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第83話 殿下の嫌がらせ?
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殿下へのご挨拶が終わって誘導された部屋に足を踏み入れたところ、私は衝撃で硬直してしまった。
見事な刺繍が施されたテーブルクロスの上には、色とりどりの瑞々しい果物や今にも手を出して口に含みたくなりそうな見目可愛らしい菓子、芳しい高級茶などが用意されており、どこがささやかだ、どこがと言いたくなることはまだいい。
お茶会という割にはテーブル席がないのは何のつもりか。いや、厳密に言うと、腰の高さまであるテーブルはあるものの、椅子が用意されていない。つまり立食形式である。
椅子が無ければ当然、着座順も決まっておらず、はーい、では仲の良い者同士好きに集まってーということを意味するのだろう。
実際、既に来ていた人は仲良さげに一つのテーブルに集まって談笑している。
部屋の端にはソファー席も用意されているけれど、基本的にこのテーブルでお茶会をやり過ごさなければならないはず。
これは一体何!?
ぼっちの私はどうすればいいの!?
――はっ。もしや散々、殿下を適当にあしらってきた私への報復?
あの殿下のことだ。ありうる。いや、間違いなく確実に絶対そうだ!(決定) 何と器の小さい男なのか。
拳を作り、わなわなと震えていると。
「ヴィヴィアンナ様」
女性の声で話しかけられた。
はっとして振り返るとディアナ嬢がにこやかな表情で立っていて、私もすぐに拳を解いて笑みを作る。
「ディアナ様。ごきげんよう」
「ごきげんよう、ヴィヴィアンナ様。よろしければわたくし共とテーブルをご一緒いたしませんか?」
「……え?」
ディアナ嬢の側に控えているお友達にも目をやると、それぞれ好意的に笑みを浮かべている。
な、何という気配りの届いた素晴らしきご令嬢!
救世主様、女神様、ディアナ様!
わたくし、あなたに(一生)ついて参ります!
「ありがとうございます。ぜひ」
今にもディアナ嬢の手を取って振らんばかりに、感涙でうるうるしている私に若干引いたようだけれど、では参りましょうと誘導された。
せっかくなので、少し愚痴を込めて私から話を切り出してみる。
「本日は殿下がご学友としてのお茶会だそうですが、突然のお話、驚かれませんでした?」
「そうですね。わたくし共は殿下の『ご学友』とはとんでもないお話ですが、お気遣いいただいてお呼ばれしたのでしょうね」
今回は大体、伯爵以上がお呼ばれしているのかと思う。ディアナ嬢のご友人の中のセリア・ランバート嬢は子爵令嬢となるわけだけれど、一人だけ在学中の友人を連れてくることができたはずだから、ディアナ嬢がその枠を使って連れてきたのだろう。
私は誰も誘っていませんが。……なお、誘うご友人などおりませんというのが正しい表現である。
「ただ、冬に社交界はございませんし、お誘いいただいて感謝しております」
それは本音なのだろうか。私なんて社交界など出るのが苦痛でならないのに。……いや、お友達がいるとまた違うのかもしれない。
ディアナ嬢がお友達に微笑むのを見て、私はこっそり苦笑いした。
ところであの出来事からもうひと月半ほど経っているけれど、ミーナ嬢はどうしているのだろう。休み直前の学校では落ち着いた雰囲気になっていたから、この冬の休みを越えればきっと話題にも上がらなくなるかもしれない。だとしたら今、穏やかな雰囲気を壊すわけにもいかない。ここは黙っていよう。
そんな風に考えていたけれど、ディアナ嬢もまた思いを寄せていたようで口を開いた。
「ミーナについてですが、その折は大変――」
「ディアナ様」
私が首を振ってディアナ嬢の言葉を遮ると、彼女は笑みを零した。
「ありがとうございます」
「お元気になさっていますか?」
とりあえず話の流れで聞いてみる。
「ええ。予定より早いですが、来年ご婚約者の元へ嫁ぐそうです。今は花嫁修業に精を出しているとのことです」
「そうなのですね」
相手の方は事情をご存知なのだろうか。
私の疑問を彼女はすぐに解消してくれる。
「ご婚約者の方は何もかもご承知で、それでもいいそうです」
「そうですか。それならば良かったです」
「……ヴィヴィアンナ様、ありがとうございます」
多くは語らずそれだけ言うと、彼女は微笑んだ。
これで一区切りして話を変えようと口を開いたところ、ざわめきが強くなった。殿下のお出ましだ。
私たちは一斉に口を閉ざし、彼を見つめる。
「本日は寒空の中、お越しいただき感謝を申し上げる。皆が互いにもっと交流できればと開催させていただいた」
なるほど。着座式だとなかなか交流はできないから、立食形式を取ったいうわけなのか。私への嫌がらせではなかったようだ。……多分。
「ひとときだが、この会を楽しんでいただければと思う」
殿下のその言葉を皮切りに、お茶会が始まった。
見事な刺繍が施されたテーブルクロスの上には、色とりどりの瑞々しい果物や今にも手を出して口に含みたくなりそうな見目可愛らしい菓子、芳しい高級茶などが用意されており、どこがささやかだ、どこがと言いたくなることはまだいい。
お茶会という割にはテーブル席がないのは何のつもりか。いや、厳密に言うと、腰の高さまであるテーブルはあるものの、椅子が用意されていない。つまり立食形式である。
椅子が無ければ当然、着座順も決まっておらず、はーい、では仲の良い者同士好きに集まってーということを意味するのだろう。
実際、既に来ていた人は仲良さげに一つのテーブルに集まって談笑している。
部屋の端にはソファー席も用意されているけれど、基本的にこのテーブルでお茶会をやり過ごさなければならないはず。
これは一体何!?
ぼっちの私はどうすればいいの!?
――はっ。もしや散々、殿下を適当にあしらってきた私への報復?
あの殿下のことだ。ありうる。いや、間違いなく確実に絶対そうだ!(決定) 何と器の小さい男なのか。
拳を作り、わなわなと震えていると。
「ヴィヴィアンナ様」
女性の声で話しかけられた。
はっとして振り返るとディアナ嬢がにこやかな表情で立っていて、私もすぐに拳を解いて笑みを作る。
「ディアナ様。ごきげんよう」
「ごきげんよう、ヴィヴィアンナ様。よろしければわたくし共とテーブルをご一緒いたしませんか?」
「……え?」
ディアナ嬢の側に控えているお友達にも目をやると、それぞれ好意的に笑みを浮かべている。
な、何という気配りの届いた素晴らしきご令嬢!
救世主様、女神様、ディアナ様!
わたくし、あなたに(一生)ついて参ります!
「ありがとうございます。ぜひ」
今にもディアナ嬢の手を取って振らんばかりに、感涙でうるうるしている私に若干引いたようだけれど、では参りましょうと誘導された。
せっかくなので、少し愚痴を込めて私から話を切り出してみる。
「本日は殿下がご学友としてのお茶会だそうですが、突然のお話、驚かれませんでした?」
「そうですね。わたくし共は殿下の『ご学友』とはとんでもないお話ですが、お気遣いいただいてお呼ばれしたのでしょうね」
今回は大体、伯爵以上がお呼ばれしているのかと思う。ディアナ嬢のご友人の中のセリア・ランバート嬢は子爵令嬢となるわけだけれど、一人だけ在学中の友人を連れてくることができたはずだから、ディアナ嬢がその枠を使って連れてきたのだろう。
私は誰も誘っていませんが。……なお、誘うご友人などおりませんというのが正しい表現である。
「ただ、冬に社交界はございませんし、お誘いいただいて感謝しております」
それは本音なのだろうか。私なんて社交界など出るのが苦痛でならないのに。……いや、お友達がいるとまた違うのかもしれない。
ディアナ嬢がお友達に微笑むのを見て、私はこっそり苦笑いした。
ところであの出来事からもうひと月半ほど経っているけれど、ミーナ嬢はどうしているのだろう。休み直前の学校では落ち着いた雰囲気になっていたから、この冬の休みを越えればきっと話題にも上がらなくなるかもしれない。だとしたら今、穏やかな雰囲気を壊すわけにもいかない。ここは黙っていよう。
そんな風に考えていたけれど、ディアナ嬢もまた思いを寄せていたようで口を開いた。
「ミーナについてですが、その折は大変――」
「ディアナ様」
私が首を振ってディアナ嬢の言葉を遮ると、彼女は笑みを零した。
「ありがとうございます」
「お元気になさっていますか?」
とりあえず話の流れで聞いてみる。
「ええ。予定より早いですが、来年ご婚約者の元へ嫁ぐそうです。今は花嫁修業に精を出しているとのことです」
「そうなのですね」
相手の方は事情をご存知なのだろうか。
私の疑問を彼女はすぐに解消してくれる。
「ご婚約者の方は何もかもご承知で、それでもいいそうです」
「そうですか。それならば良かったです」
「……ヴィヴィアンナ様、ありがとうございます」
多くは語らずそれだけ言うと、彼女は微笑んだ。
これで一区切りして話を変えようと口を開いたところ、ざわめきが強くなった。殿下のお出ましだ。
私たちは一斉に口を閉ざし、彼を見つめる。
「本日は寒空の中、お越しいただき感謝を申し上げる。皆が互いにもっと交流できればと開催させていただいた」
なるほど。着座式だとなかなか交流はできないから、立食形式を取ったいうわけなのか。私への嫌がらせではなかったようだ。……多分。
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