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すべきこと③

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 日が沈む。
 流石に泊まる訳にはいかないので、私はゼリーを渡し一旦パーティーハウスに戻る。コハクとヒスイのお乳もあるしね。
「すみません。遅くまで」
 結局シュタインさんはパーティーハウスまで付き添ってくれた。
 途中で、屋台から芳しい香りが漂って来たが、我慢我慢。ルージュもコハクとヒスイが心配みたい、何度か振り返っていたけど、覗き込むことなく付いてきた。
 パーティーハウスにはロッシュさんとラーヴさんがいた。なんか色々してくれたみたい。
 父と母、晃太は台所で作業中だ。
「今日はありがとうございます」
「いいえ、これが俺達の仕事ですから」
 そのまま帰すわけにはいかない。
 私はこっそりルームを開ける。
 銀の槌は閉まっていた。さくら庵がギリギリ大丈夫だった。お持ち帰り用でほうじ茶のロールケーキ、和三盆のケーキ。合計5個。
「遅くまでありがとうございます。これ、どうぞ。マアデン君とハジェル君の分もありますから」
 遠慮されたけど、押し付けてみた。
 帰り際にルージュにリンゴサイズの光を出してもらう。街灯があちこちあるけど、十分暗いしね。
「明日もお手間を取らせるかもしません」
「構いません。それが仕事ですから。マアデンとハジェルの為にありがとうございます」
 挨拶して、ロッシュさん達が帰って行く。
 私は片付けて、台所に向かう。
 居間でビアンカとルージュがお乳をあげている。
「優衣、悪かけど、ビアンカとルージュのご飯頼める?」
 作業しながら母が顔を上げて言ってくる。
「分かった。ルームで作業せん?」
「そうやね」
 ビアンカとルージュに声を掛けて、ルームに移動。台所の作業途中の薬草を、晃太のアイテムボックスに入れる。
 ルージュに魔法のカーテンを展開してもらう。
 ルームに入り、作業再開。
 私はジョイップを開けて、カツ丼を3人前、生姜焼丼を3人前を選ぶ。専用の深皿に盛って出す。
「ごめんね、遅くなったね」
『大丈夫なのです。がふがふ』
『初めて食べるわ、これ』
「生姜焼よ。ご飯に合うやろ?」
 綺麗に無くなる。
 後は我々だ。カップラーメンで夕食を済ませ、順番にお風呂を済ませた。
「優衣、あんたは寝なさい。明日も行かんといかんやろ?」
 名前の分からない薬草を洗っていると、母が言ってきた。ちょっと悩んだけど、もう一度母に言われて先に休んだ。薬草の下準備はほぼ済んだ。後は母の生活魔法頼りだ。父は疲れはて既に寝ている。薬膳屋の薬草では足りず、採りたての薬草を探しにマーファの外で探し回ったと。
「姉ちゃん、わいが起きとるけん、大丈夫や」
「お願いね晃太」
 私は後を託して休んだ。

「姉ちゃん、姉ちゃん」
 朝早く、晃太に起こされる。
 慌てて飛び起きる。
「ああ、ごめんごめん」
「よかよ、出来たばい。熱冷ましの薬が」
「そうね、良かった」
 この短時間で。本当に感謝だ。
「流石にお袋寝たばい。後は混ぜるだけやから、わいがするけん熱冷まし持っていき。出来たら持って行くけん」
「ありがとうね。あんたは大丈夫なん?」
 晃太は徹夜のはずだけど。
「よかよ、これくらい。後で寝るけん。早く持っていき」
 晃太に感謝し、私は洗顔、歯磨きして支度する。
 ビアンカとルージュはまだ寝てる。まあ、朝早いし、大丈夫だろう。
「姉ちゃん、はい」
「ん、ありがとう」
 渡されたのは緑っぽい色の丸薬。小さなラムネサイズ。これなら飲み込めるかな。父の鑑定と母の生活魔法の結晶だ。
 私はルームのドアを全開にしてパーティーハウスを出る。ルームのドアは私にしか扱えない。なので、全開にしたら、何時間大丈夫か試してみた。3時間までなら、大丈夫だった。
「大丈夫ね、1人で?」
「大丈夫やろ。朝早いし」
 晃太に見送られ、パーカーさんの家に向かう。
 朝早いので、マルシェでモーニングの屋台があちこち開いている。朝御飯食べてないけど、まずはダイアナちゃんだ。後で食べればよか。
 通りを歩いている。
『ユイ、待ってなのです』
 ビアンカが駆けてきた。周囲の人はびっくり。
「どうしたん?」
『1人は危ないのです。私も行くのです』
「あ、ありがとう。心配してくれたんやね」
 ビアンカと歩いていると、
『誰か来るのです。敵意はないのです』
 注意してきた。ビアンカも気配を感じる能力が高いんだね。
「テイマーさん」
 私の事だよね。敵意はないなら大丈夫かな。
「はい」
 振り返ると冒険者の方。知っている人だ。
 冷蔵庫ダンジョンで、剣を向けてきた人のパーティーだ。
「ああ、あの時の」
「あの時は失礼しました」
「いえ、気にしてませんから」
「あの、今日はジャガーの従魔はどうされました?」
「ええちょっと………」
 早く行きたいのだけど。
「すみません。ちょっと急いでて」
「あ、すみません。お止めして」
 ペコリして行こうとすると、ものすごい勢いで走って来るシュタインさんとハジェル君。
「ミズサワさんッ、大丈夫ですかッ」
 何々? 血相変えて来るけど。
「ど、どうされました?」
「いや、お一人では危ないですよ」
「え、ここ、そんなに危ないんですか? ビアンカいるから大丈夫かなって」
 まさか、無法地帯? ここ、マルシェよね? 小さな子供もお使いに来るって聞いたけど。
「違いますって」
 肩を落とすシュタインさん。
「じゃあ、俺達はこれで」
 声を掛けてきたパーティーさん達は去っていく。
 あ、そっか、心配して来てくれたんだ。
 護衛兼御用聞きだからね。
「大丈夫ですか、ユイさん」
「はい。すみません、ご迷惑掛けました」
『私がいるから大丈夫なのです』
 まあまあ、ビアンカさんや。よけいなトラブルにならないための護衛さんだ。
「いいですよ。こんなに朝早くどうしました?」
「熱冷ましの薬が出来たので、パーカーさんの家に行こうと思って」
「なら、ご一緒しますよ」
「ありがとうございます」
 もしかしたら軽率だったかも。
 ビアンカとルージュを形式上私が従魔にしているから、2人を目当てに声を掛けられることもあるかもって言われた。ルージュが離れても、何かあれば駆けつけるって言ってたから、ちょっと気が緩んでいたかも。
「すみません、本当に」
「いいですよ。俺達の仕事ですから」
「そうっすよ。仕事っす」
 私はビアンカ、シュタインさんとハジェル君と一緒に、パーカーさんの家に向かった。
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