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第28話 脱出は成功
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建物の高さはさほどないが、前方の出入り口では人が集まっているので、できるだけ音を立てないように慎重に降りていく。
それにしても私を物置場に押し込めたのも、おそらく男子生徒を唆したのも、どうやら女子生徒のようだけれど、やはり前の時のようにエミリア嬢が殿下に関わっていることを気に入らない誰かなのだろうか。
何人が不穏な事を考えているのか分からない以上、今後、私一人で対応するのは難しいかもしれない。何らかの方法で危険を知らせて、本人にも注意を促し、対策を取ってもらうしかない。
もう、どうして私が!
私がこうしてロープにぶら下がる羽目になったのも、彼女のために走り回らなきゃいけなくなったのも、全てはあの元凶殿下のせいで!
「おーい! 大丈夫か!」
物置場からはきはきとする男性の声が聞こえ、考えを遮断してはっと顔を上げる。
この声は先生だろうか。とうとう扉は開かれたらしい。
下を見ると、こちらもあと少しだ。慎重に慎重にし…………は?
ちょ、ちょっと待って!? まだ合図送っていないわよ!?
ロープが緩むのを察した私は、焦るばかりで咄嗟に対応できるだけの判断力も反射神経も持ち合わせておらず、ロープを掴んだままドスンと……落ちた。
いったあぁぁ!
お尻やら腰やら強く打ったが、涙目になりつつも何とか口とを押さえて声を堪えた。
幸い落ちた時の音も、皆、中の様子に集中しており、誰も気付かなかったらしい。だって聞こえたんですものと金切り声を上げる女性の声が聞こえた。
私はロープを素早く回収し、靴を履くと自分の腰掛け結びも解いて草陰へと隠す。
合図前にロープを解いたのは、おそらく見付かりそうになったからだと思われる。それに関しては彼らを責める気は全くない。むしろ私が無駄口を叩いていないで、さっさと降りるべきだった。
……という大人の態度を取るべきなのだろうか。それとも一睨みぐらいして行くべきだろうか。実に悩ましいところだ。
けれどやはり下手に関わらない方がいいと判断した私はスカートの汚れを払うと、誰かに見られる前に姿を消そうとした。
――が。
「ローレンス君?」
後ろから声がかかった。
おそらく先生だ。結局、物置場から女子生徒を見つけられずに、諦めて出て来たようだ。
私は顔に余裕の笑みを貼り付けて振り返る。
「はい。何かご用……あら、先生でしたか。失礼いたしました。どうなさったのですか」
「いや。生徒がこの物置場に閉じこめられたって言うので、来たんだけど。君こそどうしてここに」
「わたくしは……」
口ごもってしまったところで、先生の背後に三人組の男子生徒が目に入った。他にも数人の貴族のご令嬢が不審そうにこちらを見ている。
少なくとも物置場から出なかった私が、中にいた女子生徒だと疑われることはないはず。
ただ、どんな言い訳をすれば良いのか。通りがかっただけ、ということで通用するだろうか。
すると。
「もうっ。誰の悪戯よ」
考えていたよりも早く、エミリア嬢がぶつぶつ言いながら戻って来た。
その彼女は複数の人が集まるこの場所の異変が目に入ると、急いで走ってくる。一瞬私に気付いた彼女が視線をこちらにやったけれど、すぐに先生を見た。
「どうかしましたか?」
途端にそのエミリア嬢を見るご令嬢方の顔が引きつったので、まず間違いなく彼女たちの仕業のようだ。
けれども、そばかすが可愛い一人の女子生徒は何の反応しなかったので、たまたま居合わせただけなのかもしれない。
「君は……新入生だね」
「はい。エミリア・コーラルと申します。私はミーシャ先生に用具を持ってくるように頼まれてここに来たのですが。……何かあったのですか?」
「いや。ここに生徒が閉じこめられたと聞いて来たんだけどね」
「そうなのですか? 私が一度ここに来た時はまだ開いていましたよ」
話がややこしくなるから、余計な事は言わなくてよいのに!
思わず唇を噛みしめた。
それにしても私を物置場に押し込めたのも、おそらく男子生徒を唆したのも、どうやら女子生徒のようだけれど、やはり前の時のようにエミリア嬢が殿下に関わっていることを気に入らない誰かなのだろうか。
何人が不穏な事を考えているのか分からない以上、今後、私一人で対応するのは難しいかもしれない。何らかの方法で危険を知らせて、本人にも注意を促し、対策を取ってもらうしかない。
もう、どうして私が!
私がこうしてロープにぶら下がる羽目になったのも、彼女のために走り回らなきゃいけなくなったのも、全てはあの元凶殿下のせいで!
「おーい! 大丈夫か!」
物置場からはきはきとする男性の声が聞こえ、考えを遮断してはっと顔を上げる。
この声は先生だろうか。とうとう扉は開かれたらしい。
下を見ると、こちらもあと少しだ。慎重に慎重にし…………は?
ちょ、ちょっと待って!? まだ合図送っていないわよ!?
ロープが緩むのを察した私は、焦るばかりで咄嗟に対応できるだけの判断力も反射神経も持ち合わせておらず、ロープを掴んだままドスンと……落ちた。
いったあぁぁ!
お尻やら腰やら強く打ったが、涙目になりつつも何とか口とを押さえて声を堪えた。
幸い落ちた時の音も、皆、中の様子に集中しており、誰も気付かなかったらしい。だって聞こえたんですものと金切り声を上げる女性の声が聞こえた。
私はロープを素早く回収し、靴を履くと自分の腰掛け結びも解いて草陰へと隠す。
合図前にロープを解いたのは、おそらく見付かりそうになったからだと思われる。それに関しては彼らを責める気は全くない。むしろ私が無駄口を叩いていないで、さっさと降りるべきだった。
……という大人の態度を取るべきなのだろうか。それとも一睨みぐらいして行くべきだろうか。実に悩ましいところだ。
けれどやはり下手に関わらない方がいいと判断した私はスカートの汚れを払うと、誰かに見られる前に姿を消そうとした。
――が。
「ローレンス君?」
後ろから声がかかった。
おそらく先生だ。結局、物置場から女子生徒を見つけられずに、諦めて出て来たようだ。
私は顔に余裕の笑みを貼り付けて振り返る。
「はい。何かご用……あら、先生でしたか。失礼いたしました。どうなさったのですか」
「いや。生徒がこの物置場に閉じこめられたって言うので、来たんだけど。君こそどうしてここに」
「わたくしは……」
口ごもってしまったところで、先生の背後に三人組の男子生徒が目に入った。他にも数人の貴族のご令嬢が不審そうにこちらを見ている。
少なくとも物置場から出なかった私が、中にいた女子生徒だと疑われることはないはず。
ただ、どんな言い訳をすれば良いのか。通りがかっただけ、ということで通用するだろうか。
すると。
「もうっ。誰の悪戯よ」
考えていたよりも早く、エミリア嬢がぶつぶつ言いながら戻って来た。
その彼女は複数の人が集まるこの場所の異変が目に入ると、急いで走ってくる。一瞬私に気付いた彼女が視線をこちらにやったけれど、すぐに先生を見た。
「どうかしましたか?」
途端にそのエミリア嬢を見るご令嬢方の顔が引きつったので、まず間違いなく彼女たちの仕業のようだ。
けれども、そばかすが可愛い一人の女子生徒は何の反応しなかったので、たまたま居合わせただけなのかもしれない。
「君は……新入生だね」
「はい。エミリア・コーラルと申します。私はミーシャ先生に用具を持ってくるように頼まれてここに来たのですが。……何かあったのですか?」
「いや。ここに生徒が閉じこめられたと聞いて来たんだけどね」
「そうなのですか? 私が一度ここに来た時はまだ開いていましたよ」
話がややこしくなるから、余計な事は言わなくてよいのに!
思わず唇を噛みしめた。
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