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第42話 自信という名の光
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今日は先日受けた筆記試験の発表日だ。
私が廊下を歩いていると、二人の教師が結果を張り出すのを大勢の生徒が見守っている姿が見えた。
結果は分かりきっているから、見る必要も無い。
そのまま通り過ぎようとしたその時、わっと華やいだ歓声が上がる。
「えぇっ!? ちょ、おまっ!」
「えー!? すごーい!」
「いや。俺はいずれ首席を取ると信じていたぞ!」
え? 今、首席と言った?
その声に、いつもは掲示板前を素通りしていた廊下で思わず足を止めてしまう。そしてそのまま吸い寄せられるように向きを変え、掲示板に近づいて行った。
それまで騒然としていた廊下は私が掲示板に近づいたことで徐々に静寂を取り戻し、自然と私が歩く周りが引けて道が空けられることになる。
何だかね……。
両脇に道ができあがってかなり居心地悪く感じたけれど、周りの目を全く気にしていない風を装って掲示板まで辿り着くと見上げた。
すると、いつも自分より前の文字は『試験結果』だったはずの所に、文字が間違いなく書かれている。
「ギルバート・ムラノフ?」
我知らず、自分より前に書かれている文字を小さく呟くように読み上げる。
ギルバート・ムラノフ。ムラノフ……あ!
辺りを見回すと、掲示板のすぐ近くに見知った眼鏡の彼を見つけることができた。
私は腕を組んで少し顔を傾け、挑発するように横目で彼を見た。
「あーら。ごきげんよう、ムラノフさん」
辺りが緊迫感を含んだざわめきが起こる。
私が彼に何か危害を加えるのではないかとの心配かもしれない。
「こんにちは、ローレンスさん」
ムラノフさんを取り巻く周りの反応とは違い、彼はふわっと穏やかな笑みを見せたのが意外だ。
「ええ。こんにちは。――あなた」
彼を見つめながら掲示物にトンッと軽く音を立てて手を置くと、ざわめきが止まって場が凍り付く。
失礼ですね。何も取って食いやしませんよ。
私は周りに構わず、唇を横に引いてふっと笑った。
「なかなかやりますわね」
「ありがとうございます。だけどローレンスさんもなかなかやりますね」
彼もまた笑って返してくるので、私は肩をすくめた。
「同点の場合、名前順というのは理不尽ですわ。下にいる気分になってしまうもの。せめて横に並べて記載してくだされば良いのに。けれど、いいでしょう。次の試験では再び単独首席を取らせていただきますから、その配慮も必要ないでしょうし」
「申し訳ありません。今度は僕が単独首席となりますから、次席に着いていただくことになるかと思います」
以前、会った時のような気弱そうな雰囲気はなく、目の中に光が宿り、余裕に満ちあふれている。今回の結果が彼に大きく自信を与えたのだろう。何だかそんな彼が眩しく思える。
一方で彼が怯むことなく笑って堂々と言い放つと、私の様子を伺うように誰かが息を呑む音が聞こえた。
随分と恐れられたものだこと。喜びに沸いた場に水を差してしまったことですし、そろそろ退散しましょうか。
「あら。言いますわね。けれど相手にとって不足はありません。次の試験を楽しみにしておりますわ」
「はい。こちらこそ。……あ、あの。ローレンスさん」
話を切り上げようとする私に彼は何か言いたげだったけれど、私は目とわずかに首を振ることでこれ以上のやり取りを不承諾する。
野次馬の話の種にはされたくはない。
「それでは失礼させていただきますね」
「はい。……ではまた」
「ええ。皆様とのご歓談中に失礼いたしました。ごきげんよう」
軽く礼を取って私は身を翻して歩き出す。
するとしばらくして背後で再び場が盛り上がる声が耳に届き、なぜか私まで誇らしくなって笑みがこぼれた。
私が廊下を歩いていると、二人の教師が結果を張り出すのを大勢の生徒が見守っている姿が見えた。
結果は分かりきっているから、見る必要も無い。
そのまま通り過ぎようとしたその時、わっと華やいだ歓声が上がる。
「えぇっ!? ちょ、おまっ!」
「えー!? すごーい!」
「いや。俺はいずれ首席を取ると信じていたぞ!」
え? 今、首席と言った?
その声に、いつもは掲示板前を素通りしていた廊下で思わず足を止めてしまう。そしてそのまま吸い寄せられるように向きを変え、掲示板に近づいて行った。
それまで騒然としていた廊下は私が掲示板に近づいたことで徐々に静寂を取り戻し、自然と私が歩く周りが引けて道が空けられることになる。
何だかね……。
両脇に道ができあがってかなり居心地悪く感じたけれど、周りの目を全く気にしていない風を装って掲示板まで辿り着くと見上げた。
すると、いつも自分より前の文字は『試験結果』だったはずの所に、文字が間違いなく書かれている。
「ギルバート・ムラノフ?」
我知らず、自分より前に書かれている文字を小さく呟くように読み上げる。
ギルバート・ムラノフ。ムラノフ……あ!
辺りを見回すと、掲示板のすぐ近くに見知った眼鏡の彼を見つけることができた。
私は腕を組んで少し顔を傾け、挑発するように横目で彼を見た。
「あーら。ごきげんよう、ムラノフさん」
辺りが緊迫感を含んだざわめきが起こる。
私が彼に何か危害を加えるのではないかとの心配かもしれない。
「こんにちは、ローレンスさん」
ムラノフさんを取り巻く周りの反応とは違い、彼はふわっと穏やかな笑みを見せたのが意外だ。
「ええ。こんにちは。――あなた」
彼を見つめながら掲示物にトンッと軽く音を立てて手を置くと、ざわめきが止まって場が凍り付く。
失礼ですね。何も取って食いやしませんよ。
私は周りに構わず、唇を横に引いてふっと笑った。
「なかなかやりますわね」
「ありがとうございます。だけどローレンスさんもなかなかやりますね」
彼もまた笑って返してくるので、私は肩をすくめた。
「同点の場合、名前順というのは理不尽ですわ。下にいる気分になってしまうもの。せめて横に並べて記載してくだされば良いのに。けれど、いいでしょう。次の試験では再び単独首席を取らせていただきますから、その配慮も必要ないでしょうし」
「申し訳ありません。今度は僕が単独首席となりますから、次席に着いていただくことになるかと思います」
以前、会った時のような気弱そうな雰囲気はなく、目の中に光が宿り、余裕に満ちあふれている。今回の結果が彼に大きく自信を与えたのだろう。何だかそんな彼が眩しく思える。
一方で彼が怯むことなく笑って堂々と言い放つと、私の様子を伺うように誰かが息を呑む音が聞こえた。
随分と恐れられたものだこと。喜びに沸いた場に水を差してしまったことですし、そろそろ退散しましょうか。
「あら。言いますわね。けれど相手にとって不足はありません。次の試験を楽しみにしておりますわ」
「はい。こちらこそ。……あ、あの。ローレンスさん」
話を切り上げようとする私に彼は何か言いたげだったけれど、私は目とわずかに首を振ることでこれ以上のやり取りを不承諾する。
野次馬の話の種にはされたくはない。
「それでは失礼させていただきますね」
「はい。……ではまた」
「ええ。皆様とのご歓談中に失礼いたしました。ごきげんよう」
軽く礼を取って私は身を翻して歩き出す。
するとしばらくして背後で再び場が盛り上がる声が耳に届き、なぜか私まで誇らしくなって笑みがこぼれた。
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