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スキルアップ③

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 晃太の話はこうだ。
 支援魔法のスキルレベルアップするために、最近は主にノワールにかけていたが、先日ノワールとのレベル差が100を超えた。
 父の最強スキル、SSSの鑑定を使いながら模索。やはりノワールの戦闘力は、支援魔法のスキルアップにかなりポイントになっていた。だが、今回の冷蔵庫ダンジョンで、ノワールのレベルがかなり上がった。晃太自身のレベルアップをすればいいが、やはり支援魔法のスキルレベルアップも同時進行したいと。
「つまり、うちらと同じくらいのレベルの冒険者の皆さんに、一緒に戦闘スキルアップの為に冷蔵庫ダンジョンに行ってもらえんか、募集出来んかね?」
「なるほど、うちら自身のレベルアップと、晃太の支援魔法もレベルアップ出来るわけね」
「そう、支援魔法はとにかく、色んな種類をたくさんかけるといいみたいなんよ」
「そうね。やけど、ほら、色々問題があろうもん」
 後ろで『ダンジョンダンジョン』の掛け声。うちの最高戦力達が、黙って見ててくれるかが問題だし。それに何日ともなれば、ルームが使えない。それが最大の問題や。
 晃太の私の言いたいことが分かったのか、悩んでいる。
「日帰りは、難しいかろう? 基本的にはダンジョンは何日も潜るもんやし」
 うちらには魔力保有量が多い、ビアンカとルージュがいるから気軽にスキップシステムを使って日帰りしている。それだけでも十分なドロップ品や宝箱を得られるが、それはレベルが500を越すビアンカとルージュが扉を開けた結果だ。
 依頼を出す以上、それを受けてくれる冒険者の皆さんにとって、旨味のあるものではないとね。
 うーん。
『ユイ、コウタ、さっきからどうしたのです?』
『ダンジョンに行くの? いつ?』
「うーん、そうやねえ」
 悩んでいると、後ろから声をかけられる。
「ミズサワさん、どうされました?」
 フォリアさんだ。
 あ、現役本職の冒険者に聞いてみたらいいったい。
「フォリアさん、ちょっとアドバイスを頂きたいのですが」

 そのまま、パーティーハウスにフォリアさんとエルバちゃんをご案内する。
 帰ると、わー、と寄ってくる花と仔達。
「ただいまあ」
 もふもふ。
 母に簡単に説明し、居間にフォリアさんとエルバちゃんをご案内。
 私はちょっと失礼してルームに入り、お茶をどうしよう。あ、さくら庵のホット柚子蜜ティーとイチゴケーキ・特製クリスマスバージョンだ。私達もホット柚子蜜ティー。
 慎重に運ぶ。
「クゥンクゥン」
 花が私の膝裏に突撃。膝かっくんしそうになる。
 でれれ、と晃太が花を抱き上げる。のたうち回る花。
「元気達は?」
「外におるよ。ちゃんと防寒してな」
 ちら、と見ると、ビアンカとルージュが見守りながら、セーターを着て走り回る元気達。
 これでケーキの安全は確保。
「どうぞ」
 柚子蜜ティーとイチゴケーキを並べると、フォリアさんとエルバちゃんの顔が輝く。
「あの、頂いてもいいんですか?」
 フォリアさんは少し遠慮の姿勢だけど、視線はケーキだ。
「はい。どうぞ、お茶は熱いので気をつけてください」
「ありがとうございます」
「いただきます」
 まず、フォリアさんは柚子蜜ティーを一口。
「ああ、柑橘の香りがします。体が暖まります」
 ほっとした表情を見せるフォリアさん。
 その横のエルバちゃんは、イチゴをぱくり。
「あ、甘ーい。クリームも甘くて美味しいっ」
 好評で良かった。
 落ち着いてから、話を始める。
 クゥンクゥンと鳴く花に、半分にしたワンコビスケットで誤魔化しながら晃太が切り出す。
「実は我々の戦闘訓練の為に、冷蔵庫ダンジョンに日帰りで潜ってくれる冒険者を募集したいんですが。こういった依頼の場合、どのように募集をかけたらいいか分からなくて」
「日帰り、ですか」
 フォリアさんが柚子蜜ティーのカップを置き悩み。
「冷蔵庫ダンジョンの日帰りとなると行けるのはせいぜい3階か4階くらいですね。そうなるとあまり稼ぎもよくないですし、魅力的には低いかと」
 ああ、やっぱり。日帰りは1階のハーブ摘みくらい。上層階のダンジョンの日帰りなんて、私達くらいしかいないか。
「スキップシステムご存じですよね? 姉の従魔なら、かなりの人数を運べます。それではどうです?」
「スキップシステムですか。向かう階に寄りけりですが、いいですねそれ。下から地道に登らなくても、すぐに上層階に行けますし」
 フォリアさんが食いついてきた。
 スキップシステムでの移動は、採用になる。
「次に戦闘訓練についてですが、どのような感じですか?」
「ああ、実は私は支援魔法が使えるんですが、なかなかスキルレベルが上がらなくて。姉の従魔とはレベルの差がありすぎて効果がないんです。なので、私の支援魔法を受けて戦闘をしてくれる人を募集したいんです」
「そうでしたか。支援魔法をお使いなんですね。なかなか支援魔法を受けて戦闘なんてそうありません。後は期間と報酬ですね」
 期間はすぐに決まった、月~木、朝から夕方まで。スキップシステムで上層階に臨む。もちろん我等の最高戦力のビアンカとルージュにがっちり守ってもらって。金曜日は元気達の為のスライム部屋にお付き合い頂きたい。報酬に関しては、悩んだが、うちらはお金に困っていないし、危ない戦闘をしてくれるのなら、危険手当てを支払う必要がある。だが、フォリアさんが待ったをかける。
「こういった一緒にダンジョンを潜る際の報酬は、手に入れたドロップ品や宝箱の販売した後の引き取り割合を、少し多くするだけで十分ですよ。スキップシステムで一緒に連れていってもらえる機会なんてそうそうありませんから」
「そうですか」
 晃太と私が家族会議。花はケーキを狙ってテーブルによじ登ろうとしている。残念な事に、胴は長いが足は短いので、届かない。仕方なく、座っているエルバちゃんの膝にすがり付く。
 かわいい、かわいいとエルバちゃんは、花を撫で撫で。
 後はボス部屋を誰が開けるかが、問題だ。ビアンカとルージュが開けるのはNG。だけど、絶対に自分達も開けたいって言ってくるはず。
 フォリアさんのアドバイスを聞きながら、すったもんだしながら依頼内容を考える。
 依頼主は私、形式上ランクが高いからね。
 依頼内容は、冷蔵庫ダンジョンに一緒に潜ってほしいこと。詳しい内容は依頼主に確認を。スキップシステムを利用しての移動となります、と。
 期間は月~木曜日の朝10時~17時。終了時間は多少誤差でます。金曜日は朝10時~15時までスライム部屋。2週間。
 募集対象は、15階のボス部屋を殲滅出来る実力のあるDランク以上の冒険者パーティー。理由はDランクとなれば、中堅クラスでそこそこ戦闘経験のあるランクだからだ。それとランクを絞った方が、経験の浅い新人や冒険者になったばかりの子が来ると、戦闘を考慮している依頼なのでリスクがあると。やはり、ある程度の戦力を持つ、となると指標はDランクだと。
 報酬は要相談。私達はドロップ品や宝箱はすべて差し上げるつもりだったが、それでは依頼が成立しないそうだ。ダンジョンに同行者を求める場合は、双方に少なくとも報酬が得られないといけないと。たまに仲の良いパーティー同士でダンジョンに潜ることもあるが、やはりこうやって書面で残さないと、取り分で揉めることもあると。まあ、これに関しては考えている。晃太とミニ会議して即決した。
 備考、お昼ごはん付けます。賄いみたいな感じね。
 だいたいこんなものかな? うーん、誰か受けてくれるかな?
 うーん、うーん。
「ねえ、リーダー、この依頼、私達が受けちゃダメ? もうすぐ御用聞きの期間終わるし」
 花を撫でていたエルバちゃんが、思い付いたように、フォリアさんに聞いている。
「こちらとしては、知り合いの方なら安心なんですが………」
 エルバちゃんの言葉に、私も思わずぽろり。フォリアさんが考えて、答えを出す。
「ミズサワさんさえよければ。私達も一応Dランクの冒険者パーティーです。細かい事情も分かっていますし、良かったら是非受けさせてください」
「「ありがとうございます」」
 こうして、初めての依頼はなんとかなった。
 まず、『ルベル・アケル』の御用聞き期間が年末までなので、三ヶ日過ぎてから依頼を出し、すぐに依頼を『ルベル・アケル
』が受けることになる。
「では、このまま報酬のお話いいですか?」
 肝心な事だ。生活がかかってるしね。晃太が切り出す。
「今回はダンジョンにて、支援を受けて戦闘してもらいます。それに関連して得たドロップ品はすべてそちらの分です。我々はその日最後に姉の従魔がボス部屋に臨みますので、そのドロップ品だけで構いません。宝箱の中身は進呈します。それ以外にもボス部屋に挑む際、従魔が開けなければ、ドロップ品や宝箱はそちらの報酬となります」
 絶対にビアンカとルージュが自分達もと言うはずだから、妥協案だ。
「え? それでいいんですか? こちらがずいぶん得をしているようですが」
 フォリアさんが心配そう。
「いえ、これでいいんです。もしかしたら、それでもこちらの取り分が多いかと思いますよ」
 なんせ、レベル500だからね。
 いまいち納得していないフォリアさんだが、なにより今回はお試し感があるし、何か問題があれば指摘してほしい。その旨を伝えると、了承してくれた。
 そろそろ帰宅時間だ。私はちょっと失礼して、銀の槌へ。長い時間、相談に乗ってもらったし、初めての依頼を受けてくれたしね。えーっと、残念ホールケーキがない。アップルパイ、フランボワーズのムースケーキ、チーズケーキ、フルーツ入りロールケーキ、レモンタルトを2個ずつ。メンバーは5人だから、公平に2個ずつね。
「これ、皆さんで召し上がってください」
 渡すと、遠慮されたけど、結局受け取ってくれた。エルバちゃんが笑顔を浮かべ大事に抱えている。
「では、お願いします」
「はい」
 暗くなりだした中を帰っていくフォリアさんとエルバちゃんを見送った。
 もう、年末かあ。早かなあ。
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