上 下
128 / 820
連載

討伐依頼②

しおりを挟む
 次の日。
「「「「ぴー」」」」
 ダイニングキッチンから4台の炊飯器が鳴る。
 うん、いい匂いがする。貝柱のいい匂い。
『ユイ、朝なのです』
『起きてユイ』
「はいはい、ふわあ………」
 ビアンカとルージュに鼻面を押し付けられて、覚醒する。まず、清掃をタップ。歯磨き、洗顔を済ますと、母が起きてくる。昨日、母はルームで就寝していた。
「おはよう」
「おはよう、ユイ、お湯沸かして。後、玉子焼き作っといて」
「はいはい」
 母に言われて私はヤカンを火にかけ、冷蔵庫から玉子を出して、作業に入る。こちらに来てから料理する機会が増えて、玉子焼きくらいなら出来るようになった。ただし、必ず最初は不恰好な玉子焼きだけど。ビアンカとルージュの分も焼こう。焼き始めると母が合流して、炊飯器を確認。
「うん、いい感じやね」
『いい匂いなのです』
『早く食べたいわ』
 そわそわしながらお座りしているビアンカとルージュ。もう、かわいかねえ。
「ちょっと待ちいね」
 母が味噌汁と父のお弁当の準備をする。
 本日は貝柱の炊き込み御飯を多めに入れて、ピーマンとちくわの炒め物、私の焼いた玉子焼き、彩りにはプチトマトを入れる。それから貝柱炊き込み御飯でおにぎりの作成を始める。神様用だ。玉子焼きの一番綺麗に焼けた物を皿に並べる。
「ユイ、お父さんば呼んできて」
「分かった。ビアンカ、ルージュ、晃太ば」
『分かったのです』
『任せて』
 ベロベロベロ。
 2人の容赦ない攻撃に、晃太は悲鳴を上げて覚醒する。
 サブ・ドアを開けるとすでに父は起きていて、出勤スタイルで待っていた。
「ご飯よ」
「ん」
 父がルームに入ると丁度花が起きてきて、お尻を低くして、ゴボウの様な尻尾を振りながら駆け寄って来た。かわいかあ。毎朝これだけど、飽きない、全然飽きない。毎回かわいかあ。
「おお、よしよし」
 父も口を尖らせて撫でる。
 これは晃太とそっくりなんだよね。
 十分父が花を撫で、晃太の洗顔が済み、神様に朝のご挨拶だ。
「神様、今日もお見守りください」
 お祈り。目を開けると貝柱炊き込み御飯のおにぎり、私の玉子焼きがなくなっている。
 母は少し長めにお祈りしていた。
 それから、我々の朝御飯だ。花のご飯、ノワールの野菜、オッケー。
 ビアンカとルージュにはてんこ盛りの貝柱炊き込み御飯に、私の玉子焼き。
 重かあ。
 5合だもんねえ。
「どうぞー」
『がふがふっ、これいくらでも入るのですッ』
『昨日のも美味しかったけど、これの方が好きだわッ』
 ビアンカとルージュの食い付きに、母が嬉しそうだ。
 さて、私達も頂きます。
 まずは貝柱の炊き込みご飯を、ぱくり。
 おお、貝柱の味わいが深いし、香ばしい香りが広がる。うわあ、美味しい。
「うん、うまかなあ」
 晃太もバクバク食べてる。作った母は満足そう、父は黙々と食べてる。いつもなら朝御飯のご飯は、一杯しか食べないけど、これはおかわりだなあ。
『もう、ないのです』
『足りないわ』
「5合よ、もうないん?」
 まあ、いいかあ。
 私はおかわりをよそう。
 合計20合炊いたけど、綺麗に捌けた。父のお弁当、私と晃太のお弁当、母のお昼のおにぎりを確保してて良かった。朝は少食の母までおかわりしていた。
 朝御飯後、両親と花はサブ・ドアの向こう、マーファに戻る。
「ビアンカ、ルージュ、お願いね」
『大丈夫なのです』
『任せて、ユイとコウタは私達が守るわ』
 母がビアンカとルージュをしきりに撫でてお願いして、サブ・ドアの向こうに。
「さて、片付けて、行こうかね」
「ん、わい、風呂と部屋掃除する」
 すでに洗濯機は回っている。晃太と手分けして、掃除を済ませる。私は朝御飯の食器やお釜を洗い、洗濯物を中庭に干す。その間に、お乳タイムが終了する。
「さて、今日は元気達はルームね。晃太、頼むね」
「ん」
 厩舎でノワールが、嘶いている。
『ノワール、ダメなのです』
『我慢しなさい』
「どうしたね?」
『自分も行きたいって言っているのです』
「そうね、ノワール、ダメよ」
「ブヒヒン…………」
 しょぼん、としているノワール。可哀想だが、目立つからねえ。
 私はビアンカとルージュがルームを出る。不安そうにルリとクリス、ヒスイが追いすがって来て、後ろ髪引かれる。
 出ると、ルージュが小さな魔法のカーテンを私をかけてくれる。
『これで、ある程度の気配や音を消せるわ』
「ありがとうルージュ」
 魔の森を進むと、急に森が途切れる。
 川だ。
 川まで5メートルほどの崖だ。幅もそれくらい。
 どうやって渡るん?
『ユイ、あそこなのです』
 ビアンカが示した先には、縄の橋がある。
 うわあ、嫌だあ。
『オルクはあそこを使って渡っているのです』
『ユイ、どうする? 私達なら、飛び越えられるけど?』
『私の背中に乗るのですか?』
「橋ば渡るよ」
 私の判断は正しかった。
 ビアンカとルージュは助走して、軽く飛び越える。
 うん、振り落とされるわ。助からんわ。
 私は軍手を着けて、橋を渡る。揺れて怖かあ。
 橋を渡り、更に進む。
 途中で、ビアンカとルージュが森に向かって魔法を使っている。ちら、と木の隙間から見えたけど、オルクが倒れてる。見ないようにしよう。でも、こうやって警戒兵がいるのなら、本当に知恵があるんだなあ。怖かあ。
 それが何度かあり、少し早め、昼前に到着する。
 高台の場所から覗くと、居るわ、オルクがわじゃわじゃ。
 ビアンカとルージュが巣をチェック。
『地下に洞穴があるようなのです』
『そうね、それに厄介なオルクもいるわ』
「え? 大丈夫な?」
『殲滅させるには、小細工が必要なのです』
『そうね。喉が乾いたわ、とにかく、軽くお昼にしましょう。警戒兵が戻って来ないと分かると向こうは警戒するわ』
「はいはい」
 私はルームを開ける。
 従魔の足拭きタップ。
 中庭で遊んでいた仔達が集まってくる。うふふ、かわいかあ、もふもふん。
「姉ちゃん、大丈夫そうな?」
「まあ、なんとかなるかね、まず、ご飯や」
 ビアンカとルージュにはたっぷりのリンゴジュース、cafe&sandwich蒼空のミックスサンドイッチ、チーズチキンカツサンドイッチ、白身魚のフライサンドイッチをたらふく食べてる。軽くって言ってたのに、おかわり攻撃来ました。
『『げふう』』
「本当に大丈夫な?」
 晃太が心配している。
『大丈夫なのです、ルージュ、小細工するのです』
『そうね、逃げ道を塞がないと』
「ブヒヒンッ、ブヒヒンッ」
 作成会議に入ったビアンカとルージュ。おまかせしよう。
 私と晃太はお弁当を食べた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。