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馬車の旅④

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 馬車の旅は順調。
 時折すれ違う馬車の集団には、笑顔でご挨拶。
 小さな宿場もあったけど、素通りした。
 一週間過ぎて、中間地点の宿場街、ノータに到着した。
「姉ちゃんどうする? 素通りする?」
「そうやねえ。一つくらい街を経由した方が良かかね」
 既に昼過ぎだから、これから街を抜けるのは、怪しまれるかな。ここまであった宿場街も素通りしたし、体裁的にノータに寄ることに。
 アルブレンとスカイランの間にある、一番大きな宿場街ノータ。
 街をぐるりと壁で覆われているが、街の周りには田畑が広がる。雰囲気はのんびりした街だ。門の前で晃太と冒険者カードを提示。ビアンカとルージュには、門番さん達は引いていた。
 駆け出しそうな元気とコハクにリードを着ける。
「じゅ、従魔のトラブルは主人の責任となりますので、気を付けてください」
 対応してくれた門番さんは、ビアンカとルージュの迫力に、どもるどもる。
「はい」
 宿の案内所はギルドの横だと。
 私はビアンカとルージュの主人なので、街等で宿泊する場合、冒険者ギルドに一言かけないといけない。晃太だけなら報告義務ないんだけどね。ノワールの手綱を引きながら歩く。
 ざわざわ、されながら通りを歩く。
 ギルドは門をまっすぐ行くと到着する。アルブレンのギルドより、狭いが、中には結構な人がいる。全員で入るには、狭いかも。
「晃太、ちょっと行ってくるね。ここで待っといて」
「大丈夫な姉ちゃん。ビアンカかルージュと一緒に」
「大丈夫やろ。すぐに戻ってくるけん」
 ちゃ、と報告して、ちゃ、と戻ろう。
 入り口から報告窓口はすぐだ。
 ビアンカとルージュを連れていたら、逆に目立つしね。
 私は報告窓口に並ぶ。
 ギルドには、併設された食堂が賑やかだ。昼間から呑んでる。まあ、働いて、稼いだお金で飲む分なら構わないよね。
 程なく順番。
「どうされました?」
 中年の男性が事務的な笑顔で対応。
「明日にはノータを出ます。到着報告だけです」
 私は冒険者ギルドカードを提示。
「ああ、連絡は受けています。はい、確認しました。宿の案内所はギルドの右隣になります」
「ありがとうございます」
 さ、出よう。
 入り口に向かうと、若いウェイトレスさんが酔っ払いに絡まれている。
 う、どうしよう。
 迷った瞬間、若いウェイトレスさんは手首を掴まれる。
「痛いッ」
 悲鳴を上げた瞬間、私は思わず声を上げる。
「止めんねッ」
 私が声を上げると、周りの視線が一斉に集まる。
「ああぁッ」
 酔っ払いは3人。かなり酔っているようで、顔色が赤い。
「うるせいッ」
「冒険者もどきが、うぜえんだよッ」
 冒険者もどき。冒険者カードを身分証代わりに持つ人を、本職の冒険者の人が呼ぶ呼称だ。あまり、いい気分ではないが、私は本当に冒険者もどきだ。
 凄みを効かせてくる。う、まずかったかもしれない。だけど、引くわけにはいかない。若いウェイトレスさんは助けを求める顔だ。
「手ば離さんね」
 私が言うと、酔っ払い冒険者は口を開きかけて、形相が変わる。
  グルルルルルルッ
 私のすぐ後ろで唸り声が上がる。
 ルージュだ。
 いつの間にかギルド内に入って来て、私の後ろから、眉間に深いシワを寄せ、牙を剥き出しにして、唸り声をあげている。
 ちらり、と視線を走らせると、入り口でビアンカも眉間にシワを寄せ、背中の毛を立たせている。冒険者の皆さんが、一斉に避難。
 若いウェイトレスさんが手を振りほどき、私の側に。
「大丈夫ね?」
「はいっ、ありがとうございます」
 確認する間に、ルージュが上半身を低くしながら、酔っ払い冒険者との距離を一歩だけ詰める。酔っ払い冒険者3人は、腰を抜かしたように椅子からずりおちそうになっている。
「ルージュ、もうよかよ」
 唸り声がぴたり、と止む。
 いつものかわいかルージュに戻り、私に振り返る。
「ありがとうルージュ」
『ユイを守るのは当たり前よ』
 私はルージュと言う心強い味方を得て、ちらり、と酔っ払い冒険者を見る。
 ひー、と逃げ出す酔っ払い冒険者。
 何だかなあ。
 冒険者の人って、鷹の目や山風の皆さんのイメージが強くて、いい人達ばかりだと思っていたけどなあ。
 見送ると、その酔っ払い冒険者の前に、1人の男性が立ち塞がる。使い込まれたエプロンに、頭に手拭い。あ、シェフさんかな。手には、でかい、お玉。
「職員に手を出して、無銭飲食とは、いい度胸だなあ」
 うわあ、怖かあ。
 酔っ払い冒険者3人は、てきぱき連行されていく。
 酒は飲んでも飲まれるな、だねえ。
「ありがとうございました」
 若いウェイトレスさんは、もう一度お礼を丁寧に言ってきた。
 お玉を持った男性も、お礼を言ってきた。
 ルージュの迫力のお陰だからね。
「たいしたことしてませんから」
 私はそう言って、ルージュとギルドの外に。
 さささ、と人並みが、割れる。
 明らかに異様な物を見る目だ。これが嫌だったんだけどなあ。仕方なか。
「姉ちゃん、大丈夫な?」
「大丈夫よ。ビアンカもありがとう。さ、宿ば探そう」
 ノワールの手綱を引き、宿の案内所に。
「ノワールも大丈夫な宿があるとよかなあ」
「そうやね。晃太、手綱ば」
「ん」
 話していると、ふいに、ビアンカとルージュが顔を上げる。
『ユイ』
 ルージュが赤い目で、私に訴える。
「どうしたん?」
『オルクが、迫って来ているわ』
「オルク?」
『人型の魔物よ。ゴブリンより強く、知恵の魔物よ』
 オルクとは、緑のゴブリンより賢い上に集団戦できるほどの知恵がある。基本的には魔の森の中心を、生息圏としているそうだが、時折村や街を襲う。
 オルクは、幼い子供を食料にすると。
「え? 近いの?」
『まだ、少し距離はあるのです。やつらは、この壁の中まで来ないと思うのです』
「姉ちゃん」
 晃太が硬い声を出す。
「街の外の畑で、作業しよった人、おらんかったね?」
「そうや、おったね」
 私は頭から血の気が引いてくる。
「ねえ、一番近い人からも遠い?」
『すぐ近いわ』
「どっちか救助に行ってッ、人命最優先ッ」
『私が行くわッ』
 ルージュが街中を滑るように走り出す。
 悲鳴が上がる。
 私は近くにいた若い男性冒険者に、声をかける。ルージュが駆け出したのに、引いている。
「すみません、オルクが迫って来ています」
「は?」
「冒険者ギルドに知らせて、対応してもらうように言ってください」
『早くするのです』
「は? は? は、はいっ」
 若い男性冒険者は、ビアンカを見て、弾かれるように駈けていく。
「晃太、アップば」
「どうするん?」
「ルージュは1人でも大丈夫やろうけど、ケガした人が出ないとは言い切れん。私は行くけん。晃太、悪かけど、あとで馬車で来てん」
 私のアイテムボックス内に、大量のポーションがある。使う機会はなかったが、役に立つかも。
 ……………ポーションの出番がないのが、一番や。
「馬車?」
「ケガした人がおったら運ばんといかん。あ、元気達もよろしく」
「ん、分かった。アップ」
 ふわ、と温かくなる。
「よし、ビアンカ、行こう」
『分かったのです。元気、大人しくしているのですよ』
 私とビアンカは騒然となっている道を走り出した。
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