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スキルアップ①

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「寒ッ」
 冷蔵庫ダンジョンから出て開口一番これだ。
 寒い、寒い、冷蔵庫ダンジョンに入った時は、肌寒いくらいだったのに、しっかり冬の寒さだ。
 アウターの準備してない。寒かあ。
「にゃあ~」
「みゃあ~」
 コハクとヒスイが、魔法陣のある小屋に戻って行く。やっぱり寒いんやね。まあ、いきなり寒いけんびっくりしたんやろう。ルリとクリスはビアンカにぴったりだ。元気はかわらず、へっへ、言ってる。
「晃太、防寒の支援できん?」
「やってみるかね、寒かあ、アップ」
 まず試しに私、おい、こら。晃太自身にかけて、コハクとヒスイに支援。それから、念のために。
「おべべ着ようね~」
「にゃあ~」
「みゃあ~」
 大型犬用の服を着せる。コハクは茶色、ヒスイはピンクのセーターだ。背中に白いボンボンが着いている。ルリとクリスもお揃いのピンクだ。元気は水色。悶絶必至のかわいさや。あはははははん、パシャパシャしたかあ。
 バギーを出して三人娘を乗せる。
 一度仔達だけでもパーティーハウスに、と思ったが、リティアさんが華麗にすっ飛んできた。
「お帰りなさいませ、ミズサワ様」
『この雌、やけにハイテンションなのです』
『嫌だわ、色々滲み出してるわよ』
 ビアンカとルージュがちょっと引く。
 それだけ、楽しみにしてくれていたんだろう。
 だけど、絶対に時間がかかる。
「あの、子供達とノワールをパーティーハウスに戻してからでも、大丈夫ですか?」
「はい、もちろんでございます」
「姉ちゃん、わい、先にギルドに行っとく。先に地図とか渡した方がよかろうし、ドロップ品はわいのアイテムボックス内やし」
「そうやね。リティアさん、いいですか?」
「はい」
 晃太だけ、先にギルドに向かい、私達は一旦パーティーハウスへ。
「お帰り」
 母が出迎えてくれる。
「クゥンクゥンクゥーン」
 花がワガママボディをくねらせて、熱烈歓迎してくれる。あははははんかわいかあ。撫で撫で撫で。
「晃太は?」
 元気とコハクをもふもふしていた母が聞いて来る。
「先にギルドに行っとう。地図の件もあるし、いろいろドロップ品があるからね。冷蔵庫ダンジョンの詳しい事は帰ってから話すね。私も行くけん」
「そうね」
 ノワールを厩舎に誘導し、仔達はパーティーハウスの居間に。念のためにルージュに残ってもらう。それからルームを開けて、もへじ生活で私と晃太のコートを購入する。ダッフルコートだ。
 新しいコートを着て私はビアンカとギルドに向かう。
 直ぐにいつもの応接室に通される。
 そこにはタージェルさんも既に来ていて、熱心に宝石を見ている。私に気がついて、慌てて立ち上がる。
「ミズサワ様、お待ちしておりました」
 リティアさんはドロップ品のリストを見ている。
 促され、私は晃太の隣に座る。ビアンカはゴロリ。
「ミズサワ様に依頼して正解でした。本当に期限内に踏破し、これだけの情報を得てきていただけるとは」
 リティアさんが満面の笑みだ。
「依頼は達成と言うことですか?」
「はい。予想以上でございます。ただ、これだけのドロップ品と情報です。依頼達成料を含め、査定に数日お時間を頂きたいのですが」
「構いません」

 ランクに関しても、その時になり、終了するまでランクはCだが、ギルドからの指名依頼中となるため、他の指名依頼はお断り出来る状態は変わらないと。
 それから色々話し、いくつか牛乳や貝柱、お肉や魚、チーズを引き取る。ギルドに卸すドロップ品は大量のため、数回に分けることになる。ポーションはすべて引き取る。
 ただ、ドロップ品の中の玄武のドロップ品だけは、どうするか判断出来ないそうで、しばらくは晃太のアイテムボックス内に収まることになる。
「しかし、これだけのフレア紅やアルガンやミストローズが手に入るとは思いませんでしたわ」
 リティアさんがウキウキだ。
 フレア紅は紅花だ。口紅の材料になり、含有量次第で様々な彩りになると。アルガンは、アルガンオイルになる。こちらはユリアレーナでは自生していないので、南方の国からの輸入品、当然高級品でなかなか手に入らない。ミストローズは上質な化粧水や香水になると。こちらの女性も美意識高いなあ。
「これでしばらく無職の者や、スラム街の者に仕事を斡旋できます」
「スラム街?」
 そう、マーファは大きな街だ。つまり、相応のスラム街があり、やむを得ず職がない人達がいる。そのほとんどが字がかけず、読めず、計算できない。それから誰かに頼れない人ばかりだと。そういった人達の子供も、自然とそうなる。ハルスフォン様が頭を悩ませている問題だ。子供達だけでも、せめて読み書きを、と無料教室を開いても、子供は労働力と考え、教室に通わせない親は少なくない。それはスラム街ほどに傾向が強い。そしてそうやって育った子供は、自分の子供に対してもそのようにする。負の連鎖だ。
「今回のドロップ品の処理は最終的には技術を要しますが、初期段階では比較的簡単なんです。ただ、人手が必要なので、こういった場合は日雇いになりますが彼らを雇います。そうすれば、その日に、必要なお金も手に入りますしね。彼らからしてみたら、その日のパンを買うことが出来ますから」
「そうですか」
 なかなかシビアな問題だ。
 私達はスラム街に行ったことはない、街中で暮らしているから、比較的に安全だ。パーティーハウスには御用聞きの冒険者の人も付いているし、ビアンカとルージュがいる。それに私には時空神様からの『ルーム』があり、生活は恵まれている。
 なんとかならんかな? せめて子供達が、読み書き計算が出来たら、将来役に立つと思うけど、家庭事情もあるし、よく事情を知らない人間が言っても、向こうにとっては余計なお世話だよね。
 うーん、何か、こう、無料教室に通わせるメリットがあると、分かって貰えるにはどうしたらいいかな? うーん、うーん。
「ミズサワ様、どうされました?」
 リティアさんが考え込んだ私に首を傾げる。
「どうやったら、子供達を無料教室に通わせてくれるかなって思いまして」
 晃太も考え込む。
「そうですね。多分彼らにとっては、無料教室に通うことに抵抗があると思われているようですからね」
「抵抗、ですか」
「はい。読み書き出来る所に通えるのは、相応でなくてはならない、と。古い考えを持つものはスラム街や低所得者層に根強くあります。それに『勉強する時間があるなら、金を稼げ』、それが基礎にあるんだと思います」
「うーん」
 その日暮らしの人には、日銭を得ることがなにより最重要課題だ。
「あ、そうや」
 晃太が思い付いたようだ。
「日雇いに来る人に条件ばつけたら? 子供を無料教室を通わせるって」
「それだけでは、弱いかと」
 リティアさんがシビアだ。
「子供はいないって言われたら終わりですから」
「うーん…………あ、給食も付けたらどうですか? 1食浮きますよ」
 そう給食。
 母が無料教室に牛乳を持っていたことで、それが話題になった。無料教室の人達に、日本の給食事情を説明した。両親が給食を受けていたのは50年以上前。戦後数年後だ。あまり余裕のある生活ではなかった両親はよく言っていた、「給食」で育ったと。当時の子供達の貴重な栄養源だった。
 それを聞いた無料教室から行政に働きかけ、まず、週に2回のうち1回具だくさんスープとパンの給食を開始。給食目的で給食の日だけ来るのを、避けるため必ず2日通った子が対象だ。
「給食ですか、いい考えですね」
「確かに、まともな食事が食べられるなら通わせるいい機会になります」
 リティアさんとタージェルさんの反応がいい。だが、すぐに、少し考える仕草をする。
「給食の手配をするために、当面の人員と食材、資金をどうするかですな。行政が関わるとしても、直ぐにではないですから」
 タージェルさんが現実的な問題を出す。
 なら、2つはなんとかなる。
「食材と資金は私が」
 はい、と、手をあげる。
「このダイヤモンドを予算に」
 私は28階で出たでっかいダイヤモンドを押し出す。
「ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様、これ1つで小さな町の年間予算ですよ。ミズサワ様、こちらは王都で行われるグーテオークションの目玉になるはずです。いいえ、必ずなります」
 何故か必死なタージェルさん。
 結局、現金を出した。300万提出。それで食材も調達するし、人員に関しては職人ギルドが手配してくれると。場所の確保もできた。もともと日雇い労働する人達の子供達を一時預かりをする場所があり、そこを無料教室にすると。リティアさんとタージェルさんの動きの早いこと。あっという間に終わる。
「あの予算足りなければ、このルビーを」
 押し出したのは、26階で出たルビー。
「ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様ミズサワ様、こちらのルビーは最高級のピジョン・ブラッドでございます。このダイヤモンドに次ぐグーテオークションの目玉になります」
 タージェルさんが必死。
 グーテオークションは、年に2回、王都で行われるオークション。主催は国で、参加出来るのは身元のしっかりして、相応の地位や財力のある人のみ。それも国からの審査を通った人のみ。外国からも賓客が招かれたり、売上金の一部がチャリティーに使われるそうだ。タージェルさん曰く、かなりの品質がないとそのオークションに並べられないが、これらは十分基準をクリアしていると。
 ……………いくらになるんやろ?
「なんだか、すみません、私達が言い出したのに全部やっていただいて」
「いいえ、ミズサワ様がもたらしてくれたものに比べればなんともありません。元々、スラム街や低所得者層の子供の教育に関しては、以前より問題でしたから。これを機会に、一歩進めます。無料教室の有用性を浸透できるいい機会になります」
「そう言って頂けるとありがたいです」
 それから倉庫に行き、指定されたドロップ品を出し、挨拶してパーティーハウスに戻った。
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