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第84話 婚約者にふさわしい者
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「ヴィヴィアンナ様」
殿下の言葉と共にお茶会が始まってすぐ、背後から声をかけられて振り返る。
「あら、エミリア様。ごきげんよう」
「こんにちは。ご歓談中、失礼いたします」
彼女は私とディアナ嬢他に礼を取り、自己紹介をした。
本日は清楚な彼女に似合った水色のドレスを身に纏っている。決して派手な装飾をしていないのに、華やかさを醸し出すのは彼女が持つ美貌と気質によるものだろう。
それにしてもやはり彼女を呼んでいたか、あの男。
「始まる前にご挨拶をと思っていたのですが」
すぐに挨拶をしたかったのに、私がディアナ嬢と話をしていたから声をかけられなかったのだろう。
「いいえ。ありがとうございます。わたくしのことなど気にせず、お茶会を楽しんでください」
「あ、ありがとうございます。けれどこのような場にお呼びいただき、大変恐縮しております。私などは場違いかと」
どこがでしょうか。この会場の華になりつつあると言うのに。男性方は皆、あなたに注目していますよ。
「場違いなどではございません。殿下があなたをお呼びになったのですから」
エミリア嬢を選んだ殿下に対しての遠回しの批判を、私がたしなめていると思ったのかもしれない。彼女ははっと表情を強ばらせた。
「そ、そうですね。失礼いたしました」
「いいえ」
そういうつもりで言ったのではないのだけれど……。まあ、誤解されても別にいいです。
「それでは失礼いたします」
「ええ」
エミリア嬢はまた礼を取ると去って行った。すると黙って見ていたディアナ嬢が口を開く。
「エミリア・コーラル男爵令嬢様ですか。お聞きしたことはございますわ。今年入学された優秀な方だそうで。それにとてもお美しいこと」
「ええ」
そして殿下の思い人です。
心の中でつけくわえてみる。
「ですが、わたくしたちとは学年も違いますし、どこでお知り合いに?」
「とある場所でお会いしまして、この学院のことを少々ご助言させていただたいたことがございます」
「そうなのですか」
少しだけ探るような目をしたディアナ嬢だったけれど、それ以上の追求はなかった。彼女も殿下とのことを耳にして、噂話が真実味が帯びたと考えているかもしれない。
何も聞いてこない彼女に私は笑みを見せた。
しばしお菓子をぽこぽこ口に放り込みつつ、ディアナ嬢方と楽しくお話ししていたけれど、ふと気付けば、数人の男性方がこちらをちらちら見ているのに気がつく。
もしかしたらご令嬢方とお話ししたいのかもしれない。ところが、触らぬ神に祟り無しの私がいるせいで声をかけにくい状況なのだろう。仕方がない、邪魔者は退散させていただこう。
「ディアナ様。わたくし、そろそろ足が疲れましたので、失礼してソファーに座りに行こうかと思います」
「あら。ヴィヴィアンナ様がそんなお気遣いいただかなくても。ただ、そうね。この子達には機会が必要かしら」
私の思惑を読んだようでディアナ嬢は笑ったけれど、すぐに小首を傾げた。
と言うことは、彼女のお友達はまだ婚約者が決まっていないようだ。
早いと物心が付く前に婚約者が決まっていることもあるけれど、最近では在学中に婚約者が決められたり、学院卒業後に立派な淑女に仕上げてから売り込むような傾向にもなっている。
ディアナ嬢は彼女たちのことだけを気を配っているということは、ご自身はご婚約者がいるのだろうか。聞いたことがないけれど。
彼女はどうも機微に聡いようだ。くすりと笑った。
「わたくしには婚約者はいません。一度は光栄なことに殿下の婚約者候補に挙がったこともございますが」
「……申し訳ありません」
「なぜ謝罪なさるの? 王族の方々が審議を重ねてお決めになったことよ。何よりもわたくし、ヴィヴィアンナ様こそご婚約者にふさわしいと思いますわ」
……え。一体どこを見て?
眉根を寄せた難しい表情が自然と出てしまう。
「本来、国の王なる者は多くの民の声を聞くべきもの。第一継承者である殿下もまた然りです。けれど実際のところ、物申すことができる者は数少ないでしょう。わたくしも常々、男性より後ろで控えるよう教育されて参りました。けれどヴィヴィアンナ様を拝見していると、そうではないのかもしれないと最近思うのです。殿方がもし間違った方向に進もうとするのならば、それを止められる女性でなければならないのだと」
ディアナ嬢はそう言って、またくすりと笑う。
「ヴィヴィアンナ様ほど殿下に対して、物申す方はいらっしゃいませんもの」
殿下へ申し上げているのほぼ悪態なのですが、褒め言葉として受け取って良いのかしら。
私は若干引きつった笑みを返した。
殿下の言葉と共にお茶会が始まってすぐ、背後から声をかけられて振り返る。
「あら、エミリア様。ごきげんよう」
「こんにちは。ご歓談中、失礼いたします」
彼女は私とディアナ嬢他に礼を取り、自己紹介をした。
本日は清楚な彼女に似合った水色のドレスを身に纏っている。決して派手な装飾をしていないのに、華やかさを醸し出すのは彼女が持つ美貌と気質によるものだろう。
それにしてもやはり彼女を呼んでいたか、あの男。
「始まる前にご挨拶をと思っていたのですが」
すぐに挨拶をしたかったのに、私がディアナ嬢と話をしていたから声をかけられなかったのだろう。
「いいえ。ありがとうございます。わたくしのことなど気にせず、お茶会を楽しんでください」
「あ、ありがとうございます。けれどこのような場にお呼びいただき、大変恐縮しております。私などは場違いかと」
どこがでしょうか。この会場の華になりつつあると言うのに。男性方は皆、あなたに注目していますよ。
「場違いなどではございません。殿下があなたをお呼びになったのですから」
エミリア嬢を選んだ殿下に対しての遠回しの批判を、私がたしなめていると思ったのかもしれない。彼女ははっと表情を強ばらせた。
「そ、そうですね。失礼いたしました」
「いいえ」
そういうつもりで言ったのではないのだけれど……。まあ、誤解されても別にいいです。
「それでは失礼いたします」
「ええ」
エミリア嬢はまた礼を取ると去って行った。すると黙って見ていたディアナ嬢が口を開く。
「エミリア・コーラル男爵令嬢様ですか。お聞きしたことはございますわ。今年入学された優秀な方だそうで。それにとてもお美しいこと」
「ええ」
そして殿下の思い人です。
心の中でつけくわえてみる。
「ですが、わたくしたちとは学年も違いますし、どこでお知り合いに?」
「とある場所でお会いしまして、この学院のことを少々ご助言させていただたいたことがございます」
「そうなのですか」
少しだけ探るような目をしたディアナ嬢だったけれど、それ以上の追求はなかった。彼女も殿下とのことを耳にして、噂話が真実味が帯びたと考えているかもしれない。
何も聞いてこない彼女に私は笑みを見せた。
しばしお菓子をぽこぽこ口に放り込みつつ、ディアナ嬢方と楽しくお話ししていたけれど、ふと気付けば、数人の男性方がこちらをちらちら見ているのに気がつく。
もしかしたらご令嬢方とお話ししたいのかもしれない。ところが、触らぬ神に祟り無しの私がいるせいで声をかけにくい状況なのだろう。仕方がない、邪魔者は退散させていただこう。
「ディアナ様。わたくし、そろそろ足が疲れましたので、失礼してソファーに座りに行こうかと思います」
「あら。ヴィヴィアンナ様がそんなお気遣いいただかなくても。ただ、そうね。この子達には機会が必要かしら」
私の思惑を読んだようでディアナ嬢は笑ったけれど、すぐに小首を傾げた。
と言うことは、彼女のお友達はまだ婚約者が決まっていないようだ。
早いと物心が付く前に婚約者が決まっていることもあるけれど、最近では在学中に婚約者が決められたり、学院卒業後に立派な淑女に仕上げてから売り込むような傾向にもなっている。
ディアナ嬢は彼女たちのことだけを気を配っているということは、ご自身はご婚約者がいるのだろうか。聞いたことがないけれど。
彼女はどうも機微に聡いようだ。くすりと笑った。
「わたくしには婚約者はいません。一度は光栄なことに殿下の婚約者候補に挙がったこともございますが」
「……申し訳ありません」
「なぜ謝罪なさるの? 王族の方々が審議を重ねてお決めになったことよ。何よりもわたくし、ヴィヴィアンナ様こそご婚約者にふさわしいと思いますわ」
……え。一体どこを見て?
眉根を寄せた難しい表情が自然と出てしまう。
「本来、国の王なる者は多くの民の声を聞くべきもの。第一継承者である殿下もまた然りです。けれど実際のところ、物申すことができる者は数少ないでしょう。わたくしも常々、男性より後ろで控えるよう教育されて参りました。けれどヴィヴィアンナ様を拝見していると、そうではないのかもしれないと最近思うのです。殿方がもし間違った方向に進もうとするのならば、それを止められる女性でなければならないのだと」
ディアナ嬢はそう言って、またくすりと笑う。
「ヴィヴィアンナ様ほど殿下に対して、物申す方はいらっしゃいませんもの」
殿下へ申し上げているのほぼ悪態なのですが、褒め言葉として受け取って良いのかしら。
私は若干引きつった笑みを返した。
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