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第39話 踏み込めない女性の世界
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本当に面倒だ。こちらは忙しくて、誰かの手を借りたいくらいだって言うの……そうだ。
「ではあなたが、教室内で起こるエミリア様への嫌がらせを阻止してくださる?」
大まかな嫌がらせは承知しているが、全てを把握できているわけではない。教室内で起こっていることは私ではなかなか実情が掴めず、手が出せない所でもある。内部に協力者がいると助かる。
「は? 何で俺がそんなことを?」
「わたくしが悪役かどうかを見極めたいのでしょう。私に相手してほしいなら、ご協力ください」
「そうだけどさ。……うーん。どうもいいように利用されているような気がしないでもないけど。まあ、分かった」
利用には違いないかもしれないけれど、そこはお互い様かと。
「そもそもエミリア様への嫌がらせは誰がどんな事をやっているのですか」
「クラスメートの女の一部かな。ひそひそ話したり、わざとぶつかったり、エミリア・コーラルが言葉をかけても無視したり。そういう女ほど男の前では猫を被っているけど」
何という悪役の鑑!
私より積極的に動いているではないですか。
……と、そうではない。
「あなたは気付いていながら、それを放置していたわけですか」
「そうだよ。君の言う通り、俺はただの傍観者だったからね。彼女は友達も多いし、さほど気にしている様子はないよ。――ああ、そうだ。それと一つ言い忘れたことがある。エリミア・コーラルにはそうされる理由があるんだ」
「何ですか?」
「彼女の周りにはいつも男たちが群がっている。それが周りの女には面白くないんだろうな。まあ、あの容姿だ。当然だけどね」
なぜそのことを先に言わないのか、この男は。
面白がっている様子を見ると、最初から私が首謀者でないことも考えていたらしい。だからあの時、私の態度を見てやっていないとすぐに確信したのか。
やはり気にくわない人間だ。
それにしても自分のことで手が一杯で、そこまでは頭に回らなかった。でも確かに彼女の容姿や性格を考えると、男子生徒から人気があるだろうということはもっと早くに気付くべきだった。
「それでどうする? 阻止するってことは、現場を取り押さえるってことだよね? いいね。面白そう。その役乗った!」
単純な人間は時に扱いにくい。
私は嘆息した。
「そう簡単に事が運べば誰も悩みません。あなたは仮にも公爵家のご子息です」
「仮じゃないし」
茶々を入れる彼に構わず私は話を続ける。
「王家とまではいかなくても、あなたの家の力は強大です。あなたから近付いたとしても、周りの女性はそう思わない。言葉は悪いですが、エミリア様の周りにいる男性と同様、彼女がたらし込んだと思われるのがオチです」
また殿下が彼女に近付いた時と同じように。
「ですから下手に彼女を庇うような真似をすると、火に油を注ぐようなものです。そしてその分、彼女に戻ってきます」
「何で? 男の力と家の力さえあれば、ねじ伏せられるんじゃない?」
この単純男はこれだから困る。
私は両手を腰に当てて胸を張った。
「男性には踏み込めない女性の世界というものがあるのです。一時的に救ったところで、本当の意味では救われない。女性ならではの付き合いというものがあります。嫌がらせをする相手が彼女よりも身分が高いなら尚更に」
エミリア嬢だけではなく、彼女の友達や周りにも危害を加えるようになるかもしれない。その結果、彼女の周りに女性は誰も近付かなくなってしまう可能性だってある。
私など最初から女性同士の面倒な人付き合いを敬遠することを決めていたから、友達も取り巻きもおらず、自由に動ける身であり、気楽なものです。
ええ、つまり言葉を言い換えればぼっちということですが、自ら望み、選択した道で後悔の欠片もありません。
「……え? 何? 何でいきなり君がへこんでいるの?」
気付けば腰に手を当てたまま項垂れていた私は顔を上げて、誤魔化すために咳払いした。
「いえ。何でもありません。ともかくです。男性のあなたに理解しろとは言いませんが、男性では救えない女性の世界がある。それだけは頭に入れておいてください」
「面倒だなぁ。女の世界ってやつは。俺、女に生まれなくて良かったわ」
彼は肩をすくめる。
まあ、男性には男性なりの悩みもおありでしょうけれど。
「ええ、そうです。面倒です。女性とは厄介な生き物なのです」
「じゃあ、どうすればいいわけ? それだと俺の出番は無さそうだ」
「そうですね。……それでは一芝居打ちましょうか」
私は唇に人差し指を当てて片目を伏せた。
「ではあなたが、教室内で起こるエミリア様への嫌がらせを阻止してくださる?」
大まかな嫌がらせは承知しているが、全てを把握できているわけではない。教室内で起こっていることは私ではなかなか実情が掴めず、手が出せない所でもある。内部に協力者がいると助かる。
「は? 何で俺がそんなことを?」
「わたくしが悪役かどうかを見極めたいのでしょう。私に相手してほしいなら、ご協力ください」
「そうだけどさ。……うーん。どうもいいように利用されているような気がしないでもないけど。まあ、分かった」
利用には違いないかもしれないけれど、そこはお互い様かと。
「そもそもエミリア様への嫌がらせは誰がどんな事をやっているのですか」
「クラスメートの女の一部かな。ひそひそ話したり、わざとぶつかったり、エミリア・コーラルが言葉をかけても無視したり。そういう女ほど男の前では猫を被っているけど」
何という悪役の鑑!
私より積極的に動いているではないですか。
……と、そうではない。
「あなたは気付いていながら、それを放置していたわけですか」
「そうだよ。君の言う通り、俺はただの傍観者だったからね。彼女は友達も多いし、さほど気にしている様子はないよ。――ああ、そうだ。それと一つ言い忘れたことがある。エリミア・コーラルにはそうされる理由があるんだ」
「何ですか?」
「彼女の周りにはいつも男たちが群がっている。それが周りの女には面白くないんだろうな。まあ、あの容姿だ。当然だけどね」
なぜそのことを先に言わないのか、この男は。
面白がっている様子を見ると、最初から私が首謀者でないことも考えていたらしい。だからあの時、私の態度を見てやっていないとすぐに確信したのか。
やはり気にくわない人間だ。
それにしても自分のことで手が一杯で、そこまでは頭に回らなかった。でも確かに彼女の容姿や性格を考えると、男子生徒から人気があるだろうということはもっと早くに気付くべきだった。
「それでどうする? 阻止するってことは、現場を取り押さえるってことだよね? いいね。面白そう。その役乗った!」
単純な人間は時に扱いにくい。
私は嘆息した。
「そう簡単に事が運べば誰も悩みません。あなたは仮にも公爵家のご子息です」
「仮じゃないし」
茶々を入れる彼に構わず私は話を続ける。
「王家とまではいかなくても、あなたの家の力は強大です。あなたから近付いたとしても、周りの女性はそう思わない。言葉は悪いですが、エミリア様の周りにいる男性と同様、彼女がたらし込んだと思われるのがオチです」
また殿下が彼女に近付いた時と同じように。
「ですから下手に彼女を庇うような真似をすると、火に油を注ぐようなものです。そしてその分、彼女に戻ってきます」
「何で? 男の力と家の力さえあれば、ねじ伏せられるんじゃない?」
この単純男はこれだから困る。
私は両手を腰に当てて胸を張った。
「男性には踏み込めない女性の世界というものがあるのです。一時的に救ったところで、本当の意味では救われない。女性ならではの付き合いというものがあります。嫌がらせをする相手が彼女よりも身分が高いなら尚更に」
エミリア嬢だけではなく、彼女の友達や周りにも危害を加えるようになるかもしれない。その結果、彼女の周りに女性は誰も近付かなくなってしまう可能性だってある。
私など最初から女性同士の面倒な人付き合いを敬遠することを決めていたから、友達も取り巻きもおらず、自由に動ける身であり、気楽なものです。
ええ、つまり言葉を言い換えればぼっちということですが、自ら望み、選択した道で後悔の欠片もありません。
「……え? 何? 何でいきなり君がへこんでいるの?」
気付けば腰に手を当てたまま項垂れていた私は顔を上げて、誤魔化すために咳払いした。
「いえ。何でもありません。ともかくです。男性のあなたに理解しろとは言いませんが、男性では救えない女性の世界がある。それだけは頭に入れておいてください」
「面倒だなぁ。女の世界ってやつは。俺、女に生まれなくて良かったわ」
彼は肩をすくめる。
まあ、男性には男性なりの悩みもおありでしょうけれど。
「ええ、そうです。面倒です。女性とは厄介な生き物なのです」
「じゃあ、どうすればいいわけ? それだと俺の出番は無さそうだ」
「そうですね。……それでは一芝居打ちましょうか」
私は唇に人差し指を当てて片目を伏せた。
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