16 / 18
伯爵家
しおりを挟む伯爵家の家族用の居間には今、かつてなくピリッとした空気が広がっています。
まぁ、原因は出戻り娘の私なんですけど。
「…もう一度言ってくれないか…。」
「…。」
「…。」
「…お父様、お母様、…私、今後結婚は致しません。
…そして近く、領地へ向かおうと思います。」
「っっ!!…まだ帰ってきたばかりだろう。それに、結婚に関してはお前に責任はない!」
お父様とお母様は悲痛な顔をしています。
とても大切にして頂いているのにこんな娘で申し訳ありません。
…でも、結婚はしたくないんです。(貴族失格)
「いえ。今回、私のせいで、お父様、お母様だけでなく、伯父様達にも大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。
その責任を取る意味でも、生涯結婚する気は無いのです。」
私はキリっとした顔で伝えました。
とりあえず下手な期待をされても困るので、お父様とお母様には、はっきりと伝えておかなければいけません。
大変申し訳ないとは思いますが孫は諦めて頂きたいです。
「い、いや、しかし…。ほら、伯爵家も後継者の問題が…」
お父様はなんとも苦りきったような渋い顔をしてなんとか説得を試みます。
「お父様が以前おっしゃっていたように親戚筋の方から優秀な方を選んで譲って下さい。」
でも、私は知っているのです。
元々、お母様が子供を産む予定がなかった事を。
…つまり、当初の予定に戻るだけなのです。
そして、私にはこの伯爵家を継げるほどの才覚がない事も自覚しております。
ここに私が居ると、他の貴族に勘違いされてしまいます。
きっと次の後継者の方が肩身の狭い思いをするでしょう。
…。
お父様は納得出来ないのでしょう。
ずっと渋い顔のままです。
「…」
チラッと私の顔を見ます。
何か悩ましげな表情をした後に口を開きます。
「…第二王子殿下とか…。」
あぁ、第二王子殿下ですか。
「そういえば、結婚を申し込まれましたので断わりました。」
「…。…は?」
第二王子殿下には親族話し合い後のちょっと空いた時間に、呼び出されました。
そして、そこで求婚されたのです。
『もし兄としてしか見られないと言うのなら、いつまでも待つから…』
と、言われましたが、兄どころか(前世)息子のような年齢なのでちょっと無理です。
申し訳ないけどサクッと断らせて頂きました。(彼は涙目でした)
王子の求婚を断るなんて通常は無理なので、この伯爵家の権力に改めて感謝です。
うっかり承諾してしまったら夢の老後どころか女同士のバトル(王子モテるので)と過労(王子の嫁仕事多い)と海外出張(外交嫁同伴)で大忙しです。
私の目標は老後をのんびり過ごすことなので息子ほどの年齢ということが無くても、彼はなしですね。
そういえば、お父様が第二王子との仲を邪魔していた話も聞きました。
まぁ、正直これはどうでも良いのです。(第二王子に興味ないので)
しかし、これはあくまで結果論であり、第二王子のことも、結婚相手として今はもう考えられませんがあのおバカさんに恋をする前ならワンチャンあったかもしれません。
…いや、無かったかもしれません。(ま、どっちでも良いか)
まぁ、たしかに私も私で世間知らずのおマヌケさんなので心配になる気持ちはわかります。
…それでも、お父様に私の人生全てをお任せしたいとは記憶の戻る前でも考えていませんでした。
子供はいつの間にか成長しているものです。(52歳主婦談)
いつまでも小さな子供ではないのですよ。
甘やかされて幸せでしたが、世間知らずではあとで苦労します。(実体験中)
「もし、万が一結婚をするとしても、第二王子殿下は考えられません。
ですから、お父様がしていた事も怒ってはいませんよ。」
お父様は私が言葉に口をパクパクしています。
その後にはガックリと項垂れています。
「…私のして来た事は一体…。」
あれ?
喜んでくれると思ったんですが思っていた反応とは違いました。(愛重め男親ゴコロは複雑なんですね)
横でお母様は残念な物を見る目でお父様を見ています。
あ、私と目があってニコってされました。
「わたくしは…寂しいけど応援するわ。
…なんだか頼もしくなったみたいだし。
ただ、…次は困ったり何かあったら、すぐに教えてちょうだいね。」
お母様は既にいつもの優雅さを取り戻しております。(さすが元王女)
「ありがとうございます、お母様。」
私とお母様がニコニコ笑いあっている横でお父様はため息をついています。(1つ幸せが逃げました)
「せめて、領地に行かずここで過ごせば良いのではないか?」
お父様の問いかけに首を振ります。
「国王陛下にお願いを叶えて頂いたのに放ったらかしには出来ません。
領地に行ったら邪魔にならない程度にお手伝いさせていただく予定です。」
まぁ、道の事に関しては私の責任ですので、なんとか管理する方のお邪魔にならないようにお手伝いさせて貰うつもりです。
結局のところ、そういった面でも、偉そうな事を言いつつお父様達の協力が必要になのは申し訳ないと思います。
でも、より良い結果となるなら意地など張らず、頭ぐらい下げるのが正解なのかなと気付きました。
お父様はまだ納得出来ていないようですが、私が折れないことを理解したのか諦めの表情を浮かべます。
「わかった。…好きにすると良い。
…ただ、結婚については今後どうなるかわからない事だから、ひとまず保留だ。
今後は領地にてしばらくゆっくりすると良い。
ただ、無いとは思うがまた同じ様な事が起きぬよう定期的にそちらに監査をいれる。
無論、いつでも我が家に戻ってきても良いからな。」
「お父様、ありがとうございます!」
私の満面の笑顔にお父様は苦笑を浮かべます。
お母様も優しく微笑んでくれました。
ついに、待ち望んでいた許可が頂けました。
監査ということは定期的にアドバイスもしていただけます(ニヤリ)
私の目標の老後生活スタートです。
仕事が出来てしまったのは予定外ですけれど、今度こそ領地でのんびりと穏やかに過ごす事が出来るでしょう。(フラグではありません)
265
お気に入りに追加
6,975
あなたにおすすめの小説
【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された
杜野秋人
恋愛
突然始まった卒業記念パーティーでの婚約破棄と断罪劇。
責めるのはおつむが足りないと評判の王太子、責められるのはその婚約者で筆頭公爵家の公女さま。どっちも卒業生で、俺のひとつ歳上だ。
なんでも、下級生の男爵家令嬢に公女さまがずっと嫌がらせしてたんだと。
ホントかね?
公女さまは否定していたけれど、証拠や証言を積み上げられて公爵家の責任まで問われかねない事態になって、とうとう涙声で罪を認めて謝罪するところまで追い込まれた。
だというのに王太子殿下は許そうとせず、あろうことか独断で国外追放まで言い渡した。
ちょっとこれはやりすぎじゃねえかなあ。公爵家が黙ってるとも思えんし、将来の王太子妃として知性も教養も礼儀作法も完璧で、いつでも凛々しく一流の淑女だった公女さまを国外追放するとか、国家の損失だろこれ。
だけど陛下ご夫妻は外遊中で、バカ王太子を止められる者などこの場にはいない。
しょうがねえな、と俺は一緒に学園に通ってる幼馴染の使用人に指示をひとつ出した。
うまく行けば、公爵家に恩を売れるかも。その時はそんな程度しか考えていなかった。
それがまさか、とんでもない展開になるなんて⸺!?
◆衝動的に一晩で書き上げたありきたりのテンプレ婚約破棄です。例によって設定は何も作ってない(一部流用した)ので固有名詞はほぼ出てきません。どこの国かもきちんと決めてないです(爆)。
ただ視点がちょっとひと捻りしてあります。
◆全5話、およそ8500字程度でサラッと読めます。お気軽にどうぞ。
9/17、別視点の話を書いちゃったんで追加投稿します。全4話、約12000字………って元の話より長いやんけ!(爆)
◆感想欄は常に開放しています。ご意見ご感想ツッコミやダメ出しなど、何でもお待ちしています。ぶっちゃけ感想もらえるだけでも嬉しいので。
◆この物語も例によって小説家になろうでも公開しています。あちらも同じく全5話+4話。
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
だってそういうことでしょう?
杜野秋人
恋愛
「そなたがこれほど性根の卑しい女だとは思わなかった!今日この場をもってそなたとの婚約を破棄する!」
夜会の会場に現れた婚約者様の言葉に驚き固まるわたくし。
しかも彼の隣には妹が。
「私はそなたとの婚約を破棄し、新たに彼女と婚約を結ぶ!」
まあ!では、そういうことなのですね!
◆思いつきでサラッと書きました。
一発ネタです。
後悔はしていません。
◆小説家になろう、カクヨムでも公開しています。あちらは短編で一気読みできます。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる