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乗り越えよう④

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 パーティーハウスに戻り、ルームに入り、父を待つ。
 待ちながら人頭税の説明すると、母と晃太が、ああ、みたいな顔をする。
「人頭税ねえ」
「払わんわけにはいかんな」
 2億以上よ。
「なので、冷蔵庫ダンジョンに行って、ある程度のお金確保が必要かと思われます」
「姉ちゃん、大丈夫なあ?」
 きちんと背筋を伸ばす私に、晃太が心配してくる。
 エアコンの下で、風に当たっていたビアンカとルージュが顔を上げる。
『ダンジョンに行くのですか?』
「ブヒヒンッ」
「行かんよ。孤児院の件があるけんね。なんでノワールまで興奮しとるん?」
『ノワールも行きたいみたいよ』
「やめて、半端なく目立つけん。それに行くとしても元気の事が先やろうもん」
『ああ、そうだったのです』
『うっかりしていたわ』
 とにかく、父が帰って来るのを待つ。
 ずいぶん待って、帰って来たのは夕方だ。
「ただいま」
「くんくんっ」
 花が父の足元に駆け寄る。
 ゴボウみたいな尻尾ぷりぷり。
 ルリとクリスも、ぷりぷり振りながら寄っていく。
 あははははん、おしりがかわいか。
「時間かかったね」
「ちょっとな」
 父が言葉を濁す。
 すでに夕御飯の準備済み。ルームに皆で入って夕御飯だ。
 本日はカボチャの煮付け、冷奴、ダンジョンで放水していた魚のふりした魔物の切り身のムニエルだ。
 ビアンカとルージュにたっぷり食べさせて、銀の槌のケーキを出す。
「「「「いただきます」」」」
 うん、魚は白身魚みたいだけど、しっかり脂があって美味しい。カボチャも安定の美味しさ。
「お父さん、建物、どうなったん?」
「ん? ああ、それなあ」
 父が言いにくそうに話し出す。
「予算がなあ、かなり足が出そうなんよ」
 父がファベルさんと詳しく図面の話をしたら、色々追加しなくてはならなくなったと。
「まず、風呂や。あれだけの数の子供や、あの大きさやと毎日なんてまず無理や。3日に1回が限度や。それに男の子と女の子と別々の風呂にした方が良かろうし、シャワーブースも必要になってくるはずや」
「そうやな」
 常に定員オーバーの孤児院に、10人も入れないお風呂では狭すぎる。特に女の子は年頃になれば、1人で入らなくてはならない事情だってあるだろうしね。それで、お風呂とシャワーブースの追加ね。仕方なか。
「次に台所や。今ある、コンロの再利用するにはガタが来すぎや。釜もあるけど、時短を考えるとコンロが必要や。そうするとすべて新調が必要や。大型のオーブン、もしくは石釜も必要になる。それに配管。腐り落ちそうや、全部新調して、腐食防止の付与したらかなり予算が飛ぶけど、長く使うなら必要な経費や」
「そうやな」
 うん、必要や。
「それから食料庫と備品庫。ちょっと狭か、拡張が必要や。一部地下を考えとる。あと、台所と大型の冷蔵庫、大型のオーブン。これはお父さんが設計しようと思っとう」
「そうやな」
 あれだけの数の子供達だ、食料や備品の確保が必要や。台所と大型冷蔵庫に関しては、父はプロだ、任せよう。目が輝いてるしね。久しぶりの仕事に、生き生きしている。
「あと、個室。赤ちゃん部屋を拡張して、ハイハイ出来るスペース確保しようと思っとう。デニス君が寝かされてた部屋は位置を変えて、その部屋をあと2つ追加。使わんときは勉強部屋にすればよか。他の部屋は基本的には4人部屋か6人部屋。2段ベッドと机、それぞれの荷物を入れる3段ボックス、部屋自体にも小さくても備え付けクローゼット。子供部屋は2階で全部で4人部屋が10、6人部屋が4。それに2階を作るなら2階にも洗面所とトイレがいる。1階にもトイレの増加と、洗面所で拡大が必要や。食堂の改築。詰めるシスターさん達の部屋は今は6人部屋やけど、クローゼット付き2人部屋にしようと思っとう」
「そやなあ」
 確か、今、1つのベッドに何人かで雑魚寝状態だったはず。
「これが大まかやけど」
「で、いくらかかるん?」
「……………1億5000万くらいやけど、大丈夫かね? あと家具を新調したら、安く見積もっても800万くらいかかりそうや。2段ベッドがかなりいるからなあ」
 予想以上の額だが、うん、必要経費。必要経費やけど。
 ちゅどん、どかんだ。ビアンカとルージュに頑張って頂こう。
「大丈夫やと、思う。うん、必要や。家具に関しては丈夫に作ってもらわん? 長く使えるなら惜しくはないはずや」
 長期に使えるなら、それがいい。長い目で見て、私は今後の事を考えて決断する。
「着工はどうなるん?」
 カボチャの煮付けを食べていた晃太が聞いてくる。
「果樹のことあるしなあ」
「基礎が決まるまで待って。その前に図面の最終的な詰めのために、明日からファベルさんの工房にしばらく通うことになったけん」
 ならば、母がお弁当を作ることになる。
 大工工房へは、山風の皆さんが送り迎えしてくれると。
「明日、ダンジョン行くと?」
 夕御飯の片付けをしていたら、母が聞いてきた。
「うん、そうやね」
 元気の為に、スライムコアの為に、明日は冷蔵庫ダンジョン1階に行くことになった。
「大丈夫ね? あ、お弁当は?」
「ビアンカとルージュがおるけん、大丈夫よ。お弁当、そうやね、いるかな。それとコアが手に入ったら、皆のバンダナに冷却の付与ばして」
「出来るかね?」
 母は不安そうだ。
「大丈夫よ。ほら、ひんやりした、首に巻くのあるやん。あれくらいのやつで良かとよ。そげん気にせんでもよかよか。まず、何回か練習しようや。たくさんコア拾って来るけん」
 私は不安がる母に、大丈夫と繰り返すと、母も少し納得してくれた。魔法は保有魔力や、魔力操作技術も必要だが、イメージする力も必要。ディードリアンさん情報です。何もお肉を冷凍するほど、冷却する必要はない。夏に首に巻く、あれくらいでいいはず。
 スライム部屋の往復決定だ。
 それから母は張り切ってお弁当の下拵えに入る。私はせっせとお米を研ぐ。その足元に花が陣取る。晃太はブラッシングに入り、父は早速冷蔵庫やオーブンをどうするか考えている。
 明日からに備えて、夜は更けていった。
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