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本領?④

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 戦闘してます、ご注意ください。



 翠のラインが入ったビアンカが、一気に体を低くし、まるで弾丸のように飛び出していく。
 あ、あれは陸上競技の短距離のクラウチングスタートだ。そう思っていたら、ビアンカは緑の巣に突っ込んでいる。
 阿鼻叫喚。
 緑が空に舞い上がっている。ただ、一匹も五体満足な緑はいない。いろいろ飛び散っている。
 見るの、やめよう。晃太も苦そうな顔で、私と一緒に膝を抱えて座る。
 金の虎の皆さん、警備兵の皆さん、顔色が悪い。
 ルージュは例のリンゴサイズの光をいくつも出して放っている。放った先で汚い悲鳴が上がる。
「ねえ、ルージュ。ビアンカのあれ、魔法なん?」
『ああ、あれは私達のように魔法が使える上位魔物が使う手段ね。属性魔法を纏うことで、一時的にブーストがかかるの。それぞれの属性によって効果が違うの』
「へえ。ルージュも出来るの?」
『出来るけど、戦闘モードに関してはビアンカの方が手段が多いわ。属性魔法もビアンカの方が多いし』
「そうなん? ルージュはいくつ魔法の種類あるん?」
 私、主人だけど、まったく知らない。
『私は火と光、闇、後は無属性ね』
 4つも使えるの? 立派な魔法使いやん。
「ちなみにビアンカは?」
『水と風、雷、木、土、無属性だったはずよ』
「す、すごかね」
 ビアンカの方もすごか。
「姉ちゃん。終わったごたあよ」
「あ、そうなん」
 振り返ると、ビアンカがトコトコ帰ってくる。
 ……………………
 二百万もかけて綺麗にした毛並みが、いろんな液体まみれになってるッ。
『終わったのです。久しぶりに動いたのです』
「そ、そうなん? お疲れ様、ビアンカ、怪我はなか?」
『ないのです。でも、疲れたのです』
 まあ、怪我はないなら、よかか。トホホ、二百万。
「ゴブリン、もうおらんなら、休んどき。晃太、お茶ばビアンカに出して」
「ん」
 ビアンカを晃太に任せて、私は微動だにしない皆さんに声をかける。
「もう、終わったそうです」
「終わったって、もう?」
 ファングさんが、信じられない顔だが終わったんだから仕方ない。
「はい、終わったそうです」
 もう一度言う。
 巣を見ていたバラダーさんが、ふう、と息をつく。
「本当のようですね。では、確認のために耳の刈り取りをします」
 あ、耳ね。我々もしないとダメかな? こういうのは、ちょっと、ダメなんだけどなあ。特に晃太が。
 金の虎の皆さんと警備兵の皆さんが、巣に向かって降りていく。
「晃太、うちらも行かんといかんやろ」
「ええ、いやや」
 やはり断固拒否の晃太。私だっていやや。
 しばらく、いやや攻防すると、ふと、思い付く。
「晃太、あんたの支援魔法で、精神力のアップとか出来んね? トラウマとかにならんようにさ」
 私達は結局はこちらの世界の生まれではない。ゴブリンは基本的に殺処分対象で、証明として、右耳を切り取る。誰でも知っていて、当たり前のことだが、私達にとっては非日常な事だ。ゴブリンとはいえ、生き物の耳を切り取るなんて精神的に受け入れられない。だが、そんな事が当たり前の世界で、私達は生きて行かなくてはならない。慣れるなんてことはないが、せめて精神力を上げて、この場だけでも乗り越えられるようにならなくては。
「晃太、この世界で生きて行くためや、頑張って乗り越えよう」
「そうやなあ。分かった、アップッ」
 私の言葉に晃太は腹を括ったようだ。
 胸の辺りが暖かい。
 ちらっと巣を見る。
 いろいろバラバラになったゴブリンを、皆さんが一体一体確認しながら右耳を切り取っている。普通なら吐きそうな光景だが、なんとか直視できる。
「晃太、頑張ろう」
「そうやな。いつまでもいやや、は、ダメやな」
「ビアンカは休んどってね。ルージュ、ビアンカの側におってね」
『分かったわ』
 ビアンカは水分補給して、眠りかけている。やはり、負担がかかっているんだろう。
「行こうかね」
 私と晃太は巣に向かって降りた。

「や、やっと終わった」
 私が最後のゴブリンの耳を、麻の袋に入れたのは、既に夕方。
 ゴブリンの死体は魔法使いのチェーロさんが、魔法で作った穴に次々に入れて埋める。それを繰り返す。作業もきついが、臭いがきつい。放っておくと匂いにつられて別の魔物が寄ってくるし、別のゴブリンが住み着くらしい。死体が数匹ならそのままでも問題はないが、何せ数が多い。肥料になることはないが、埋めるしか手はない。本当にGだね。
 晃太が適宜精神力をアップし作業を行った。でなければ、気絶しそうな光景だ。それでもあまり私と晃太は役に立ってない。ほとんどが、金の虎や警備兵の皆さんが、やってくれた。もたもたしていたら、声もかけてくれたし、手伝ってくれた。ありがとうございます。
 しかし、時間がかかった。ビアンカが戦闘した時間は多分5分もかかってなかったのに。
「何匹いました?」
 バラダーさんに聞く。
「全部でゴブリンが388体ですな。ポーンが79体、確認出来ない個体も含めたら500は超えます。問題はこれです」
 ずらりと並んだ武装したちょっと大きめ緑が35体、ビアンカが捕まえてきた緑の親玉3体と、更にメタボで親玉な感がある緑。
「このちょっと大きめは?」
「ナイトとルークですね」
「これはジェネラルですよね。このメタボは?」
「メタボ? これはキングですよ」
「え、キング? ゴブリンの一番、えらいやつですよね?」
「そうです、キングですよ。はあ、本当にご一緒していただいて良かった。本来なら、国が出てくる事態ですからね」
「そうなんですね」
 ちらっとキングを見ると、首辺りに深いキズ。
「一撃のようですな」
「ミタイデスネー」
 見なかったことにしよう。
 てか、これだけの数を、あんな短時間でなんて。我ながら恐ろしい魔物を従魔にしているんだなあ。周りの人が警戒するのもしたくなるのも仕方ないか。
「ナイト、ルーク、ジェネラルとキングは魔石があります。それに証明にするため持ち帰りたいのですが」
 バラダーさんがおずおず聞いてくる。分かってますよ。
「晃太、入れてん」
「ん」
 晃太がアイテムボックスに、ジェネラル、キングを入れる。
 これで本当に最後よね。
「とりあえず、皆さん、お疲れ様です。アルブレンに戻りましょう」
 ぞろぞろと巣から離脱。
 出来るだけ移動して、野宿だ。
 疲れた、臭いきつい、早くお風呂に入りたいが、ルームを開けられるわけない。
「風呂に入りたかなあ」
 晃太も同じ気持ちらしい。
「我慢しい、無理や」
「そうやなあ」
 ビアンカとルージュがお座りして待っていた。
『ユイ、ゴブリン臭いのです』
『臭いわ』
「仕方なかろう? ビアンカ、大丈夫なん?」
『大丈夫なのです。お腹空いたのです』
「はいはい、食欲あるんやね。ちょっと移動するからね。ああ、せめて手だけでも洗いたか」
『なら、これを使うのです』
 私の前に水の玉が現れる。
「水の魔法?」
『そうなのです』
 有難い。私と晃太は手を水の玉に入れて、手を洗う。
「ねえ。ビアンカ、皆さんにも出せる?」
『いいのです』
 いくつかの水の玉が皆さんの前に現れる。
「皆さん、せめて手を洗ってください」
 声をかけると、おずおずと水の玉に手を入れている。手だけ、すっきりして、やっと出発した。
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