もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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馬車の旅⑥

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 ルージュと共にビアンカの後を追う。
 麦畑を抜けて、しばらく進むと森になる。
 森だからといって、直ぐに魔の森ではない。まあ、魔の森近くに、人が生活するための集落はない。魔物が少ない場所を少しずつ開拓しながら、生活圏を広げていくのだ。
 晃太の支援で通常の倍のスピードで進んでいるが、なかなかビアンカに追い付けない。
 多分30分ぐらいかかり、倒れ伏しているオルクを発見。
『いたわ』
「ビアンカッ」
 倒れ伏しているオルク達に囲まれて、ビアンカが身を丸くして地面に伏している。
 え、まさか。
 私は血の気が引く。
 木の葉に足を取られながら、ビアンカに駆け寄る。
「ビアンカッ、大丈夫ねッ」
 ふわあ、とビアンカが顔を上げる。
 ああ、良かった。
『ユイ、大丈夫なのです。人の子なのです』
 ビアンカが上半身を起こすと、白い毛並みの中から赤ちゃんが。目元にはくっきりと涙の後が。今は穏やかに呼吸している。
 ああ、良かった、良かった、良かった。
 見た感じ、生後3ヶ月は過ぎてそうだけど。
 恐る恐る抱き上げる。
 うわあ、怖かあ。
 よその赤ちゃんを抱っこなんて、どれくらいぶりだろうか。
「あああぁぁぁぁぁ」
 抱っこした途端に、身をよじろうとして、泣き出す。
 ああ、良かった、泣く元気があるんだ。ケガはないようだ。
「ビアンカ、ありがとう」
『いいのです』
 さあ、帰ろう。
 泣く赤ちゃんの背中を優しく撫でながらもと来た道を戻る。
「ねえビアンカ、オルクはもうこれ以上おらん?」
 まだ残っているのなら、いろいろお願いしないといけないが。
『この付近のオルクは始末したのですが。オルクは集団生活しているのです、奥に巣があるはずなのです』
 巣かあ。緑の巣を思い出す。
「いっぱいおるかね?」
『そうなのですね。襲って来た数の10倍はいるはずなのです』
「うわあ。でも、オルクは守りを固めるよね?」
 多分、食糧確保のオルク達が帰って来なければ、警戒するはず。向こうは集団戦が出来る程の知恵があるって言っていたし。
『そうなのですね』
『でも、向こうも、それは覚悟の上よ。他のテリトリーに侵入したら、相応の報いを受ける。知恵があるなら、分かることよ』
「そうね……………」
 どうしようかね。
 多分、緑の時みたいにお願いされたりしないかな? ビアンカとルージュの強さは、おそらく分かっているはずだ。巣があるなら絶対に助力を頼まれるはず。正直、あの緑の巣でこりごりなのだが、私の腕の中でぐずぐず泣く赤ちゃん。そして、連れ去られようとしたあの女の子を思い出し、知らん顔はできない。ただ、問題は5匹の仔達だ。ノワールはギルドにお願いしたら面倒みてくれるだろうけど。アルブレンの時は、両親が見てくれたから良かったけど。もし、オルクの巣が奥なら日帰りは難しい。そうなれば預けるしかないが、不安だ。
「ねえビアンカ。オルクの巣って、すごく奥にある?」
『そうなのですね、ちょっと調べてみるのです』
 そう言うと、ビアンカはピタリと止まり、背筋を伸ばしてお座りする。
『ここは私のフィールド』
 ビアンカの白い毛がふわふわ。
『私は誇り高き守護者、フォレスト『ガーディアン』ウルフ』
 木の葉が静かに舞い上がる。
『森よ、我が声に応え、道を示せ』
 ビアンカの声に、周囲の木までざわめくきたつ。
 なんの魔法? 戦闘モードじゃないの?
 白いビアンカの毛並みに、風乙女(シルフィリア)と同じ色で、葉っぱが沢山付いた枝の様な模様が浮かび上がる。
『調律モード 森の導き手(フィローニア)』
 初めて見るやつだ。
 ビアンカはすうっと顔を上げ、耳をピクピクし始めた。
「ねえ、ルージュ、これなに?」
 そっと聞いてみる。
『ビアンカの木属性の魔法よ。ほら、フォレストガーディアンウルフでしょ? ビアンカは種族的に森の中なら、私の気配感知より森を介してかなりの情報を得られるのよ』
「攻撃には使えんのね」
『そうね。安全な寝床や水場を探したり、他の者から身を隠したい時なんかに使えるわ』
「ほうほう」
 なるほど、フォレストだから森か。だから、森、魔の森の中では『ここは私のフィールド』って言っていたんやね。
『森の中ならビアンカ達のガーディアンを冠する種族に、勝る種族はないわ』
「そうね」
 てか、強い魔物って、基本的に魔の森の中にいる。その中で、勝る種族はいないって。どんだけ強い魔物やねん。
 気になる、ビアンカを産んだお母さん。それから、お兄さん。お母さんにはビアンカもルージュも会いたいようだが、お兄さんは2人の反応からして微妙な感じだ。
 話していると、ビアンカの毛並みの模様が消える。
『分かったのです』
「凄かね。やっぱり遠い?」
『そうなのです。ここからこの前のゴブリンの巣の距離の3倍はあるのです』
「さ、3倍?」
 なら、単純に考えて、往復に4、5日はかかるはず。ダメだ、そんなに長い期間、元気達を預けられない。まさかサブ・ドアを使って両親に預けれないし、怪しまれる、絶対に怪しまれる。もしオルクの巣に行くなら、多分同行する人達の事を考えると、元気達を連れていけない。ルームだって使えない。
 どうしたものか?
『ユイ、どうしたのです?』
『考え事?』
「ちょっとね」
 再び歩きながら話をする。
「多分ね、ゴブリンの巣の時みたいにお願いされるかもしれんやん?
 そうなるとノワールはどうにかなっても、元気やヒスイ達を預けることが出来んやん」
『連れていけばいいのです』
『そうね。ルームがあるし』
「そう簡単にはいかんのよ。同行する人達にルームがばれたらいかんやん」
 そう言うと、ビアンカとルージュが首を傾げる。
『誰か他に来るのですか?』
「ほら、ゴブリンの巣の時に、冒険者の方や警備の方と一緒やったやん」
『ああ、そうだったのです』
『来るの? 邪魔だわ』
『そうなのです。私とルージュがいれば問題ないのです』
「オブラート」
 私は突っ込む。
 でもなあ、誰かと一緒だと、短時間ならいいけど長期になると不都合が。ルームが使えないと、トイレとかお風呂とか。
「そうやねえ。ちょっと考えようかね。よし、まずは帰ろう。この子の親御さんも心配しとるはずやからね」
『そうなのです、その子を早く親元に返すのです』
『そうね。そうしましょう』
 私は赤ちゃんを、抱え直して森を抜けた。

 ノータに無事に到着。
 まあ、大歓迎でしたよ。正直慣れないなあ。
 無事に赤ちゃんもご両親の元に。
 涙流して感謝された。良かった良かった。
 右の手首に元気のリード、左の手首にコハクのリードを着け、バギーを押しながら晃太もやって来た。バギーにはルリとクリスとヒスイが身を乗り出している。かわいか。
「姉ちゃん、大丈夫ね?」
「大丈夫よ、ノワールは?」
「ギルドが預かってくれとう。それから宿も手配してくれたよ」
「そうね」
 親切。いや、きっと何か裏がありそうや。
「テイマー殿」
 来た。白髪頭の冒険者副ギルドマスターウィークスさん。
「ギルドまで来て頂けませんか?」
 にこやかに笑みを浮かべているが。
『ユイ、この雄、焦っているわ』
 やっぱり。
 えーっと。
 視界の中で、元気とコハクがお乳を探そうとしている。
「あの、子供達にお乳上げてからでもいいですか?」
 私はビアンカとルージュを指しながら聞く。
「勿論、よろしいですよ」
「子供達が落ち着いたらギルドに伺います」
「お待ちしています」
 よし、緊急会議や。
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