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第46話 裏庭でのお話は
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考え事をするなら、多少寒くても裏庭のベンチが最適だ。寒冷地に飛ばされたこともある私にとってこれくらいは何でもない。
――学内にもあるサロンだとぼっちを痛感させられ、体よりも心が凍えるのが嫌だからというわけでは断じてない。
自分に強く言い聞かせながら裏庭に向かったところ、先客がいたようだ。女性たちの声が聞こえてきた。
こんなに空気が冷え込んできた時期に裏庭で楽しく語らうほど、この学院のご令嬢方のお体は頑強とは思わない。
何を言っているかまだ聞こえないけれど、声の色も誰かを責めているようだ。となると、彼女らの行動は必然的に絞られてくるわけでして。
私としては一人の時間を邪魔されたくないので(強がりではない)、早く解散して場所を譲っていただきたい。だから余計な口出しと自覚しているのだけれど、介入させていただこうと思う。
私は彼女らの元へと歩み寄った。
見知った顔も、見知らぬ顔もある。そこで顔見知りのディアナ・ブランシェ侯爵令嬢に声をかけてみる。
「あら、ディアナ様ではありませんか」
「ヴィヴィアンナ様!? ご、ごきげんよう」
「ごきげんよう。皆様お集まりでどうなさったの」
私は彼女の取り巻きに目をやり、彼女らが壁に追いやっている女子生徒に目をやった。ふんわりした髪と雰囲気がよく合った目がくりっとした可愛らしい子だ。
再びディアナ嬢に視線を戻す。
「彼女が何か?」
「い、いえ。その……」
やましいことがなければ言えばいいのに。
口ごもるディアナ嬢に私は小首を傾げる。
「何があったか存じませんが、一人の女性を複数で取り囲んでお話しとは少々不穏ですわね。感心いたしませんわ」
最近は威厳も板についてきたはずの私は彼女たちに苦言を呈すると、さらに少し怯んだようだ。けれどディアナ嬢の取り巻きが声を上げる。
「で、ですが!」
「ミーナ、およしなさい」
「いえ! 言わせてください!」
ディアナ嬢はミーナと呼ばれた女性が何か言おうとするのをたしなめようとしたけれど、彼女はそれをはね除けた。
「シャルロットは私の持ち物を盗んだのですよ! ディアナ様はそれを咎めてくださっているのです。実際に彼女の鞄から盗まれた物が出てきました」
私は壁際のシャルロット嬢に目をやると、彼女は首を振った。
「違います! 確かに私の鞄に入っていましたが、私は何もやっていません。本当です。信じてください!」
切実な表情で訴える彼女に私は過去の自分を重ねてしまう。冤罪ほど受け入れがたく、辛いものはない。
身に染みて分かっている私は当初の目的の彼女らを追い払うことよりも、事情が分かっていないにもかかわらず、ついシャルロット嬢に肩入れしたくなる気持ちが強くなった。それでも今私ができるのは、ひとまずこの場を収めることぐらいだろう。
「彼女が盗んだという証拠はあるのですか? 彼女が自分の鞄に入れるのを見た方は?」
女子生徒たちを見回すけれど、お互い困ったように顔を見合わせるばかりで誰も口を開かない。
実際には誰も見ていないらしい。苦々しい思いがこみ上げて、私は一つ重いため息をついた。
「どうやら証拠は無いようですね。あなたの盗られたとおっしゃる物は戻って来たのですか?」
「は、はい。それは」
「そうですか。彼女は身の潔白を、あなた方は彼女が犯人だと証明することはできないようですし、このままでは平行線です。今回はわたくしの顔に免じて、この場を収めていただけないでしょうか」
私の顔にどれくらい免じられるものがあるのか、いささか自信はないのだけれども。
「……分かりました。そういたしますわ」
「ディアナ様!」
「ミーナ、今回はそうしましょう。ヴィヴィアンナ様のおっしゃる通りよ。わたくしたちには証明するものが何一つ無いのだから」
「で、でも」
まだミーナ嬢は納得しきれていないようだったけれど、ディアナ嬢はもう一押しと言わんばかりに目力で押し切った。あらためて彼女は私を見る。
「今回はこのまま引き下がらせていただきます」
「ありがとうございます、ディアナ様」
「いいえ。こちらこそローレンス公爵令嬢様にまでお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
口出しはやはり不快だったようで、ちょっと嫌味が入りました。
私はこれ以上こじらせても仕方がないと思ったので、言い返さずにただ笑みで返す。
「それでは皆様、参りましょう」
ディアナ嬢が取り巻きに声をかけると、彼女らはそれに従って去って行った。
――学内にもあるサロンだとぼっちを痛感させられ、体よりも心が凍えるのが嫌だからというわけでは断じてない。
自分に強く言い聞かせながら裏庭に向かったところ、先客がいたようだ。女性たちの声が聞こえてきた。
こんなに空気が冷え込んできた時期に裏庭で楽しく語らうほど、この学院のご令嬢方のお体は頑強とは思わない。
何を言っているかまだ聞こえないけれど、声の色も誰かを責めているようだ。となると、彼女らの行動は必然的に絞られてくるわけでして。
私としては一人の時間を邪魔されたくないので(強がりではない)、早く解散して場所を譲っていただきたい。だから余計な口出しと自覚しているのだけれど、介入させていただこうと思う。
私は彼女らの元へと歩み寄った。
見知った顔も、見知らぬ顔もある。そこで顔見知りのディアナ・ブランシェ侯爵令嬢に声をかけてみる。
「あら、ディアナ様ではありませんか」
「ヴィヴィアンナ様!? ご、ごきげんよう」
「ごきげんよう。皆様お集まりでどうなさったの」
私は彼女の取り巻きに目をやり、彼女らが壁に追いやっている女子生徒に目をやった。ふんわりした髪と雰囲気がよく合った目がくりっとした可愛らしい子だ。
再びディアナ嬢に視線を戻す。
「彼女が何か?」
「い、いえ。その……」
やましいことがなければ言えばいいのに。
口ごもるディアナ嬢に私は小首を傾げる。
「何があったか存じませんが、一人の女性を複数で取り囲んでお話しとは少々不穏ですわね。感心いたしませんわ」
最近は威厳も板についてきたはずの私は彼女たちに苦言を呈すると、さらに少し怯んだようだ。けれどディアナ嬢の取り巻きが声を上げる。
「で、ですが!」
「ミーナ、およしなさい」
「いえ! 言わせてください!」
ディアナ嬢はミーナと呼ばれた女性が何か言おうとするのをたしなめようとしたけれど、彼女はそれをはね除けた。
「シャルロットは私の持ち物を盗んだのですよ! ディアナ様はそれを咎めてくださっているのです。実際に彼女の鞄から盗まれた物が出てきました」
私は壁際のシャルロット嬢に目をやると、彼女は首を振った。
「違います! 確かに私の鞄に入っていましたが、私は何もやっていません。本当です。信じてください!」
切実な表情で訴える彼女に私は過去の自分を重ねてしまう。冤罪ほど受け入れがたく、辛いものはない。
身に染みて分かっている私は当初の目的の彼女らを追い払うことよりも、事情が分かっていないにもかかわらず、ついシャルロット嬢に肩入れしたくなる気持ちが強くなった。それでも今私ができるのは、ひとまずこの場を収めることぐらいだろう。
「彼女が盗んだという証拠はあるのですか? 彼女が自分の鞄に入れるのを見た方は?」
女子生徒たちを見回すけれど、お互い困ったように顔を見合わせるばかりで誰も口を開かない。
実際には誰も見ていないらしい。苦々しい思いがこみ上げて、私は一つ重いため息をついた。
「どうやら証拠は無いようですね。あなたの盗られたとおっしゃる物は戻って来たのですか?」
「は、はい。それは」
「そうですか。彼女は身の潔白を、あなた方は彼女が犯人だと証明することはできないようですし、このままでは平行線です。今回はわたくしの顔に免じて、この場を収めていただけないでしょうか」
私の顔にどれくらい免じられるものがあるのか、いささか自信はないのだけれども。
「……分かりました。そういたしますわ」
「ディアナ様!」
「ミーナ、今回はそうしましょう。ヴィヴィアンナ様のおっしゃる通りよ。わたくしたちには証明するものが何一つ無いのだから」
「で、でも」
まだミーナ嬢は納得しきれていないようだったけれど、ディアナ嬢はもう一押しと言わんばかりに目力で押し切った。あらためて彼女は私を見る。
「今回はこのまま引き下がらせていただきます」
「ありがとうございます、ディアナ様」
「いいえ。こちらこそローレンス公爵令嬢様にまでお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
口出しはやはり不快だったようで、ちょっと嫌味が入りました。
私はこれ以上こじらせても仕方がないと思ったので、言い返さずにただ笑みで返す。
「それでは皆様、参りましょう」
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