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第70話 疑わしきは
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ここのところ、色々物事が起こりすぎて頭が混乱している。とりあえずシャルロット嬢に関する話をまとめてみよう。
シャルロット嬢に初めて会った時、盗難の犯人にされる嫌がらせは以前から起こっていると言っていた。そしてミーナ嬢がシャルロット嬢に嫌悪感を抱いたのは、自分が実際に盗難被害にあったからとの話で、それまではほとんど興味も無さげだったと。
もしその話が本当だとすると、最初の嫌がらせはミーナ嬢ではないということになる。……わけだけれど。
私は片肘を突き、自分が書いた文字を人差し指でトントンと叩く。
実際、ミーナ嬢が詰め寄っている姿を初めて見た時も、ディアナ嬢の制止を振り切るくらい本気で憤っているように思った。そんな人が起こすような行動だろうか。もし理由があるとしたら。
私は再びペンを走らせる。
一、私に口封じされたことへの恨みが身近なシャルロット嬢に向いてしまった。二、沈静化しているシャルロット嬢の犯行(仮)をまた問題提起させるため。三、誰かを庇って身代わりになった。
一つ目は彼女の性格から見て無いかなと思う。誰かに八つ当たりするぐらいなら、私に直接ぶつかってくるだろう。
二つ目はそのためだけに、自分が罪まで犯すかとこれまた疑問に思う。誰かに見られてしまうと、当然、過去のシャルロット嬢への疑惑よりもミーナ嬢に批判の目が集中する。もしそうだとしたら、本末転倒。何よりも盗難の犯人が誰であれ、自分もその人間と同じ場所に堕ちる必要はない。
ならば三つ目?
ミーナ嬢が庇う相手と言えば、おそらくディアナ嬢になる。けれど彼女がそんな卑怯な真似をするとも思えず。
あー。頭が痛い。そもそも人の気持ちなんて……。
「――の問題は分かる人は? そうだね、ローレンス君、君はどうだね」
「そんなもの分かるはずもない」
「え?」
誰かの呆気に取られたような声と周りからのざわめく声に、はっと我に返る。私に声をかけた声の主は先生で、今は授業の真っ最中だった。
私は慌てて言い直す。
「そ、そんな難しいものは分かる、分からないはずもな……分からっ、分かりません」
動揺して噛み噛みの私に先生も対応に困ったようで、そうかと呟くと、何事も無かったかのように次の生徒に質問を投げかけた。
お昼になってシャルロット嬢と落ち合った。
私は早速気になっていたことを尋ねる。
「シャルロット様、教室の雰囲気はいかがでしたか。大丈夫でしたか?」
「ええ。おかげさまで。皆に心配していただきました。話をしたことがない子からも声をかけてもらったんですよ」
仮に大多数が同情心の皮を被った好奇心で近付いてきたにしても、彼女にとっては嬉しいことだったのだろう。笑みを零している。
「そう。良かったわね」
「はい」
……そうか。今回、一番利を得たのは他でもないシャルロット嬢だ。実際、誰が始めたか分からないけれど、皆、ミーナ嬢が嫌がらせで始めたことだと考えたはず。ミーナ嬢とは立場が一転し、加害者だったかもしれない彼女は被害者となったわけである。
「結局、あなたに嫌がらせをしていたのは誰だったのかしら」
「それは分かりません。でももういいのです」
「もういい? どうして?」
「だって、これで私の身の潔白は証明できたわけですから」
彼女の物言いになぜか気持ち悪さを感じた。
身の潔白は証明できた? ――いいえ、それはできていないはず。ただ、一つ言えるのは今回の犯人はミーナ嬢だったという事実のみ。
もし全ての仕業が自分だと彼女が告白したのならば、シャルロット嬢の身は潔白と言えるだろう。けれど、彼女が沈黙を守っている今、それは確定ではな……あら? なぜ私はシャルロット嬢が犯人の線を考えているのか。
「もう終わったことです。このお話は止めて、もっと楽しいお話をしましょう!」
「そ、そうね」
思考を遮断されて、私はもやもや感と罪悪感を抱きながら笑みを作る。
「ヴィヴィアンナ様はエミリアと仲が良いのですか?」
「え? エミリアって、エミリア・コーラル様のこと?」
あまりにも唐突に話を変えてきたシャルロット嬢に私は戸惑った。
「ええ。そうです。エミリア・コーラル」
「いいえ。仲良くなんてないですわ」
「――そうですか」
「なぜ?」
一応、私の運命を狂わせる宿敵? ですから。
彼女はにこっと笑う。
「ヴィヴィアンナ様は、私だけのヴィヴィアンナ様でいてくださったら嬉しいなと思っただけです」
「こうして個人的にお話ししているのは、シャルロット様だけですわ」
「嬉しい! これからもよろしくお願いいたしますね」
手を合わせて小さくはしゃぐシャルロット嬢に、私は静かな笑みを返した。
シャルロット嬢に初めて会った時、盗難の犯人にされる嫌がらせは以前から起こっていると言っていた。そしてミーナ嬢がシャルロット嬢に嫌悪感を抱いたのは、自分が実際に盗難被害にあったからとの話で、それまではほとんど興味も無さげだったと。
もしその話が本当だとすると、最初の嫌がらせはミーナ嬢ではないということになる。……わけだけれど。
私は片肘を突き、自分が書いた文字を人差し指でトントンと叩く。
実際、ミーナ嬢が詰め寄っている姿を初めて見た時も、ディアナ嬢の制止を振り切るくらい本気で憤っているように思った。そんな人が起こすような行動だろうか。もし理由があるとしたら。
私は再びペンを走らせる。
一、私に口封じされたことへの恨みが身近なシャルロット嬢に向いてしまった。二、沈静化しているシャルロット嬢の犯行(仮)をまた問題提起させるため。三、誰かを庇って身代わりになった。
一つ目は彼女の性格から見て無いかなと思う。誰かに八つ当たりするぐらいなら、私に直接ぶつかってくるだろう。
二つ目はそのためだけに、自分が罪まで犯すかとこれまた疑問に思う。誰かに見られてしまうと、当然、過去のシャルロット嬢への疑惑よりもミーナ嬢に批判の目が集中する。もしそうだとしたら、本末転倒。何よりも盗難の犯人が誰であれ、自分もその人間と同じ場所に堕ちる必要はない。
ならば三つ目?
ミーナ嬢が庇う相手と言えば、おそらくディアナ嬢になる。けれど彼女がそんな卑怯な真似をするとも思えず。
あー。頭が痛い。そもそも人の気持ちなんて……。
「――の問題は分かる人は? そうだね、ローレンス君、君はどうだね」
「そんなもの分かるはずもない」
「え?」
誰かの呆気に取られたような声と周りからのざわめく声に、はっと我に返る。私に声をかけた声の主は先生で、今は授業の真っ最中だった。
私は慌てて言い直す。
「そ、そんな難しいものは分かる、分からないはずもな……分からっ、分かりません」
動揺して噛み噛みの私に先生も対応に困ったようで、そうかと呟くと、何事も無かったかのように次の生徒に質問を投げかけた。
お昼になってシャルロット嬢と落ち合った。
私は早速気になっていたことを尋ねる。
「シャルロット様、教室の雰囲気はいかがでしたか。大丈夫でしたか?」
「ええ。おかげさまで。皆に心配していただきました。話をしたことがない子からも声をかけてもらったんですよ」
仮に大多数が同情心の皮を被った好奇心で近付いてきたにしても、彼女にとっては嬉しいことだったのだろう。笑みを零している。
「そう。良かったわね」
「はい」
……そうか。今回、一番利を得たのは他でもないシャルロット嬢だ。実際、誰が始めたか分からないけれど、皆、ミーナ嬢が嫌がらせで始めたことだと考えたはず。ミーナ嬢とは立場が一転し、加害者だったかもしれない彼女は被害者となったわけである。
「結局、あなたに嫌がらせをしていたのは誰だったのかしら」
「それは分かりません。でももういいのです」
「もういい? どうして?」
「だって、これで私の身の潔白は証明できたわけですから」
彼女の物言いになぜか気持ち悪さを感じた。
身の潔白は証明できた? ――いいえ、それはできていないはず。ただ、一つ言えるのは今回の犯人はミーナ嬢だったという事実のみ。
もし全ての仕業が自分だと彼女が告白したのならば、シャルロット嬢の身は潔白と言えるだろう。けれど、彼女が沈黙を守っている今、それは確定ではな……あら? なぜ私はシャルロット嬢が犯人の線を考えているのか。
「もう終わったことです。このお話は止めて、もっと楽しいお話をしましょう!」
「そ、そうね」
思考を遮断されて、私はもやもや感と罪悪感を抱きながら笑みを作る。
「ヴィヴィアンナ様はエミリアと仲が良いのですか?」
「え? エミリアって、エミリア・コーラル様のこと?」
あまりにも唐突に話を変えてきたシャルロット嬢に私は戸惑った。
「ええ。そうです。エミリア・コーラル」
「いいえ。仲良くなんてないですわ」
「――そうですか」
「なぜ?」
一応、私の運命を狂わせる宿敵? ですから。
彼女はにこっと笑う。
「ヴィヴィアンナ様は、私だけのヴィヴィアンナ様でいてくださったら嬉しいなと思っただけです」
「こうして個人的にお話ししているのは、シャルロット様だけですわ」
「嬉しい! これからもよろしくお願いいたしますね」
手を合わせて小さくはしゃぐシャルロット嬢に、私は静かな笑みを返した。
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