上 下
147 / 824
連載

エリクサー③

しおりを挟む
 軍隊ダンジョンの3階ボス部屋には、スライムかゴブリンしか出ませんよ。と、いつも対応してくれる中年男性職員さん、サハーラさんが教えてくれたので、早速次の日朝から行った。
 2時間で到着。
 ルリとクリスとヒスイは疲れているようだったが、元気とコハクはパワーに溢れている。
 ボス部屋の前には何組か並んでいて、ビアンカとルージュ、そしてノワールまで連れた私達にドン引きしていた。
 最後尾に並ぶと、すぐに扉が開く。
「開きましたよ」
 と、すぐ前の人が教えてくれる。
「ちょっとボス部屋に用がありまして」
「そうですか」
 私達の前の人達がボス部屋に挑戦。30分程で復活する。その頃には、ルリとクリス、ヒスイも十分休めたようだ。
『私が開けるのです』
『スライムかしら?』
「ブヒヒン」
「ちょっと待ってん、私が開けるけん」
『これくらいの魔力、大丈夫なのです』
 だから、心配はそこじゃないんよ。
 結局、ビアンカが押し開ける。
 あ、良かった、スライムだ。
 あはははん、数、半端ない。
 私と晃太はフライパンを振り回した。

 夕方になってやっと元気とコハクが落ち着く。
 緑の軍団が出てきた時は、さすがにビアンカとルージュにお願いした。ノワールも張り切って暴走するように駆けていた。
 軍隊ダンジョンを出ると、案の定、元気とコハクはぱたんきゅー。なのでバギーに乗せる。
 マルシェを抜けて宿に向かおうとすると、昨日のお花の女の子がいた。今日もお花売っているのか、えらかなあ、よし、買っちゃろう。
「お花、くださいな」
「あ、昨日のお姉ちゃん。あのね、先生が来たら孤児院に案内しなさいって」
「あらそう?」 
 昨日の事かな。まあ、どうせ、行くし、よかか。
「なら、案内してくれる?」
「うん、こっちだよ」
 女の子に案内されて、マルシェを抜けて、しばらく進むと教会が。孤児院は裏に併設されている。
「こっち」
「はいはい」
 敷地内に入り、孤児院の入り口に。
 ここも、ずいぶんぼろぼろだな。でも、なんだろう、活気がない。今までの孤児院には、子供達の歓声があるのに。
「ちょっと待って、先生呼んでくる」
「うん」
 女の子が中に入る。
「ねえ。ビアンカ、ルージュ、他に子供おらんのかね?」
『いるのです』
『ただ、ちょっと様子がおかしいわね。皆、沈んでいるわ』
「沈む?」
 話していると、女の子が白髪混じりの牧師さんを連れてくる。
「ああ、貴女が噂のテイマー様ですね。昨日、この子が大金を受け取りましたが、花の代金として頂いていい額ではないので」
「あ、構いません。受け取ってください。食費にでもしてください」
 私が答えると、牧師さんは深く頭を下げる。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「いえいえ。あの、他に子供達っていないんですか? 従魔が様子がおかしいと」
 私の言葉に、牧師さんの顔色が変わる。
「どうされました?」
 牧師さんは少し考えて、言葉を絞り出す。
「もうすぐ、始祖神様に召される子がおりまして、皆でその子が、迷わず安らかに道を行ける様に祈っています」

 私は牧師さんにお願いして、その子の元に。晃太とビアンカとルージュには外で待ってもらう。
 このタイミングで聞いたのなら、きっと意味がある。
 牧師さんは奥の部屋に案内してくれる。
 かなりお年を召したシスターが、ベッドサイドでお祈りしている。
「この子です」
 ベッドには3歳くらいの男の子。
 私はその肌色を見て絶句する。
 不自然に黄色に染まった肌、本来なら艶やかなのだろうに、艶が一切見られない。微かに息はしているが、かなりか細い。
 まずい、まずい、まずい。
 これは、まずい。
 これ、黄疸や。
 私の手持ちの中で、どうにか出来るレベルじゃない。
 私は『神への祈り』をしてみたが、発動しない。
 シスターが祈りを捧げた私に、お礼を言ってきた。
「この子のために祈りを捧げてくださり、ありがとうございます」
「いいえ」
 どうしよう、どうしよう、どうにか、どうにか出来ないか? どうにも出来ないのか?
 どうにか、あっ。
「外にいる弟を呼んでください」
「はい?」
「急いでッ」
 牧師さんはあわてて晃太を呼びに行く。
「あの…………」
 シスターが心配そうに聞いてくる。
「少しだけ、私にチャンスをください」
 私の答えに、シスターは首を傾げる。
 晃太が牧師さんに連れられて、部屋に入って来る。
 晃太も男の子の顔色を見て、言葉を失う。
「すみません、アイテムボックスの中を見るので、少しだけ席を外して頂けませんか?」
「あの、テイマー様?」
 牧師さんが訝しげな顔だ。
「お願いします。時間がありません」
「……………分かりました。シスターアマーベル、出ましょう」
「はい、分かりました」
 高齢シスターと牧師さんが退室する。
「どうするんね姉ちゃん」
「晃太、エリクサーば出しといて」
 あらゆる呪い、病気、体の欠損を癒す、エリクサー。
 そう、1本だけ、ある。
 冷蔵庫ダンジョンで出てきた、たった1本。
「ちょっとルーム開けるけん、誰もこの部屋に入らんようにしといて」
「いいけど」
 私はルームを開けて、サブ・ドアを開ける。
「くうんくうん」
 花がわがままボディを、くねらせる。かわいか、なのだが、今はそんなことを言ってられない。
 両親も入って来る。
「あら、晃太は?」
 母が首を傾げる。
「ちょっとね、お父さん、来てん」
「ん?」
「早く」
 戸惑いながら、スリッパを履いた父を誘導する。
 ドアの向こうに。父はベッドの上の男の子に絶句する。
「こん子、見て」
「………………末期肝臓ガン、多臓器不全、余命3時間」
 余命3時間。
「姉ちゃん、どうするん?」
 晃太はかなり焦って聞いてくる。手には中級エリクサー。
「お父さん、これでこん子治せる?」
「ちょっと待ってな………3割くらい身体に吸収されたら完治するな。身体が光れば、完治の印や」
「分かったありがとお父さん。悪かけど、今日はマーファにこのまま帰って」
「分かった」
 父とルームに入る。
 ルームの窓から見ていた母の顔色が悪い。
「あの子、どうしたんね?」
「末期肝臓ガン、今から何とかする」
 マーファに両親と花を見送り、私はダッシュでディレックスに。
 目的の物を手に入れて、支払い、ルームを出る。
「姉ちゃん、どうするんよ?」
「さあ、足掻くよ」
 私は懐中電灯とスポイトを晃太に見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」  王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。 ※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27) ※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。