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生活環境③

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『お金になりそうなのですか?』
『猪は今日食べれるの?』
「はいはい、大丈夫よ。お金になるから大丈夫よ。ただね、お肉に関してはお父さんの鑑定待ちよ」
 魔物のお肉だからね。念には念を入れよだ。蛇は無理だが、まあ、食べれるならボタン鍋くらいなら大丈夫かなって。
『そのまま食べれるのです』
『私達、そのままでも食べれるわ』
 さすが野生。
 だが、私の家族、従魔になったのなら、生より美味しく栄養たっぷりに食べて頂こう。
「お母さんの手にかかれば、もっと美味しくなるよ」
『そうなのです?』
『なら、待つわ』
「ありがとう二人とも」
 よし、ディレックスで鍋の野菜を買わなくては。
「ひーッ、ご主人の方ーッ」
「は?」
 悲鳴が上がる。
 慌てて振り返ると、ビアンカとルージュが屋台を覗いている。え、さっきまで隣を歩いていたのに、1秒くらいで移動してるよ。覗いている屋台はお肉を焼いてる。
「こらこらこらこらこら」
 私と晃太は慌ててビアンカとルージュを捕まえる。
「なんばしようと、ダメよ、お金払っとらんとよ」
『食べてないのです』
『小腹が空いたわ』
「もうすぐ着くけん、我慢しい。すみません」
 私と晃太は叫んだ店主にペコペコ。
「さあ、帰るよ」
 押すが、びくともしない。
「帰るよ、ほら」
 私の説得を聞いてくれたのか、するりと動いてくれた。
 良かった。
 動いてくれたビアンカとルージュは改めてお座りしてる。
 そして、やおら、左前足を出して、次に右前足を出す。
 ん? ん? ん?
 左前足を出して、右前足を出して。
『効いてないのです』
『もう一度してみましょう』
 左前足を出して、右前足を出して。
 あ、花の必殺技、エアーお手とエアーおかわりだ。
 いつ、覚えたん?
 てか、デカイビアンカとルージュが、繰り返してエアーお手、エアーおかわりをしている。
 でっかい蛇やら猪やら狩って来た、とっても強いフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーが、必死にエアーお手、エアーおかわりをしている。屋台のお肉欲しさに。私の言い付け守って勝手に食べないで、おねだりしてる。
 か、かわいかぁぁぁぁぁぁぁぁッ
 多分晃太も、そんか感じだ。プルプルしながら口が尖る尖る。
「姉ちゃん、ちょっと買っちゃらんね?」
「そやなあ」
 はい、陥落します。ダメな飼い主の代表だ。
「ビアンカ、ルージュ、どれくらい欲しいと?」
 私がそう言うと、ビアンカは尻尾をぶんぶん。ルージュは目を見開いている。
 もう、かわいかねえ。
『全部食べたいのです』
『食べたいわ』
 ジリジリ迫って来る。
「すみません、今焼いているお肉、全部いただいてもいいですか?」
 店主に声をかけると、驚いた顔をしたがすぐに反応。
「はい。ありがとうございます。1枚、500です。10枚なので5000です」
 よく見たら、クリスマスの時のローストチキンみたいだ。ちょっと大きめだが、骨、ダメよね。
「ねえ、骨外す?」
『大丈夫なのです』
『これくらい砕けるわ』
 そんな牙してるからね。
 屋台は焼いたお肉を紙に包むタイプだ。
 5枚ずつだけど、紙はちょっとね。だが、私はあいにく皿はもっていない。
「晃太、皿ある?」
「持ってなか」
 仕方ない。近くの店で皿を購入し、お金を払ってお肉をのせてもう。
 骨ごとパクパク食べるビアンカとルージュ。なんだか柔らかそう。
「あれは、なんのお肉ですか?」
「ウサギのももですよ。うちの肉は厳選し、特製のハーブソースに漬けて焼いてますから臭みが少なく、柔らかいんです」
 屋台の主人は少し誇らしいように説明してくれる。
「へえ。美味しいそう」
「まだ、焼きましょうか? ちょっとお時間かかりますが」
「いえ、大丈夫です」
『まだあるなら、食べたいのです』
『食べたいわ』
 ペロッと口を舐めてるビアンカとルージュ。空になった皿を舐め始めようとする元気達。慌てて皿を取り上げて、晃太のアイテムボックスへ。危ない危ない、まだ、お乳なのに。
「なあ、姉ちゃん、焼いてもらったら? アイテムボックスに入れとけば焼きたてのままやし」
「ん? そうやねえ」
「それに、いつも作るのはお袋大変やしさ。ある程度買っておかん?」
「確かに、そやなあ」
 異世界への扉や異世界のメニューの値段は向こうが基準だ。こちらの方が同じサイズのパン(カンパーニュみたいなの)でも安価だ。野菜にしてもそうだ。そうだね、パンとかにこのウサギ肉を挟めばかさましになるし。肉ばっかりだと、お金がいくらあっても足りない。
 よし。
「ひーッ、ご主人の方ーッ」
 悲鳴が上がる。
 違う屋台で悲鳴が上がる。
「あ、すみません、後で来ますので出来るだけ焼いてください」
「ありがとうございます」
 屋台の主人にお願いして私と晃太は覗き込むビアンカとルージュの確保に向かった。

 結局、あれから魚のソテーみたいなのと、野菜とウサギ肉の炒めたもの、バケットやカンパーニュみたいなパンをたくさん買った。
『食べれないのですか?』
『一口、一口』
 ログハウスに戻った時にはかなり時間がかかっていた。
「と、言うことで、屋台でいろいろ買ったんよ」
 ビアンカとルージュが散歩がてらにいろいろ捕ってきて冒険者ギルドに持ち込んだことも説明。蛇はスルー。母が大嫌いだからね。
「猪と亀ね。お父さんの鑑定待ちやね」
「今からもらいに行ってくるけん、元気達はよろしく。たくさん遊んだけん、疲れとると思うんよ」
「分かった。おいでみんな」
 ミルクを出した母が呼ぶと、わさわさと寄っていく5匹。花も寄っていく。
「晃太、冒険者ギルドに行こう。猪受けとらんと」
「ん」
 念のためルージュの魔法のカーテン発動。
「ビアンカ、ルージュは来てね」
 冒険者ギルドに戻る。
 買い取り窓口で声をかけると、すぐに分かってもらえた。まあ、後ろにビアンカとルージュがいるからね。
 カウンターにででん、と置かれた肉の塊。デカイ。そして多量だ。
「斑猪の半身です」
「あ、ありがとうございます」
 ビアンカとルージュがよだれを垂らしそうだから、直ぐに晃太のアイテムボックスへ。
「亀は明日の朝にはできるそうですが、残りの素材の買い取り価格については明後日の昼までお待ちくださいとのことです」
「分かりました」
 解体職員さんたち徹夜なのかな?
『ユイ、お腹が空いたのです』
『早く帰りましょう』
「はいはい、帰ろかね。では、明日伺います」
「お待ちしております」
 急かされて冒険者ギルドを後にする。
 あの頼んでいたウサギ肉の屋台で、持参した皿にのせてもらっていると、急にビアンカとルージュが唸り声を上げた。それも今まで聞いたことのない低音で。いきなり、ルージュが右前足で地面を激しく叩きつける。
「なん? どうしたん?」
『この童がユイに石を投げつけたのよ』
 牙を剥き、身を低くして唸り声を上げるルージュ。ビアンカも背中の毛を逆立たせて、牙を剥いている。
『私達の主人に、よくも石を投げつけたのですね。許さないのです』
 二人の視線の先には腰を抜かした10歳くらいの男の子だ。
「この子が?」
『この私の気配感知に間違いはないわ。しかもこんな近距離で、間違えようはない。この童、面白半分に石を投げつけたのよ。許さないわ』
  ぐるるるるる
 唸り声を上げるルージュ。
 石はルージュが叩き落としたのね。
「ストップルージュ。君、どうして石なんて投げたの?」
 私が聞くと、男の子は震えながらも大声で叫ぶ。
「石、投げてないッ」
 ちらっとルージュを見る。
『嘘だわ』
『誤魔化すことなんてできないのです』
 うん、きっとビアンカとルージュの言うことが正しいのだろうな。ビアンカやルージュを連れた私に面白半分で石を投げつけたのだろう。
 私はため息をつく。
 ビアンカとルージュが唸り出したので、一斉に人が引いている。
「ねえ、君、人に石を投げるって、意味分かる? 故意に怪我をさせることなんよ」
「投げてないッ、そっちのウルフとジャガーに投げたんだッ」
「投げたことには変わらないでしょうが。これが野生だったらどうする気? ケガじゃすまんとよ。ビアンカとルージュは私との約束守って、故意に人を襲わない。賢いんよとっても」
「魔物だッ」
「だから?」
 私はなんだかいらいらしてきた。自分が仕出かしたことに、言い訳して逃れようとしている。子供とはいえ見苦しい。
「魔物だからなに? 知らない人に石を投げるようなバカなことをするような子に、言われる筋合いはないわ。君、今は言い逃れ出来てもね、いずれ痛い目みるわよ。その態度を改めなさい」
 私はちょっと強めに言うと、男の子は何とか立ち上がり、逃げていく。全く。まあ、ちょっと大人げなかったかな。
「大丈夫ですか、ご主人」
 屋台の主人が心配して聞いてくれる。
「はい、頼もしい従魔のおかげで」
「いやあ、あれであの坊主も反省すればいいですがね」
 屋台の主人曰く、なかなか有名な悪童のようだ。人に石を投げる、屋台の中に入り込み商品を触り、引っ掻き回す。目を盗んで小さな品を盗る。え、万引きじゃん。
「盗むことは別の誰かにやらせているんですよ。気の弱い子とかにね」
 子供ながらに性質悪いな。
「親は? 知らんぷりですか?」
 屋台の主人は苦い顔をする。
「その親が問題なんですよ。母親の父親、坊主にとってはじいさんですね。それがどっかの町のギルドの偉い地位にいるみたいで、坊主が何をやっても知らぬ存ぜぬ。しかも坊主は被害者だと言いがかりまでつける始末で、手に負えません。まあ、それでもいろいろあって前の町にいられなくなってこっちに流れて来たんです」
 話を聞いて華憐親子が浮かぶ。うわあ、なんかデジャブ。
 この世界の引っ越しにはお金がかかるし、危険が伴う。よく流れてこれたね。どこの世界にもいるんだね、華憐みたいな親子。
 屋台の主人は皿にお肉を山盛りにしてくれる。美味しそう、よし、今のことは忘れよう。うん、1枚くらい食べてもいいかな? 全部で16枚、8000だ。金貨を出して銀貨2枚もらう。横からビアンカとルージュが食べようとするので、直ぐにアイテムボックスに。
「ありがとうございます。たぶん明日も来るかも」
「お待ちしております」
 屋台の主人は笑顔を返してくれた。
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