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プロローグ
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「お前とは離縁する!」
得意満面でそう言い放つ夫に思わずため息が出そうになった。
夫の隣に立つ女もこちらを見て、勝ち誇った顔をしている。
…たしかに私はその言葉をずっと待っていた…
…しかしよりによって、今日この場を選ぶなんて…
本日、我がお屋敷にて開かれたパーティーはとても大切なパーティーだった。
彼が背負うべき伯爵家が進めている数々の事業が、成功するか否かのとても重要な日であったのに…。
大切なパーティーなので、当然義両親や親族一堂が勢揃いしている。
更に伯爵家と関係のある大切な方々や本日を機会にこれから関係を築きたい相手や事業に興味を持った高位な方々も招待していた。
まさか、そんな日を選ぶなんて…
彼等が、前々から私を追い出す計画を立てている事は知っていた。
いや、知ってはいたけれど…それを今日この会場で決行するとは…
多少予測をしていない事もなかったけれど…その後の事を考えれば普通はやらない…
…いや、彼等はそもそも普通では無かったのだった…
それにしても、まさか本当に実行するとは…
…
…
…まぁ、しょうがない。彼等が選んだ道だ。
「…わかりました。私たちの関係がこのような形で終わることは残念ですが、貴方の意思を尊重致します」
ひとまず彼へと返事をすると少し離れた場所にいる義両親達は顔を真っ青にしている。
周りにいた人々は、突然の事態に好奇や興奮を浮かべたり、怒りや侮蔑を浮かべたりと様々な反応をしている。
私の冷静な態度に不服そうな本日の主役の2人から視線を外し、私は人々へと向かい声を張る。
「…この様な場での突然のご報告となり、誠に申し訳ありません。私たちは彼からの希望により別々の道を歩むこととなりました」
私のキッパリとした発言に会場はいつの間にか静まり返っていた。
これなら、よく響いて聞き取り易いだろう。
「ここに、私たちが夫婦の縁を切ることを宣言いたします。皆様には、この決断の証人となっていただきたくお願い申し上げます。
…また、最後にこれまで私を支えてくださったすべての方々に感謝の気持ちとお礼を述べさせて頂きます。
ありがとうございました。
私はこの家の者ではなくなりますので今後事業に関わることはありませんが、皆様の今後の発展とご多幸をお祈り致します」
私は出来る限り美しくカーテシーをするとそのまま颯爽と会場を後にする。
去る時にチラリと見えた視線の先には赤い顔をした元義父と真っ青な顔の元義母が元夫と彼女の所に駆けつける様子が見えた。
大きく開いていた扉は私が退出するのに合わせてバタンと閉じられる。
閉めた扉の向こうから人々の騒めきや誰かの怒声が聞こえた気もするが、私にはもう関係のない出来事だ。
扉から退場すると、屋敷の者たちが私の元へと静かに駆け寄ってきた。
「…奥様!大丈夫ですか?」
心配そうな顔をする屋敷の者達に私は笑顔で返答をする。
「ふふ…もう奥様ではないのよ」
私の爽やかな笑顔に皆の顔に安堵の笑顔が浮かぶ。
「私はこのまま屋敷を出るわ。あなた達も今後は自分の事を大切にしてね…」
「おく…お嬢様…」
「…あなた達は素晴らしい人材よ。今後、この領地だけでなく他の領地でも重宝されるだけの能力を持ってるわ。
…だから、今後の事は自分の思うように…好きに生きて頂戴ね」
それだけを皆に伝えると、泣きそうな彼女達をそこに置いたまま足早にその場を後にする。
「…お嬢様…ありがとうございました…」
後ろからは口々にお礼の言葉が聞こえて来た。
私は後ろを振り返る事もなく…そのまま荷物を取りに自分の部屋だった場所へと足を進めた。
仲の良かった屋敷の者達には大分前から伝えてあったのだ。
元々、3年で離縁する予定での結婚だった事を。
その為の準備も既に終わっていた。
私は離縁後の事を常に考えて動いていたのに…どうやら、彼は3年の約束自体をすっかり忘れているようだ。
もう、付き合っていられない。
私は自由だ。
予定は少し早まったけれどお金も今後の事も準備は充分出来ている。
もう、あの阿保達がどうなろうと私には関係ない…
得意満面でそう言い放つ夫に思わずため息が出そうになった。
夫の隣に立つ女もこちらを見て、勝ち誇った顔をしている。
…たしかに私はその言葉をずっと待っていた…
…しかしよりによって、今日この場を選ぶなんて…
本日、我がお屋敷にて開かれたパーティーはとても大切なパーティーだった。
彼が背負うべき伯爵家が進めている数々の事業が、成功するか否かのとても重要な日であったのに…。
大切なパーティーなので、当然義両親や親族一堂が勢揃いしている。
更に伯爵家と関係のある大切な方々や本日を機会にこれから関係を築きたい相手や事業に興味を持った高位な方々も招待していた。
まさか、そんな日を選ぶなんて…
彼等が、前々から私を追い出す計画を立てている事は知っていた。
いや、知ってはいたけれど…それを今日この会場で決行するとは…
多少予測をしていない事もなかったけれど…その後の事を考えれば普通はやらない…
…いや、彼等はそもそも普通では無かったのだった…
それにしても、まさか本当に実行するとは…
…
…
…まぁ、しょうがない。彼等が選んだ道だ。
「…わかりました。私たちの関係がこのような形で終わることは残念ですが、貴方の意思を尊重致します」
ひとまず彼へと返事をすると少し離れた場所にいる義両親達は顔を真っ青にしている。
周りにいた人々は、突然の事態に好奇や興奮を浮かべたり、怒りや侮蔑を浮かべたりと様々な反応をしている。
私の冷静な態度に不服そうな本日の主役の2人から視線を外し、私は人々へと向かい声を張る。
「…この様な場での突然のご報告となり、誠に申し訳ありません。私たちは彼からの希望により別々の道を歩むこととなりました」
私のキッパリとした発言に会場はいつの間にか静まり返っていた。
これなら、よく響いて聞き取り易いだろう。
「ここに、私たちが夫婦の縁を切ることを宣言いたします。皆様には、この決断の証人となっていただきたくお願い申し上げます。
…また、最後にこれまで私を支えてくださったすべての方々に感謝の気持ちとお礼を述べさせて頂きます。
ありがとうございました。
私はこの家の者ではなくなりますので今後事業に関わることはありませんが、皆様の今後の発展とご多幸をお祈り致します」
私は出来る限り美しくカーテシーをするとそのまま颯爽と会場を後にする。
去る時にチラリと見えた視線の先には赤い顔をした元義父と真っ青な顔の元義母が元夫と彼女の所に駆けつける様子が見えた。
大きく開いていた扉は私が退出するのに合わせてバタンと閉じられる。
閉めた扉の向こうから人々の騒めきや誰かの怒声が聞こえた気もするが、私にはもう関係のない出来事だ。
扉から退場すると、屋敷の者たちが私の元へと静かに駆け寄ってきた。
「…奥様!大丈夫ですか?」
心配そうな顔をする屋敷の者達に私は笑顔で返答をする。
「ふふ…もう奥様ではないのよ」
私の爽やかな笑顔に皆の顔に安堵の笑顔が浮かぶ。
「私はこのまま屋敷を出るわ。あなた達も今後は自分の事を大切にしてね…」
「おく…お嬢様…」
「…あなた達は素晴らしい人材よ。今後、この領地だけでなく他の領地でも重宝されるだけの能力を持ってるわ。
…だから、今後の事は自分の思うように…好きに生きて頂戴ね」
それだけを皆に伝えると、泣きそうな彼女達をそこに置いたまま足早にその場を後にする。
「…お嬢様…ありがとうございました…」
後ろからは口々にお礼の言葉が聞こえて来た。
私は後ろを振り返る事もなく…そのまま荷物を取りに自分の部屋だった場所へと足を進めた。
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元々、3年で離縁する予定での結婚だった事を。
その為の準備も既に終わっていた。
私は離縁後の事を常に考えて動いていたのに…どうやら、彼は3年の約束自体をすっかり忘れているようだ。
もう、付き合っていられない。
私は自由だ。
予定は少し早まったけれどお金も今後の事も準備は充分出来ている。
もう、あの阿保達がどうなろうと私には関係ない…
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