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第67話 ミーナ嬢の理解し難い行動
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他の二人もまた足を止め、お気の毒そうに見ていたけれど、名指しされなかったのをいいことにエリーゼ嬢を置いて、さっさとディアナ嬢の元へと追いかけて行った。
そんな彼女は少しおろおろしているのを見て、私はまず謝罪するところから始めることにする。
「足をお止めしてごめんなさいね。あなたならお話しいただけるかと思いまして。何があったのかしら。ミーナ様、ご体調が優れないというわけではなさそうね」
「え、ええ。その……。ではこちらへ」
彼女は教室の中を一瞬だけ視線を向けると、少し離れた所に私を誘導する。そしてこくんと息を呑むと口を開いた。
「実はミーナがシャルロット様の机の中に、自分の特注の文具を入れたんです」
「……え!? 何ですって。それってつまり」
思わず口を噤んだ私に代わり、エリーゼ嬢は頷くと言葉を続ける。
「シャルロット様が盗んだように思わせるための工作だったようです」
「それは誰が目撃したの?」
「ディアナ様と私たちの他にクラスメート数人です。ミーナを除く私たち三人は帰る準備をして、ディアナ様をお迎えに上がったのですが、戻って来たらミーナが……」
確かに授業が終わり、人が帰宅し始める時間ではあるけれど、まだまだ人気のある時間帯だ。なぜ今、そんな事を起こしたのだろう。
エミリア・コーラル男爵令嬢への嫌がらせをした人たちは人目を避けていたのに。……まるで目撃されたかったかのよう。
とは言え、普通はそんな馬鹿な事を望むはずもないだろうし、分からない。
「ミーナ様はなぜ一緒にお迎えに行かなかったの? いつもなら一緒でしょう?」
「用事があるからとしか。後で教室に寄ることを約束して私たちは向かいました」
「そう」
彼女は動揺を隠しきれない様子だ。何とか言葉を続けようと重いため息をついた。
「何かの間違いかと思って尋ねたのですが、彼女は自分がやったと認めました」
「では以前の盗られたとおっしゃっていたことも?」
シャルロット嬢への嫌がらせのために、自作自演していたのだろうか。
エリーゼ嬢はますます困惑したように眉をひそめる。
「そう考えたくはありません。ただ、私たちもまさに今ほど目撃したばかりで、まだ彼女から詳しくは聞けていない状態です。もしかしたら何か理由があったのかもしれません。――もちろん理由があったとして、許されるとも思えないのですが」
友達である彼女としては庇いたい気持ちもあるのだろう。けれど私を気にしてのことかもしれない、すぐにはっとして言葉を追加した。
「いいのよ。お気持ちは分かるわ」
「申し訳ありません。今、ディアナ様がお聞きになっているとは思います」
「そうね。ごめんなさい。わたくしが足止めしてしまったから」
「……いえ」
彼女としてもすぐに駆け付けたいところだろう。これ以上の情報は彼女も持っていないわけだし、いつまでも引き留めておくわけにもいかない。
「お引き留めして申し訳ありませんでした。どうぞお行きに――ああ。ごめんなさい。もう一つだけいいかしら。シャルロット様は今、教室にいらっしゃる?」
「いえ。彼女はもう帰った後のようです」
「そう」
それもそうか。まだ彼女がいる場で、のうのうと小細工するほど愚かではないはずだものね。
「分かったわ。ありがとうございます。ディアナ様も動揺なさっていらっしゃるでしょうし、ついていてあげてください」
「はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします」
彼女は挨拶をすると去って行った。
いつまでもここにいても仕方がない。また明日シャルロット嬢と会って話を聞こう。
私もまた帰り支度をするために自分の教室へと戻ろうと引き返す。その最中、階段の踊り場にて、腕を組んで壁に身を任せている彼がいた。
私の姿を認めると彼は実に楽しそうに、にっこりと笑う。
「やあ、こんにちは。何やら面白い事が起こっているようだね」
「もうお聞きになったのですか? 相変わらず早耳ですね」
早速この騒ぎを聞きつけ、いち早く駆け付けたのだろう。騒動を見逃したくないからと言って、自分の利害には一切何にも無いことにでも行動を移せるとは、なかなかの野次馬根性がある人だ。
私は若干呆れながらオーブリー公爵子息に近付く。
「僕を誰だと思っているの」
「そうですね。確かにあなたは好奇心旺盛な、ただの傍観者でしたわね」
「酷い言われようだなあ。まあ、あながち間違ってはいないけどさ」
本日の彼は私の言葉を素直に受け取って、にっと笑った。
そんな彼女は少しおろおろしているのを見て、私はまず謝罪するところから始めることにする。
「足をお止めしてごめんなさいね。あなたならお話しいただけるかと思いまして。何があったのかしら。ミーナ様、ご体調が優れないというわけではなさそうね」
「え、ええ。その……。ではこちらへ」
彼女は教室の中を一瞬だけ視線を向けると、少し離れた所に私を誘導する。そしてこくんと息を呑むと口を開いた。
「実はミーナがシャルロット様の机の中に、自分の特注の文具を入れたんです」
「……え!? 何ですって。それってつまり」
思わず口を噤んだ私に代わり、エリーゼ嬢は頷くと言葉を続ける。
「シャルロット様が盗んだように思わせるための工作だったようです」
「それは誰が目撃したの?」
「ディアナ様と私たちの他にクラスメート数人です。ミーナを除く私たち三人は帰る準備をして、ディアナ様をお迎えに上がったのですが、戻って来たらミーナが……」
確かに授業が終わり、人が帰宅し始める時間ではあるけれど、まだまだ人気のある時間帯だ。なぜ今、そんな事を起こしたのだろう。
エミリア・コーラル男爵令嬢への嫌がらせをした人たちは人目を避けていたのに。……まるで目撃されたかったかのよう。
とは言え、普通はそんな馬鹿な事を望むはずもないだろうし、分からない。
「ミーナ様はなぜ一緒にお迎えに行かなかったの? いつもなら一緒でしょう?」
「用事があるからとしか。後で教室に寄ることを約束して私たちは向かいました」
「そう」
彼女は動揺を隠しきれない様子だ。何とか言葉を続けようと重いため息をついた。
「何かの間違いかと思って尋ねたのですが、彼女は自分がやったと認めました」
「では以前の盗られたとおっしゃっていたことも?」
シャルロット嬢への嫌がらせのために、自作自演していたのだろうか。
エリーゼ嬢はますます困惑したように眉をひそめる。
「そう考えたくはありません。ただ、私たちもまさに今ほど目撃したばかりで、まだ彼女から詳しくは聞けていない状態です。もしかしたら何か理由があったのかもしれません。――もちろん理由があったとして、許されるとも思えないのですが」
友達である彼女としては庇いたい気持ちもあるのだろう。けれど私を気にしてのことかもしれない、すぐにはっとして言葉を追加した。
「いいのよ。お気持ちは分かるわ」
「申し訳ありません。今、ディアナ様がお聞きになっているとは思います」
「そうね。ごめんなさい。わたくしが足止めしてしまったから」
「……いえ」
彼女としてもすぐに駆け付けたいところだろう。これ以上の情報は彼女も持っていないわけだし、いつまでも引き留めておくわけにもいかない。
「お引き留めして申し訳ありませんでした。どうぞお行きに――ああ。ごめんなさい。もう一つだけいいかしら。シャルロット様は今、教室にいらっしゃる?」
「いえ。彼女はもう帰った後のようです」
「そう」
それもそうか。まだ彼女がいる場で、のうのうと小細工するほど愚かではないはずだものね。
「分かったわ。ありがとうございます。ディアナ様も動揺なさっていらっしゃるでしょうし、ついていてあげてください」
「はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします」
彼女は挨拶をすると去って行った。
いつまでもここにいても仕方がない。また明日シャルロット嬢と会って話を聞こう。
私もまた帰り支度をするために自分の教室へと戻ろうと引き返す。その最中、階段の踊り場にて、腕を組んで壁に身を任せている彼がいた。
私の姿を認めると彼は実に楽しそうに、にっこりと笑う。
「やあ、こんにちは。何やら面白い事が起こっているようだね」
「もうお聞きになったのですか? 相変わらず早耳ですね」
早速この騒ぎを聞きつけ、いち早く駆け付けたのだろう。騒動を見逃したくないからと言って、自分の利害には一切何にも無いことにでも行動を移せるとは、なかなかの野次馬根性がある人だ。
私は若干呆れながらオーブリー公爵子息に近付く。
「僕を誰だと思っているの」
「そうですね。確かにあなたは好奇心旺盛な、ただの傍観者でしたわね」
「酷い言われようだなあ。まあ、あながち間違ってはいないけどさ」
本日の彼は私の言葉を素直に受け取って、にっと笑った。
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