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第55話 尾行
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私はオーブリー公爵子息に別れを告げると書庫を出た。
これからシャルロット嬢のことはどうしよう。実際、男性を侍らせているだの、貢がせているだのの話があったとして、確かに淑女としての立ち振る舞いとしては相応しくないと思うけれど、それを私が何様気取りで口出すのか。
しかしそれができないと言うのならば殿下の言う通り、今はまだ彼の婚約者である以上、彼の言葉に従うべきなのか。
はっ。
いつの間にか、これまでのように従う思考になっている。そうではない。私が彼女をどう見て、どう行動するかの問題だ。殿下は関係がない。
とりあえず明日の昼休みは用事があると言っていたから、彼女の普段の様子を探ってみることにしよう。彼女の私事を見張るだなんて無礼にも程があるし、心苦しいけれど。
……それにしても今回はシャルロット嬢身辺を探ることになるのか。今世は取り巻きを連れるのではなく、私が人に付きまとう人生らしい。しかも学院内で陰からそっと。
ますます不審化していく自分ではあったけれど、気付かなかったことにした。
次の日。
「ヴィヴィアンナ」
昼休みが始まってすぐに席を立ち、シャルロット嬢の教室へと向かおうとするところを呼び止められた。
「ごきげんよう、殿下」
一体何用か。急いでいるのだけれど。
その不機嫌さが顔に出ていたのだろう。彼は少し眉を落とした。
「昨日はその……悪かった」
「……はい?」
突然の訳の分からない謝罪に目を見張った。
「いや。昨日、ちょっときつい物言いだったかなとあれから反省した」
意外だ。別れた後、私との会話を振り返って考えていたとは。
私は怒らせていた肩を落とし、逸る気持ちも落ち着かせる。
「いいえ。殿下の言葉には間違いがございませんでした。わたくしに謝罪されるようなことはございません」
「そうか。……怒ってないのか?」
これまた意外な言葉だ。何だか沈み込んだ様子なので、仕方がないから私が大人になってあげることにした。
私は腰に両手をやって胸を張る。
「失礼ですわね。わたくしの顔がそんなに怒っている顔に見えるのですか?」
「ああ。――いや、ごめん。見えない!」
殿下は私が行動する前に手で制し、すぐに謝罪した。
「まったく。もういいですわよ」
「うん。ごめん。……ありがとう」
こちらの気持ちを見透かされたようなお礼に私は思わ――あっ! こんなことをしている場合じゃない。
「すみません。この後、急ぎの用事がありましたの」
「おい、またかよ!?」
ええ。あなたのおかげで。
「今度、時間を作りますから」
「……分かった。絶対だぞ」
「ええ。はい。ではまた」
念押しする殿下に対して適当に答えると、シャルロット嬢への教室へと急いだ。
用事があると言っていたので、まだ彼女は教室にいるか不安だったけれど、私が彼女の教室が目に入った時には丁度一人でどこかに向かって歩いて行くところだった。
私は十分な距離を取って彼女の跡をつけると、彼女はどんどん奥に進んで行く。
周りから人気がなくなってくると、彼女はむしろ人目を気にするようなそぶりをしだしたから、その度に身を隠す羽目になる。瞬発力が必要だ。
奥には学年共有の教室があったと思うけれど、この時間だと空き教室になっているはず。恋人との逢瀬かもしれないし、さすがにこれ以上の尾行は控えよう。
足を止めて踵を返した時。
「お待たせしました」
扉を開けたシャルロット嬢が可愛らしい声で、中の誰かに声をかけて入っていった。
私は少し考えた後、また足を前に進めると部屋の前まで近付く。
さすがにしっかり閉められた扉を開けるだけの勇気はないので、扉に耳を近づけた。
やはり相手は恋人らしい。男性の声と甘えるような彼女の声が聞こえてくる。
……彼女の踏みこむべきではない個人的な領域まで侵害して、私は一体何をやっているんだろう。
ため息をつくと、私はそこを後にした。
これからシャルロット嬢のことはどうしよう。実際、男性を侍らせているだの、貢がせているだのの話があったとして、確かに淑女としての立ち振る舞いとしては相応しくないと思うけれど、それを私が何様気取りで口出すのか。
しかしそれができないと言うのならば殿下の言う通り、今はまだ彼の婚約者である以上、彼の言葉に従うべきなのか。
はっ。
いつの間にか、これまでのように従う思考になっている。そうではない。私が彼女をどう見て、どう行動するかの問題だ。殿下は関係がない。
とりあえず明日の昼休みは用事があると言っていたから、彼女の普段の様子を探ってみることにしよう。彼女の私事を見張るだなんて無礼にも程があるし、心苦しいけれど。
……それにしても今回はシャルロット嬢身辺を探ることになるのか。今世は取り巻きを連れるのではなく、私が人に付きまとう人生らしい。しかも学院内で陰からそっと。
ますます不審化していく自分ではあったけれど、気付かなかったことにした。
次の日。
「ヴィヴィアンナ」
昼休みが始まってすぐに席を立ち、シャルロット嬢の教室へと向かおうとするところを呼び止められた。
「ごきげんよう、殿下」
一体何用か。急いでいるのだけれど。
その不機嫌さが顔に出ていたのだろう。彼は少し眉を落とした。
「昨日はその……悪かった」
「……はい?」
突然の訳の分からない謝罪に目を見張った。
「いや。昨日、ちょっときつい物言いだったかなとあれから反省した」
意外だ。別れた後、私との会話を振り返って考えていたとは。
私は怒らせていた肩を落とし、逸る気持ちも落ち着かせる。
「いいえ。殿下の言葉には間違いがございませんでした。わたくしに謝罪されるようなことはございません」
「そうか。……怒ってないのか?」
これまた意外な言葉だ。何だか沈み込んだ様子なので、仕方がないから私が大人になってあげることにした。
私は腰に両手をやって胸を張る。
「失礼ですわね。わたくしの顔がそんなに怒っている顔に見えるのですか?」
「ああ。――いや、ごめん。見えない!」
殿下は私が行動する前に手で制し、すぐに謝罪した。
「まったく。もういいですわよ」
「うん。ごめん。……ありがとう」
こちらの気持ちを見透かされたようなお礼に私は思わ――あっ! こんなことをしている場合じゃない。
「すみません。この後、急ぎの用事がありましたの」
「おい、またかよ!?」
ええ。あなたのおかげで。
「今度、時間を作りますから」
「……分かった。絶対だぞ」
「ええ。はい。ではまた」
念押しする殿下に対して適当に答えると、シャルロット嬢への教室へと急いだ。
用事があると言っていたので、まだ彼女は教室にいるか不安だったけれど、私が彼女の教室が目に入った時には丁度一人でどこかに向かって歩いて行くところだった。
私は十分な距離を取って彼女の跡をつけると、彼女はどんどん奥に進んで行く。
周りから人気がなくなってくると、彼女はむしろ人目を気にするようなそぶりをしだしたから、その度に身を隠す羽目になる。瞬発力が必要だ。
奥には学年共有の教室があったと思うけれど、この時間だと空き教室になっているはず。恋人との逢瀬かもしれないし、さすがにこれ以上の尾行は控えよう。
足を止めて踵を返した時。
「お待たせしました」
扉を開けたシャルロット嬢が可愛らしい声で、中の誰かに声をかけて入っていった。
私は少し考えた後、また足を前に進めると部屋の前まで近付く。
さすがにしっかり閉められた扉を開けるだけの勇気はないので、扉に耳を近づけた。
やはり相手は恋人らしい。男性の声と甘えるような彼女の声が聞こえてくる。
……彼女の踏みこむべきではない個人的な領域まで侵害して、私は一体何をやっているんだろう。
ため息をつくと、私はそこを後にした。
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