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第47話 同情と安堵
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ほっと息を下ろす。
何とか引き下がってくれて良かった。あれ以上、彼女らと対峙する度胸はなかったから。
とりあえず一難去ったことだし、当初の目的を果たそうと、ベンチに足を向けて歩き出したところ。
「あ、あの。ローレンス様、ありがとうございました!」
私と関わり合いになると厄介だから、このまま何も言わずに立ち去ってもらっても良かったのに。
そんな風に考えながらも足を止め、彼女に振り返る。
「いいえ。わたくし、あのベンチで寛ごうとたまたま居合わせただけですから」
実際そのつもりだったし、私は近くのベンチを指さしながらそう言った。
「それでも助けていただいて嬉しかったです。こんな風に責められても、誰も助けてくれなかったから」
シャルロット嬢は少し悲しそうに笑った。
そこまで聞かされて、はいそうですかと返すわけにもいかず。
「……少々寒いですが、よろしければベンチでお話しいたしませんか」
「はい!」
ダメ元で誘ってみたところ、嬉しそうに返されて少し……照れくさい。
ベンチに座って聞いたことによると、彼女はシャルロット・ボルドー男爵で私より一学年下だそうだ。
ディアナ侯爵令嬢は私と同じ学年だから、わざわざ取り巻きに促されて注意にみえたということなのだろうか。
さて男爵と言えば、エミリア嬢も男爵家のご令嬢だけれど、彼女とのお家とは同じ爵位とあって知人関係にあるとのこと。彼女からは特にエミリア嬢の新情報は得られなかったけれど、自慢の友達ですと言っていたところから、仲の良さが伺えた。
最初は楽しそうに自分のことを話していたけれど、次第に表情を曇らせて行く。
「私、クラスの中では結構孤立しているんです」
あら。同類!? 私も――。
「いつからか、一部の女の子たちから露骨に避けられるようになってしまいました。男の子に色目を使ったって」
……ええ。分かっていました。私と一緒ではないと言うことくらい。私は必要以上、男女ともに話さないから男に色目を使ったなどと噂が立つことは決してありえません。
いいのです。わたくしは現段階ではまだ、ルイス殿下という婚約者がいるのですから!
「それだけに留まらず、嫌がらせも」
「え? ……嫌がらせ?」
虚しさにそっと心の涙を拭っていると、彼女がそんな言葉を出したものだから目を見張った。
彼女ははっと我に返ったようで、首を振った。
「い、いえ! 申し訳ございません。こんな話をローレンス様にお聞かせするだなんて」
「いいのよ。初対面の方が話せることもあるわ。力になれるとは明言できないけれど、お話を聞くぐらいならできます」
その場凌ぎの安請け合いではなくて正直な気持ちを伝えると、シャルロット嬢は目を見開き、その大きな瞳からいくつもの雫をはらはらと落とした。
力になれると明言できないと言ったことが悪かったらしい。
私は慌てて謝罪する。
「ご、ごめんなさいね!? ち、力になれないかもだなんて!」
「違います。違うのです。嬉しいのです。……今まで私の話を聞いてくれる人が誰もいなかったので」
「シャルロット様……」
自分だけが不幸のどん底にいると思っていたけれど、本当は誰しも悩みを抱えて生きているものなのかもしれない。
そう考えると、彼女を思いやる気持ちが生まれると同時に皆も同じなんだとホッとする自分もいて、嫌な自分の一面が見えてしまうことで自己嫌悪に陥る。
「いきなり泣き出して、驚かせてごめんなさい。もう大丈夫です」
ひそかに落ち込んでいる私の横で彼女は悪戯っぽく笑って、目元を拭った。気持ちを切り替えると私もすぐに笑みを作る。
「そ、そう。でもこの話はもう止めた方がいいわね」
「いえ。ローレンス様にこうして聞いていただけるなら、それが一番嬉しいです」
「そう? ……ではお話の続きを聞かせていただける? それとローレンスではなくてヴィヴィアンナで結構よ」
彼女は目を一瞬見張ると、すぐに破顔する。
「はい! ヴィヴィアンナ様!」
「え、ええ。シャルロット様」
私はまた少し……照れくさくなってそっぽを向いた。
何とか引き下がってくれて良かった。あれ以上、彼女らと対峙する度胸はなかったから。
とりあえず一難去ったことだし、当初の目的を果たそうと、ベンチに足を向けて歩き出したところ。
「あ、あの。ローレンス様、ありがとうございました!」
私と関わり合いになると厄介だから、このまま何も言わずに立ち去ってもらっても良かったのに。
そんな風に考えながらも足を止め、彼女に振り返る。
「いいえ。わたくし、あのベンチで寛ごうとたまたま居合わせただけですから」
実際そのつもりだったし、私は近くのベンチを指さしながらそう言った。
「それでも助けていただいて嬉しかったです。こんな風に責められても、誰も助けてくれなかったから」
シャルロット嬢は少し悲しそうに笑った。
そこまで聞かされて、はいそうですかと返すわけにもいかず。
「……少々寒いですが、よろしければベンチでお話しいたしませんか」
「はい!」
ダメ元で誘ってみたところ、嬉しそうに返されて少し……照れくさい。
ベンチに座って聞いたことによると、彼女はシャルロット・ボルドー男爵で私より一学年下だそうだ。
ディアナ侯爵令嬢は私と同じ学年だから、わざわざ取り巻きに促されて注意にみえたということなのだろうか。
さて男爵と言えば、エミリア嬢も男爵家のご令嬢だけれど、彼女とのお家とは同じ爵位とあって知人関係にあるとのこと。彼女からは特にエミリア嬢の新情報は得られなかったけれど、自慢の友達ですと言っていたところから、仲の良さが伺えた。
最初は楽しそうに自分のことを話していたけれど、次第に表情を曇らせて行く。
「私、クラスの中では結構孤立しているんです」
あら。同類!? 私も――。
「いつからか、一部の女の子たちから露骨に避けられるようになってしまいました。男の子に色目を使ったって」
……ええ。分かっていました。私と一緒ではないと言うことくらい。私は必要以上、男女ともに話さないから男に色目を使ったなどと噂が立つことは決してありえません。
いいのです。わたくしは現段階ではまだ、ルイス殿下という婚約者がいるのですから!
「それだけに留まらず、嫌がらせも」
「え? ……嫌がらせ?」
虚しさにそっと心の涙を拭っていると、彼女がそんな言葉を出したものだから目を見張った。
彼女ははっと我に返ったようで、首を振った。
「い、いえ! 申し訳ございません。こんな話をローレンス様にお聞かせするだなんて」
「いいのよ。初対面の方が話せることもあるわ。力になれるとは明言できないけれど、お話を聞くぐらいならできます」
その場凌ぎの安請け合いではなくて正直な気持ちを伝えると、シャルロット嬢は目を見開き、その大きな瞳からいくつもの雫をはらはらと落とした。
力になれると明言できないと言ったことが悪かったらしい。
私は慌てて謝罪する。
「ご、ごめんなさいね!? ち、力になれないかもだなんて!」
「違います。違うのです。嬉しいのです。……今まで私の話を聞いてくれる人が誰もいなかったので」
「シャルロット様……」
自分だけが不幸のどん底にいると思っていたけれど、本当は誰しも悩みを抱えて生きているものなのかもしれない。
そう考えると、彼女を思いやる気持ちが生まれると同時に皆も同じなんだとホッとする自分もいて、嫌な自分の一面が見えてしまうことで自己嫌悪に陥る。
「いきなり泣き出して、驚かせてごめんなさい。もう大丈夫です」
ひそかに落ち込んでいる私の横で彼女は悪戯っぽく笑って、目元を拭った。気持ちを切り替えると私もすぐに笑みを作る。
「そ、そう。でもこの話はもう止めた方がいいわね」
「いえ。ローレンス様にこうして聞いていただけるなら、それが一番嬉しいです」
「そう? ……ではお話の続きを聞かせていただける? それとローレンスではなくてヴィヴィアンナで結構よ」
彼女は目を一瞬見張ると、すぐに破顔する。
「はい! ヴィヴィアンナ様!」
「え、ええ。シャルロット様」
私はまた少し……照れくさくなってそっぽを向いた。
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