36 / 113
第36話 笑顔で近付く公爵令息
しおりを挟む
最近少し気になったことがある。
もしかして私って……要領悪くないですか!?
裏庭のベンチに座り、私は頭をがばりと抱え込んだ。
貴族のご令息、ご令嬢方には居丈高に振る舞っているから問題は無いとしても、エミリア嬢への嫌がらせ阻止に関わってからは、気高い悪役令嬢の自分としてはどうにも評判が落ちているような気がする。……今更ながら。
おまけにそちらに取りかかる方が忙しくて、自身がエミリア嬢に対する嫌がらせができていないのが現状だ。
先日の『落とした物を拾わせる』というのも、周りには嫌なイメージがついたかもしれない。ただ、エミリア嬢が良い子すぎて、肝心の無頓着殿下には知られてしまったのも頭が痛い。この調子では、何でもかんでも良い方向に取られてしまうのではないだろうか。
家にも一人、そういう何でも良い方向に思考するおめでたい人がいるから、なおさら懸念する。そしてそういう人には決して勝てない(経験者は語る)。
しばらく嫌がらせ阻止には動いても、エミリア嬢本人への接触は避けた方が賢明かもしれない。
カサカサと音を立てて枯葉が足元に絡んできた。
風が出てきたようだ。身体も冷えてきたし、そろそろ教室に戻ろう。
そう考えていた時。
「ここ、いいですか?」
上から声が降ってきたので見上げると、薄茶色の髪の毛に青みがかった灰色の瞳の男子生徒がにこにこ笑って立っていた。
オーブリー公爵家の何とか君だ。いつかのパーティーで紹介されたことがあった。私とは違って常に愛想の良い笑みを浮かべていたけれど、どうにも信用ならない笑顔だったので顔だけは覚えている。確か私より年下だったはず。
これまで私の人生で彼が関わってきたことはないけれど、毎回周りに取り巻く人間模様が変わっていたので、きっと彼もその内の一人に過ぎないだろう。
彼のことを少し分析した後、私は右を見て左を見た。他のベンチは空いている。なぜわざわざここを指定するのか。
お気に入りのベンチ? それとも。
「……どうぞ」
「ありがとう」
彼がにっこり笑って座ると同時に私は立ち上がった。
「では、ごゆっくりどうぞ」
「え。ちょっと待って」
なるほど。ベンチではなく私が目的だったようだ。
腕を伸ばされたけれど、私はすかさずかわす。
こんな所を誰かに見られたら、どんな風に歪曲して言われるか分かりはしない。
「婚姻前の婦女子に軽々しく触ろうとしないでいただけますか」
「ふーん。さすがローレンス公爵令嬢。危機管理は万全だね」
分かっていて何のために私に近付いてきたのだろう。
真意を探ろうと彼を見つめていると。
「その人を蔑んだような瞳も相変わらずだ」
ただ見下ろしただけですが、何か。
人を見た目で判断するとは。まあ、情報の大部分は視覚から入って来るのだから、それも致し方ないことかもしれない。けれど相手にはしない方がよさそうだ。
私はそのまま黙って立ち去ろうと身を翻すと。
「エミリア・コーラル」
背後からかけられたその言葉に思わず足が止まる。
「君、エミリア・コーラルに興味があるの? ヴィヴィアンナ・ローレンス公爵令嬢サマ」
興味があるのかときた。私の何かを見たとでもいうのだろうか。言い方も何だか嫌味っぽくて癪に障る。
けれど相手にせず、止めていた足を一歩前に進めたところで、また声をかけたきた。
「へぇ。ローレンス公爵令嬢ともあろう者が、俺に背を向けて逃げ出すんだ?」
さすがにそこまで言われて立ち去ることはできない。
私は振り返ると腕を組み、お望み通り、人を蔑むように彼を見下ろしてあげた。
もしかして私って……要領悪くないですか!?
裏庭のベンチに座り、私は頭をがばりと抱え込んだ。
貴族のご令息、ご令嬢方には居丈高に振る舞っているから問題は無いとしても、エミリア嬢への嫌がらせ阻止に関わってからは、気高い悪役令嬢の自分としてはどうにも評判が落ちているような気がする。……今更ながら。
おまけにそちらに取りかかる方が忙しくて、自身がエミリア嬢に対する嫌がらせができていないのが現状だ。
先日の『落とした物を拾わせる』というのも、周りには嫌なイメージがついたかもしれない。ただ、エミリア嬢が良い子すぎて、肝心の無頓着殿下には知られてしまったのも頭が痛い。この調子では、何でもかんでも良い方向に取られてしまうのではないだろうか。
家にも一人、そういう何でも良い方向に思考するおめでたい人がいるから、なおさら懸念する。そしてそういう人には決して勝てない(経験者は語る)。
しばらく嫌がらせ阻止には動いても、エミリア嬢本人への接触は避けた方が賢明かもしれない。
カサカサと音を立てて枯葉が足元に絡んできた。
風が出てきたようだ。身体も冷えてきたし、そろそろ教室に戻ろう。
そう考えていた時。
「ここ、いいですか?」
上から声が降ってきたので見上げると、薄茶色の髪の毛に青みがかった灰色の瞳の男子生徒がにこにこ笑って立っていた。
オーブリー公爵家の何とか君だ。いつかのパーティーで紹介されたことがあった。私とは違って常に愛想の良い笑みを浮かべていたけれど、どうにも信用ならない笑顔だったので顔だけは覚えている。確か私より年下だったはず。
これまで私の人生で彼が関わってきたことはないけれど、毎回周りに取り巻く人間模様が変わっていたので、きっと彼もその内の一人に過ぎないだろう。
彼のことを少し分析した後、私は右を見て左を見た。他のベンチは空いている。なぜわざわざここを指定するのか。
お気に入りのベンチ? それとも。
「……どうぞ」
「ありがとう」
彼がにっこり笑って座ると同時に私は立ち上がった。
「では、ごゆっくりどうぞ」
「え。ちょっと待って」
なるほど。ベンチではなく私が目的だったようだ。
腕を伸ばされたけれど、私はすかさずかわす。
こんな所を誰かに見られたら、どんな風に歪曲して言われるか分かりはしない。
「婚姻前の婦女子に軽々しく触ろうとしないでいただけますか」
「ふーん。さすがローレンス公爵令嬢。危機管理は万全だね」
分かっていて何のために私に近付いてきたのだろう。
真意を探ろうと彼を見つめていると。
「その人を蔑んだような瞳も相変わらずだ」
ただ見下ろしただけですが、何か。
人を見た目で判断するとは。まあ、情報の大部分は視覚から入って来るのだから、それも致し方ないことかもしれない。けれど相手にはしない方がよさそうだ。
私はそのまま黙って立ち去ろうと身を翻すと。
「エミリア・コーラル」
背後からかけられたその言葉に思わず足が止まる。
「君、エミリア・コーラルに興味があるの? ヴィヴィアンナ・ローレンス公爵令嬢サマ」
興味があるのかときた。私の何かを見たとでもいうのだろうか。言い方も何だか嫌味っぽくて癪に障る。
けれど相手にせず、止めていた足を一歩前に進めたところで、また声をかけたきた。
「へぇ。ローレンス公爵令嬢ともあろう者が、俺に背を向けて逃げ出すんだ?」
さすがにそこまで言われて立ち去ることはできない。
私は振り返ると腕を組み、お望み通り、人を蔑むように彼を見下ろしてあげた。
11
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説


妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる