かぐや姫奇譚?ー求婚者がダメンズばかりなんですがー

青太郎

文字の大きさ
上 下
21 / 31

21 魂離る(玉離る)-たまさかる-

しおりを挟む

石作皇子の件が落ち着いた頃、車持皇子も帰京の準備をし始めた。

蓬莱の玉の枝もそろそろ完成は近い。

最高品質の素材と職人達の技術の結晶が混ざり合い蓬莱の玉の枝は素晴らしい作品へ仕上がりつつある。

繋ぎ目等も見えず、いかにも植物らしい曲線と柔らかい生を感じさせる枝木や葉、そして瑞々しく輝く大きな真珠の玉は正に本物にしか見えない。

何も知らずにこの蓬莱の玉の枝を見たならば信じてしまうこと間違いない。

そして、車持皇子が側近と共に書いた冒険譚も無事終わりが見えたようだ。

-「やはり、結末は美しい姫と富と名声を手に入れて終わるのが一番良いな」-

と話している言葉が聞こえ、何故だか背筋が一瞬寒く感じた。

あくまで創作物の結末の話であるはずなのに。


数日後、車持皇子は出港の時のメンバーで再び船に乗り、帰路へと旅立った。

拠点にて仕えていた者達も役目を終えた為、せっせと帰京の準備を進めている。

職人達だけがそのまま何の支持もなく放置されている。

いやいや、今回一番の功労者だろ。

気の毒だったので、無事に都へと帰って来れるように貴人の方に馬を手配して貰った。

さすが、宮中に仕える者は職人でも馬に乗れるらしく結果的に車持皇子達よりも早く帰って来れたようだ。




-「旅に出ていた彼の方がお戻りなられた!誰か家人へ報告を!」-

予想していた日から2~3日遅れて車持皇子御一行の船が港へと到着した。

ずっと前に旅立って、そろそろ忘れさられつつあった船が戻って来た事で港は軽く騒ぎになっている。

船が港につけられ、下船する頃には周りからとてつもなく注目を集めていた。

皆草臥れた様子で船から降り、帰港出来た事を喜んでいる。

その姿は演技に見えない。

…きっと、また船酔いで途中途中に寄り道され、苛立ちをぶつけられ、予定通りに進む事も出来ずに短い筈の船旅が倍以上になってしまった為に本当に疲れているのだろう…。

車持皇子本人も船酔いの為かゲッソリとして顔色が悪く、それが過酷な旅の信憑性を増している。

-「き、貴重な花を手に入れたぞ…」-

演技ではなくフラつきつつ港に居る者達へとアピールする車持皇子。

無理矢理作った引き攣った笑顔でみんなに向かって話すが、声に元気さも爽やかさもない。

しかし今はそれが皆からの同情を誘い、逆に好意的に捉えられている。

-「…い、今まで、見た事もない花を…手に入れた」-

力を振り絞って精一杯な声でそう言うと蓬莱の玉の枝をみんなに掲げてみせる。

-「…!おい、すごいぞ」-

-「あれ、本物か?」-

-「…なんだ、あれ?」-

-「…花?…植物か?」-

美しい蓬莱の玉の枝に周りが騒がしくなってきたところでサッと片付け、側近に支えられながら去っていく。

演出としては素晴らしい出来だったと思う。

集まっていた聴衆はすっかり本物だと信じているようだ。

『小賢しい真似を…』

お姫様は職人達に対しての扱いが悪い事でずっと不機嫌だった。

そんな中でみんなが奴を讃えている様子が更に気に入らないようだ。

「まぁまぁ、どうせすぐに偽物だってバレるだろうし…今くらいは良い気分を味わせてやろうぜ…」



…なんかセリフが小物っぽいな、俺…。

自分の小物感は置いておき、ひとまずお姫様を宥めて屋敷へと帰る。

その内あっちからやってくる筈なので迎える準備をしておこう。


車持皇子は港の近くで一泊してから都へと帰って来たようだが、翌日自分の屋敷へと帰る事もなく我が家へとやって来た。

車持皇子が船で帰った事は既に噂になっている。


「かぐや、何と車持皇子殿が蓬莱の玉の枝を持って帰ってそのまま我が家にいらしたのじゃ!」

何やら騒がしいと思っていたら、大興奮の爺さんが細長い櫃を持って部屋にやって来た。

俺はダラダラと横になっていた姿勢を直して座り直す。

手に抱えた櫃を俺に渡すので受け取って蓋を開ける。

そこには職人達の汗と涙の結晶である蓬莱の玉の枝。

「これは…すごい…」

思わず声がもれた。

見事な迄の職人技。別に目利きでもなんでもないが、その細密さと美しさは素人でも思わず感嘆してしまう程の出来だ。

『これは素晴らしいですね』

お姫様からも含みのない素直な賛辞の言葉が聞こえる。

感嘆する俺の様子を見て爺さんは何を勘違いしたのか嬉しそうにしている。

「良かったのぉ。なんと、旅から戻ってそのままここに来られたそうじゃ。」

ニコニコしたまま懐から手紙を差し出す。

「一緒にこちらも預かったのじゃ。」

「…アリガトウゴザイマス」

引き攣った笑顔で手紙を受け取る。

そっと開くと中には読めない文字。

『…命を懸けて採ってきたと書いてありますね、図々しいこと…』

命を懸ける程に頑張っていたのは、むしろ職人達だろう…

遠い目をしている俺を見て何を思ったのか爺さんはいそいそと俺の手を引いて車持皇子の元へと案内しようとする。

「かぐやも驚くほどの物を命を懸けて持ってくるとはなんとも素晴らしい事じゃ。
車持皇子殿には、あちらの部屋に上がって頂いておるからのぉ」

爺さんは俺を車持皇子の元へと連れて行きたいようだが、優しく爺さんの手を外し脇息に肘を乗せて頬杖をつく。

こいつ思ったよりも行動が早いな…本当ならばもう少し揃えて迎えたかったのだが…仕方がない。

「お爺さん、何か失礼があってはいけませんので貴人の方にお声をかけましょう。」

ひとまず貴人の方を収集しよう。

「…それと、車持皇子殿のお屋敷にもこちらにいらしている旨を一応お知らせした方が良いのではないですか?」

まだ屋敷に帰っていないのなら、既に帰って来ている職人達にも会っていない筈だ。

内密の依頼だった為、職人達はきっと報酬を受け取っていないだろう。

アイツの屋敷に知らせれば、職人達も直接本人へと確認するためにこちらに向かうかもしれない。

「おぉ、確かにその通りじゃな…」

「誰かに使いを頼みましょう」

そして、爺さんはぜひ時間稼ぎの為にも車持皇子のお相手をお願いしたい。

「どうやって…この素晴らしい蓬莱の玉の枝を手に入れたのか聞きたいですね」

「おぉ、そうじゃのぉ。ぜひ聞かせて頂こう」

素直な爺さんは子供のようにウキウキとしている。

こんな純粋な爺さんに一体どんな作り話をしてくれるのだろうか。

俺はある意味、挑むような気持ちで車持皇子の元へと向かうことにした。

『その話…わざわざ聞く必要ありますか…?』



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

処理中です...