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すべきこと①

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 ギルドを後にして、パーカーさんのお店へ。
「こんにちはパーカーさん」
 冷蔵庫ダンジョンで手に入った、果物のお裾分けだ。私と晃太でお店に入る。
「ああ、ミズサワさん」
 パーカーさんが、少し動揺した様子で、顔を上げる。あ、もしかして、お客様いたのかな?
「すみません、お忙しいですよね」
「いいえ、いいえ、違います。その、あの」
 動揺しているパーカーさん。そこにジョシュアさんが出てくる。
「父さん、聞いてみようよ。父さん」
 ジョシュアさんも余裕のない顔だ。
「そ、そうだな」
 何だろう?
「あのミズサワさん、冷蔵庫ダンジョンに行かれたとお聞きしたのですが」
「はい、そうですが。どうされました?」
「もし、高ランクのポーションがあれば、譲っていただけないでしょうか? もちろんお代は払いますので」
「ポーション? 中級なら何本かありますが、上のはありません」
 さあ、と絶望の色に染まるパーカーさんとジョシュアさん。
「どうされました?」
「その、実は…………」
 言い淀むパーカーさん。
「ダイアナの、娘の容態が悪化して」
 はよう言わんね。

 子供部屋のベッドの側で、フィナさんがやつれた顔で項垂れている。
 私はパーカーさんに無理を言って、おうちに上がらせてもらった。その前に、ロッシュさんにお願いして、父を呼んできてもらった。ビアンカとルージュはパーカーさんの家の前で待っていてもらう。
「フィナさん」
 私がそっと声をかける。
「………ああ、ミズサワさん、でしたか」
 青ざめた顔を上げるフィナさん。ベッドには小さな女の子が、眠っている。呼吸は浅く、顔色が悪い。私達が初めてパーカーさんを訪れた時は、軽い風邪くらいだったのが、一気に症状が悪化したと。熱が今だに下がらず、ほとんど何も口にしていない。ポーションも飲ませたが、吐き出す始末。ポーション苦いんだよね。小さな子にきつい。1本250ml位だけど、青臭いんだよね。ただ、出回っているポーション、比較的手に入るのは下級ポーション。ほとんどこれなので、わざわざ下級ポーションとは言わず、ポーションと呼ばれる。これは病気を治さない、病気で失った体力を回復させるくらいだ。漢方と併用が主だ。中級ポーションとなれば、ある程度病気にも効くらしいが、不味い。更に上級はえぐみがプラスされる。ディードリアンさん情報です。ただ、これを子供が飲むのは厳しいし、多分この状態では、高ランクのポーションも飲めないはずだ。
「少し、いいですか?」
「でも……」
「さあ」
 私はフィナさんを子供部屋から連れ出す。
「お父さん、お願いね」
「ん」
 子供部屋のドア横で、フィナさんの背中をさする。
 父が直ぐに出てきた。厳しい表情だ。
「ちょっと、部屋から離れて話そう」
 分からない顔のフィナさんを連れて、パーカーさん、ジョシュアさん、パトリックさんの待つ居間に向かう。
「風邪に起因した肺炎のようや。このまま、何もしないなら、恐らく1、2週間持たんかもしれません」
「はぁ………」
 父の言葉に、崩れ落ちるフィナさん。
「ど、どうしてそんなことが、分かるんですか?」
 パトリックさんが疑わしい顔だ。
「父はちょっと鑑定スキルが高くて」
 フィナさんが咽び泣き出したので、パーカーさんはフィナさんの肩を抱く。
「ああ、始祖神様、どうか、どうか、ダイアナを連れて行かないでください。お願いします、連れて行かないでください…………」
 フィナさんが掠れた声で繰り返す。
「お父さん、『何もせんなら』よね?」
「ん、そうやな」
「なら、『何か』をしよう。晃太の支援魔法は?」
「今のあん子の状態での支援は、体力がもたんやろう」
 父は首を横に振る。
「そうね」  
 だけど、ここで、何もしない訳にはいかない。
 あのベッドに横たわる女の子を見て、思い出す。かわいい従姉妹の子。重なる、あの子と。
 何か出来るなら、何かせんといかん。何とかせんといかん。
 私は、何かに迫られるような気がした。何とかせんといかん。

 全ての事は偶然と必然。すべての事には意味がある。すべては行動の結果なのだよ。

 始祖神様の声が響く。
 1人で出来ることは限られているけど、集まればなんとかの知恵だ。
 私達には色々なスキルがある。
 そう、始祖神様から頂いたスキルが。
 このまま見ているだけなんて、絶対に嫌だ。神様の言葉ではないが、必然と偶然。そうだ、頂いたスキルで出来る限りのことをする時だ。
「パーカーさん、足掻きましょう」
「は?」
「足掻きましょう。最後まで足掻きましょう」
「ミズサワさん、何を仰っているんですか?」
 分からない顔のパーカーさん。
「私達も出来る限りのお手伝いしますから。お父さん」
「ん」
 私は父にアイコンタクト。
「お母さんと出番よ。抗生剤と解熱剤ば」
「ん」
 父は理解してくれた。そう、ディレナスで抗生剤を作った。あの時は父の鑑定と、母の生活魔法で作り上げた。あれだけ弱ったダイアナちゃんの体でも、大丈夫な抗生剤と解熱剤。向こうなら点滴とかあるし、抗生剤だってたくさんあるけど、ここにはない。なら、経口から行くしかない。なんとか、少しでも改善させて、抗生剤が出来るまでに繋げないと。
 どうしよう、小児の経験が私にはない。学生時代の実習くらいしかない。だけど、そんな事を言っている場合ではない。
「ロッシュさん、シュタインさん、父を薬膳屋に連れていってください」
「ミズサワさん、どうするつもりです?」
「これから説明しますから。お父さん、急いで」
「ん」
 父がロッシュさんと出ていく。シュタインさんは残ってくれた。
「パーカーさん、いいですか?」
 よく分からない表情のパーカーさん一家。
「まず、父は鑑定のスキルが高いのでダイアナちゃんに合った薬の配合を模索します。そしてそれを処理出来るのは母だけです。私達はその間を繋ぎましょう」
「繋ぐ? どうやって? これ以上祈れと?」
 フィナさんが悲鳴のような声を上げる。
「いいえ、祈って助かるなら、誰も病死なんかしませんよ。だから、私達は行動するんです。まず、ダイアナちゃんが口に出来そうな物を準備します。準備するまでの間、皆さんで交代で休憩です。いいですね? 一旦休憩です。長丁場になりますよ。特にフィナさんが倒れたら、ダイアナちゃんが目を覚ました時に不安になりますよ。一旦休憩です。さあ、フィナさんを先に休ませて、交代でダイアナちゃんについてください」
「…………ミズサワさん」
 指示を出す私に、フィナさんは涙で濡れた顔を上げる。
「ローナも、弱りきって死んでいきました。ダイアナもそうなりますか?」
 確か、半成人前に亡くなった娘さんのことだろうけど。パーカーさんは言っていた、ダイアナちゃんは宝物だと。半成人を迎えられなかった上の娘さんにしてあげられなかったことを、出来る限りしてあげたいと。布を手にしていたあの時のパーカーさんとジョシュアさんの嬉しそうな顔が今でも浮かぶ。今はその面影は欠片もないほど、絶望している。
「フィナさん、まだ、諦めたくないですよね? ダイアナちゃんは宝物ですよね? だから、精一杯足掻きましょう。神様から頂いたスキルを最大限に使って、神様の元に行かないように。すべてに意味があるんですよ。私達がこのタイミングで、ダイアナちゃんの事を聞いたのも、意味があるはずです」
 私は言葉を切る。
「私は一旦パーティーハウスに戻って、ダイアナちゃんが口に出来そうなものを持ってきます。必ず戻ります。それまでには、フィナさんは横になってください。いいですね」
 戻る前に、神への祈りをしてみたが、発動しなかった。どうしてか分からないけど、もしかしたら、私達で対応しないといけないことかもしれない、と思って割りきった。手持ちのスポーツドリンクを渡し、パーティーハウスに急いで戻った。
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