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「ミズサワ様? ミズサワ様? どうされましたミズサワ様?」
「あっ、はい、大丈夫です」
 キーナさんの声でなんとか正気に戻る。
 出された白金貨、大金貨、金貨、銀貨、銅貨確認。サインと魔力を流す。
 ああ、また、とんでもない額が。来年の人頭税、どうなることやら。
「ミズサワ様、転移門ですが」
「は、はあ」
 まだあったの?
「やはり、国が買い上げることになりました。正式な額は数日頂いてもよろしいですか?」
「構いません」
 国がお買い上げか、本当にいくらになるんやろ?
 ……………怖かあ。
 私達はキーナさんとファビアンさんに挨拶して、ギルドを後にする。
 さあ、気を取り直して行こう。
 孤児院に向かう。
『ねえ、ユイ、いつダンジョンに行くのですか?』
「え? ダンジョン?」
『そうよ。晃太のレベル上げないと、ヒントを頂けないわ』
「あ、そうやったね。どうする?」
 バギーを押している晃太に聞く。
「そうやあ。レベルが50になるまでにする?」
「なら、すぐやない?」
『『ぶーぶー』』
「あんた達、晃太を口実に、ダンジョン行きたいだけやん」
 私がビアンカとルージュに突っ込む。当の本人達はどこ吹く風だ。
「まあ、アルブレンに持っていく金属とかドロップ品が欲しかけん。そうやね、一週間でよか?」
「わいは、それでよかよ」
『いいのです』
『それでいいわ』
 こうして3回目のダンジョンアタックが決まった。

 孤児院に到着し、私と晃太は牧師さんと面会。
『ユイ、コウタ、早く帰って来てなのです』
『早くね、早く』
「はいはい」
 すでに子供達が群がっている。ルリとクリスは人見知りなので、注意してもらうように子供達に声をかける。ヒスイだけ、私達に付いてきた。元気とコハクは子供達と遊んでいる。リードもしているし、スライム部屋効果で、比較的おとなしいし。大丈夫かな。念のため、やんちゃなことを、シスターさんに声をかける。
「テイマー様、どうぞお座りください」
「はい、ありがとうございます」
 古ぼけたソファーに座る。ヒスイが私の膝に、重かあ。
「牧師さん、今日は寄付に伺いました」
「え? 以前、頂きましたが」
 私が切り出すと、牧師さんは戸惑っている。
「先日、ここの経営が厳しいと、ワルド君から伺いました。どうぞ、受け取ってください」
「ワルドからですか。そうですか、あの子が」
 私達が汗水流したお金じゃない。いまいち実感のないお金だが、お金に代わりない。ビアンカとルージュの許可もある。それに、いろいろ配慮してくれた神様に対して、この世界に還元しなくてはね。
「お金だけではないので。晃太出して」
「ん」
 晃太のアイテムボックスから次々に出てくる品々。
 服に下着に、靴にタオルに生地に、次々に出てくる。
 はじめは感謝していた牧師さんだが、だんだん混乱してくる。
「テ、テイマー様、え、こんなに?」
「はい、サイズが分からないので、あるだけ持ってきました。配分はお任せします」
 子供の成長は早いから、あっという間にサイズが合わなくなるだろうしね。余ったら、次までとっておけばいいしね。
「こ、こんなに?」
「はい。ちょっと伝がありまして」
 私のスキル『ルーム』の『異世界への扉』のおかげだ。
 次々出される品々がテーブルに乗りきれず、別の部屋に牧師さんが運んでいる。哺乳瓶や粉ミルクの説明もする。母の作ってくれたシチューも出す。
「今日の夕飯にでも食べてください。鍋はそのまま使ってください。後、これを」
 私は小さな革の袋を出す。中は大金貨50枚だ。
「本当に、本当にありがとうございます」
 牧師さんは革の袋を押し抱き、何度何度もお礼を言う。
 最後に、小児用の抗生剤と解熱剤も出す。よくよく考えたら、アルブレンの孤児院にも渡すべきだったかもと。なので三分のニだけ。
 牧師さんに説明する。
「これは今マーファで行われている小児用の治験薬です。こちらは解熱剤です、熱が高いときに内服を。こちらは抗生剤です、熱の原因を叩きますが、これは漢方薬が効かない場合に内服してください。朝と晩1錠ずつです。ただ、ティム君のような病気には効きません」
 牧師さんは熱心に聞いてくれる。
「抗生剤はお腹が緩くなる可能性があります。もし、内服して変なぶつぶつが出たり、症状が悪くなれば、内服をやめてください。これは治験段階にありますので、無認可の薬ですので」
「いいえ、十分です。ありがとうございますテイマー様」
 それから少し話をして、お暇する。
『遅いのですぅ』
『帰りたいわぁ』
 ビアンカとルージュが悲鳴を上げている。背中に子供達がよじ登っている。ルリとクリスは年長の子達が優しく撫でている。コハクはゴロゴロ転がっている。
 あ、ティム君が、元気にペロペロされて歓声を上げている。あんな顔色だったのに。
 良かった良かった。
「「「また来てーッ」」」
 皆で手を振って見送ってくれた。
『なんで私達が怖くないのですかね?』
『本当に好奇心の塊ね』
 はあ、とため息のビアンカとルージュ。
「ビアンカとルージュが優しいけん、子供達にはそれがわかるんよ。今日はお疲れさん、ご馳走にするけんね」
 ドロップ品が高額になったしね。すべてビアンカとルージュのおかげや。
『ピリ辛がいいのです』
『エビがいいわ』
「はいはい」
 間髪を容(い)れずにリクエスト。
『唐揚げもです』
『卵のやつもいいわ』
「はいはい」
『串に刺さったやつもです』
『あのテンプラってやつも食べたいわ』
「はいはい」
『甘いのもです』
『ケーキもね。果実が沢山乗ったの』
「はいはい」
 宿に戻るまでリクエストは止まらなかった。
 まあ、よか、うちの稼ぎ頭だし、これだけの寄付ができるのも2人のおかげやしね。
 これくらいは、よか。
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