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新しい扉②

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 ギルドから戻り、シュタインさんとマアデン君とパーティーハウスへ。しっかりビアンカとルージュが寄り添ってる。ダンジョンの事、聞きたいんだろうね。ぴったり張り付かれて、ちょっとひきつっていた。
 出迎えてくれた母と晃太に説明。
「すみません、ちょっとお待ちくださいね」
 パーティーハウスの居間でシュタインさんとマアデン君に待ってもらう。
 寝室でルームを開けて、異世界のメニュー、CAFE&sandwich蒼空でケーキセット二人前。本日はレアチーズケーキのマンゴージャム添え。ドリンクはアイスティーで。
 持って出ると、シュタインさんにすがり付いていた花が私に突撃してくる。もちろん元気達もだ。すでに2ヶ月経過しているので、人見知りの花もルリもクリスも、すっかり山風の皆さんになついている。
 母が花と5匹の仔達をゼリーで引き離し、やっとケーキセットがシュタインさんとマアデン君の元に。
「いつもありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
「いえいえどうぞ」
 私と晃太は麦茶だ。
「スカイランの軍隊ダンジョンでしたね」
「はい」
 鼻息荒く、爛々とした目で私の後ろから迫ってくる気配が2つ。
『ダンジョン聞いてなのです』
『新しいダンジョンね、行きたいわ』
 はいはい。
「まず、スカイランの場所はご存じですか?」
「いいえ」
 シュタインさんが説明してくれる。マアデン君は幸せそうにケーキを食べてる。
「マーファからスカイランに行くには2つのルートがあります」
 最短ルートはマーファを南下して、首都の手前の街ディラから西に向かう、約2ヶ月のルート。もう1つはアルブレンを経由し、南下して約2ヶ月半のルートだ。これは魔法馬での移動の場合だ。
「こう、直線コースはないんですか?」
 晃太が頭の地図を思い浮かべて聞いている。
「ありませんね。まず道がないのと、高い山岳があるのでこれを乗り越えるのは、不可能です。あの山にはワイバーンの巣がありますから」
『ワイバーンごときなんともないですが、山越えは元気達にはきついのです』
『そうね。ちょっと今は厳しいわね』
 私もきっと無理やな。高山病とかになりそうや。
 ワイバーンってなんやねん。嫌な響き。聞くと空飛ぶ小型の竜だと。山風の皆さんなら一匹くらいならなんとかなるそうだが、ワイバーンは数匹で行動するので、遭遇したら逃げなければ生還できないと。
 そんなワイバーンをごときと言ってるビアンカとルージュ。うん、シュタインさんとマアデン君には聞こえないから、いいや。
「で、スカイランの軍隊ダンジョンですが」
 スカイランの軍隊ダンジョンは、地下に潜って行くタイプ。階層は37階。10階までは半人前や新人さん達が臨み、11階から中堅層、25階からベテラン層だ。で、出てくる魔物に特徴がある。魔物が装甲を持つものが多い。角ウサギや猪、鹿、蛇にしてもそうだが、人型の魔物が出る。ゴブリンやオーク、オーガだ。うん、ファンタジーな名前が出る。ただ、普通に魔の森に出るやつではない、しっかり武装している上位種だと。
「後は軍隊蟻とか虫系出ますよ」
 ひーっ、虫はいやや。軍隊蟻や装甲を持つ魔物が出るから軍隊ダンジョンと呼ばれている。
「まあ、軍隊蟻とかは上級者層にしかいませんが」
『軍隊蟻はめんどくさいのです』
『そうね、しつこいし』
 ビアンカとルージュが嫌そうだ。良かった、上級者層には行かないね。
『一撃で蹴散らせばいいのです』
『そうね、神様のブーストあるし』
 あ、そうなります?
 晃太は諦めの表情。
 まあ、すぐには行けない。だって孤児院の件があるしね。父の冷蔵庫やオーブンだって図面ができたが、試作や改良を繰り返さないといけないそうだし。向こうではコンピューターがあったが、こちらは手作業なのだから。
「スカイランは第4都市ですが、かなり勢いのある街ですよ。おそらくマーファ並みに人がいると思います。去年ダンジョンが改修されたばかりで新しくできた35階以降はまだ未確認のはず」
 なるほど、そういった新しいものに、冒険者の人達は惹かれるのね。
「シュタインさん達は、ディラ経由されるんですか?」
「そうですね」
 後ろから「ダンジョンダンジョン」と鼻面を押し付けられるが、ダメよダメ。
 ビアンカとルージュをなだめて、私はちょっと席を外す。
 ルームに入り、次は銀の槌へ。
 気持ち手土産だ。冷蔵庫ダンジョンに潜っていた時に、両親がお世話になったしね。
 お、フルーツたっぷりホールケーキがあるではないか。ちょっとお高いがポイントカードが貯まりに貯まっている。ぐふふ、2000円引きだ。残りの2400円を支払いルームを出る。母にシールを剥離魔法で綺麗に剥がしてもらい、居間に向かう。
「どうぞ、皆さんで」
「そんな頂く訳には………」
「母の新作ですから。今日中に召し上がってください」
 嘘です。
 手作りと言うと、受け取ってくれやすい。
「そ、そうですか、なら、ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
 マアデン君がいい返事。
 突撃しそうな花達をガードしながら、大事にケーキの箱を抱えたシュタインさんとマアデン君を見送る。
『ねえ、ユイ、いつ新しいダンジョン行くのです?』
『明日? あ、スライム部屋の後ね』
「まだ先たい」
 見送ってルームを開ける。
 直ぐにエアコンの下にゴロゴロするビアンカとルージュ。
「新しいダンジョンはね、お父さんの仕事が一段落しないと行けんからね」
『いつなのです?』
『来週?』
「今年中は無理やない?」
『『えーっ』』
「仕方ないやろ? 孤児院の仕事があるもん。お父さんだけ、ここに残るわけにはいかんやろ? このパーティーハウスはビアンカとルージュがおるけん借りれているんやから」
 ここは日本ではない。父の顔は知られているはずだ、私の父だと。もし、パーティーハウスではなく、一般の住居を借りての生活になれば、父は仕事人間で、掃除が出来ても炊事が出来ない。そうなると母も残り、花も残るだろうし。そうなれば、難癖つけられないか不安だ。マーファの人達は暖かくて、皆さん良くしてくれるが、そうではない人達だってこれから出てくる可能性が無いわけない。
 母もそれが分かっているようで難しい顔だ。
「そうやねえ、あまり優衣達と離れるのは不安やね。今は山風の皆さんがボディーガードしてくれとるけど、お父さんと花と残されるのはちょっと怖かね。皆さんいい人ばかりやけど、ここは日本やないし。それにルームが長い間使えんのは不便や」
 母が不安そうだ。
「ここ、ずっと借りれんね? リティアさんに聞いてみたら?」
 クリスのブラッシングをしていた晃太が顔をあげる。
「そうやねえ、ここを借りれたら安全面が随分違うけど」
 無理やないかなあ。今はビアンカとルージュがいるから借りれているだけだろうし。
「冷蔵庫ダンジョン行くやろ? たくさんドロップ品ば拾ってくればいいやん。それば手土産にしてさ」
「そうやなあ。ダメ元で相談しようか。よし、明日スライム部屋行って、それから上の階に行くよ。ビアンカ、ルージュよか?」
『大丈夫なのです』
『いいわ』
 よし、決まりや。
 ちゅどん、どかんの、レッツダンジョンや。
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