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すべきこと⑥

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「コンロが足りんねえ」
 母がビーフシチューを煮込みながら呟く。
 3つのコンロがフル稼働だけど。
「ビアンカとルージュがよう食べるけんね」
 ダイニングキッチンの境目で、そわそわしているビアンカとルージュ。
「確かに、この鍋一つで一食分やしねえ」
「増やせんね?」
「そうやねえ。ポイント的には増やせるけど、ダイニングキッチンにこれ以上は狭くない?」
「ああ、そうやねえ」
 6畳のダイニングキッチンには、シェルフが2つ、ダイニングテーブル、花のゲージできつきつだ。
「拡張せんといかんやろうけど、まだオプションにはそれがなかけんねえ」
「仕方なかねえ」
 ビーフシチューを味見してみる。うまかあ。
 小鍋にビーフシチューを入れて、ポテトサラダ、ブドウの風の赤ワイン、ブドウジュース。マルシェで買ったバゲットを切って並べる。ワインとか、神様大丈夫かな?
 大丈夫だぞー。
 神託来ました。
「どうぞ、神様、召し上がってください」
 お祈り。
 目を開けると、きれいになくなっていた。
「よし、私達も食べよう」
 ビアンカとルージュ用のお皿に、たっぷりビーフシチューを入れる。バゲットも切って並べる。染み込んだらきっと美味しい。
 父と晃太が並べる。
「どうぞ」
『がふがふ、美味しいのですっ』
『味が深いわ、お肉が柔らかいわっ』
 勢いよく減っていく。好評だからいいか。マルシェで玉ねぎやじゃがいもを購入。トマト、ニンジンやマッシュルーム、ルウをディレックスで購入して作ったビーフシチュー。ポテトサラダも準備したし、いただきます。
 ぱくり、うん、お肉ほろほろ。奥深い味わい。お上品。
『食べたのです』
『足りないわ』
「ええぇぇぇ?」
 結構多量のビーフシチューがなくなった。ポテトサラダも空だ。
「また、作らんとねえ」
 母が洗わなくてもいいくらいきれいになった皿に、嬉しそうだった。

 次の日。
 父も一緒にパーカーさんの家に。晃太と母、元気達は留守番。
 本日、シュタインさんとラーヴさん。
「え、シュタインさん毎日来てますけど、お休みとかは?」
「御用聞きの時は交代でやすんでますから大丈夫ですよ」
 大丈夫なんだろうか? 労働時間的に。
 パーカーさんの家に到着。近所の人達には初めはビアンカとルージュに、引かれていたけど、連日見てると、あ、今日もいるくらいになってる。無事に到着したので、シュタインさんとラーヴさんには帰ってもらう。時間かかるかもしれないしね。
 ドアをノックすると、フィナさんが笑顔で出てきた。
「ああ、ミズサワさん、ミズサワさん」
「ダイアナちゃんの容態は?」
「はい、どうぞ」
 ビアンカとルージュは庭に向かう。
 子供部屋に入ると、ダイアナちゃんが窓から身を乗り出して、ビアンカとルージュを撫でている。
「あ、危ないよ」
「あ、お姉ちゃん」
 振り返ったダイアナちゃんの顔には、初めて会った日とは比べられないくらいの生気がある。
「お父さん、頼むね」
「ん」
 私はお熱をチェック。あ、解熱してる。
「ダイアナちゃん、動いたらきつくない?」
「うん、大丈夫」
「お薬、飲んだ?」
「飲んだよ」
「えらかよ」
 えへへ、と笑うダイアナちゃん。
「ビアンカ、ルージュ、ちょっとお願いね」
『分かったのです』
『いいわよ』
 ダイアナちゃんをビアンカとルージュに任せ、父と子供部屋を出る。
「お父さん、どうやった?」
「治って来てる感じやけど、まだ半分くらいは残っとうな」
「そうね、どうしようかね………」
 解熱剤はもう必要ないかもしれないが、まだ肺炎あるならしっかり叩いた方がいいよね。うーん。うーん。うーん。
「なら、3日分、後3日、お薬飲みましょう」
 私は3日分の抗生剤を渡す。
「ありがとうございますミズサワさん、なんとお礼を言っていいか」
「いいんですよ。あ、これゼリーです。もし、錠剤のまま飲めるなら飲んでも構いません」
「はい、ありがとうございます」
 フィナさんに抗生剤と内服用ゼリーを渡し、お暇する。
「お姉ちゃん、明日も来てね」
 かわいい。
「明日ね。ダイアナちゃん、ちゃんとお薬のんでね」
「うん」

 帰り際、ビアンカとルージュがあちこちの屋台を覗き込むため、大量購入。
「帰るばい」
 言いながら、屋台マジックにかかり、買い物。
 ピタパンサンドの屋台で店主がニコニコと計算。
「たくさん買ってくれてありがとうございます。全部で24個ですね。合計8400になります」
「はい」
 水晶に冒険者ギルドカードをかざそうとすると、横からゴツゴツした手がさっとカードをかざす。
 え?
 見ると、眼帯した山賊。まんま、山賊。え、山賊街中にいるけど。
「どうも、薬師ギルドマスターです」
 あ、失礼しました。
 ビアンカとルージュはこちらを気にせず、せっせとピタパンサンドを食べてるから、問題ない人だね。
「あの、お金」
「気にせんでください。これはささやかな個人的な礼です。貴女のおかげで多くの失明した者を救えます」
 薬師ギルドマスターさんは、笑みを浮かべる。見た目が怖いから、なんか、怖いけど。
 あの20階のボス部屋で出てきた目玉を使ったポーションは、視力回復や、眼球再生することが出来、多くの人が順番待ちしていると。ただし、ケースバイケース。そのポーションで完全に回復する人もいるが、2、3本必要な人もいる。また、生まれつきの失明している方には効果がないらしい。
「本来なら、このような接触は許されないのだが。貴女を見かけてしまい、どうしても礼の一言が言いたくて」
 見た目が怖いけど、丁寧にお礼を言って来たから、悪い人ではない。
「そうでしたか。ビアンカ、従魔が頑張ってくれただけです。それに十分報酬は頂いてますから、お気にされないでください」
 見た目山賊の薬師ギルドマスターさんは、もう一度お礼を言って帰って行った。
 しかし、あの目玉が役に立つとは。軍手して拾って良かった。
 いくつあったっけ目玉。覚えてないし、あのフォルム、夢に出そう。やめた。
 帰りながら、父に説明する。
「蛇の目玉がなあ」
「ファンタジーやね」
「そうやな。なあ、優衣、ちょっと考えとったんやけどな」
「なんね?」
「今回、あん子に薬作ったやん。あれな結構手間がかかるんよ。今後のことを考えると、誰かに委託なり協力をしてもらわんといけんと思うんよ。うちらで作るなら限界があるけん」
「そうか、そやなあ」
 今後か。
 確かに今回は運良くダイアナちゃんは助かるだろうけど、今後も似たようなケースに遭遇したら、再び薬草探して調合しなくてはならない。ディレナスでは完全に委託していた。
「あん子みたいな子がいっぱいおるはずや、こん薬で助かるなら色んな所に普及させた方がよかと思うけど、そうなると大がかりになる。行政にも介入してもらわんといけんごとなる」
「そうやな。そうなると、まず窓口になるのは」
 薬師ギルド。
 だけど、いきなり行って、子供用抗生剤と解熱剤を作って販売して、は無理やね。
「お父さん、帰って、皆で考えようや」
「そやなあ」
「あ、お母さんには目玉の件は伏せて」
 母は蛇が我が家の中で、一番嫌いだからね。
「ん」
 父も苦手だから、深く頷く。
 日本で庭に出たとき、熊手で押さえようとしていた。逃げられたけどね。父の混乱ぶりが分かる話となっている。
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