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最終話

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ずっと待っていた…。

ずっと。

…ついに待ちに待ったこの時に、彼女へと結婚を申し込んだ。

「こんな時に言うのは卑怯かもしれないが、ずっと君が好きだった…結婚を「ごめんなさい。」」
…。

「…まだ、直ぐに返事はしなくても「ごめんなさい」…。」

…あれ?

「…。「ごめんなさい、無理です。」」

…。

…断られるにしても、こんなハッキリ断られるような反応は予想していなかった。


「大変申し訳ありませんが、私はもう結婚する気はないのです。」

「…今すぐ考えなくても「申し訳ありません。」」
…。

せめて最後まで言わせて欲しい…。


「もし、兄のように思っているのなら君の気持ちが変わるまで待つつもりだ。」

良かった。言えた。


「…多分、気持ちが変わる事はないと思います。」

彼女は私の目を見てハッキリとそう言った。


きっと、変に期待を持たせない為ワザとハッキリ断ったのであろう。

しかし、その気遣いに泣きそうになった。


まさかここまではっきりと断られるだなんて考えていなかった…


…しかも、結婚する気がないだなんて…


…ずっと、ずっとオモッテイタノニ。


こんなにハッキリと断るなんて、私にはカケラも興味がないのだろうか…。



…それとも…まさか




…彼女は私がしていた事をシッテイルノダロウカ…?(知りません)







彼女は小さな頃から可愛らしかった。

叔母上についてよく王宮に来ては数日滞在していった。

赤ちゃんの頃は確かに可愛くは思ったが然程興味はなかった。

…興味が出始めたのは、歩けるようになり始めてからだ。


小さな体でちょこちょことよく動き表情をクルクルと変える。

泣いたり怒ったりと忙しいが基本はよく笑っていた。

彼女は他の子では見た事のない行動をとる事が多く見ていて飽きない。

歩き出すと可笑しな行動をし始めた。

最初に気になった行動はよくペコペコと頭を振る動きだ。

他人に会うとペコリ。

他人に会うとペコリ。

一体何をしているのかと見ていればどうも挨拶をしているつもりらしい。

カーテシーの真似でもしているのかと思ったが不恰好なカーテシーが出来るようになってからもやっていた。


侍女や護衛、使用人等に会ってもペコリペコリと頭を振る。

頭の振りすぎで疲れないのだろうかと心配になった。

なぜ頭をペコリと振るのだろう?



喋りはじめると更に興味深くなった。

口癖は『あーと』。

何のことかと思っていたらなんとお礼の言葉だった。

『ありがとう』と、言っているつもりらしい。

これまたちょっとした事ですぐに使う。

侍女に服を着せられれば『あーと』

汚した口を拭かれると『あーと』


貴族には、使用人を気に留める者などいないのに、彼女は貴族、王族、侍女、護衛、使用人すべて同じように沢山のお礼を口にした。


…こんなに感謝を示す者なんて周りでは見た事ない。

一体何を考えてやっているのだろう。


「君はこんなに小さいのに面白いね。」

思わず声を掛けたが意味がわからなかったのかキョトンとしていた。

その無垢な様子に気持ちが揺れた。


彼女の世話を任された侍女や護衛など様々な使用人達が毎回頭をペコリペコリと振りつつ挨拶される。

何かするたびに『あーと』とお礼を言われる。

その可愛い仕草と言葉に仕事以上に皆大切にするようになった。


国王である父上達も例外ではない。

彼女は元気に動き回るがうるさくない。

従兄弟である叔父上の子供達はうるさくてしょうがないのに。

女の子だからかと思ったが、交流の為に会った他の子供達は皆うるさかった。

誰かが何かをしている時にも彼女は騒がしくはしない。

興味がある時はそっと静かに近寄って様子を伺う。

相手が大丈夫だと確認してから話し始める。

ひとつひとつの行動に意味がない様で意味がある。

あの小さい頭の中はどうなっているのだろう。





婚約者候補の女の子達との交流が始まった。

交流会で会うまだ我慢する事さえ覚えていないような女の子達は子供でも既に『女』の部分が強く、よくケンカをしている。

…なんだか、憂鬱な気持ちになった。



彼女にも淑女教育が始まった。

ちょっとずつ貴族らしい言葉使いをするようになった。

すました話し方を得意気にする彼女は可愛かった。


いつのまにか不恰好なカーテシーは綺麗に出来るようになっていた。


見た目は貴族そのものだが、彼女は中は変わらず無垢なままだ。






「…結婚するなら、彼女みたいな子が良いな…」

「それは、素敵ね!」

「…っ!」


たまたま呟いた独り言に返事が来た。

ウッカリ母上に聞かれていたのだ。


「彼女をお嫁さんにするなら伯爵家に認められるような優秀で素敵な男性にならなくてはね。」



…優秀で素敵な男性。

優秀で素敵な男性になれば結婚できるのか…。



私はこの時、彼女と結婚する為に優秀で素敵な男性になろうと決心した。



…しかし、彼女は別の男に恋をした。



何故どうしてあの男なのか今だにわからない。

調べても調べても特筆した所が何もないのだ。





侯爵家の事情を私は、私だけは知っていた。

彼女が不遇な扱いを受けていることを。

侯爵家の嫡男に愛されていない事を。


3年経てば、本人の意思が無くとも証明さえできれば白い結婚が成立する。

私が助け出し、求婚する予定だった。


その為に、細心の注意を払って情報の統制までしていたのに…




彼には何度かチャンスを与えた。

親切な友人のアドバイス通り、彼女を手放せば良かったのに。


侯爵夫人の依頼を知り、一緒に殺される予定の平民の娘だけ助かるよう仕向けてもやった。

あいつが万が一、屋敷に居る彼女に目を向けても困るから…。

屋敷でも、あいつは彼女の存在を忘れている。

なのに、あいつは彼女を手放さない。

イライラする。

彼女はああ見えて責任感が強いから自分から逃げる様な事はしないだろう。


だから3年待って迎えに行く予定だった。


腹の虫が治らなかったので侯爵家の財産を気付かれぬように奪ってやった。

彼女で得た利益は結婚後、彼女に返せばいい。



彼女は彼に愛される事は無い。

あいつに対する恋心など木っ端微塵になれば良い。


報告の中で彼女はどんどん孤立していった。

誰かと話す事も無くなった。


早く助け出したい。

彼女が彼を諦めたなら、そこには自分が入れるはずだ。


伯爵家の当主に私の計画を邪魔されては困る。


伯爵の行動は長い付き合いなのである程度予測できる。


誰にも気付かれず、このまま後1年で彼女を救い出すのだ。

そう思っていたのに…。





結局、彼女にはお見通しだったのだろう。

この醜い心の私が、美しい彼女に受け入れて貰えることはできないのだろうか。


彼女はアッサリと私の求婚を断った。

未練など、無いように颯爽と立ち去ってしまった。

私は諦めなければいけないのだろうか。



いや、結婚は断られたが、彼女はまだ誰のものでもない。

彼女は彼女を虐げるような者にまで優しさを与える。

ならばまだ可能性はあるはずだ。

簡単に諦められるようならとっくに諦めている。




まだ、しばらくは彼女を想い続けよう…





    






end




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