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スキルアップ②

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 それから数日間、毎朝ギルドに通い、ドロップ品を提出する。
 その中でパーカーさんのお店にも行き、お土産を渡す。ダンジョンで得た果物と牛乳だ。後は例のシルク布で、ワンピースが出来るか聞いたら、了承してくれた。サイズを測り、デザインに母も加わる。
「しかし、素晴らしい生地ですね」
 パーカーさんが広げられた生地を見てため息をつく。布関係もすべて手元に残した。いろいろ合わせた結果、モスグリーンは大丈夫みたいで、後はカラシ色の布もいいようだ。ついでに父や晃太のシャツ、スーツ一式、母もブラウス、ロングスカートを依頼。出来上がりが楽しみ。
「実はミズサワさんにお願いがありまして。ダイアナを助けて頂いたのに、こんなお願いをするのは厚かましいとは思うのですが」
 採寸が終わると、パーカーさんが、おずおずと聞いてきた。
「何ですか?」
「はい。以前に譲って頂いた布ですが」
「はい」
「まだお持ちでしたら、譲って頂けないかと。私共の店で最古参の針子の孫娘がダイアナと同い年でして。半成人を迎えます。長年勤めて、力を尽くしてくれた彼女に報いたいと思いまして」
 なんだ、そんな事か。
「構いませんよ。明日でもいいですか?」
 布の在庫はない。懐は真夏のように暑いので、最近あまり通ってない。今日帰ってから、通わないと。
 しかし、パーカーさん、従業員想いやね。
「はい、ありがとうございますミズサワさん」
「どういった色がいいですか?」
「そうですね。あまり濃い色より、淡い色合いが似合うかと」
 パーカーさんが、その針子さんの孫娘さんを思い出しながら答えている。
「分かりました。では、明日持って来ますね」
 よし、通おう、ぺんたごん。

 で、次の日。
「ミズサワさん、ミズサワさん、これ以上はテーブルに乗りません」
「あ、すみません」
 ぺんたごんで手にいれた布を出すと、パーカーさんが慌てて止めてきた。流石に多かったかな? 無地やギンガムチェック、ストライプ、ドット、花柄の布を所狭しと並べた。ざっと80種類。
 最古参の針子さん、モーラさんも開いた口が塞がらない。最初は涙を浮かべて喜んでいたのに。
 見ていたフィナさん、ジョシュアさん、パトリックさんもそんな感じだ。
「え、あの量入るの?」
 パトリックさんが、山になった布を指し、ジョシュアさんに小声で聞いている。晃太のアイテムボックスの許容量の事だろう。
「しっ。コウタさんのアイテムボックスはデカイだけだ」
 サイズ不明のSSSだよ。
 ジョシュアさんはアルブレンで、晃太が馬車をアイテムボックスに入れるのを見ている。まあ、それ以外でも、晃太のアイテムボックスの許容量の大きさは、噂になってはいる。あれだけのドロップ品をいれているから、ギルドは把握しているはず。何も言わないのは、私がいるからだ。私の後ろにいるビアンカとルージュだ。タージェルさんによれば、国からのスカウトが来ても当然な許容量。言って来ないのは、やはり、ビアンカとルージュを従魔にしている私が姉としているからだそうだ。無理に言えない、と。
 まあ、晃太本人が望めば、私は別にいいけど。だけど、どこかに勤めたら気軽に私の『ルーム』を使えない。アイテムボックスを持ち勤めるなら、常に移動の生活だ。まだ、日本の感覚がある晃太は、それが困るから、嫌だそうだ。毎日のお風呂に、布団に、食事、当たり前の『ルーム』の機能が使えないのがネックだと。
 そうこうしていると、モーラさんはレモンイエローとオフホワイトの布を選ぶ。原価で譲る、気持ちお祝いだ。
 モーラさんはそれは喜んでいた。何でもその孫娘さんの親御さん、つまりモーラさんの息子さん夫婦さんは既に亡くなり、たった1人残された孫娘さんを育てているそうだ。だから孫娘さんは、モーラさんの大事な宝物だと。
 こんなに喜んで貰えたのなら、通って良かったぺんたごん。残りの布は、パーカーさんが譲って欲しいと言われたので、2割増しで販売した。それでも安いって言われたけど。
 運び出される布を見ながら思う。独自の販売ルートって、こうやって手にいれて行くんだなって。いろんな人と、こうやって知り合って販路を得ていくんだ。

 査定が出る日。
 私と晃太、ビアンカとルージュでギルドに向かう。本日はフォリアさんとエルバちゃんだ。
 赤と緑の旗が翻るギルド。実はあれから日帰りで冷蔵庫ダンジョンに2回も行ったので、更に追加した。21階と22階メインで。まあ、リティアさんとタージェルさんが喜ぶこと。
 ギルドに着いて、いつもの応接室に通される。ドアにフォリアさんとエルバちゃんが待機してくれる。
 応接室にはリティアさん、タージェルさん、そしてお久しぶりのストヴィエさんだ。
「ミズサワ殿、お座りください」
「はい」
 私と晃太はソファーに座り、ビアンカとルージュはゴロリ。
「ではミズサワ殿、今回の指名依頼の件からでよろしいですか?」
 書類を出す、ストヴィエさん。
「はい」
「依頼は達成、これによりユイ・ミズサワ殿をAランクに、コウタ・ミズサワ殿をEランクにアップします」
「え? 私もですか?」
 晃太が驚きの声を上げる。
「はい。評価されたのは地図の作成能力です。すでにスカイランからもコウタ・ミズサワ殿の作図の件で報告を受けています。この短期で、これだけ詳細な地図を作れる者はそうはいません」
 ああ、マッピング能力ね。私には無縁なスキル、地図読めんもん。
「でも、マッピングは空間認識力があれば、後発的に覚醒するんですよね? そこまで評価されるとは思えないんですが」
 晃太がストヴィエさんに聞いている。
「確かに、後発スキルですね。ただ、これを覚醒出来るのは熟練の魔法使いや弓士ですよ。後は生まれつき、神から与えられたギフトですね。それに覚醒したからと言って、直ぐに使いこなせませんよ。情報を紙に立ち上げるには、相応の知識と情報力が必要になり、それにともない技術も必要です。そんなにお若いのに、素晴らしい。父上のリュウタ・ミズサワ殿も素晴らしい技術者。父上同様にコウタ・ミズサワ殿にも類いまれな才能があると言うことです」
 私は単にビアンカとルージュがいるだけだけど、晃太のスキルはすごかね。
「そうなんですか。スキルを与えて頂いた神様に感謝します」
 晃太が半分納得してないがそんな返事をすると、ストヴィエさんが満足そうに笑う。
 冒険者ギルドカードをリティアさんに渡す。リティアさんは一旦退出。
「では、次に成功報酬です。1000万になります。その内、地図の作成に関しては300万とさせて頂きますが、よろしいですか?」
 地図の報酬に関しては、すべて晃太の功績になる。当然だ。
 リティアさんから冒険者ギルドカードを受け取り、書類にサイン、魔力を流し、お金を受けとる。
「では、次に、宝飾品等の査定を」
 ストヴィエさんからタージェルさんにバトンタッチ。
「はい。では、ミズサワ様。こちらが今回の査定のリストでございます」
 タージェルさんがリストを出す。
 何々、アクアマリンの指輪が5万…………バイオリンが80万……………カメオが全部で120万………………最終階のダイヤモンドが2億とな。
 ………………………
「はあぁぁぁぁッ? あれ、に、2億もするんッ?」
 思わず声が出る。地が出る。
「ははは、ミズサワ様、グーテオークションに出れば、もっとしますよ。良ければ紹介状をお書きしましょうか?」
 タージェルさんの笑顔が、すごくいい。
「あ、いえ、よかです」
 晃太と一緒に首を横に振る。次に高価なのは、26階のルビーが、5000万、それから27階で出たエメラルドが3500万、真珠とダイヤモンドのティアラ、イエローダイヤモンドが3000万、25階のグランドピアノ、28階で剣とかと一緒に出た盾が1500万。他にも宝飾品のセットが、ウン千万がいくつもあるが割愛。ダイヤモンドが飛び抜けて高い。
「合計7億6381万でございます」
 金銭感覚おかしくなる。言われるがまま、サインと魔力を流す。
「では、次にドロップ品です」
 タージェルさんがリティアさんにバトンタッチ。
 あ、まだ、あったね。
 リティアさんもリストを出して、説明してくれる。長かあ。
「合計9億556万2600になります」
 こちらも言われるがまま、サインと魔力を流す。
 ずらーと並んだ硬貨に、私と晃太は沈黙。
 私は白金貨を何枚か取り、ストヴィエさんの前に。
「これ、無料教室の給食費に寄付します。後はダワーさん、薬師ギルドに、小児用の薬の治験の出資金です」
 合計10枚提出した。
 その後色々言われたけど、受け取って貰えた。
 私と晃太はそそくさと応接室を後にした。
 帰り際、晃太がロビーで立ち止まる。
「どうしたん?」
 聞くと、晃太は依頼の紙が張ってある掲示板の前に。
 不思議に思いつつ、晃太が見ている紙を後ろから覗く。

 募集中 冷蔵庫ダンジョンに一緒に潜ってくれる方
 募集内容 魔法使い・アイテムボックス持ちがあるパーティー、もしくはソロ。ランクは問いません。
 依頼報酬 要相談

「姉ちゃん、これ」
「参加すると?」
「違う違う、わいらがこれを出せんかね?」
「はあ?」
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