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第66話 意地っ張りは程々に
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とりあえず、私を呼び出した手紙の差出人はここには来ないことだけは確実だ。だったら目星を付けたミーナ・グランデ伯爵令嬢に私から会いに行こう。仮に彼女が呼び出した本人ではなくても、シャルロット嬢のことで何かしら言いたいことはあるはずだから。
私は彼女の教室へと向かっていると。
ぐぅぅぅ。
お腹が音を鳴らして空腹を主張してきた。
何も食べずに午後から持つとは思わない。この時間は昼食を取って、午後の授業が終わってから会いに行くことにしましょう。何も逃げられるわけでもないのだから。
そう思っていたのは浅はかな考えだった。人はいつだって思い立ったらすぐに行動すべきなのだ。……と後で気付くものだ。
授業が終わり、ミーナ嬢の教室へ行こうとしたところ、試験のライバル、ギルバート・ムラノフさんが前から歩いてくるのが見えた。
「あら。ムラノフさん、ごきげんよう」
「こんにちは」
何冊かの教科書類を片腕に抱えた彼はどこかへ行くようだ。
「これからお勉強ですか?」
「はい。勉強会です」
「勉強会ですか?」
「ええ。僕が皆に教えているんです」
彼は眼鏡を直しながら照れくさそうに笑った。
「ローレンスさんのおかげで、友達も増えまして」
「わたくしのおかげ? 何も貢献した覚えがございませんが?」
首を傾げると、彼はまた小さく笑う。
「成績であなたと肩を並べたと評判になって、教えてほしいと色んな人に声をかけられるようになったんです」
「そうでしたか」
いいですね、皆さん。お友達がいっぱいできて。
なぜ貢献人(?)である私にお友達ができないのか、実に不可思議ですけれども。
「よろしければローレンスさんもご参加しませんか?」
「え?」
「僕一人では少し手一杯なんです。ローレンスさんにもお手伝いいただけると助かるのですが」
「……わたくしが?」
ここを教えてくださいと声をかけられ、時には笑顔で、時にはしかめ面になりつつも、和気あいあいとした雰囲気で彼らを教えるのだろうか。
……想像するだけで、とても楽しい気分になる。
「いかがですか?」
尋ねられて、気付けば緩んでいた頬をきゅっと引き締める。
だめだめ。私は悪役令嬢なのだから不用意に笑っては。
咳払いをして誤魔化す。
「そ、そうですね。わたくしも忙しい身ですから」
「……そうですか。そうですよね。ご迷惑ですよね」
彼は残念そうに眉を下げた。
も、もう少し粘ってくれても全然いいのですが!
「あ。では、お時間がある時に顔を見せていただくのはどうでしょう。見学だけでも」
「ぜ、ぜひ! ――い、いえ。それくらいなら。あ、あくまでもわたくしに時間ができた時にですけれど!」
ムラノフさんからの再度の提案に思わず食い付いてしまい、慌てて取り繕う。
彼は一瞬ぽかんとした顔をした後、すぐにくすくすと笑った。
「ええ。ぜひお待ちしております」
ムラノフさんと別れ、火照った頬を冷ましながらシャルロット嬢とミーナ嬢の教室の前へとやって来ると、なぜか教室内が騒然としているのに気付く。
何となく嫌な予感がして足早に近付くと、丁度ディアナ侯爵令嬢がミーナ嬢を庇うように付き添って出てくるところに出くわした。
「ごきげんよう、ディアナ様」
声をかけると、俯き加減だった彼女らは顔を上げ、はっと表情を変えた。
「ヴィ、ヴィヴィアンナ様。ごきげんよう」
いつもと違って余裕の無さそうなディアナ嬢と顔を青くしているミーナ嬢に、私は眉を落とした。
ミーナ嬢は具合でも悪いのだろうか。話を聞こうと思っていたのに、これでは無理のように思う。
「ごきげんよう。どうかなさいました? もしかしてミーナ様、お加減が悪いのですか?」
「い、いえ。その。……申し訳ございません。わたくしもまだ。とりあえず先を急ぎますので」
もしかしてお体の具合が悪いわけではない? どうにも様子がおかしい。けれどひとまずここは引こう。
「あ、ええ。足をお止めしてごめんなさい」
「いえ。それでは」
ディアナ嬢はミーナ嬢を促して足早に去って行く。続いて、彼女のお友達である三人が追おうとするので、私は素早く声をかけた。
「エリーゼ・ヴェルト様。少しよろしいかしら」
名指しすると彼女はびくっと反応し、恐る恐るこちらへと振り返る。
私はにっこり笑顔を見せると、彼女もまた引きつったような笑みを返した。
私は彼女の教室へと向かっていると。
ぐぅぅぅ。
お腹が音を鳴らして空腹を主張してきた。
何も食べずに午後から持つとは思わない。この時間は昼食を取って、午後の授業が終わってから会いに行くことにしましょう。何も逃げられるわけでもないのだから。
そう思っていたのは浅はかな考えだった。人はいつだって思い立ったらすぐに行動すべきなのだ。……と後で気付くものだ。
授業が終わり、ミーナ嬢の教室へ行こうとしたところ、試験のライバル、ギルバート・ムラノフさんが前から歩いてくるのが見えた。
「あら。ムラノフさん、ごきげんよう」
「こんにちは」
何冊かの教科書類を片腕に抱えた彼はどこかへ行くようだ。
「これからお勉強ですか?」
「はい。勉強会です」
「勉強会ですか?」
「ええ。僕が皆に教えているんです」
彼は眼鏡を直しながら照れくさそうに笑った。
「ローレンスさんのおかげで、友達も増えまして」
「わたくしのおかげ? 何も貢献した覚えがございませんが?」
首を傾げると、彼はまた小さく笑う。
「成績であなたと肩を並べたと評判になって、教えてほしいと色んな人に声をかけられるようになったんです」
「そうでしたか」
いいですね、皆さん。お友達がいっぱいできて。
なぜ貢献人(?)である私にお友達ができないのか、実に不可思議ですけれども。
「よろしければローレンスさんもご参加しませんか?」
「え?」
「僕一人では少し手一杯なんです。ローレンスさんにもお手伝いいただけると助かるのですが」
「……わたくしが?」
ここを教えてくださいと声をかけられ、時には笑顔で、時にはしかめ面になりつつも、和気あいあいとした雰囲気で彼らを教えるのだろうか。
……想像するだけで、とても楽しい気分になる。
「いかがですか?」
尋ねられて、気付けば緩んでいた頬をきゅっと引き締める。
だめだめ。私は悪役令嬢なのだから不用意に笑っては。
咳払いをして誤魔化す。
「そ、そうですね。わたくしも忙しい身ですから」
「……そうですか。そうですよね。ご迷惑ですよね」
彼は残念そうに眉を下げた。
も、もう少し粘ってくれても全然いいのですが!
「あ。では、お時間がある時に顔を見せていただくのはどうでしょう。見学だけでも」
「ぜ、ぜひ! ――い、いえ。それくらいなら。あ、あくまでもわたくしに時間ができた時にですけれど!」
ムラノフさんからの再度の提案に思わず食い付いてしまい、慌てて取り繕う。
彼は一瞬ぽかんとした顔をした後、すぐにくすくすと笑った。
「ええ。ぜひお待ちしております」
ムラノフさんと別れ、火照った頬を冷ましながらシャルロット嬢とミーナ嬢の教室の前へとやって来ると、なぜか教室内が騒然としているのに気付く。
何となく嫌な予感がして足早に近付くと、丁度ディアナ侯爵令嬢がミーナ嬢を庇うように付き添って出てくるところに出くわした。
「ごきげんよう、ディアナ様」
声をかけると、俯き加減だった彼女らは顔を上げ、はっと表情を変えた。
「ヴィ、ヴィヴィアンナ様。ごきげんよう」
いつもと違って余裕の無さそうなディアナ嬢と顔を青くしているミーナ嬢に、私は眉を落とした。
ミーナ嬢は具合でも悪いのだろうか。話を聞こうと思っていたのに、これでは無理のように思う。
「ごきげんよう。どうかなさいました? もしかしてミーナ様、お加減が悪いのですか?」
「い、いえ。その。……申し訳ございません。わたくしもまだ。とりあえず先を急ぎますので」
もしかしてお体の具合が悪いわけではない? どうにも様子がおかしい。けれどひとまずここは引こう。
「あ、ええ。足をお止めしてごめんなさい」
「いえ。それでは」
ディアナ嬢はミーナ嬢を促して足早に去って行く。続いて、彼女のお友達である三人が追おうとするので、私は素早く声をかけた。
「エリーゼ・ヴェルト様。少しよろしいかしら」
名指しすると彼女はびくっと反応し、恐る恐るこちらへと振り返る。
私はにっこり笑顔を見せると、彼女もまた引きつったような笑みを返した。
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