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生活環境⑤

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『来るわ』
「分かった」
 ルージュの合図で、私はドアを開ける。
 そこには驚いた顔の30くらいの女性と、アルブレンに入る際に対応してくれた髭の警備兵さん。それから数人の警備兵。
 ビアンカとルージュが私の横から出てきて女性や警備兵の方達の間に陣取る。
 2人の登場に怯む警備兵の方達。
「何かご用ですか?」
 私が聞くと女性が一瞬怯むが、大声を張り上げる。
「この魔物よッ、この魔物がうちの子にケガをさせたのよッ、早くこいつら魔物を殺しなさいよッ」
 予想はしてたけどね、そこまで言う?
 ビアンカとルージュから低い唸り声が上がる。こちらからは見えないが、あのすごか牙が剥き出しなんだろうなあ。
 一斉に引く警備兵の方達。髭の警備兵さんも、何言ってんのこいつ? みたいな顔だ。リーダーさんが言うように、ビアンカとルージュにはこの数で勝てる訳ない。中には震えている人もいるし。
「何をしてるのよッ、魔物なのよッ、早く始末しなさいよッ」
 空気読んでないなあ。
『ユイ、ダメなのですか?』
 ビアンカが唸りながら聞いてくる。
「ダメよ。さて、何のことだか、さっぱりなんですが?」
 私はとぼけた様で言うと、女性は眉を吊り上げる。
「白々しいッ、うちの子にケガをさせたくせにッ」
「自分で転けたんでしょ」
 あの子がどう説明したか知らないが、掌を擦りむいたくらいのはずだ。私に石を投げて、その石から守ってくれたルージュに唸られてしりもちついたくらいだ。
「失礼。事情をお聞きしてもよろしいですか?」
 髭の警備兵さんが手を上げる。
「ちょっと何をしてるのよッ、早く殺しなさいよッ」
「少し黙って頂けますか? おい、後ろに」
「「「はい」」」
 数人の警備兵さんが女性を後ろに下げる。まあ、喚く喚く。
 髭の警備兵さんは、申し訳ない顔だ。
 ビアンカとルージュがぴたりと唸り声を止める。
「こんな時間に押し掛けて申し訳ありません。あまりにもうるさいので、事実確認だけでもと思いまして」
「お疲れ様です。どうぞ」
 私は髭の警備兵さんを、ログハウスの敷地内に案内する。
「事実確認でしたね」
「そうです」
 私は屋台で起きた事を説明する。すると、やっぱり、みたいな顔になる。
「やはりそうでしたか」
「あの女性の言う事は信じてなかったんですか?」
 後ろで話を聞いていた晃太が、髭の警備兵さんに聞く。
「そうですね。もし従魔が人にケガをさせたら、私どもに連絡が来ますし、冒険者ギルドにも行くはずです。なんせこれだけの高ランクの従魔ですからね。何かあれば、アルブレンの警備兵と冒険者達を総動員しても太刀打ちできるかどうか。でも、貴女が正式に契約したという話以外は、まったくトラブルの話は聞いていませんので、おかしいとは思っていました。大方、子供の伝え方が悪かったか、母親が話の取り方を間違えたと思っていました」
 冷静な人で良かった。
「まあ、この従魔にケガをさせられたなら、大ケガどころじゃないでしょう。治療院からも何の連絡もありませんでしたしね。夜分に押し掛けて申し訳ありませんでした。これで引き上げます」
「いいんですか?」
「はい、まだ、言うようなら屋台の主人からも話を聞きますよ」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
 髭の警備兵さんは会釈してログハウスの敷地内から出ていく。
「良かったな、しっかりした人や」
「まあ、警備の上の人なんやろ」
 髭の警備兵さんを見送っていると、
『ユイ、コウタ、気を付けて』
『あの雌が突っ掛かって来るかもなのです』
 2人が警戒してきた。
「分かった、ビアンカ、ルージュは手は出さんよ。晃太も」
「なんで?」
「男が女に手を出したらいかん」
「姉ちゃん、正当防衛ってことにならん?」
「いいから、下がりい、何かあれば助けて」
 私は一歩前に出る。
「ふざけんじゃないわよッ」
 女性が制止を振り切りログハウスに突撃。
 はい、不法侵入確認。迎撃します。
 私は実は中高で柔道してました。その中で顧問先生が何度か護身術的な事を教えてくれた。

 相手が押して来たら引け、引いて来たら押せ。

 掴みかかる女性の袖を掴んで、下がりながら、一気に地面に向かって引き倒す。
  ずべしゃあッ
 あ、結局派手に転けた。
 なんか、簡単に引き倒せたけど。あ、そう言えば私レベル36だった。ディードリアンさん情報なら、レベルが20を超えた辺りから、基礎能力、腕力とかに追加補正があるから、多少は強いわけか。
 女性はまともに地面に突っ込んだが、必死に起き上がる。
「何すんのよッ、見たでしょッ?」
 髪を振り乱し、後半は髭の警備兵さんに言っているが、当の警備兵さんは呆れ顔だ。
『なんだか醜いのです』
『唸る気にもならないわ』
 ビアンカとルージュが軽蔑したような声。
「ええ。見ましたよ。あなたが不法侵入して、テイマーの女性に危害を加えようとしたと」
 髭の警備兵さんが冷静に答える。
「不法侵入? 何を言ってるのよッ? こいつらさっさと殺さないからでしょッ」
 立ち上がろうとするが、ビアンカとルージュが無言で上から見下ろしているために、後ろにずり下がる女性。
「危害も加えない従魔にそんなことできません。拘束したいので、入ってもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
 髭の警備兵さんは、数人の部下と共に敷地内に入り。女性を立たせる。
「触らないでよッ、あっちが悪いんでしょうッ」
 引きずられていく女性。
「本当にお騒がせしました。あの女性に対しての処遇ですが。不法侵入と傷害の現行犯でよろしいですか?」
「不法侵入だけで構いません。そちらの正式な法で対応お願いします」
「分かりました」
 髭の警備兵さんは再び会釈して、部下と喚き散らす女性を連れて帰って行った。あ、野次馬がいる。
「なんか、あの親子みたいやなあ」
 晃太が呟く。
 誰かなんて言わなくても分かるけどね。
「ほっとき。ビアンカ、ルージュありがと、お疲れ様」
『何もしてないのです』
『そうね』
 この2人がいたから、強気でいられたのは事実だ。
「さ、入ろう。お母さん達心配しとるはずやけん」
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