婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました

樹里

文字の大きさ
上 下
46 / 113

第46話 裏庭でのお話は

しおりを挟む
 考え事をするなら、多少寒くても裏庭のベンチが最適だ。寒冷地に飛ばされたこともある私にとってこれくらいは何でもない。
 ――学内にもあるサロンだとぼっち・・・を痛感させられ、体よりも心が凍えるのが嫌だからというわけでは断じてない。

 自分に強く言い聞かせながら裏庭に向かったところ、先客がいたようだ。女性たちの声が聞こえてきた。

 こんなに空気が冷え込んできた時期に裏庭で楽しく語らうほど、この学院のご令嬢方のお体は頑強とは思わない。
 何を言っているかまだ聞こえないけれど、声の色も誰かを責めているようだ。となると、彼女らの行動は必然的に絞られてくるわけでして。

 私としては一人の時間を邪魔されたくないので(強がりではない)、早く解散して場所を譲っていただきたい。だから余計な口出しと自覚しているのだけれど、介入させていただこうと思う。

 私は彼女らの元へと歩み寄った。
 見知った顔も、見知らぬ顔もある。そこで顔見知りのディアナ・ブランシェ侯爵令嬢に声をかけてみる。

「あら、ディアナ様ではありませんか」
「ヴィヴィアンナ様!? ご、ごきげんよう」
「ごきげんよう。皆様お集まりでどうなさったの」

 私は彼女の取り巻きに目をやり、彼女らが壁に追いやっている女子生徒に目をやった。ふんわりした髪と雰囲気がよく合った目がくりっとした可愛らしい子だ。
 再びディアナ嬢に視線を戻す。

「彼女が何か?」
「い、いえ。その……」

 やましいことがなければ言えばいいのに。
 口ごもるディアナ嬢に私は小首を傾げる。

「何があったか存じませんが、一人の女性を複数で取り囲んでお話しとは少々不穏ですわね。感心いたしませんわ」

 最近は威厳も板についてきたはずの私は彼女たちに苦言を呈すると、さらに少し怯んだようだ。けれどディアナ嬢の取り巻きが声を上げる。

「で、ですが!」
「ミーナ、およしなさい」
「いえ! 言わせてください!」

 ディアナ嬢はミーナと呼ばれた女性が何か言おうとするのをたしなめようとしたけれど、彼女はそれをはね除けた。

「シャルロットは私の持ち物を盗んだのですよ! ディアナ様はそれを咎めてくださっているのです。実際に彼女の鞄から盗まれた物が出てきました」

 私は壁際のシャルロット嬢に目をやると、彼女は首を振った。

「違います! 確かに私の鞄に入っていましたが、私は何もやっていません。本当です。信じてください!」

 切実な表情で訴える彼女に私は過去・・の自分を重ねてしまう。冤罪ほど受け入れがたく、辛いものはない。
 身に染みて分かっている私は当初の目的の彼女らを追い払うことよりも、事情が分かっていないにもかかわらず、ついシャルロット嬢に肩入れしたくなる気持ちが強くなった。それでも今私ができるのは、ひとまずこの場を収めることぐらいだろう。

「彼女が盗んだという証拠はあるのですか? 彼女が自分の鞄に入れるのを見た方は?」

 女子生徒たちを見回すけれど、お互い困ったように顔を見合わせるばかりで誰も口を開かない。
 実際には誰も見ていないらしい。苦々しい思いがこみ上げて、私は一つ重いため息をついた。

「どうやら証拠は無いようですね。あなたの盗られたとおっしゃる物は戻って来たのですか?」
「は、はい。それは」
「そうですか。彼女は身の潔白を、あなた方は彼女が犯人だと証明することはできないようですし、このままでは平行線です。今回はわたくしの顔に免じて、この場を収めていただけないでしょうか」

 私の顔にどれくらい免じられるものがあるのか、いささか自信はないのだけれども。

「……分かりました。そういたしますわ」
「ディアナ様!」
「ミーナ、今回はそうしましょう。ヴィヴィアンナ様のおっしゃる通りよ。わたくしたちには証明するものが何一つ無いのだから」
「で、でも」

 まだミーナ嬢は納得しきれていないようだったけれど、ディアナ嬢はもう一押しと言わんばかりに目力で押し切った。あらためて彼女は私を見る。

「今回はこのまま引き下がらせていただきます」
「ありがとうございます、ディアナ様」
「いいえ。こちらこそローレンス公爵令嬢様・・・・・にまでお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

 口出しはやはり不快だったようで、ちょっと嫌味が入りました。
 私はこれ以上こじらせても仕方がないと思ったので、言い返さずにただ笑みで返す。

「それでは皆様、参りましょう」

 ディアナ嬢が取り巻きに声をかけると、彼女らはそれに従って去って行った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...