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第81話 彼女にケンカを吹っかけるな
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「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「あらそう。面倒だわ。お断りして」
部屋でのんびりしていると、喜色満面でユーナがやって来て招待状を見せてきた。だから私はテーブルに片肘をつきながら、しっしとそれを手で追い払う。
やっと学校が冬の休みに入って、殿下他の煩わしいことに関わらなくて済むとせいせいしているのに、何が悲しくて受難の中に自ら飛び込んでいかなければならないのか。私に自虐趣味は無い。
しかも社交界シーズンはとっくに終わっているというのに。お茶会とは言え、こんな冬の最中に呼び出すとは何事だ。過去にはこんな冬に呼び出しは無かったはずなのに。
ともかく私は休み中、誰からの誘いも断り(誰からも誘いが無い現実は横に置く)、お尻から根が生えるまで家で冬眠するつもりだ。
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「だから面倒だし、お断りして」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「……ですからお断りして」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「え。えーっと。お断り願えるかしら……でしょうか?」
全く変わらぬユーナの勢いに押され、下からお願いしてみた。
――けれど。
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「…………何コレ。受けるまで永遠に繰り返される会話ですか?」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお」
「分かった分かったわよ分かった。行きます。行けばいいのでしょう!」
ユーナとの戦いにとうとう根負けした私は叫んだ。
「ヴィヴィアンナ様はきっとそう言われると思っておりました」
「……でしょうね」
にっこにこのユーナに対して、私は徒労感で一杯だ。ユーナに勝とうなどとしたことがそもそもの間違いだった。
「それにしてもこんな寒い時期にお茶会とか嫌がらせ? いくらお茶会だと言っても普段着で行けないでしょう? それなりに整えて行かなきゃいけないのよ。非常識にも程がない?」
「殿下は学校がお休みになって、ヴィヴィアンナ様とお会いできなくなることを寂しく思っておいでなのですよ」
はいはいと私はため息をついた。
何であれ、殿下は職権濫用にも程があるというものだ。
「安心してくださいませ。わたくし、ただ今、社交界で流行の髪型であるロザンヌ巻きも既に会得しております!」
「ええ、ええ。それはさぞかし完璧なことでしょうよ……」
殿下との面会拒否に使った言い訳を木っ端微塵にしてくれた、髪結い師として超一流だったユーナの腕がトラウマとして蘇る。
「ところでどんな方がご招待を受けるの?」
まさか貴族級の人間全てを呼ぶわけではないだろう。
ユーナはそうですねと招待状に目を落とした。
「ご学友同士のささやかなパーティーみたいですね」
またささやかね。あなたがそう思うならそうなんでしょう。あなたの中ではね。庶民の暮らしなど……いえ、貴族の名を持っていても金銭的に余裕の無い所にとって、こういった席に招待されることを苦痛に思っている者もいるのだろう。
ふと彼女のことが頭に浮かんだ。
「ヴィヴィアンナ様?」
口を閉ざして考え込んだ私にユーナは少し首を傾げる。
「いえ。何でもないわ。それにしても位が高い貴族は学友でなくても呼ばれるのでしょうね。呼ばないとうるさいでしょうし」
「なるほど。ヴィヴィアンナ様も呼ばれないとうるさい部類ですね」
あっさりと失礼なことを良いながら、ふふと笑うユーナに私は眉を上げる。
「どうしてよ。わたくしは行きたくないと言っているのに」
「あら。恋のライバルだけお呼ばれしても、そう余裕でいらっしゃるのですか?」
「は、はあっ!? 一体誰が誰に恋をしているって言うの。――ああ、いい。言わないで」
口を開こうとしたユーナを慌てて止める。
それにしても『ご学友』と来ましたか。礼義として侯爵以上の貴族級を呼ぶのは前提として、『ご学友』と称すれば男爵級でも呼ぶことはできる。となると、殿下がエミリア・コーラル嬢を呼ぶのは間違いないだろう。
記憶では確か茶会でも一悶着あったけれど、もっと後のことだったはず。植木落下事故、正確には水桶だったけれど、これも時期が早かった。
……もしかして私がこれまでと違った行動をしていることで、何か状況が変わってきているのだろうか。だとしたらそれはそれで厄介だ。
「嫌だわ。やっぱり行きたくない。当日、わたくしは骨折して行けないことに――」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「……ええ。もちろん喜んでお受けいたしますわ」
再びユーナの攻撃が始まりそうなことを予感して、私は白旗をあげた。
「あらそう。面倒だわ。お断りして」
部屋でのんびりしていると、喜色満面でユーナがやって来て招待状を見せてきた。だから私はテーブルに片肘をつきながら、しっしとそれを手で追い払う。
やっと学校が冬の休みに入って、殿下他の煩わしいことに関わらなくて済むとせいせいしているのに、何が悲しくて受難の中に自ら飛び込んでいかなければならないのか。私に自虐趣味は無い。
しかも社交界シーズンはとっくに終わっているというのに。お茶会とは言え、こんな冬の最中に呼び出すとは何事だ。過去にはこんな冬に呼び出しは無かったはずなのに。
ともかく私は休み中、誰からの誘いも断り(誰からも誘いが無い現実は横に置く)、お尻から根が生えるまで家で冬眠するつもりだ。
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「だから面倒だし、お断りして」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「……ですからお断りして」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「え。えーっと。お断り願えるかしら……でしょうか?」
全く変わらぬユーナの勢いに押され、下からお願いしてみた。
――けれど。
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「…………何コレ。受けるまで永遠に繰り返される会話ですか?」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお」
「分かった分かったわよ分かった。行きます。行けばいいのでしょう!」
ユーナとの戦いにとうとう根負けした私は叫んだ。
「ヴィヴィアンナ様はきっとそう言われると思っておりました」
「……でしょうね」
にっこにこのユーナに対して、私は徒労感で一杯だ。ユーナに勝とうなどとしたことがそもそもの間違いだった。
「それにしてもこんな寒い時期にお茶会とか嫌がらせ? いくらお茶会だと言っても普段着で行けないでしょう? それなりに整えて行かなきゃいけないのよ。非常識にも程がない?」
「殿下は学校がお休みになって、ヴィヴィアンナ様とお会いできなくなることを寂しく思っておいでなのですよ」
はいはいと私はため息をついた。
何であれ、殿下は職権濫用にも程があるというものだ。
「安心してくださいませ。わたくし、ただ今、社交界で流行の髪型であるロザンヌ巻きも既に会得しております!」
「ええ、ええ。それはさぞかし完璧なことでしょうよ……」
殿下との面会拒否に使った言い訳を木っ端微塵にしてくれた、髪結い師として超一流だったユーナの腕がトラウマとして蘇る。
「ところでどんな方がご招待を受けるの?」
まさか貴族級の人間全てを呼ぶわけではないだろう。
ユーナはそうですねと招待状に目を落とした。
「ご学友同士のささやかなパーティーみたいですね」
またささやかね。あなたがそう思うならそうなんでしょう。あなたの中ではね。庶民の暮らしなど……いえ、貴族の名を持っていても金銭的に余裕の無い所にとって、こういった席に招待されることを苦痛に思っている者もいるのだろう。
ふと彼女のことが頭に浮かんだ。
「ヴィヴィアンナ様?」
口を閉ざして考え込んだ私にユーナは少し首を傾げる。
「いえ。何でもないわ。それにしても位が高い貴族は学友でなくても呼ばれるのでしょうね。呼ばないとうるさいでしょうし」
「なるほど。ヴィヴィアンナ様も呼ばれないとうるさい部類ですね」
あっさりと失礼なことを良いながら、ふふと笑うユーナに私は眉を上げる。
「どうしてよ。わたくしは行きたくないと言っているのに」
「あら。恋のライバルだけお呼ばれしても、そう余裕でいらっしゃるのですか?」
「は、はあっ!? 一体誰が誰に恋をしているって言うの。――ああ、いい。言わないで」
口を開こうとしたユーナを慌てて止める。
それにしても『ご学友』と来ましたか。礼義として侯爵以上の貴族級を呼ぶのは前提として、『ご学友』と称すれば男爵級でも呼ぶことはできる。となると、殿下がエミリア・コーラル嬢を呼ぶのは間違いないだろう。
記憶では確か茶会でも一悶着あったけれど、もっと後のことだったはず。植木落下事故、正確には水桶だったけれど、これも時期が早かった。
……もしかして私がこれまでと違った行動をしていることで、何か状況が変わってきているのだろうか。だとしたらそれはそれで厄介だ。
「嫌だわ。やっぱり行きたくない。当日、わたくしは骨折して行けないことに――」
「ヴィヴィアンナ様、殿下からお茶会の招待状ですよ!」
「……ええ。もちろん喜んでお受けいたしますわ」
再びユーナの攻撃が始まりそうなことを予感して、私は白旗をあげた。
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