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第40話 転んでもただでは起きない強かさ
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「そこで何やってんの」
彼が声をかけると、女子生徒三人はびくりと肩を震わせた。
下校の時間となり、生徒の各々が帰って行く中、自分の教室とは言え、静まりかえった教室に人目を避けるようにいることは不自然だったからだ。
私は今、その様子を遠巻きにこっそり覗いている状況だ。
「あ。オ、オーブリーさん!」
「同級生なんだから、さん付けとかいいよ」
三人の中で身分が上位だと思われる女性が彼に反応する。
「う、うん。ありがとう」
「それで何してるの? そこ、エミリア・コーラルの席だよね」
「あ、あのそれは」
途端に彼女らは再び挙動不審になったけれど、彼は構わずにっこりと笑みを浮かべた。
「もしかして彼女への嫌がらせかな? 知ってるよー。君たちが今までしてきた事」
逃げ場も考える時間も与えない斬り込んだ彼の物言いに、彼女らは絶句して身を固くする。
彼はそれらを気にした様子も無く、誰かの席の椅子を引くと優雅な所作で座った。
「あのさー。俺はエミリア・コーラルのことはどうでもいいんだけど、俺がいるこの教室までヴィヴィアンナ・ローレンス公爵令嬢に幅を利かされるのは我慢ならないんだよね」
「え?」
「君たち、ヴィヴィアンナ・ローレンスに強制されているんでしょ? 彼女、ルイス殿下に近付くコーラルに嫌悪感を抱いているって言うし。だから君たちを使って彼女に嫌がらせをしているんだろうなって」
彼女らは困惑したように顔を見合わせる。
「あれ? 違った?」
彼に答えを促されると、リーダー格の女子生徒が意を決したようで頷いた。
「そ、そう。私たち、強制されているの」
「だよねー」
再び彼はにっこり笑った。
「静観しているつもりだったんだけど、君たちが動く度にヴィヴィアンナ・ローレンスの顔がちらつくものだからさ、やっぱり黙っていられなくなったんだ。それに君たちもいくら公爵令嬢に命じられているからって、本当はこんな真似したくないよね」
「う、うん」
「や、やりたくない」
「わ、私も」
彼女たちは少し顔を引きつらせながら頷く。
「うん。そうだよね。だから俺が後ろ盾になってあげるよ」
「え? う、後ろ盾?」
戸惑う彼女らに彼は片目を伏せて指を立てた。
「そう。君たちをヴィヴィアンナ・ローレンスから守ってあげる」
「守る?」
「君たちがコーラルに対する嫌がらせを止めたときに、ヴィヴィアンナ・ローレンスから何をされるか怖いでしょ? その時に俺が君たちを守るってことだよ。俺としても面白くないからね」
年齢は違えど、私(の家系)と同等の階級である彼だからこそ言える言葉だ。
彼女たちは再び顔を見合わせて、こそこそと話をする。何やら結論は出たのだろう。リーダー格の女性が彼を見た。
「あ、あの。ヴィヴィアンナ様が、男子生徒を取り巻きにする彼女がはしたないとも、おっしゃっていたの」
おやまあ。彼の提案に便乗して、自分たちにとって利するものまで得ようとするとは。
彼女たちにとってこの状況下はかなり動揺するものだっただろうに、立ち直りが早く強かでなかなかの策士だこと。
苦笑いせざるを得ない。
「なるほど。彼女を取り巻く男たちの存在も気に入らないってか。彼女、ツンとしていて男にモテなさそうだもんね。モテない女の僻みか」
ツンとしたモテない女で悪かったですねっ!
私が見ているのを分かってて言ってるのがまた腹が立つ。
彼の小馬鹿にした笑いの含んだ声にこめかみがぴしりと音を立てた。
「いいよ。それも引き受けた。俺が男たちを蹴散らしてあげるよ」
「あ、ありがとう!」
「うん。だから君たちはもう彼女に嫌がらせを止めていいからね」
「う、うん」
そこまで乗っておいてどうにも浮かない表情に見えるけれど、それに目ざとく気付いた彼は少し笑ってもう一つだめ押しする。
「大丈夫。ヴィヴィアンナ・ローレンスにはちゃんと釘を打っておくから安心していいよ」
「い、いい!」
「それは止めて!」
「だ、大丈夫だから」
彼女たちは一斉に叫んで彼を止めた。
そうでしょうとも。彼女たちを命じたこともない私に釘を打たれたって、何のことやらとなって嘘が発覚しますからね。
「あ、あのね。ヴィヴィアンナ様が私たちに何かを言ってきた時にお願いしていいかな。わざわざ波風立てに行くのはちょっと……」
さすがに少し動揺しすぎたと思ったのか、リーダー格の女性が口を開いた。彼はそれをにっこりと笑って受ける。
「そっか。君たちがそれを望むならそうする。これからは安心していいよ」
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ、私たちはこれで」
「うん。また明日ね」
彼は手を挙げて彼女らを教室から見送った。
彼が声をかけると、女子生徒三人はびくりと肩を震わせた。
下校の時間となり、生徒の各々が帰って行く中、自分の教室とは言え、静まりかえった教室に人目を避けるようにいることは不自然だったからだ。
私は今、その様子を遠巻きにこっそり覗いている状況だ。
「あ。オ、オーブリーさん!」
「同級生なんだから、さん付けとかいいよ」
三人の中で身分が上位だと思われる女性が彼に反応する。
「う、うん。ありがとう」
「それで何してるの? そこ、エミリア・コーラルの席だよね」
「あ、あのそれは」
途端に彼女らは再び挙動不審になったけれど、彼は構わずにっこりと笑みを浮かべた。
「もしかして彼女への嫌がらせかな? 知ってるよー。君たちが今までしてきた事」
逃げ場も考える時間も与えない斬り込んだ彼の物言いに、彼女らは絶句して身を固くする。
彼はそれらを気にした様子も無く、誰かの席の椅子を引くと優雅な所作で座った。
「あのさー。俺はエミリア・コーラルのことはどうでもいいんだけど、俺がいるこの教室までヴィヴィアンナ・ローレンス公爵令嬢に幅を利かされるのは我慢ならないんだよね」
「え?」
「君たち、ヴィヴィアンナ・ローレンスに強制されているんでしょ? 彼女、ルイス殿下に近付くコーラルに嫌悪感を抱いているって言うし。だから君たちを使って彼女に嫌がらせをしているんだろうなって」
彼女らは困惑したように顔を見合わせる。
「あれ? 違った?」
彼に答えを促されると、リーダー格の女子生徒が意を決したようで頷いた。
「そ、そう。私たち、強制されているの」
「だよねー」
再び彼はにっこり笑った。
「静観しているつもりだったんだけど、君たちが動く度にヴィヴィアンナ・ローレンスの顔がちらつくものだからさ、やっぱり黙っていられなくなったんだ。それに君たちもいくら公爵令嬢に命じられているからって、本当はこんな真似したくないよね」
「う、うん」
「や、やりたくない」
「わ、私も」
彼女たちは少し顔を引きつらせながら頷く。
「うん。そうだよね。だから俺が後ろ盾になってあげるよ」
「え? う、後ろ盾?」
戸惑う彼女らに彼は片目を伏せて指を立てた。
「そう。君たちをヴィヴィアンナ・ローレンスから守ってあげる」
「守る?」
「君たちがコーラルに対する嫌がらせを止めたときに、ヴィヴィアンナ・ローレンスから何をされるか怖いでしょ? その時に俺が君たちを守るってことだよ。俺としても面白くないからね」
年齢は違えど、私(の家系)と同等の階級である彼だからこそ言える言葉だ。
彼女たちは再び顔を見合わせて、こそこそと話をする。何やら結論は出たのだろう。リーダー格の女性が彼を見た。
「あ、あの。ヴィヴィアンナ様が、男子生徒を取り巻きにする彼女がはしたないとも、おっしゃっていたの」
おやまあ。彼の提案に便乗して、自分たちにとって利するものまで得ようとするとは。
彼女たちにとってこの状況下はかなり動揺するものだっただろうに、立ち直りが早く強かでなかなかの策士だこと。
苦笑いせざるを得ない。
「なるほど。彼女を取り巻く男たちの存在も気に入らないってか。彼女、ツンとしていて男にモテなさそうだもんね。モテない女の僻みか」
ツンとしたモテない女で悪かったですねっ!
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彼の小馬鹿にした笑いの含んだ声にこめかみがぴしりと音を立てた。
「いいよ。それも引き受けた。俺が男たちを蹴散らしてあげるよ」
「あ、ありがとう!」
「うん。だから君たちはもう彼女に嫌がらせを止めていいからね」
「う、うん」
そこまで乗っておいてどうにも浮かない表情に見えるけれど、それに目ざとく気付いた彼は少し笑ってもう一つだめ押しする。
「大丈夫。ヴィヴィアンナ・ローレンスにはちゃんと釘を打っておくから安心していいよ」
「い、いい!」
「それは止めて!」
「だ、大丈夫だから」
彼女たちは一斉に叫んで彼を止めた。
そうでしょうとも。彼女たちを命じたこともない私に釘を打たれたって、何のことやらとなって嘘が発覚しますからね。
「あ、あのね。ヴィヴィアンナ様が私たちに何かを言ってきた時にお願いしていいかな。わざわざ波風立てに行くのはちょっと……」
さすがに少し動揺しすぎたと思ったのか、リーダー格の女性が口を開いた。彼はそれをにっこりと笑って受ける。
「そっか。君たちがそれを望むならそうする。これからは安心していいよ」
「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ、私たちはこれで」
「うん。また明日ね」
彼は手を挙げて彼女らを教室から見送った。
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