婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました

樹里

文字の大きさ
上 下
67 / 113

第67話 ミーナ嬢の理解し難い行動

しおりを挟む
 他の二人もまた足を止め、お気の毒そうに見ていたけれど、名指しされなかったのをいいことにエリーゼ嬢を置いて、さっさとディアナ嬢の元へと追いかけて行った。
 そんな彼女は少しおろおろしているのを見て、私はまず謝罪するところから始めることにする。

「足をお止めしてごめんなさいね。あなたならお話しいただけるかと思いまして。何があったのかしら。ミーナ様、ご体調が優れないというわけではなさそうね」
「え、ええ。その……。ではこちらへ」

 彼女は教室の中を一瞬だけ視線を向けると、少し離れた所に私を誘導する。そしてこくんと息を呑むと口を開いた。

「実はミーナがシャルロット様の机の中に、自分の特注の文具を入れたんです」
「……え!? 何ですって。それってつまり」

 思わず口を噤んだ私に代わり、エリーゼ嬢は頷くと言葉を続ける。

「シャルロット様が盗んだように思わせるための工作だったようです」
「それは誰が目撃したの?」
「ディアナ様と私たちの他にクラスメート数人です。ミーナを除く私たち三人は帰る準備をして、ディアナ様をお迎えに上がったのですが、戻って来たらミーナが……」

 確かに授業が終わり、人が帰宅し始める時間ではあるけれど、まだまだ人気のある時間帯だ。なぜ今、そんな事を起こしたのだろう。
 エミリア・コーラル男爵令嬢への嫌がらせをした人たちは人目を避けていたのに。……まるで目撃されたかった・・・・・・かのよう。
 とは言え、普通はそんな馬鹿な事を望むはずもないだろうし、分からない。

「ミーナ様はなぜ一緒にお迎えに行かなかったの? いつもなら一緒でしょう?」
「用事があるからとしか。後で教室に寄ることを約束して私たちは向かいました」
「そう」

 彼女は動揺を隠しきれない様子だ。何とか言葉を続けようと重いため息をついた。

「何かの間違いかと思って尋ねたのですが、彼女は自分がやったと認めました」
「では以前の盗られたとおっしゃっていたことも?」

 シャルロット嬢への嫌がらせのために、自作自演していたのだろうか。
 エリーゼ嬢はますます困惑したように眉をひそめる。

「そう考えたくはありません。ただ、私たちもまさに今ほど目撃したばかりで、まだ彼女から詳しくは聞けていない状態です。もしかしたら何か理由があったのかもしれません。――もちろん理由があったとして、許されるとも思えないのですが」

 友達である彼女としては庇いたい気持ちもあるのだろう。けれど私を気にしてのことかもしれない、すぐにはっとして言葉を追加した。

「いいのよ。お気持ちは分かるわ」
「申し訳ありません。今、ディアナ様がお聞きになっているとは思います」
「そうね。ごめんなさい。わたくしが足止めしてしまったから」
「……いえ」

 彼女としてもすぐに駆け付けたいところだろう。これ以上の情報は彼女も持っていないわけだし、いつまでも引き留めておくわけにもいかない。

「お引き留めして申し訳ありませんでした。どうぞお行きに――ああ。ごめんなさい。もう一つだけいいかしら。シャルロット様は今、教室にいらっしゃる?」
「いえ。彼女はもう帰った後のようです」
「そう」

 それもそうか。まだ彼女がいる場で、のうのうと小細工するほど愚かではないはずだものね。

「分かったわ。ありがとうございます。ディアナ様も動揺なさっていらっしゃるでしょうし、ついていてあげてください」
「はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 彼女は挨拶をすると去って行った。
 いつまでもここにいても仕方がない。また明日シャルロット嬢と会って話を聞こう。

 私もまた帰り支度をするために自分の教室へと戻ろうと引き返す。その最中、階段の踊り場にて、腕を組んで壁に身を任せているがいた。
 私の姿を認めると彼は実に楽しそうに、にっこりと笑う。

「やあ、こんにちは。何やら面白い事が起こっているようだね」
「もうお聞きになったのですか? 相変わらず早耳ですね」

 早速この騒ぎを聞きつけ、いち早く駆け付けたのだろう。騒動を見逃したくないからと言って、自分の利害には一切何にも無いことにでも行動を移せるとは、なかなかの野次馬根性がある人だ。
 私は若干呆れながらオーブリー公爵子息に近付く。

「僕を誰だと思っているの」
「そうですね。確かにあなたは好奇心旺盛な、ただの傍観者でしたわね」
「酷い言われようだなあ。まあ、あながち間違ってはいないけどさ」

 本日の彼は私の言葉を素直に受け取って、にっと笑った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...