上 下
190 / 824
連載

偽善者②

しおりを挟む
 孤児院。
 身寄りのない子供達が身を寄せる場所。
 ユリアレーナでは基本的に教会に併設されている。理由は様々だが、昔の孤児院は名ばかりで、裏で人身売買が当たり前のように横行していた。また、管理が行き届かずに、安易に犯罪に走る子供も少なくなく、社会問題となっていた。
 ユリアレーナは建国後、法整備を整えた。孤児院は基本的に教会に併設し、その教会が在る街の領主、マーファでいうハルスフォン様みたいな人達が管理をする、もしくは管理を任せる。そして管理を任せるなら最低限の支援をしなくてはならない。教会併設の理由は様々あるが、やはり昔行われていた人身売買の事があり、神に仕える人が適任とされたそうだ。そして今は孤児院の先生となると、なかなか名誉なんだそうだ。そして、教会なら寄付もそこそこ入る、という思惑もあった。今では読み書き計算を教えてもらい、ある程度の歳になったら各ギルドが見習いとして受けてくれることもある。
 そこまでなるのにユリアレーナ建国後、100年以上かかった。
 教会併設ではなく、個人で経営している所ももちろんある。在籍している街の領主から許可を得た人だ。
 だが、彼らの言う孤児院はそうではない。
 無認可の孤児院。いくら法整備が出来ても、なくならない。
 理由は理不尽なことに、子供達の境遇だ。
 ひどい虐待を受けて逃げてきた子は、その親が引き取りに来たら、帰さないわけにはいかないと。中にはその場で反省したふりをしているが、帰ればその子にとっては地獄だ。そして多額の借金を残して、子供を放置して雲隠れ。その借金は子供にかかる。いく先は借金奴隷だ。見た目のいい女の子は性奴隷、体躯のいい男の子は重労働奴隷になる。借金を未成年の子供が背負う場合、ちゃんとした孤児院なら、行政に掛け合い、親との縁を切ることで免除は可能だが、それを知らない人もいるし、知っていても放置する親がいる。理由は、子供が免除されたら自分にふりかかるからとふざけた理由が多い。それから、口に出せない所からの借金だ。一番可哀想なのは親が犯罪者の子供は、何処にも行き場がない。犯罪者の子供とばれれば理不尽な報復を受ける羽目になる。だから、認可された孤児院を避けて、雑踏にまみれた無認可の孤児院に、自力で生きていく術を身につけるまで、隠れるしかない。そして成人してから、親とは関係ないと新たな身分証を得ることで、やっと日の当たる場所に出られるが、実際にそう簡単に行くわけない。結局爪弾きされて、やさぐれて、犯罪に走ることは多々ある。
 彼らはそんな孤児院の子供達だ。
 まさか、マーファにもそんな孤児院があるとは。
 スラム街の中で、ひっそりと中年夫婦が経営している。何処にも逃げ場のない子達の、最後の砦だ。
 そんな孤児院が困窮状態だと。
「どうしてお金が必要なの?」
「実は、前の先生が死んじゃって、その先生が借金してたらしくて」
 私に話しかけてきた男の子が、説明してくれる。
「直ぐに準備しないと、次に成人する女子達を、性奴隷にしろって言われてて。そんな事、出来ないって、先生達が必死になってお金を集めているけど、どうしようもなくて」
 なんだか由々しき事態だ。
「だからお願いしますッ、なんでもしますからッ」
「「お願いしますッ」」
 必死に頭を下げる3人。
『ユイ、嘘ではないようよ』
『切実なのです』
「そうね。ねえ、その借金っていくらくらいなん?」
 額にもよるが。
「姉ちゃん、ちょっと………」
 晃太が私の腕を引く。
「なんね?」
 小声で聞く。
「どうすると? 見た感じまだ未成年やん。そんな子達ば、冷蔵庫ダンジョンに連れていくのはよくないやん。わいらの依頼は、危険が伴うんやけん」
「そうやけど、知らん顔できんよ。せめて話ば聞いて、何か別な方法があるかもしれんし、額によれば私が肩代わりを」
「姉ちゃん、そんな事しよったら、悪い連中から身ぐるみ剥がされるよ。ちょっとは疑わんね」
「う」
 返す言葉がございません。
 私は考える。浅はかやったな。
 おそらくこの子達は、ビアンカやルージュが言うように嘘をついていない。そして私にこんなお願いをしてくるなら、危険を承知で来ているはずだ。それでも、お金が必要なら、切羽詰まった状態なんだろう。私の存在は目立つ、なんせビアンカとルージュがいるからだ。それを知って来たんだろう。
 借金。多分、そのスラム街の孤児院の為のものだろうが、女の子達を性奴隷にしろなんて異常だ。
 晃太がさとしてくれたおかげで、冷静になってきた。
「ねえ、今日は無理やけど。明日の朝、ここで待ち合わせね。今の先生に詳しく話を聞いて、どうするか判断するけん」
「そ、それは、先生達が知ったら止められます」
「当たり前やろう? 危険と分かっているような事を、率先してやってこい言う人達なら私は援助せんよ。君達が嘘をついてないことや、金策に走る先生や、女の子達の身を案じていることはよう分かるけん。とりあえず今日は帰り。話によっては悪いようにはせんから」
 すると、後ろにいた、1人の男の子、ガチに子供が、目に涙を浮かべる。
「助けて、くれないの?」
 胸に、刺さる。
「私は君達を助けたい。けどね、ちょっと情報がほしいんよ。悪いようにはせん、大丈夫やからね」
 そうは言ってみたが、男の子の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
 私はハンカチを出して、涙を拭いてあげる。なんや、私まで泣きそうになるんやけど。
「大丈夫、明日ここにおいで。よかね? 必ず来るけんね」
「ぐずう、ぐずう」
「ね、明日、ここにおいで。よかね?」
 私は再度言い聞かせて、3人を帰した。涙を拭いたハンカチは真っ黒だ。
 帰り際、この寒い中薄着だった子達に、私と晃太はそれぞれのマフラーを巻いた。1枚足りないので、前に出て話をした子には、膝掛けを肩にかける。
 暗いので、ルージュに光のリンゴを出してもらい、帰って行くのを確認して、私達はパーティーハウスに戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」  王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。 ※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27) ※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。