「ホークとエマのキズは爆風によるものです。積み荷が爆発した際に近くにいた2人が受傷しました。エマはホークの影にいたので、その影響で右腕があのような状況です。まともに爆風を受けたホークは、全身で受けてしまいました。左腕はまだありましたが、キズが深すぎて切り落とすしかありませんでした。ほかにも飛んできた破片等で全身受傷しています」
「よく、助かりましたね」
「常に上級ポーションを携えていましたから。それでなんとか。私の治療魔法で凌いでいましたが、ユイ様から治療を指示して頂いたので、上位の治療魔法を施して頂き、やっと水分が摂取できる状態になりました」
話を聞きながら、治療お願いして良かったと痛感。
だけど、チュアンさんの『様』つけ、後でどうにかしないとね。
馬車の中で『神への祈り』は使えない。ゲストハウスに戻ってからしないと。色々準備したし。
「エマちゃん、リーダーさん、もうすぐ治療しますからね、もうちょっとですからね」
声をかけると、意識がないと思っていたエマちゃんの唇が微かに動く。
「…………………」
微かに出した言葉は、聞き取れないけど、唇の動きで分かる、「ユイさん」だ。急に涙が浮かびそうになる。
エマちゃんは、私を覚えていてくれたんや。今、頑張って生きようとしているんや。
なんとかせんと、いかん。
「大丈夫よ、エマちゃん、大丈夫やからね。必ずよくなるけんね」
私はぐっと堪える。つらいのはエマちゃんとリーダーさんなんや。
私は声をかけ続けた。
まだかな?
やきもきする。
ドアが開く。
あ、やっとやッ。
まず出てきたのはマデリーンさんと顔の左上部を包帯で覆ったミゲル君。左肩と腕を骨折していると聞いたけど、固定もしてない。だけど、しっかりした足取りだから、治療が効いたんやね。良かった。
チュアンさんから私達の事を聞いていたのだろう、落ち着いて一礼する。
次に担架が2つ。
商会の人が運んできた。
リーダーさんとエマちゃんだ。
………………………………予想はしていたけど、想像以上に状態が悪いんやない?
エマちゃんの担架にはテオ君が付き添っているが、その目は必死に救いを求めている。
私は大丈夫と、目だけで伝える。
エマちゃんは顔全体を包帯で覆われて、僅かに口元と鼻だけ出ているが、唇の一部は変形している。右手は手首上あたりから先端がない。それ以外にもあちこち包帯が巻いてある。エマちゃんは意識がないのか、身動ぎもしない。でも、ちゃんと呼吸している。
次にリーダーさんが乗せられた担架がくる。チュアンさんが付き添っている。リーダーさんはもう包帯が巻いてないところが少ない。顔は口元と鼻だけが出ているが、あちこち変形しているようだし、両腕なんて、肘先からないし。リーダーさんも意識がないようだ。
どれだけ痛かったろうか? 鷹の目の皆さんの身に何があったか分からないが、きっと私が想像できない状況だったんだろう。
私が痛くないのに、胸が苦しくなると、同時に強烈な不安が襲ってきた。
どうしよう? なんとかするってチュアンさんに言ったけど、私の『神への祈り』でどうにかできるのか? どうしよう? 上手く行かなかったら。
どうしよう? エマちゃんとリーダーさんのキズを治せなかったら、どうしよう?
どうしよう? 上手く行かなかったら?
どうしよう? どうしよう? どうしよう?
『ユイ、動揺しているのです』
『特にあの雄の方が弱っているわよ。ユイ、どうする気?』
リードを咥えたビアンカとルージュの声が、私にまるで活をいれる。
そうや、しっかりせんと。鷹の目の皆さんの主人は私や、皆さんを不安にさせたらいかん。なんとかするって言ったんや、なんとかするんや。
「ミズサワ様、鷹の目のメンバー全員です」
前に出たヨルジャさんが全員を示す。
「はい」
私が答えると、チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君が一礼。皆さん粗末な服だし、荷物がほとんどない。
「では、今から制約魔法を」
後ろから出てきたのは、昔はエキゾチック美人だったろう高齢女性。片手に書類、片手に杖を持ち、ぼそぼそと呪文を唱える。
書類が、ひらり。すると、私と鷹の目の皆さんの頭上に小さな魔法陣が浮かび、消える。私はなんの代わりなし、だが、鷹の目の皆さんの首もと、鎖骨近くに黒い魔法陣が浮かびあがる。
「制約魔法終了です。これで名実共にこの6名は、ユイ・ミズサワ様の奴隷となります」
「はい」
高齢女性は、上品なお辞儀をするので、私達もぺこり。
そして、私はしっかりしろと、もう一度自分に活をいれる。
「皆さん、私はユイ・ミズサワです。今から私があなた方の主人になります。私は奴隷という言葉はあまり好きではありません。なので、あなた方を我がミズサワ家の一員として迎え入れます」
話を聞いていた他の人達が驚きの表情になる。
「ようこそミズサワ家に。なんの心配もありません。皆さんは私が守ります。さあ、馬車に。丁寧に運んでください」
最後はヨルジャさんに言う。
「承知しました。さあ、丁寧に運べ」
ヨルジャさんが指示を出し、馬車の後ろのドアから、2つの担架が運び込まれる。担架は後日ギルドに持っていけば返却してくれると。
私と晃太はヨルジャさんに挨拶して、逸る気持ちを押さえながら、私は馬車に乗り込み、晃太は馭者台によじ登る。担架があるので、申し訳ないが仔達には並走してもらう。
ドアを閉め、ノワールが走り出したのを確認。
「よし、では皆さん、状況確認しますよ」
私が声をかけると、答えたのはチュアンさん。
「はい。御主人様」
「はい。まずそこからどうにかしましょう。まあ、これは後で。ケガの確認をしますよ」
「あの、ユイさん…………」
小さな声を出したのは、テオ君だ。
「テオ、様をつけろ」
チュアンさんが鋭く注意する。
「チュアンさん、とりあえずそれは後で話し合いましょう。今は状況確認です」
「はい」
よし、まずは。
「チュアンさん、マデリーンさん、テオ君のケガは?」
「それはありません。十分な治療をしてもらいました」
「私も特に問題はありません」
「俺も大丈夫です」
答える3人。良かった、治療が効いているんやね。頼んで良かった。
「では、ミゲル君」
「は、はい」
「骨折は? 固定もしていないけど、痛みはないの?」
「はい。上級ポーションで骨折は治ってます。支障はないです」
「目は?」
聞くとミゲル君は視線を落とす。
「普通のポーションでは、この目はどうにもならないって…………」
「分かった。ミゲル君、目に効くポーションあるけんね」
私は早速、ダワーさんからもらった蛇のポーションを出す。
「これ、飲んでみて。ダメなら、ドラゴン探しに行くけん」
確かシーラのダンジョンで竜種が出るって聞いたしね。
だけど、皆さん、目が点になる。
「ドラゴン? 今、ドラゴンって聞こえたような……………」
「おかしいわ、耳はなんともないはずなのに」
「これ、飲んでいいやつ? え? 飲んでいいやつ?」
「ドラゴンってその辺にいるの?」
「はいはい、ぐーっと飲みましょうねー」
私はぐーっとミゲル君に飲ませる。
「ごくごく、ぐわあ、まず、不味い……………」
うん、空のポーションから、結構不味そうな匂いが這い上がるから、素早くアイテムボックスにいれる。
ミゲル君の異変は直ぐに起きた。
左目に熱さを感じたようだが、しばらくして落ち着いて、包帯を自分で外す。そこには、右の目と同じ茶色の目が。
「み、見える、見える、見えますっ」
興奮するミゲル君。良かった良かった。まず、ミゲル君の失明はなんとかなったね。ダワーさんに感謝感謝。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございますユイさん、あ、ユイ様」
「様やめて、とにかく良かった良かった。でも、傷痕残ったね」
そう、ミゲル君の左目の瞼から頬にかけて傷痕がはっきり残っている。ドラゴンのポーションなら一発で治ったのだろうけど。
「いいんです。これくらい、痛くないし、全然大丈夫ですっ」
ちょっと興奮気味のミゲル君。
チュアンさんが落ち着けと、ミゲル君の肩を無言でつかむ。とたんに落ち着くミゲル君。なんか、見たことあるよ。
「では、次にリーダーさんとエマちゃんの状況を」
「はい」
チュアンさんが答えてくれる。
「ホークとエマのキズは爆風によるものです。積み荷が爆発した際に近くにいた2人が受傷しました。エマはホークの影にいたので、その影響で右腕があのような状況です。まともに爆風を受けたホークは、全身で受けてしまいました。左腕はまだありましたが、キズが深すぎて切り落とすしかありませんでした。ほかにも飛んできた破片等で全身受傷しています」
「よく、助かりましたね」
「常に上級ポーションを携えていましたから。それでなんとか。私の治療魔法で凌いでいましたが、ユイ様から治療を指示して頂いたので、上位の治療魔法を施して頂き、やっと水分が摂取できる状態になりました」
話を聞きながら、治療お願いして良かったと痛感。
だけど、チュアンさんの『様』つけ、後でどうにかしないとね。
馬車の中で『神への祈り』は使えない。ゲストハウスに戻ってからしないと。色々準備したし。
「エマちゃん、リーダーさん、もうすぐ治療しますからね、もうちょっとですからね」
声をかけると、意識がないと思っていたエマちゃんの唇が微かに動く。
「…………………」
微かに出した言葉は、聞き取れないけど、唇の動きで分かる、「ユイさん」だ。急に涙が浮かびそうになる。
エマちゃんは、私を覚えていてくれたんや。今、頑張って生きようとしているんや。
なんとかせんと、いかん。
「大丈夫よ、エマちゃん、大丈夫やからね。必ずよくなるけんね」
私はぐっと堪える。つらいのはエマちゃんとリーダーさんなんや。
私は声をかけ続けた。
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