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第68話 自分が選んだ道
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「シャルロット・ボルドーの机の中にクラスメート、何とか令嬢が自分の持ち物を仕込んだんだって?」
私も今聞いたばかりなのに、この男はいつどうやってこの情報を仕入れたのか。
情報収集の能力が高すぎると思う。
「ええ。ミーナ様のお友達からそう聞きました。でも初めて出会った時、彼女はシャルロット様に盗まれたと憤慨していらしたのに」
ああ、あの時の彼女ねとオードリー公爵子息は一人頷いている。
ミーナ嬢とまでは分かっていなかったのか。これは鎌をかけられたようだ。私はこほんと咳払いする。
「それにしても自分がやった事をシャルロット様が盗んだことにしていただなんて、やはり嫌がらせ目的だったのかしら」
とは言え、あの時の彼女の怒りの感情はとても自作自演には見えなかったけれど。
「さあね。ただ、第三者としては興味深いなと思うだけだよ」
「……あなたはお気楽でいいですわね」
「そうだね。俺がそれを望んだんだから。君も自分の意思でわざわざ苦労する道を選んだんでしょ」
皮肉っぽく笑う彼に私は肩をすくめる。
「ええ。そうですわ。反論の余地はございません」
「今からでも遅くないから、引き返したら?」
「どうやってですか?」
「それは知らない」
けろりとした顔で無責任な言葉を発する彼だけれど、最初に彼の言葉を無視したのは私なのだから怒るに怒れない。
「とりあえず明日、彼女に話を聞きに行ってみます」
「うーん。そんな騒ぎを起こして、学校に出てくるかな?」
「まあ、そうですが……」
お昼をのんきに食べていないで、すぐに教室に行って彼女に会わなかったことが悔やまれる。
「で。当人のシャルロット・ボルドーは何と言ってるの?」
「もうお帰りになられたそうですわ。この騒ぎは知らないでしょう」
「ふーん。そう。お早いお帰りだね」
何だか意味深な彼の言葉に私は眉根を寄せた。
「どういう意味ですか?」
「いや? ただ、何となくそう思っただけ」
彼は本気で口からぽろっと出ただけで、特に考えがあるわけではなさそうだ。
「まあ、明日になればそのミーナって子のお友達から真相が聞けるだろうし、何か分かったら俺に教えてよ」
「軽く言いますわね。個人的な情報のことですし……」
人の噂話を広めるというのは良くない。うん、良くない!
私が渋い表情をしてみせると、彼は目を細めた。
「えー? 先日、俺が情報提供してあげたのに、そう来るわけ? ――あ。じゃあさ。この間の情報提供の見返りってことで」
「それとこれでは話が別では」
「どちらも伝聞なんだから、そこに違いないでしょ。まさか公爵令嬢ともあろう者がタダで情報提供を受けようって気はないよね?」
思わず、うっと言葉に詰まった。けれど確かに取引と言えば、取引かもしれない。
「分かりました。ただし、内密ということで」
「大丈夫大丈夫。俺ほど口硬い人間いないよ?」
彼は絶対に口外しないから安心してよと笑いながら、自分の胸をぽぽんと叩いた。
……うん。不安だ。
次の日。
学校に到着するや、早速シャルロット嬢の教室へと出向いてみたところ、ミーナ嬢の姿はなかった。いつもの三人組も姿を見せていないので、まだ登校していないのかもしれない。
一方で、シャルロット嬢は私の姿を見つけて、小走りにやって来た。
「ヴィヴィアンナ様、おはようございます。もしかして私のことで、何かお聞きになってお見えに?」
「ええ。少しお話を聞いたわ。大変だったわね。何か分かって?」
「いえ。私も先ほどクラスメートに聞いたばかりで、何が何だか」
まだ困惑気味のシャルロット嬢に問うても、これ以上目新しい情報はないらしい。
「そう。分かりました。またお昼に会いましょう」
「はい」
「ではね」
私は自分の教室へと向かおうとしていると、前から件の三人組が肩身が狭そうにやって来た。
彼女ら自身が何かしたわけではないけれど、お友達がしていたことに罪悪感なり、恥じらいなりを感じているのかもしれない。
まずは行動あるのみ。授業前だけど聞いてみよう。
すれ違う間際、私はエリーゼ嬢に目配せを送ると、彼女は心得ていたようで素直に足を止めた。
私も今聞いたばかりなのに、この男はいつどうやってこの情報を仕入れたのか。
情報収集の能力が高すぎると思う。
「ええ。ミーナ様のお友達からそう聞きました。でも初めて出会った時、彼女はシャルロット様に盗まれたと憤慨していらしたのに」
ああ、あの時の彼女ねとオードリー公爵子息は一人頷いている。
ミーナ嬢とまでは分かっていなかったのか。これは鎌をかけられたようだ。私はこほんと咳払いする。
「それにしても自分がやった事をシャルロット様が盗んだことにしていただなんて、やはり嫌がらせ目的だったのかしら」
とは言え、あの時の彼女の怒りの感情はとても自作自演には見えなかったけれど。
「さあね。ただ、第三者としては興味深いなと思うだけだよ」
「……あなたはお気楽でいいですわね」
「そうだね。俺がそれを望んだんだから。君も自分の意思でわざわざ苦労する道を選んだんでしょ」
皮肉っぽく笑う彼に私は肩をすくめる。
「ええ。そうですわ。反論の余地はございません」
「今からでも遅くないから、引き返したら?」
「どうやってですか?」
「それは知らない」
けろりとした顔で無責任な言葉を発する彼だけれど、最初に彼の言葉を無視したのは私なのだから怒るに怒れない。
「とりあえず明日、彼女に話を聞きに行ってみます」
「うーん。そんな騒ぎを起こして、学校に出てくるかな?」
「まあ、そうですが……」
お昼をのんきに食べていないで、すぐに教室に行って彼女に会わなかったことが悔やまれる。
「で。当人のシャルロット・ボルドーは何と言ってるの?」
「もうお帰りになられたそうですわ。この騒ぎは知らないでしょう」
「ふーん。そう。お早いお帰りだね」
何だか意味深な彼の言葉に私は眉根を寄せた。
「どういう意味ですか?」
「いや? ただ、何となくそう思っただけ」
彼は本気で口からぽろっと出ただけで、特に考えがあるわけではなさそうだ。
「まあ、明日になればそのミーナって子のお友達から真相が聞けるだろうし、何か分かったら俺に教えてよ」
「軽く言いますわね。個人的な情報のことですし……」
人の噂話を広めるというのは良くない。うん、良くない!
私が渋い表情をしてみせると、彼は目を細めた。
「えー? 先日、俺が情報提供してあげたのに、そう来るわけ? ――あ。じゃあさ。この間の情報提供の見返りってことで」
「それとこれでは話が別では」
「どちらも伝聞なんだから、そこに違いないでしょ。まさか公爵令嬢ともあろう者がタダで情報提供を受けようって気はないよね?」
思わず、うっと言葉に詰まった。けれど確かに取引と言えば、取引かもしれない。
「分かりました。ただし、内密ということで」
「大丈夫大丈夫。俺ほど口硬い人間いないよ?」
彼は絶対に口外しないから安心してよと笑いながら、自分の胸をぽぽんと叩いた。
……うん。不安だ。
次の日。
学校に到着するや、早速シャルロット嬢の教室へと出向いてみたところ、ミーナ嬢の姿はなかった。いつもの三人組も姿を見せていないので、まだ登校していないのかもしれない。
一方で、シャルロット嬢は私の姿を見つけて、小走りにやって来た。
「ヴィヴィアンナ様、おはようございます。もしかして私のことで、何かお聞きになってお見えに?」
「ええ。少しお話を聞いたわ。大変だったわね。何か分かって?」
「いえ。私も先ほどクラスメートに聞いたばかりで、何が何だか」
まだ困惑気味のシャルロット嬢に問うても、これ以上目新しい情報はないらしい。
「そう。分かりました。またお昼に会いましょう」
「はい」
「ではね」
私は自分の教室へと向かおうとしていると、前から件の三人組が肩身が狭そうにやって来た。
彼女ら自身が何かしたわけではないけれど、お友達がしていたことに罪悪感なり、恥じらいなりを感じているのかもしれない。
まずは行動あるのみ。授業前だけど聞いてみよう。
すれ違う間際、私はエリーゼ嬢に目配せを送ると、彼女は心得ていたようで素直に足を止めた。
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