いや、あんたらアホでしょ

青太郎

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追放劇後

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「お前は、自分が一体何をしたのかわかっているのか!!」

「…ち、父上、落ち着いて下さい…」

「落ち着けるはずがないだろう!この馬鹿息子め!お前なんぞ、もう息子でもなんでもないわ!!!」

「…そ、そんな…待って下さい」


「…どうして!どうしてなの!」

「…は、母上…どうか…落ち着いて…」


さっきまで得意げだった顔は父親からの怒声と共に消え去り、今は酷く焦った様子で両親を宥めていた。

「…ち、父上、話を聞いて下さい」

「話だと!お前、一体何をしたか…今日がどんな日かわかっているのか!早く!早く彼女を追いかけろ!」

「そうよ!なぜ…なぜよりによってこんな…あぁ…」

泣き出した母親と興奮し切った父親を前に先程までの堂々とした様子は皆無だ。

オロオロとする男の横から女が割り込む。

「お待ちください!」

若い女の声がしてそちらへと顔を向ければ、先程壇上で男の横にくっついていた女が必死の様子で男達の間へと割り込む。

「こ、これはすべてあの女が悪いんです!」

女の声と台詞に、放置され成り行きを見守っていた周囲一部の空気が冷たいものへと変わる。

しかし、彼女はそんな事には気が付かず自分の言い分を訴え始めた。


「彼は悪くありません!!…あの女は私に嫉妬して酷い嫌がらせをしていたのです!
私と彼が愛し合っている事を知ってからはそれはもう、酷い事をされたのです!!」

「…そ、そうだ!そうなんだ、父上!」

情けなくもオロオロとしていた男は女の言葉を聞くと少し元気を取り戻したのか女の言葉に便乗し始める。

「暴言を吐かれたり、彼からの贈り物を取り上げたり…酷い時には目の前で踏み付けられました!!」

「そうだ!僕の前では良い顔をして裏では平気で彼女を虐げていたんだ!!」

「…私はそれでも彼の為に我慢をしていたのですが、そんな女に彼の事は渡せないと強く思ったのです!!」

「あぁ、なんて健気なんだ…!僕にはやはり君しか居ない…」

「…そんな!当然の事です…」

「そんな純粋に思い続けてくれる彼女をこれ以上、待たせる事は……」

ドゴッ


「…き、キャァァァ…な、何するんですか⁉︎」

全てを言い切る前に伯爵家当主によって彼は思い切り殴り飛ばされた。

隣にいた女が慌てて駆け寄り殴り飛ばされた彼を支える。


「…お前は!今日が一体何の日か…わかっているのか!か、彼女がいなければ…今後…」

尚も言い募ろうとした伯爵家当主の横で伯爵夫人が女に目を向けて驚きの声を出す。

「…その女…お前!どうしてこんな所にいるの!あなた達、別れたのでは無かったの…⁉︎」

「…あ、いや…それは…」

以前、別れるようにと煩く言われていた事を思い出し気まずそうな顔をする男とは反対に女は正面から伯爵夫人を睨みつける。

「私たち、ずっと愛し合っていたのです!」

「…なんですって…?」

「あの女は私達のことをずっと知っていて…醜くも嫉妬していたのです!!」

「…そ、そうなんだ。…あいつは俺のことを愛していたようだったがな…俺には既に愛する彼女がいるから…醜くも嫉妬して…」

「…そうです!そんな醜い嫉妬に走るような女性は伯爵家には相応しくありません!…だからこそ、私たちは彼女を追い出す事に決めたのです!!」


彼女は自分が間違っているとは全く思っていないのだろう。

訴えるような叫び声が会場に響き渡り、会場は一瞬痛いほどの沈黙に包まれた。













そもそも、今回の事態を把握したり怒ったりする事よりも先に伯爵家としては今現在、この会場をどうにか処理する事の方が優先すべき事柄であった。

不足の事態などの理由を付けて最低限の体裁を整え、後日お詫びと共に今回の事情説明を伝えるのが通常の手順だ。

場所を移してゆっくりと事情を把握し、ある程度事態を収拾した所で伝えても良い情報を体裁を整えてお知らせするのが最善の処理であったのだが…

そんな事に伯爵家の者達が気が付くはずもなく、醜い言い合いを招待客の面前で堂々と繰り広げてしまった。

一部は伯爵家の醜聞を楽しそうに見物している者もいるが、ほとんどは呆れた様子の者ばかりだ。

そして、忙しい方々は伯爵家の人々に見切りをつけ、声を掛ける事もなく静かに会場を後にした。


…こうして伯爵家にとって名声を上げるはずのパーティーは、むしろ伯爵家の無能さを曝け出し、過去に残る程の汚名を残すパーティーへと変わってしまったのだった。


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