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第59話 理想論
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とりあえずせっかくディアナ嬢にお誘いいただいたのだから、話をこちらから振って盛り上げてみよう。
「ディアナ様はいつもこちらでお茶されているのですか」
「ええ。ヴィヴィアンナ様はこれでまでこちらではお見かけしたことがございませんが、いつもどちらへ?」
自分から振ってしまったとは言え、その話題にはあまり触れないでいただきたかった。それに自分の居場所を特定されたくない。どんなことで何に利用されるか分かったものではないから。
「そうですね。色々です」
「色々?」
とは言え、尋ね返されるとやはり答えないわけにもいかず。
「……ええっと。教室であったり、裏庭であったり、書庫であったり。神出鬼没です」
「そうですか」
微妙な笑みを返すディアナ嬢。
私も自分で言っていて、神出鬼没とか意味が分からない。盛り上がらないどころか、掘り下げてしまった気がする。
会話をもり立てるなど高度な技術を要するのに、おこがましくも口出しした私は愚か者でした。ごめんなさい。もう致しません。
心の中で膝をついて詫びを入れる。
私はこの淀んだ雰囲気を変えるために、一度空いた席に視線をやるとディアナ嬢を見た。
「その席は、扉の前で立っていらっしゃったディアナ様のお友達の席ですか?」
「え? ええ。そうです」
「誰かをお待ちだったとか」
その誰かは私ですか?
とまでは尋ねないけれど。
「……そうですね。そろそろ呼びましょうか」
彼女はそう言うとミーナ嬢を見た。それによって、ミーナ嬢は失礼いたしますと立ち上がり、扉へと向かう。
そんな訳で現在、このテーブルにはディアナ嬢と私、そしてシャルロット嬢のみだ。今なら数的有利と言ったところか。
シャルロット嬢に少し笑みを見せた後、ディアナ嬢に視線を移し、こちらから話を切り出してみる。
「ディアナ様、今日はどうしてわたくしをお誘いくださったのですか?」
「どうしてですって? こちらにいらっしゃるのならば、いつでも大歓迎いたしますわ」
なるほど。その通りですね。ぐうの音も出ません。
「それはありがとうございます」
「ヴィヴィアンナ様とは一度ゆっくりお話ししたいと常々思っておりました」
「そうですか。ではそれは次の機会にいたしましょう」
ミーナ嬢が三人を連れて戻って来たのを確認して、そのように返すと彼女は眉を上げて少しだけ笑った。
「そうですわね」
私は彼女に微笑みを返すと、席に着いた三人に視線を向ける。
「アニエス様、セリア様、エリーゼ様。ディアナ様のご厚意で同席させていだたいております。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、は、はい」
「こ、こちらこそ」
「よ、よろしくお願いいたします」
三人は各々、何とも言えないような複雑な表情を見せつつ言葉を返してきた。特に先ほど止めてくれたエリーゼ嬢はとりわけ不安そうな表情を浮かべている。
以前会った時も、後ろで控えていただけだったから、恐らくこの三人は会話には参加しないに違いない。問題はミーナ・グランデ伯爵令嬢だろう。何せ今も鋭い視線を感じる。余程以前の私の行動が癪に障ったらしい。
敵意を隠そうともしない見上げた根性が少し羨ましく思う。私には欠けているものだから。
私は笑顔で軽く流すと、ディアナ嬢を見た。
「わたくしはこのような場は久々ですから、少し戸惑ってしまいます。ディアナ様方は普段どんなお話を?」
「そうですね。ヴィヴィアンナ様は才媛の誉れが高くいらっしゃるから、このようなお話はつまらないかもしれませんが、主に日常生活のこと、学校生活のこと、貴族のたしなみのことなどでしょうか」
「まあ。そうですか。貴族のたしなみ。どういったものでしょう」
心がけはもちろん大切だけれど、たしなみの何たるかを毎日のように言われたら、私なら少し窮屈に思えるかもしれない。
「ええ。と、申しましても男性を敬い、常に控えめで慎ましやかな姿勢であれ、など常識範囲のことですわ。常に成績主席のヴィヴィアンナ様にお聞かせする程のことではございません」
先ほどから言葉にちくちくと棘を感じるのですが、それは殿下よりも成績を上位に付ける私への遠回しのご批判でしょうか。謹んで――お受けはいたしませんが。
「なるほど。理想的な女性の姿ですね。ですが、わたくしども女性に求められるものが多い気がいたします。殿方にもわたくしたちが理想とする男性像を目指して、もっと励んでいただきたいですわね。――あら、愚痴こぼし失礼いたしました」
目を丸くするディアナ嬢に、私はほほほと笑った。
「ディアナ様はいつもこちらでお茶されているのですか」
「ええ。ヴィヴィアンナ様はこれでまでこちらではお見かけしたことがございませんが、いつもどちらへ?」
自分から振ってしまったとは言え、その話題にはあまり触れないでいただきたかった。それに自分の居場所を特定されたくない。どんなことで何に利用されるか分かったものではないから。
「そうですね。色々です」
「色々?」
とは言え、尋ね返されるとやはり答えないわけにもいかず。
「……ええっと。教室であったり、裏庭であったり、書庫であったり。神出鬼没です」
「そうですか」
微妙な笑みを返すディアナ嬢。
私も自分で言っていて、神出鬼没とか意味が分からない。盛り上がらないどころか、掘り下げてしまった気がする。
会話をもり立てるなど高度な技術を要するのに、おこがましくも口出しした私は愚か者でした。ごめんなさい。もう致しません。
心の中で膝をついて詫びを入れる。
私はこの淀んだ雰囲気を変えるために、一度空いた席に視線をやるとディアナ嬢を見た。
「その席は、扉の前で立っていらっしゃったディアナ様のお友達の席ですか?」
「え? ええ。そうです」
「誰かをお待ちだったとか」
その誰かは私ですか?
とまでは尋ねないけれど。
「……そうですね。そろそろ呼びましょうか」
彼女はそう言うとミーナ嬢を見た。それによって、ミーナ嬢は失礼いたしますと立ち上がり、扉へと向かう。
そんな訳で現在、このテーブルにはディアナ嬢と私、そしてシャルロット嬢のみだ。今なら数的有利と言ったところか。
シャルロット嬢に少し笑みを見せた後、ディアナ嬢に視線を移し、こちらから話を切り出してみる。
「ディアナ様、今日はどうしてわたくしをお誘いくださったのですか?」
「どうしてですって? こちらにいらっしゃるのならば、いつでも大歓迎いたしますわ」
なるほど。その通りですね。ぐうの音も出ません。
「それはありがとうございます」
「ヴィヴィアンナ様とは一度ゆっくりお話ししたいと常々思っておりました」
「そうですか。ではそれは次の機会にいたしましょう」
ミーナ嬢が三人を連れて戻って来たのを確認して、そのように返すと彼女は眉を上げて少しだけ笑った。
「そうですわね」
私は彼女に微笑みを返すと、席に着いた三人に視線を向ける。
「アニエス様、セリア様、エリーゼ様。ディアナ様のご厚意で同席させていだたいております。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、は、はい」
「こ、こちらこそ」
「よ、よろしくお願いいたします」
三人は各々、何とも言えないような複雑な表情を見せつつ言葉を返してきた。特に先ほど止めてくれたエリーゼ嬢はとりわけ不安そうな表情を浮かべている。
以前会った時も、後ろで控えていただけだったから、恐らくこの三人は会話には参加しないに違いない。問題はミーナ・グランデ伯爵令嬢だろう。何せ今も鋭い視線を感じる。余程以前の私の行動が癪に障ったらしい。
敵意を隠そうともしない見上げた根性が少し羨ましく思う。私には欠けているものだから。
私は笑顔で軽く流すと、ディアナ嬢を見た。
「わたくしはこのような場は久々ですから、少し戸惑ってしまいます。ディアナ様方は普段どんなお話を?」
「そうですね。ヴィヴィアンナ様は才媛の誉れが高くいらっしゃるから、このようなお話はつまらないかもしれませんが、主に日常生活のこと、学校生活のこと、貴族のたしなみのことなどでしょうか」
「まあ。そうですか。貴族のたしなみ。どういったものでしょう」
心がけはもちろん大切だけれど、たしなみの何たるかを毎日のように言われたら、私なら少し窮屈に思えるかもしれない。
「ええ。と、申しましても男性を敬い、常に控えめで慎ましやかな姿勢であれ、など常識範囲のことですわ。常に成績主席のヴィヴィアンナ様にお聞かせする程のことではございません」
先ほどから言葉にちくちくと棘を感じるのですが、それは殿下よりも成績を上位に付ける私への遠回しのご批判でしょうか。謹んで――お受けはいたしませんが。
「なるほど。理想的な女性の姿ですね。ですが、わたくしども女性に求められるものが多い気がいたします。殿方にもわたくしたちが理想とする男性像を目指して、もっと励んでいただきたいですわね。――あら、愚痴こぼし失礼いたしました」
目を丸くするディアナ嬢に、私はほほほと笑った。
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