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スキルアップ④

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 あっという間に年末だ。
 毎日ギルドか、冷蔵庫ダンジョンか、孤児院かのどれかに通う。ギルドは基本的に年末年始関係ないが、流石に業務は少し縮小される。
 で、そのギルドの地下には、訓練所がある。
「きゃいんっきゃいんっ」
 元気が悲鳴を上げる。
 私と晃太ははらはらしながら見守るだけ。
『ほら、元気、魔力を全身で感じなければならないのです』
「きゃいんきゃいんっ」
 バリバリッ。
 元気が悲鳴を上げて、静電気の強めの音が響く。
『そんなに魔力を全力で流すから、痛いのですよ。少しだけ、息をそっと吐き出すようにするのです』
「きゅうーん………」
 事の起こりは昨日のスライム部屋で、スライムをプチプチしていた元気の回りで異変が起きた。
「わんわんッ」
 吠えただけで元気の回りスライム達が弾けた。
 ああ、ビアンカも魔法が使えるから、元気も使えるんやねえ、くらいしか思っていなかった。
『ビアンカッ、元気が魔法をッ』
『か、雷なのですッ』
 それを見て慌てたのは、ビアンカとルージュだ。
「どうしたん? ビアンカ、雷使うやん?」
 最強戦闘モードは『雷女帝(エル・カテリーナ)』のはず。
『元気はまだ、一歳にもなってないのです』
 ビアンカの説明はこうだ。
 ビアンカやルージュみたいな上位魔物は魔法を使える。ビアンカとルージュのように体に魔力を纏わせる戦闘モードが主で発動系と呼ばれる。そして光のリンゴのように魔法は発現系。
 魔法は使えるが、色々手順があると。
 まず、一歳までに体に魔力を流す事を覚える。これが出来るようになった頃にどんな属性魔法を持っているか分かると。それからまず覚えるのは、属性魔法での身体強化、つまり戦闘モードね。次に発現系だと。何故かというと、発現系は人に比べて魔物は少しコントロールするのが難しいため、暴発リスクが高い。まだ成体前の個体は親個体が使わせないし、教えない。
 だけど、元気は色々すっ飛ばして雷魔法を発現させていると。
「元気には才能があるんやね」
『何を呑気なことを言っているのです? 元気、いますぐやめるのですッ』
『コハク、こっちにいらっしゃいッ』
 慌てた様子のビアンカとルージュ。
「にゃあ~?」
 コハクはスライムをプチッとして戻って来る。
 元気は変わらず、わんわん言いながら、スライムを弾けさせている。
「どうしたん?」
 ルリとクリス、ヒスイが処理しきれないスライムを、プチプチしていた晃太も心配そうにきく。
『未熟な魔力操作で発現系を使うと、コントロールをミスして自分にふりかかることが多いのよ。後は誤爆』
 ルージュが説明してくれる。2人の心配してたのはこれか。
「え? 誤爆?」
 さらっと物騒なワードが。そう思いながらも、ルージュの説明は続く。
『しかも、元気が使っているのは上位魔法の雷。ビアンカも兄もコントロールするのに覚醒したあと、苦心した属性なのよ』
「え、じゃあこのままならどうなるん?」
『おそらく』
『元気ッ、止まるのですッ』
「きゃいんッ」
 元気の悲鳴が上がる。
 スライムが群がるなか、元気が倒れ伏す。
『ああ、自分で誤爆したわね』
「キャーッ、元気ーッ」
 私はフライパン片手に元気の元に駆け寄る。ビアンカは既に近くまで移動している。
『ユイッ、触ってはダメなのですッ』
「え?」
 倒れた元気に手を出すと、ビアンカが慌てて止めてきた。
「あばばばっ」
 私の指先が元気の毛並みに触れた瞬間、全身に強烈な痛みが走り、私は気絶した。
 そうだよね、雷の魔法の誤爆。よくみたら元気の体、パチパチ言ってた、あれだ、スタンガンだよね。次に気がついたのは、冷蔵庫ダンジョン1階のフィールド。いつもお弁当を広げる場所にシートを敷いて寝かされていた。
 ああ、全身痛かあ。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「何とかね…………あたた、あ、元気は?」
「落ち着いたよ。ビアンカがうまく雷ば処理してくれたけん」
「そうね」
 起き上がると、近くでルリとクリス、ヒスイがお昼寝していた。あはははーん、かわいかあ。
『ユイ、どう?』
 ルージュが心配そうに覗き込んで来た。
「何とかね」
 元気とコハクは仲良くじゃれて遊んでいる。
「ねえ、ルージュ。元気はなんで雷使えたんかね? 普通はまだ無理なんやろ?」
『そうね、普通はね。珍しいけど1つの属性だけ適性が高くて早く覚醒するって聞いたことはあるわ。元気の場合、それが上位の雷属性で、更にレアってことかしら。氷と雷は水や風属性を鍛練しないと覚醒しないの。覚醒しない方が多いのよ。元気が使えるのは、生まれつき持っているということね』
「そう、でも全くない話ではないんやね?」
『そうね』
 そっかあ。きっと元気は両親やおじいさんおばあさんの、いいところを引き継いだんやね。
 なんて思っていると、元気が私に気が付いて突進。パチパチ言ってないし、よし、いらっしゃい。
 だけど、私に飛び付く寸前に聞こえたのは、パチパチ、と何か弾ける音。
「あばばばっ」
 私は再び気絶した。

 てってれってー
【スキル 雷耐性E/SSS 覚醒しました】

 再び意識を取り戻し、私は決意。
 元気の雷魔法のコントロールを早急に得ることだ。実は2度目の気絶中、晃太も触れてしまい、気絶まではしなかったが、あまりの痛さに押し潰された悲鳴を上げたそうだ。
 本当にまずい、元気は人見知りしないため、いろんな人が撫でてくれる。絶対に被害が広がる。私達ならいいけど、一般人にでるのはまずい。
 ルームの中庭で訓練したら、しばらく帯電して危ないし、パーティーハウスの庭もダメ。
 結局、リティアさんに相談したら、ギルド地下に訓練所があり、壁は魔法耐性があるので、どうぞと。
 で、ビアンカによる魔法講座となっている。
 まあ、うまく行ってない。
 ビアンカもちょっとスパルタ気味だし。休まず魔力を流すように言ってる。
「ねえ、ルージュ。ビアンカさ、ちょっと厳しくない?」
 私が聞くと、ルージュは首を振る。
『いいえ、あれくらいしないと。今きちんと覚えないと、元気の為にはならないわ。どんなに痛いか分からないまま使い続けると、いざ、大技になった時、無意識に自分に跳ね返らないように、コントロール出来ないのよ。それに既にユイやコウタも痛い目見ているでしょ? このままだと、また同じ事になるわ、気絶じゃすまない。お父さんやお母さんも危ないのよ』
「う、なら、元気に頑張ってもらわんとね………」
 視線の先に、耳を倒し情けない顔の元気。
『ユイ、コウタ、2人とも魔力を流して訓練をして』
「あ、はいはい」
 元気が頑張っているんや、我等も頑張らんとね。
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