婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました

樹里

文字の大きさ
上 下
68 / 113

第68話 自分が選んだ道

しおりを挟む
「シャルロット・ボルドーの机の中にクラスメート、何とか令嬢が自分の持ち物を仕込んだんだって?」

 私も今聞いたばかりなのに、この男はいつどうやってこの情報を仕入れたのか。
 情報収集の能力が高すぎると思う。

「ええ。ミーナ様のお友達からそう聞きました。でも初めて出会った時、彼女はシャルロット様に盗まれたと憤慨していらしたのに」

 ああ、あの時の彼女ねとオードリー公爵子息は一人頷いている。
 ミーナ嬢とまでは分かっていなかったのか。これは鎌をかけられたようだ。私はこほんと咳払いする。

「それにしても自分がやった事をシャルロット様が盗んだことにしていただなんて、やはり嫌がらせ目的だったのかしら」

 とは言え、あの時の彼女の怒りの感情はとても自作自演には見えなかったけれど。

「さあね。ただ、第三者としては興味深いなと思うだけだよ」
「……あなたはお気楽でいいですわね」
「そうだね。俺がそれを望んだんだから。君も自分の意思でわざわざ苦労する道を選んだんでしょ」

 皮肉っぽく笑う彼に私は肩をすくめる。

「ええ。そうですわ。反論の余地はございません」
「今からでも遅くないから、引き返したら?」
「どうやってですか?」
「それは知らない」

 けろりとした顔で無責任な言葉を発する彼だけれど、最初に彼の言葉を無視したのは私なのだから怒るに怒れない。

「とりあえず明日、彼女に話を聞きに行ってみます」
「うーん。そんな騒ぎを起こして、学校に出てくるかな?」
「まあ、そうですが……」

 お昼をのんきに食べていないで、すぐに教室に行って彼女に会わなかったことが悔やまれる。

「で。当人のシャルロット・ボルドーは何と言ってるの?」
「もうお帰りになられたそうですわ。この騒ぎは知らないでしょう」
「ふーん。そう。お早いお帰りだね」

 何だか意味深な彼の言葉に私は眉根を寄せた。

「どういう意味ですか?」
「いや? ただ、何となくそう思っただけ」

 彼は本気で口からぽろっと出ただけで、特に考えがあるわけではなさそうだ。

「まあ、明日になればそのミーナって子のお友達から真相が聞けるだろうし、何か分かったら俺に教えてよ」
「軽く言いますわね。個人的な情報のことですし……」

 人の噂話を広めるというのは良くない。うん、良くない!
 私が渋い表情をしてみせると、彼は目を細めた。

「えー? 先日、俺が情報提供してあげたのに、そう来るわけ? ――あ。じゃあさ。この間の情報提供の見返りってことで」
「それとこれでは話が別では」
「どちらも伝聞なんだから、そこに違いないでしょ。まさか公爵令嬢ともあろう者がタダで情報提供を受けようって気はないよね?」

 思わず、うっと言葉に詰まった。けれど確かに取引と言えば、取引かもしれない。

「分かりました。ただし、内密ということで」
「大丈夫大丈夫。俺ほど口硬い人間いないよ?」

 彼は絶対に口外しないから安心してよと笑いながら、自分の胸をぽぽんと叩いた。
 ……うん。不安だ。


 次の日。
 学校に到着するや、早速シャルロット嬢の教室へと出向いてみたところ、ミーナ嬢の姿はなかった。いつもの三人組も姿を見せていないので、まだ登校していないのかもしれない。
 一方で、シャルロット嬢は私の姿を見つけて、小走りにやって来た。

「ヴィヴィアンナ様、おはようございます。もしかして私のことで、何かお聞きになってお見えに?」
「ええ。少しお話を聞いたわ。大変だったわね。何か分かって?」
「いえ。私も先ほどクラスメートに聞いたばかりで、何が何だか」

 まだ困惑気味のシャルロット嬢に問うても、これ以上目新しい情報はないらしい。

「そう。分かりました。またお昼に会いましょう」
「はい」
「ではね」

 私は自分の教室へと向かおうとしていると、前から件の三人組が肩身が狭そうにやって来た。
 彼女ら自身が何かしたわけではないけれど、お友達がしていたことに罪悪感なり、恥じらいなりを感じているのかもしれない。

 まずは行動あるのみ。授業前だけど聞いてみよう。
 すれ違う間際、私はエリーゼ嬢に目配せを送ると、彼女は心得ていたようで素直に足を止めた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

処理中です...