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悪妻
しおりを挟む私は彼等への対応を改める事にした。
どうしようかと考えていたその時、ふと彼女が周りに吹聴していた噂話のひとつが頭に浮かぶ。
『あの女、表では良い顔をしているけど裏でこんな酷い事をしているのよ…知れば彼だって愛想を尽かすに決まっているわ…』
偶々それを聞いてしまった時には頭痛を感じたが…なるほど。
彼女が言っていた通りに振る舞えば“男(彼)に愛される事のない女”になれるかもしれない。
私はその日から彼女が流した悪評の内容をそのまま実行する事にした。
彼の前ではわざとらしく笑顔を振り撒き、裏では彼女に対して辛く当たるようにした。
もちろん、裏と言っても彼がいる事を確認してからそれらを実行していたのだが。
彼女が私に言われたと言っていた暴言もそのまま使わせて貰った。
初めて私からの暴言を聞いた時、彼女は自分が周囲へと言っていた内容とソックリ同じセリフを言われた事への驚きで咄嗟に反応が出来なかったようだ。
…だが、その反応で正解だった。
下手に反抗したり言い返されては効果は半減だ。
彼女が内容を理解して怒り出す前に彼が登場した。
安っぽい正義感に酔いしれ、颯爽と彼女の前に立つと詳しい事情を聞く事もなく私を咎め立てたのだ。
そこまでは想定済みの反応であったし特に不満はない…
ただ…腑に落ちないのは、咎められた内容が“いくら自分の事を好きでもこんな愛の伝え方は困る”といった不可解な内容だった事だけは納得できない…
彼女は彼から庇われた瞬間ニヤリと笑うと悲劇のヒロインを演じ始めた。
ここまでお膳立てしてあげたのだから、ちゃんとガッツリ彼の心を掴んで欲しいと心から思った。
こうした事を何度か繰り返してみたのだが…
…なんと、予想以上に効果は抜群だった。
『…あんな女性だとは思わなかった』
『まんまと騙される所だった…』
と、彼女に話しているのを聞いた時には嬉しくて、1人祝杯をあげた。
ダメ押しとばかりに彼の嫌いなヒステリックな女性を演じ、ついでに彼女の身につけた彼からの(と、いう事にして私が手配した)贈り物を奪ったり目の前で壊してやった。
しばらくすると、
『やはり…私が心から愛してるのは君だけだ…』
と、彼女に言い出したので無事に本来の目的を思い出してくれたのだと思った。
その後、共通の敵(私)が登場した事により彼と彼女の熱はしっかりと再燃した。
その2人の様子を見て、私は心から安堵した。
彼等の事に奔走しつつも本来の仕事をサボるわけにもいかない。
結婚する前から薄々気が付いてはいたが…彼は猪突猛進な上にその場その場の意見に流されやすく、上に立つ者には向いていない。
その為、恋に夢中な間は他の事に手が回らない彼に代わり、私が代理で屋敷内も領地関係の仕事も全て代行していた。
とても忙しくて大変ではあったけれど私にとっては都合の良い状況だったのでそこに不満はない。
義両親との仲も良好を保ち、折々に贈り物をしたり、領地経営の報告と共にこちらでの彼の様子をそれらしく繕った内容のお手紙等を送っていたので、余計な横槍が入る事も無かった。
そんなこんなで約束の3年まであと1年を切った頃…彼等は私の追放劇を画策し始めたのだ。
そんな事をしなくても、元々3年で出ていく契約だったのに…
正直、彼等が最初の契約通りに進めてくれていたら、離婚歴や石女という汚名も被ってあげるつもりだった。
…しかし、ここまで契約の内容を忘れて好き勝手されては、もはや彼等の今後まで気を使う必要性を全く感じなくなってしまった。
私は契約…と、いうか約束事を軽んじる者は嫌いなのだ。
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