上 下
33 / 820
連載

生活環境⑥

しおりを挟む
 次の日の朝。
 私達はギルドの前にいた。
 馬車の護衛依頼の為に出発する鷹の目の皆さんを見送りのためだ。数少ない知り合いだしね。
 そっと見送るつもりだった、仕事前だしね。だけどエマちゃんが気づいて駆け寄ってきた。
「ユイさん、どうしたの?」
「うん、皆さんを見送ろうと思ってね。はい、これ、今日中に食べてね」
 私は念のため作っておいた、おにぎりが詰まった袋をエマちゃんに差し出す。こちらにもあった、昔の日本でおにぎりを包んでいた笹みたいな紙。なんでも保存力と言うか、殺菌力があると。父の鑑定でもそんな感じだった。人数分をエマちゃんに渡す。
「いいの?」
「いいの。気を付けてねエマちゃん」
 エマちゃんはおにぎりを受けとると、目が潤み出す。
「私、ユイさんとこの子になる」
「こら、エマ」
 リーダーさんが静かにピシャリ。チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君もやって来る。
「クンクンッ」
 花が尻尾を振って、チュアンさんの膝にすがり付く。わざわざ膝をついて、花を撫でてくれるチュアンさん。マデリーンさんも優しく撫でてくれて、花はペロペロ、ミゲル君とテオ君の手をはみはみ。
「ユイさん、ミズサワさんわざわざありがとうございます」
 リーダーさんがお礼を言って、そっとエマちゃんの肩を抱く。
「いえ、お仕事前に来てすみません。気を付けてくださいね」
「はい、ありがとうございます。ほら、エマ」
「………うん。ユイさん、また会える?」
「会えるよ。私達、目立つからね」
 大人しくお座りしているビアンカとルージュを指す。朝早いので、元気達はギルドに到着そうそうに、母親の足元で丸くなって寝ている。
「そうだね」
 エマちゃんが笑う。
「行くぞ。ユイさん、皆さんありがとうございます」
「うん。バイバイ、ユイさん」
 チュアンさんにすがり付く花を晃太が抱き上げる。何か察知しているのか、花は必死に首を伸ばす。花は私達が出掛ける気配があると、こうやって甘えてくる。日頃は呼んでも来ないのに。
 チュアンさん、マデリーンさん、ミゲル君、テオ君がペコリ。
「ありがとうございます」
「また、お会いしましょう、ミズサワさん達もお気をつけてくださいね」
「ケイコさんのご飯、また食べたいですッ」
「俺も食べたいですッ」
 無言になったチュアンさんが、ミゲル君とテオ君の肩を掴む。途端に黙る2人。微笑ましい。
「皆さんもお気をつけて」
 父がペコリ。私達もペコリ。
 しばらくして、馬車が出る。
 馬車のお客さんが、置物のように座っているビアンカとルージュに、やっと気づいて驚いていたけど、それだけで済んだ。
 馬に乗ったリーダーさんとエマちゃん。バイバイと小さく呟くエマちゃん。なんだか、寂しくなる。
「ワンワンッ」
 吠える花を晃太が撫でる。
 馬車はあっという間に見えなくなる。本当にあっという間だ。
 最後にもう一度振り返ったエマちゃん。そしてリーダーさんが振り返り、それが、やけに印象に残った。

 馬車を見送った後に、冒険者ギルドで亀を受けとる。
『今日は亀なのですか?』
『亀?』
「はいはい」
 鼻息荒く聞いてくるビアンカとルージュ。
「お、重かあ……」
 晃太が抱っこ紐を前と後ろに下げて、お眠モードのルリとクリスが入っている。私の抱っこ紐にはヒスイ、父の抱っこ紐にはコハク。元気だけは起きてリードを着けて晃太が持つ。花は母の抱っこ紐の中だ。
「さて、帰ろかね」
『今日は出掛けないのですか?』
『体を動かしたいわ』
「今日はダメよ。いろいろ買い物とかしたいけんね」
 ぶー、みたいなビアンカとルージュ。
 今日はベッドが届くし、ルームの中を手を加えたいしね。
 ログハウスに帰る途中で、朝早い屋台でスープとパンを売っていた。何人か冒険者みたいな人が屋台の周りにいる。
 モーニングだね。
「はい、ダメよ」
 ビアンカとルージュが行きそうなので、釘をさす。元気が尻尾を振って行こうとするので、晃太がよろよろしながら止める。ルリとクリスを抱えているし、前にも後ろに転けれない。
「重かあ………」
「ほら、はよ、晃太が限界や」
『分かったのです』
 ログハウスに戻ると、ルージュに魔法のカーテンを広げてもらう。
 ルームに入り、まだ、眠い仔達は従魔の部屋に。元気だけ中庭で父と遊んでいる。花は自分のクッションで丸くなる。花のクッションやケージはダイニングキッチンにおいてある。ルームに置くと、他の仔が寝てしまうからだ。
「ああ、重かったあ」
「お疲れ様」
 晃太が座布団に座り込む。
「さて、と。ベッドは、おお、来とう」
 八畳間を覗くと注文したベッドがある。
「お母さん、来たよ」
「本当や」
 花の階段も設置。
「シーツ買わんとね」
「そやね。優衣、電気とエアコンも着けて」
「分かった。窓も拡張する?」
「そやな」
 私はタブレットを持ち、タップタップ。
 LEDライトにエアコン、窓拡張済み。
 最近暑くなりだしたから、あちこちエアコンを付けよう。
 ルームとダイニングキッチン、従魔の部屋にも付けた。
「優衣、ダイニングキッチンにコンセントつけれる? 足りんけん」
「分かった」
 タップ。
「優衣、この棚、もう1つ買える?」
 母がステンレスのシェルフを指す。母がちゃんとした家具が欲しいみたいだが、今はこれしか手に入らない。
「大丈夫よ、もへじ生活にあるけん」
「後は………」
 寝室にはカーテン、シーツ。ダイニングキッチンにはダイニングテーブルに、トースターに電子レンジ、炊飯器、冷蔵庫。ビアンカとルージュが食べるからね。ルームにはブレーカーないから、同時使用大丈夫なはず。ただ、電気代が怖かなあ。
 トーストにジャム乗せたら、まあ、食べる食べる。一食で何枚焼いたか。一食でジャムの瓶が空になったよ。
『涼しいのです』
『ええ、気持ちいいわ』
 早速晃太がエアコン始動し、ビアンカとルージュがエアコンの風に当たっている。
『魔法なのですか?』
「違うよ、科学やね。私達が元いた世界の技術やね」
『そうなのですか。不思議なのです』
 ビアンカとルージュはエアコンの下で思い思いに丸くなる。
「お母さん、そろそろもへじ生活開くよ」
「分かった」
 母と2人でもへじ生活へ。
 初体験の母はちょっと興奮する。
 じっくりダイニングテーブルを吟味。あとはソファーもチェック。カバーをどうするか母が悩んでいる間に、私はシェルフと電化製品を手に入れる。ついでにカフェオレや個別包装の焼き菓子、レトルトのカレーや炊き込みご飯の素をかごに入れる。
「お母さん、決まった?」
「うん、これにする。どうしたん、お菓子入れて?」
「神様にね」
「そうね。ダイニングテーブルはこの6人掛けでこの色ね。ソファーはこれで色はこれね」
 ダイニングテーブルは深い茶色、ソファーは薄いベージュだ。
「分かった」
 私は注文窓口で注文。ダイニングテーブル明後日、ソファーは明明後日到着となる。
 後は服を何着か選ぶ。もへじ生活は無地の衣料品が多いため、こちらの世界でも、目立つことなく着ていられる。
 残り3分で出た。危ない危ない、どこぞのヒーローみたいな状況になりそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。