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治験始動②

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 リティアさんが話をしてくれた。
「ユリアレーナと古くから国交がある、東の海の向こうアルティーナ帝国の皇女なんですけどね」
 その皇女はとんでもないワガママ皇女。
「先代の皇帝は名君として名を馳せていたのですが、親としてはどうかと…………」
 その皇女が、ユリアレーナに嫁ぐきっかけになったのが、27年前に2年続いて起きたマーファの天災。それで、ユリアレーナは食糧難になり、アルティーナ帝国がかなりの援助をしてくれた、と。
「先代の皇妃とユリアレーナの先代王妃は、若い頃からの大親友でもあったのですが。それだけではありません、先代皇帝は古い友の窮地を救わなくては、友でない、と。それは多量の援助をしてくれたのです。もちろん、ユリアレーナ王家は返済するつもりでした」
 だけど、先代皇帝は返済期間を設けず、10年は利子は取らず、その後もかなりの低金利を提示して正式に取り決めたそうだ。その話を聞いたら美談みたいだけど。
「援助の代わりに、帝国は皇女を娶って欲しいと」
 え、普通逆じゃない? 例えばユリアレーナから綺麗なお姫様を、帝国に、てなら分かるけど。
 そこで、今のユリアレーナの王様、当時の王子様に嫁ぐことになったのだ。
「だけどそれはとんでもないワガママ皇女で」
 王子様には、既に正室と第一側室がいた。
 で、まず、皇女が望んだのは正室の地位だ。帝国がかなりの援助をしたことを振りかざし、正室は第二側室に蹴落とした。正室様、カトリーナ様は甘んじて受けたそうだ。初めは第一側室が、第二になることを望んだそうだけど、上手く行かなかったそうだ。
「カトリーナ様は、国民に人気がありますしね。何よりご苦労されて王子に嫁がれてますから、先代王と王妃からそれは信頼されていました。それが我慢ならなかったみたいで」
 その皇女、現在のユリアレーナ王妃、ガーガリア妃は、こちらに来ても、ユリアレーナに寄り添うことはないと。
 着るもの、口にするもの、世話をさせる者、すべて自国のものを取り寄せている。
 え、いいの? なんか前に見たドキュメント番組で、他所の国に嫁いだ有名な王妃は、嫁ぎ先の国に入る前にすべて嫁ぎ先のものに着替えたって聞いたけど。違うの?
 リティアさんに聞いて見たら、普通はそうらしい。
「ガーガリア妃は、事ある毎に、こんな田舎の国には来たくはなかったと。洗練された帝国に帰りたいと声高に隠しもせずに言ってます。王室は恩のある、帝国の頼みですから、返すに返せず」
 それでも、ガーガリア妃は1年後に男児を出産。その数日前にカトリーナ様は女児、フェリアレーナ様を出産。
「男児を出産したのですが、その出産は疑惑まみれです。わずか生後半年で立って歩いたと、自慢していたんです」
「はあ? 半年で?」
 私には出産経験はないし、子育て経験はないけど、ちょっとおかしくない?
「おかしいでしょう?」
「ええ、おかしいと思います。あ、もしかして、人族じゃないとか?」
 確か種族によって、成長度合いが違うって、ディードリアンさんが言ってた。
「人族ですよ。だから、疑惑が湧き上がりました」
 リティアさんは息をつく。
「ガーガリア妃は、嫁いだ時には既に妊娠していたと。別の男性の子をです。出産をカトリーナ様の後に発表したのは、王家はせめて第一子はフェリアレーナ様にしたかったのではないかと」
 はあ、すごい王妃様だね。つまり、別の男性の子を、寄り添いもしない国の王子として産んだの?
「ただ、その王子は、3年後に亡くなりました」
「それは、お気の毒ですね」
 首を振るリティアさん。
「はっきり言いますが、ガーガリア妃の落ち度ですよ。体調不良になった王子に、ユリアレーナの薬を飲ませず、何も口にさせず、帝国からの薬を待っている間に一気に悪化して亡くなりました。ずいぶん、周りがどうにかしようとしたらしいのですが、すべて拒否し、帝国から連れてきた使用人達が周りを固めて隙はなく」
 はあ、と、ため息をつくリティアさん。
 まさか、まさか、とは思うけど。その王子様、わざとそうされたんじゃないよね? もしかしたら、帝国にとっても都合の悪い事情があったんじゃ。だけど、3歳の子供を見捨てるみたいに。まさか、ね。
 私は額をさする。隣の晃太も、同じ考えなのか、眉を寄せている。
「私にも子供がおりますから、ガーガリア妃にはその点は同情します。だけど、その後がさらにひどくなりまして」
 怒りの矛先は、元気に成長していたフェリアレーナ様と、その母親のカトリーナ様。2人を守ろうと、先代王様と王妃様が、離宮で保護し、ガーガリア妃の目が触れないようにしたと。
 ガーガリア妃は、ワガママが更に暴走。自分の子が死んだのはユリアレーナのせい、ユリアレーナの空気が、ユリアレーナの水が、ユリアレーナの食べ物が殺したのだと。それから、ガーガリア妃は身の回りものだけではなく、お風呂の水まで帝国から取り寄せ始めた。ユリアレーナ国民が納めた税金で。
「ガーガリア妃の生母が随分態度を改めるように書状を送り、かなりの額の仕送りをしています。今でもです」
 わあ、いい歳して。
 ガーガリア妃は子供を亡くした後、精神を安定させる為に、帝国から特製の薬を取り寄せて常用。嫁いだ時にはかなりの美貌を誇っていたが、今は面影もないそうだ。まあ、子供を亡くしたんだから、精神的にまいるわな。
「ガーガリア妃はその後2度の流産。結局、子供はいません」
 リティアさんが新しくお茶を淹れてくれる。
 まあ、それはお気の毒かな。
 カトリーナ様はその後、男児を出産。第一側室も3人の男児を出産。正室の自分には、1人も子供がいない。それが、ひがみに拍車をかけたのかどうか、とにかく第一子のフェリアレーナ様と母親のカトリーナ様には、辛辣だった。決まりかけたフェリアレーナ様の婚約話も1度白紙になった。自分の子は死んだのに、幸せになるなと、罵声を浴びせて。そんなガーガリア妃に、夫である現在の国王の気持ちが行くわけない。先代の国王夫妻も、フェリアレーナ様と王子様達をたいそう可愛がっていたと。それもガーガリア妃は気にくわない。
「ガーガリア妃は、自分の子を国王夫妻、つまり義理の両親には決して触らせなかったのです。自分の孫でない可能性が高い子の上に、帝国から厄介払いのようにされた、態度の悪いガーガリア妃を気にかけろ、なんてね。私なら絶対イヤですね」 
 それはそうだよね。ユリアレーナに嫁いで来たのに、こちらの国に寄り添いもしない人に、気持ちが行くわけない。
「それにまともに公務もしない王妃に、国民も支持をするわけありません。すべての原因は、天災を受けたマーファのせいだ、と。自分がこんな田舎に追いやられたのは、すべて援助のきっかけになったマーファが原因だと言い出して」
 リティアさんは首を振る。
「だから、マーファにすべての負債を払えと言い出し、フェリアレーナ様を疫病神の領にやれと」
「え? 王妃ですよね? 疫病神の領って言っていいんですか?」
「いいわけありませんよ」
 渋い顔をするリティアさん。
「ワガママの度を過ぎた態度、酷い浪費、王妃の務めも果たさない、ユリアレーナに決して寄り添わない、口をついて出るのは罵詈雑言。だから、ユリアレーナ国民はガーガリア妃をこう呼びます」
 ユリアレーナの膿、と。
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