かぐや姫奇譚?ー求婚者がダメンズばかりなんですがー

青太郎

文字の大きさ
上 下
5 / 31

5 至れり尽くせり

しおりを挟む
午後になり、爺さんが帰ってきた。

「婆さんや、婆さんや」

また、慌てた様子でボロ屋に帰ってきたが、また金でも見つけたのだろうか。

婆さんはぱたぱたと爺さんのトコロへと駆け寄る。

「まぁまぁ、今度は一体どうしたのですか?」

婆さんが少し驚いた様子で爺さんに聞く。

「婆さんや、…なんと屋敷を譲って貰ってしもうた…」

「…?」

「…何ですって?」

婆さんが聞き直す。

俺も意味がわからないのでぜひ説明して欲しい。

「実はな、家の修繕を頼みに行ったんじゃが…話をちっとも聞いて貰えんで困っておったんじゃ。」

あぁ、爺さん小汚いままだし金持って無さそうだもんな…。

婆さんも少し悲しそうに聞いている。

「そしたらそこに貴人の方が現れてな…わしに境遇を尋ねてこられたのじゃ。」

「まぁ…。貴人の方なんて大丈夫なのですか…?」

婆さんは何やらハラハラとしている。

貴人とは何やら身分の高い人の事っぽいが…
…そんな奴が何故小汚い爺さんに話しかけるんだ?

「わしもどうすれば良いかわからんかったが、…何とかかんとか、娘が出来てお金が出来たから娘の為に家をなんとかしたいと言うたんじゃ。」

「…まぁ…」

「そしたら、ちょうど手放す予定の屋敷があると言われてな。…美しい娘なら、ちゃんとした屋敷を準備した方が良いと言われてしもうて…
…もしワシらさえよければ譲ってくださると言うんじゃ…」


え、爺さん騙されてないか?
そんな奴が何故小汚い爺さんにわざわざそんな話をするんだ?
…明らかに怪しいだろ。

俺がハラハラと爺さんの話を聞いていると今日は何故か口数の少なかったお姫様が話し始めた。

『段取りが遅いですね…。
…本来なら既に引っ越した状態で受け入れるべきだったのに…』

「え、まさか屋敷を譲ってくれたのって天界の人なのか?」

驚いてつい呟いてしまったが、爺さんと婆さんは話に集中していて俺の声には気付かなかったようだ。

『その者が天界の者かどうかはわからないですが、おそらくは環境改善の処置の可能性が高いです』

おぉ、至れり尽くせりって感じだな。

…だが、コレで本当にお姫様は罪を償えているのだろうか…?

まぁ、とりあえず優しい爺さんと婆さんが騙されているのではないなら良かった。

俺はホッとしつつ爺さんと婆さんの話を再び聞くことにした。

「わしもタダで貰うわけにもいかんと思ってこの筒に入った金を渡そうとしたんじゃが…」

爺さん、金をそのまま持って行ったのか…危なくね?

爺さんの話に不安を感じ始めたのだが…それはまだ序の口だった。

「それを見ていた他の者が訊ねてきてな…。
その金をどうやって手に入れたか聞かれたもんで、娘の言う通り探したら見つかったと言ったんじゃ。」

…。

…爺さん正直に言い過ぎじゃないか?

「そうしたらの、どんな娘だの幾つだの煩くなってしもうたからの、…みんなに聞こえるよう大きな声で、見た事も無いほど美しくて優しい賢い娘じゃと言ったのじゃ。」

「…おじいさん、そんな事言ったらみんなこの娘を見たくなってしまいます…」

婆さんも少し困った声で相の手を入れる。

「その通りじゃ。…みんな見せよ見せよと言い出してのぉ。困り果てておったら貴人の人が助けてくれたのじゃ」



もはや、爺さんの話のどこに突っ込めば良いのかがわからない…。

『まぁ、年頃の娘を見せよだなんて、下界は品性のない者ばかりですね』

「…」

遠い目をして聞くしか出来ない俺に気付く事なく、爺さんは婆さんに一生懸命話続ける。

「…貴人の方がみなに向かっておっしゃったのじゃ。『娘を見たいのなら、正式な手続きをすると良い』と。」

正式な手続きとは?

「あら、まぁ…正式な手続きとは何ですかね?」

婆さんが聞いて欲しい事を聞いてくれる。

「それがの…文を送り正式に婚約を申し込む事らしくてのぉ…」

「…お爺さん、…文読めたのですか?」

婆さんはもはや不安しかなさそうな顔をしている。

「いや、それが読めんからのぉ、それを貴人の方に申し上げたのじゃ。」

「まぁ…」

「…そしたら、そういった事にも相談にのるから安心して引越すと良いと言うてくれたんじゃ」

天界からのアフタフォローバッチリ過ぎだろ…。


「しかし、それを聞いた者達がお金もお屋敷もあって美しいのならぜひ縁を結びたいと言い出してな…」

「まぁ…」

「何とか文を用意したら持っていくと言う者達がうるさくてな、まだ小さいで嫁は早いとは言ったんじゃがのぉ…」

「まぁ…」

「…貴人の方からも、やはり娘の為にも早めに家を移るように強く勧められてしもうてな…」

『私は結婚適齢期だと思うのですが、下界ではまだ早いのですね…』

小さいの意味が違うと思うのだが…。

…そもそも、このお姫様はいくつぐらいなのだろうか。

「…その貴人の方が迎えの牛車まで用意してくれると言い出してのぉ、…どうもしばらくしたら迎えの牛車を家まで寄越してくれるみたいなのじゃ…」

「…まぁ、なんと」

「…」

なんと。


それから程なく、何やら立派そうな牛車がボロい家の前まで本当に迎えにきた。

『網代車ですか…まぁ、仕方ないですね』

お姫様は何やら言っていたが、俺は爺さん手作りのエジコに入っての移動となる。

もちろん俺には持ち物なんてない。

爺さん達も、ボロい家から持っていく物なんてあるのかと思いきや、婆さんは反物が入っていた小汚い籠を、爺さんは竹取り用の道具を大切そうに運んでいた。

『新しいものを買えば良いのに…』

お姫様には爺さん婆さんの大切な物が不思議に感じるようだ。

「…思い入れのある物はそんなに簡単に捨てられないんだよ。」

『…』

お姫様には価値に関係なく思い入れのある物はないのだろうか。

ちなみに俺は、今入っているこのエジコにも既に愛着が湧いてきている。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ずっとあのままでいられたら

初めての書き出し小説風
恋愛
永遠の愛なんてないのかもしれない。あの時あんな出来事が起きなかったら… 同棲して13年の結婚はしていない現在33歳の主人公「ゆうま」とパートナーである「はるか」の物語。 お互い結婚に対しても願望がなく子供もほしくない。 それでも長く一緒にいられたが、同棲10年目で「ゆうま」に起こったことがキッカケで、これまでの気持ちが変わり徐々に形が崩れていく。 またあの頃に戻れたらと苦悩しながらもさらに追い討ちをかけるように起こる普通ではない状況が、2人を引き裂いていく…

転生したら災難にあいましたが前世で好きだった人と再会~おまけに凄い力がありそうです

はなまる
恋愛
現代世界で天鬼組のヤクザの娘の聖龍杏奈はある日父が連れて来たロッキーという男を好きになる。だがロッキーは異世界から来た男だった。そんな時ヤクザの抗争に巻き込まれて父とロッキーが亡くなる。杏奈は天鬼組を解散して保育園で働くが保育園で事件に巻き込まれ死んでしまう。 そしていきなり異世界に転性する。  ルヴィアナ・ド・クーベリーシェという女性の身体に入ってしまった杏奈はもうこの世界で生きていくしかないと心を決める。だがルヴィアナは嫉妬深く酷い女性で婚約者から嫌われていた。何とか関係を修復させたいと努力するが婚約者に好きな人が出来てあえなく婚約解消。そしてラノベで読んだ修道院に行くことに。けれどいつの間にか違う人が婚約者になって結婚話が進んで行く。でもその人はロッキーにどことなく似ていて気になっていた人で…

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

処理中です...