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「いつもすまんのう」
 始祖神様は美味しそうにモンブランをパクパク。
「おっといかん、原始のダンジョンだったな。まず、ダンジョンは生きた魔物だと言うことは理解できておるかな?」
「はい。コアを破壊しなければ、ずっと生き続けると」
 シュタインさんがそう教えてくれた。
「原始のダンジョンを説明するなら、少しこの世界の説明もするがよいかの?」
「はい」
 この世界の始まり。
 始祖神様が世界を生み出したのが始まり。
 そして時空神様と雨の女神様が生まれた。時空神様が空間を整え、雨の女神様が空や大地、海など整えた。それにより、この世界は魔力を宿した。
 地球の神様は、完全に手は出さず、地球の時の流れ、進化にすべて任せたので、一切の魔力を宿していない。
「儂等は、ある程度整えた後は、世界の流れに任せることにした。お嬢さん方が生活している世界、まあ、儂等から言わせたら下界と、儂等、神の住まう世界を隔離した」
 基本的に神様は神の世界。私達、人は人の世界に。
 理由はいろいろあるが、神様が生命のサイクルを始めた世界に介入すると、それが簡単にねじ曲がるそうだ。
 この世界は、地球とは違うけど、ゆっくり進化。そんな中で沢山の生き物が生まれ、または絶滅しながら時を刻んでいた。
 魔力を宿した世界の為に、どうしても魔の森が生まれ、魔物も生まれた。
「ちなみに、そこにおるクリムゾンジャガーはもうほとんどおらん、この世界の原種じゃ」
 おお、すごい。あれだ、天然記念物だね。
「もちろん人族やドワーフ族、エルフ族、獣人族等も生まれ、それぞれ文明を持てる様になった。儂等の世界でもそれに伴い沢山の神が生まれた。お嬢さん達も会っておる闘神、魔法の三柱神。そして大地の女神、樹の女神、灯火の女神、鍛冶の神、薬の神、商い神等な。儂等も慣れん子育てで大変だったが、そんなある日、自分の世界に介入し、ねじ曲げてしまった神が、儂にある日懇願してきた」
 始祖神様は息をつく。
「ねじ曲がってしまった自分の世界の民を、受け入れてくれないか、と」
 その神様は、良かれと思って世界に介入したけど、神様の力を得た者達が力を得たことで豹変、世界を蹂躙、すべてを支配下に置き、それはひどい有り様になったと。結局、支配下に置かれた力を持た
ない民が逃げ迷い、必死にその介入した神様に助けを求めて来た。もう修正不能なまでに形を変えた世界に、その世界を作った神様は、破壊を決意。だが、せめて、自分の不要な介入で窮地に陥った民だけは救いたいと。
 始祖神様は全部の民は無理だが、移住先は未開拓の場所限定と条件をつけて、出来るだけ受け入れたそうだ。
 そのねじ曲げた神様は、最後の民を、見送って、自分の作った世界と共に滅んだそうだ。
「その後も似たように移住してくる者がおってな。儂等は特に拒否はしなかった。みな、故郷を捨てなくてはならなくなる事情を抱えていたからの。それでこの世界には多種多様の種族がおる。もうほぼ見分けがつかんが、同じ人族でも寿命が異なったりするのは、他の世界から移住した民の種族性が影響しておるからだ。だがのう、それが後で思いもよらぬ影響を及ぼし出し、儂等は外の世界からの移住を遮断した。まあ、お嬢さん方のように、儂等の目が届かない僅かな隙間から、時折別世界から召喚されてしまうが、な。遮断した理由は特異変異種が生まれ始めたからじゃ」
 始祖神様はため息。
「ゴブリンを知っておるか?」
「はい」
 Gよね、いろいろ敵なG。
「あれも別の世界の魔物だが、もともとは愛情深い性格でな、一家に一匹、子守りとしておった。赤子をあやし、幼子を背中に背負い、食事を作る。熱が出れば付きっきりで看病をし、独り立ちの日にはその背中を押す」
「「え?」」
 あれが? 想像できない。
「想像できんだろう? だがな、これは事実なのじゃよ。こちらに逃げてきた民は、家族同様のゴブリンを残して行けなかった。だから、共にこちらに来たのだが、ゴブリンの体は、こちらの世界の魔力に合わずに、徐々にああなっていった」
 まず、30年ほどの寿命が短くなり、突然奇声を発し、徐々に凶暴化し、とうとう赤子を殺した。ついさっきまで、あやしていた赤子を。つれてきた人達はゴブリンの殺処分を決意。
「だがな、まともなゴブリンはまだおってな、家族同様だったゴブリンに手をかけきれん、非情になりきれんかった者が、隠れて逃がしたのだ。それがしばらくして発狂、野生化、繁殖し、今に至る」
 うわあ。ブラックバスみたい。
「ゴブリン以外にも凶暴化した者もおる。オルクもその一例じゃな。もともと狩猟を主とした民だったのだが、ゴブリン同様に徐々に凶暴化した。ただ、知恵があるのは人であった時の名残。逆に退化した、魔物もおる。そこの魔法馬も退化した魔物じゃ、元はペガサスやスレイプニルなんじゃが、今は退化したせいでなかなか生まれず、この2種は絶滅危惧種となっておる」
 あれだ、沖縄とかにいるかわいいのね。
「そしてダンジョン。ダンジョンも魔物。こちらの世界で生まれた魔物ではない。移住した民が持ち込んだ、小さなコアが始まりだ。ダンジョンはな、民にとって家であり、畑であった。こちらの世界の魔力の影響を受けて変容した。ほとんどが冷蔵庫ダンジョンのように、街に寄り添う形で変わって行った。今では、世界各地に点在しているダンジョンだが、元はたった一つのダンジョンコアが始まり。その始まりのダンジョンコアが作り出したのが、原始のダンジョンじゃ」
 なるほど。
「始まりのダンジョンの為に、長い年月を通し改修に改修を重ねた為に、とんでもなく広大なダンジョンとなっておる。冷蔵庫ダンジョンや軍隊ダンジョンの比ではない程のな」
 なるほど。
「で、どうすれば、原始のダンジョンにおる、こやつらの母親の元にたどり着くかだが」
 そこそこ、そこが肝心。
 ビアンカとルージュのお母さん。何とかして、会わせたい。
「まず、原始のダンジョンに入るには、ちょっといろいろあって制限を掛けておる。その理由は、次じゃな。で、まず、次のヒントを出す条件は」
 始祖神様は、大人しく臥せているビアンカとルージュに向かって言う。
「戦力を今の倍以上にすること。どうすればいいか分かるな?」
『『……………』』
 戦力を倍以上って。ビアンカとルージュは沈黙している。
 私は、そっと手を上げる。
「なんじゃお嬢さん」
「あの、ビアンカとルージュだけではダメな理由は?」
「単純に戦力不足じゃ。以前言ったと思うが、この原始のダンジョンに挑んだ歴代最強の勇者達。今でも人ではその勇者のレベルに到達したものはおらん。そして回復魔法の最上位再生魔法を駆使する聖女、全属性の支援魔法を使う賢者、ありとあらゆる攻撃魔法を使う魔導師、勇者と双璧と呼ばれた剣聖。そして、フォレストガーディアンウルフを従えたテイマー」
 サエキ様のお母さん、佐伯ゆりさんね。
 あら? 確か、30年前に行方不明になったのは7人のはず。
 もう一度、私は、手を上げる。
「はい、お嬢さん」
「ビアンカとルージュのお母さんの主人さんは召喚勇者ですよね? 確か7人だったはずなんですが」
「ああ、1人は亡くなったのだよ。病でな」
「そう。ですか」
 その人、どんな最後を迎えたのだろう?
「一緒に召喚された者達に、囲まれて、見送られたよ。魂は地球の神が保護をしておる」
「そう。ですか」
 なら、ひとりぼっちではなかった。せめてもの救いかな。
 …………家族や友達に、会いたかったろうなあ。
 一体誰が、佐伯ゆりさん達を召喚したんだろう?
「話を戻そうかの。そのテイマーが連れていたのは、こやつらの母親だけではない。もう一体、おったんだよ。仮契約で、原始のダンジョンに潜っている間だけな」
「え? どんな魔物を」
「こやつらの父親だよ」
『『はい?』』
 沈黙していたビアンカとルージュが、思わず声を上げる。
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