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エリクサー⑤

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『ユイ、朝なのです』
『朝よ』
「くわあぁぁぁぁぁ」
 ビアンカとルージュに冷たい鼻面を押し付けられて、覚醒する。
 頭をポリポリしながら起きて、まず従魔の部屋の清掃をする。歯磨き・洗顔を済ませる。
 朝御飯どうしよう。昨日帰ってお風呂入ってそのまま寝てしまい、お米仕込んでない。
 JOY-Pでいいや。
 神棚の榊の水を替えて、もへじ生活の個包装のお菓子を並べる。色んな味のワッフル、ドーナツ、パウンドケーキ。それからオレンジとバナナ。リンゴジュースと牛乳を並べる。
「本日もお見守りください」
 お祈り。
 目を開けると、お菓子も果物も飲み物もなくなっていた。
「よし、晃太起こして」
『分かったのです』
『任せて』
  ベロベロベロベロ
 晃太が悲鳴を上げて起きた。
 ノワールの朝御飯を準備、JOY-Pのモーニングをタップ。私はピザトーストモーニング、晃太は和の朝定食。ビアンカとルージュにはピザトーストとリンゴジュース。
「「頂きます」」
 朝御飯の後、掃除を済ませ、一休憩する。
「さて、あん子の様子を見に行って来るね」
「ん、留守番しとるわ」
「お願いね」
 私はビアンカとルージュと出掛ける。
 教会に無事到着。
 子供達の歓声が響く。
 昨日とは打って変わって、活気に溢れている。
 そっと覗くと、子供の1人が気付いてくれて、牧師さんを呼んで来てくれた。
「ああ、テイマー様っ」
「こんにちは、あの、昨日の子は?」
「はい、もうすっかり良くなって」
 牧師さんが案内してくれる。
「ビアンカ、ルージュ、待っててね」
『早く帰って来てなのです』
『早くね』
「はいはい」
 既にビアンカとルージュに、子供達が群がっている。昨日とは違うシスターが真っ青になっている。
「本当に驚きました。ティムが、あの子があんなに元気になるなんて。朝起きていきなり「お腹減った」です。もう、驚いてしまいました」
 ティム君ね。
 部屋を覗くと、昨日の高齢シスターに、スープを食べさせてもらっている。
「はい、あーん」
「あーん」
 良かった。
 あんな顔色だったのに。
 牧師さんが声をかけて、ティム君に引き合わせてくれるが、バリバリに警戒された。まあ、仕方ないね、昨日は意識なかったから、ティム君にとっては、今が初対面だろうしね。あまり長く居座ると泣いちゃうかもしれないから、引き上げた。
「あの子が、ここに置き去りにされた時には、既に病を罹っていて」
 院長室に案内されて、話を聞く。ティム君は孤児院の前に置き去りにされていたのを、年長の孤児が発見したと。
 え? 病気の子を置き去り?
「まだ、ここの前に置き去りにするのは、まともな方です。薄情な親は、違法としりながら、子供を奴隷として売りますからね。なんとか手を尽くしました、数日前から意識があの様な状態で」
「そうでしたか」
 それで昨日、孤児院の皆は神様にお祈りしていたそうだ。
 ティム君の為に。
 皆、いい子や。
 しかし、子供を奴隷として売るなんて。日本の感覚が抜けない私としては、受け入れがたい事だ。
 年長の女の子がハーブティーを出してくれた。
「本当にありがとうございます」
「いえ、あれが効いて良かったです」
 エリクサー様々。ビアンカ様々。ルージュ様々。よし、一番大きなケーキを注文しよう。たっぷりお肉焼こう。
「ティムが良くなって、子供達が皆、元気になりました」
 本当に良かった。
 スカイランの孤児院は77人。
 ダンジョンを有する街のため、やはり冒険者の親が帰って来なかったり、預けたまま迎えに来ないことがあると。
 話を聞くと、かなり厳しい経営のようだ。
 マーファでは、ハルスフォン伯爵様がかなり予算を割いてくれている。ここのラーバフ伯爵様も援助してくれているが、全然足りないそうだ。ギルドの援助、一般の方や、冒険者からの寄付でなんとか遣り繰りしていると。なら、寄付を考えないと。
「ただ、子供達が笑顔でいてくれるだけが、私共の励みです」
「そうですか」
 話していると、来客があったようで、私は挨拶して帰ることに。
『ユイ、遅いのですぅ』
『帰りたいわぁ』
「ごめんごめん」
 子供が背中に乗って身動き取れないビアンカとルージュが、悲鳴を上げる。あはははん、ドラゴンも一撃の2人が、子供達に悲鳴を上げている。
「さ、帰ろう」
『ああ、やっとなのです』
『帰りましょう』
 2人が立ち上がると、必死に掴まる子供達。
 やだやだとぐずる子供達を、シスターが真っ青になって引き離す。
「「「また来てーッ」」」
 かわいか。
 手を振って見送ってくれた。
 ビアンカとルージュは返事をしない。げんなりしてる。
『あんなに小さいのに、私が怖くないのですかね?』
『恐怖を好奇心が凌駕してるわ』
「お疲れさん、今日はたくさんお肉焼くからね」
『ピリ辛のも食べたいのです』
『エビも食べたいわ』
「はいはい」
『チーズの乗った、タッカルビ? あれも食べたいのです』
『しょうが焼きも食べたいわ』
「はいはい」
『デザートも食べたいのです』
『甘いのね、アイスでもいいわ』
「はいはい」
 リクエストが止まらない。
『ん? ユイ、こちらに誰か来るのです』
『そうね、来るわ』
 もしもし、ビアンカさん、ルージュさん、リクエストに夢中で気付くの遅くなったとかではないよね?
「誰?」
『軍隊ダンジョンにいたわ、足をケガした雄がいた群れよ』
「ダルダールさん達ね」
 振り返ると、見知った人達が走って来た。
「おーい、テイマーさん」
 ダルダールさん達が手を振って走って来た。
「こんにちは」
「ああ、どうも。先日、ポーション感謝します」
「いえいえ、足は大丈夫ですか?」
 はい、とビーシュさん。普通に歩いている。
 ちょっと立ち話をする。
 孤児院の来客は、彼ら。見習いのワルド君があの孤児院出身だと。
「見習いはあまり収入はないのに、こいつ、貯めた金を渡したいって言ってな」
 見習いの冒険者さんは、衣食住は保証されているが、お給料や取り分的なのは少ない。それでも、ワルド君は少ないお金を貯めたそうだ。出身の孤児院の経営の厳しさを身を以て知っている。いつもお腹が減っていたし、お世話になった孤児院に恩返ししたいと。
 それを聞いて、じーん、としたダルダールさん達。ワルド君には、そのお金は次回にしろ、と言ってダルダールさん達がお金を出しあったそうだ。かっこいい。
 でも、マーファやアルブレンでもそうだけど、厳しいんだね。お花を売っていた女の子を思い出す。靴もスカートもぼろぼろだった。やっぱり大金貨1枚じゃあ足りなかったね。
「どこも厳しいんですね」
 ポロリ、とこぼす。
「はい、ここの領主が孤児院へのお金を出し渋って、先生達困ってます」
「え? なんで?」
「そりゃ、お妃レースの為ですよ」
「お妃レース?」
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